ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 心の魔物 Ep53 好きだから ( No.57 )
日時: 2017/09/17 14:47
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 ……誠に申し訳ございませんでしたぁ!

 更新が遅れました、5日間も。なぜなら。
 ……身内に不幸があったのですよ。それでもう、てんてこ舞い!
 状況が落ち着くまで、更新は不定期になりそうですね。落ち着いても不定期になりそうかもです。
 いろいろと事情があって、リアルが忙しいのですよ……。
 すみません、ご了承願いますですハイ。

 というわけで、久しぶりの投稿なのです。
 今日は割と時間がある方ですので〜。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 目が覚めたら、今日の朝だった。
 強制徴兵令で、戦に駆り出された日の、朝。

「強制徴兵令ね……」

 変わらず、もたらされた知らせに。
 リクシアは達観したようにうなずいた。
 変えるのは今じゃない。兵士たちが来てからだ。
 これまでの会話なんてすべて覚えているわけがないから。若干シナリオは変わるだろうけれど。

 その情報を聞いて、苦い顔で、エルヴァインは頭を抱えた。

「僕はとっくに……ばれているだろうな」
「加勢するわ」

 グラエキアが、強い笑みを浮かべた。

「グライア、だが」
「魔導士は剣士とは違って、まだマシな待遇を、受けられるとは思うけれど?」

 ……何はともあれ。
 時が、来たのだ。戦いのときが。
 再び、再び!
 今度こそ、間違えない。
 リクシアは大きくうなずいた。

「私、立ち向かうから」

 傷の治りきっていないフェロンに、笑いかけた。
 ふと胸元を見れば、そこにあるのは三枚の羽根。
 これでフィオル達を呼んではならない。それが惨状につながるから。
 心の中で小さくうなずいて、羽根から意識を切り離す。

 時だった。


「扉を開けろ! そこにウィンチェバル人がいるのはわかっているんだ!」


 声が、して。
 ああ、ついに再び時が来たのかと、思った。
 リクシアは真っ先に扉に駆け寄り、開けた。


「私はリクシア・エルフェゴール! ウィンチェバル人。魔物になった、リュクシオンの妹よ!」


 堂々と名乗って。
 その手を差し出した。


「徴兵するんでしょ? すればいいわ! 私は光と風の魔導士! 役に立てるんじゃないかしら!」


 自ら進んで名乗り出て。悲劇の未来を変えるんだ。
 決意を込めて、差し出した手。
 徴兵に来た男は、そのあまりに堂々とした態度にびっくりしたようだが、首を振って言った。

「お前だけじゃないだろう! 他のみんなも、出て来い!」

 グラエキアは、ちらりと後ろの檻を見た。大丈夫だ、しっかり隠蔽されている。
 徴兵係には、ばれていない。
 グラエキアは、エルヴァインとともに、進み出た。

「ならば名乗るわ。私はグラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド。今は亡きウィンチェバル王の姪っ子よ!」
「エルヴァイン・ウィンチェバル! ウィンチェバル王の第三王子だ! しっかりとした待遇を望むね」

 その、凄すぎる名乗りに。徴兵係は一瞬、固まって。

「……善処いたします!」

 そう、叫ぶしかなかった。
 最後に、フェロンがふらりと現れた。
 彼は剣士だが、生憎怪我が治りきっていない。しかも顔の左半分には大きな傷跡があり、完全に左目は見えない。それでも戦えというのだ。この国——バルチェスターは。
 そして、やがて彼は死ぬ。それですべてが崩壊する!


 ——だから、変えるんだ!


 フェロンは、淡々と名乗った。

「フェロン。剣士だ」
「戦えるか?」
「それなりに」
「なら、戦え」
「……承知」

 その言い分は、以前とまったく変わらず。
 リクシアは苦く微笑んだ。
 変えなければならないんだ、悲劇の未来を。
 そのためには。フェロンが戦場に出てはならないと、踏んだ。
 未来改変は、大きな犠牲を伴う禁忌。
 それでも。
 リクシアは直感する。
 今こそ。変えるべき時だと!

 リクシアは、泣きそうな顔でフェロンを見た。
 これから彼女がやることは。本当にやりたくないことだ。
 それでも。彼の命がそれで助かるならば。


 ——やるしか、ない。


「……フェロン」
「何だ」
「ごめんね、フェロン。私を……許してくれる……?」
「……? いきなりどうした。わかるように説明してくれ」


「——こういうことよッ!」


 リクシアは杖を天に差し上げて。風を呼ぶ、光を呼ぶ。
 何のために? 誰に対して?
 それは——。

「あなたには死んでほしくないの! だからお願い、よけないで!」

 泣きながら、放つ、魔法。
 杖を向ける相手はフェロン。

「な……ッ! 血迷ったか、リア!」
「血迷ってなんかない! これが最善の策なんだ! ……切り裂け、風よ!」

 風の刃が。的確に、フェロンの利き腕である左腕を狙って飛んでくる。
 こうでもしなければ、こうでもしなければ!
 彼が戦えないようにしなければ、徴兵をまぬかれることはできないんだ!
 泣きながらも。叫んだ。

「避けないでェッ!」

 ……フェロンは、動けなかった。
 腰の剣に手を伸ばせば。風の刃くらい、弾くことはできたろうに。
 ……動けなかったのだ。

「く……ッ!」

 切り裂かれた腕。利き腕の左。
 確かにここをやられれば、彼は戦えない。
 戦えない戦士に意味はない、から。そういった者は徴兵しない。
 強引な方法ではあるが、それは確実な方法で。
 彼が戦えなくなったのを見てとったあと、リクシアは魔法をやめた。
 呆然とする徴兵係に涙声で一言。

「……これで、フェロンを外してくれる?」

 徴兵係はしばし、声を失っていたが。
 やがて、我に返って。

「は、はい。戦えない戦士に意味はございませんので……」

 言って。
 他の者の相手もせずに。
 その場から逃げるように去って行った。
 残されたのは、泣き続けるリクシアと、あっけに取られたフェロンと、目を瞠ったグラエキアと、顔をしかめたエルヴァインだけ。
 室内には。フェロンのものである血が飛び散っていた。

「……リクシア・エルフェゴール」

 エルヴァインが、低い声で言った。
 その顔は、ひどく冷たい。

「フェロンを失いたくないのはよくわかった、が。だからと言って、徴兵を逃れるためにここまでするのはやりすぎだと思うぞ。彼は優秀な戦士だ。……戦えないことはなかったろうに」
「……エルヴァインには、わからないよ」
「何だと?」

 わからない。わかるわけない。
 エルヴァインだけじゃない。他のみんなだって。
 だって、これはリクシアにとって「あの悲劇が起こる前」の「過去」で。
 誰も知らない。
 あの時味わった喪失感と、限りない絶望感なんて。
 あの時リクシアは地獄を見た。虚ろなる深淵を覗いた。

 だけど、気づいたことだってあるんだ。
 それは、暗い感情から成るものではなくて。
 失ったことで気がついた、本当の気持ち。


 幼いころから、ずっと一緒だったフェロン。
 リクシアの、大好きな幼馴染であり、もう一人の兄であり。


 ——恋人みたいだった、フェロン。

 
 生きているうちに。今こそ。
 気持ちを伝えるんだ。
 それが、何よりも大きな理由になる!

 ——その感情の正体は、愛!

 リクシアは、勇気を出して告白する。





「……私、フェロンのことが、好き、なの」





 辺りが驚愕に包まれる。
 リクシアはあふれ出た思いに任せて。泣きながらもその先を言う。

「……だから。だから! 死んでほしくないんだ! 戦いになんて、出てほしくないの! だって、私はフェロンのことが好きなんだもの! フェロンを守るためなら、私の心が傷ついたって、何だってする!」

 だから、唱えた。だから、傷つけた。
 悲しみの未来からすべてを救うためだけじゃない。
 好きな人を、守りたいから!

「ごめんなさい……ごめんね、フェロン! でも私、こうするしか……ッ!」
「……わかった、もういい」

 左腕の手当てを終えたフェロンがリクシアにそっと近づいて行き、その頭を軽くぽんと叩いた。
 彼はまだ気づいていない。自分の心を満たす、リクシアに対するこの感情が何なのか。
 しかし、彼は知っている。それはひどく、温かいものだ、と。

「……気遣ってくれて、ありがとな」

 その言葉を聞いて、リクシアは花が咲いたような笑顔で笑った。

「当然でしょ! フェロンが好きだから!」

 気づいたら、簡単だった。この絆、この思い。
 二度と失ってなるものか。
 幼馴染のフェロン、緑の戦士!

 しかし。彼の徴兵はまぬかれても。
 リクシアは行かなくてはならないから。
 強く笑って、戸口に立った。

「じゃあ、行ってくるわね」

 そうさ。悲しみへの要素は排除したけれど。
 この戦を、終わらせなければ。
 完全なる回避はあり得ないから。

「……魔導士は、避けられないのか」
 
 呟くように言ったフェロンに。
 リクシアは強い笑みを返す。

「避けられないけど、危険は少ない! 私は絶対に、この戦乱を勝ち残るんだから!」

 待っていて、欲しいんだ。悲しみも何も知らないで。
 みんなには、幸せでいてほしいんだ。
 リクシアはそっと目を閉じて、誓う。

 ——傷つくのは、私だけでいいから! 他の人は傷つけさせない!

 かくしてリクシアは、本格的に戦に加わることになる。
 改変した未来。フェロンのいない戦場。

 ——リュクシオン=モンスターの、暴れださない戦場!

 この戦の結果がどうなるかはわからないけれど。
 早く終わらせて、戻し旅を再開したい、そう思うリクシアであった。
 戦乱だけが、すべてではない。本来の目的だって、きちんと覚えているさ。
 色々と紆余曲折があったけれど。またいずれ、再開できるだろう

 ——待っていて、お兄ちゃん。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 どーも、藍蓮です。
 時戻しのオ=クロックの力を借りて。過去改変がスタートしました。
 次に赴くは、戦場。
 リクシアはこの戦に、終止符を打てるのか——。
 次の話に、請うご期待!


※ 明後日以降はまた更新が不定期になります。
  ……ご了承ください。