ダーク・ファンタジー小説
- 閲覧数○○記念! カラミティ・ハーツ 短編集 ( No.0 )
- 日時: 2017/08/30 22:25
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
どーも、藍蓮です!
閲覧数が一定の数行くたびに、本編にまつわる短編を書こうと画策中です。本編を知らない方はご遠慮ください。たぶん、わかりません。ちなみに、短編を読まなくても本編に支障はございませんが、読めば一層深みが増すであろうことを、ここに書いておきます。
目次(+メイン人物)
1 穏やかな時間 >>0 −−リュクシオン
2 「ありがとう」と言いたくて >>1 −−リクシア
3 言えた名前 >>2 −−エルヴァイン
4 「Hearty」 >>3 −−フィオル
5 満ちた月欠けた月 >>4 −−ルヴァイン&シャライン(神話)
6 天使たちの青空 >>5 −−極北の天使たち(五人)(多いので省略)
7 殺人剣のF >>6 −−フェロン(※5900文字)
8 廃墟の青 >>9 エルヴァイン
というわけで、閲覧数50記念の話から。
◆
閲覧数50きたよ! 嬉しいなー。
ってなわけで、「カラミティ・ハーツ」の番外編を書きたいと思います。序章でちょっとしか出られなかった、リュクシオンのお話。
皆さま、ありがとうございます!
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Speciai Story 穏やかな時間
——時はさかのぼる。
「リュクシオン」
「はっ」
ウィンチェバルの王宮で。その日、彼は呼び出しを受けた。
「これから季節は冬になる。侵略も一気に途絶える季節だ。そこで提案する。そなた、ときには帰省せぬか」
「帰省……ですか?」
「そうだ。国のために働いてくれるのは大変結構。しかし、休息は必要だろう? そなたには妹がいるそうではないか。たまには会ってやれ」
リュクシオンは、頭の中で、甘えんぼな妹のことを考え、苦笑いした。
あの子はさぞ、自分に会いたがっていることだろう。
「……そう、ですね……。陛下がよろしいとおっしゃるのならば、是非、妹に会いとうございます」
王はその返答を聞き、満足そうに笑うのだった。
「そうだそうだ。休め休め。そなたは真面目すぎていかんのだ」
「……では、失礼いたしますね」
リュクシオンは、部屋を出た。
王宮から馬車を借り、妹がいる小さな村を目指す。初冬の空気は肌寒く、それでいて、どこかすがすがしい。リュクシオンは、解き放たれたような、スッしたさわやかな解放感を感じた。
「……このところ、ずっと執務室勤めだったしなぁ」
こういったさわやかな空気を、心が望んでいたのだろうか。
しんしんと雪降る銀色の世界を、リュクシオンの馬車は進んでいく。
「わぁ、今夜は積もるかなぁ」
部屋の窓を開け、リクシアは凍空(いてぞら)を眺めた。
天から降る雪は白く儚く。そして一瞬で溶けていく。
「雪を喜ぶとか、子供?」
その気分を、隣でフェロンがぶち壊しにするが、リクシアは気にしない。
——こんなきれいな雪の日は、いいことが起きるような気がしない?
「すっかり夜になってしまったな」
雪降る村を、馬車が進む。それは、ある家の前で止まった。
明かりはついていない。どうしようかと悩んでいると、戸からフェロンが出てきた。
「……リューク。来るなら早めに言ってくれる」
「……何で君がここにいるのさ」
フェロンは確かに幼馴染だが、家族ではない。
フェロンが呆れたように言った。
「君の妹! リア! 寂しいから話し相手になってって、強引に僕を誘うんだ。こっちは一人暮らしだから別にかまわないけど……。でも、夜じゃなくて昼に着けなかったの? リア、寝ちゃったし」
「昼は忙しかったものでね」
「……リュークは真面目すぎる」
「君が言うことでもないだろう」
言葉を交わし、家に入る。
久々に、帰った気がした。
雑務に追われ、王宮で忙しく働いていた日々とは違い、ここには穏やかな時間がある。
「馬車で来たの?」
「ああ、そうさ。馬は厩にとめておいたよ。厩舎、わざわざ作ってくれてありがとね」
「王宮からここまでは遠いから。厩舎があると便利でしょ?」
あ、そうそう、とフェロンは言う。
「リアを起こすのは明日にしてね。今起こしちゃ、かわいそうだ」
「わかってるって。眠ってる可愛い妹を、無理に起こすような薄情な兄さんじゃないさ」
返して、彼は自分の部屋に行く。
ここ半年ほど主のいなかった部屋は、驚くほど、きれいに掃除されていた。
「……リクシア。僕のことはいいって、あれほど言ったのにさぁ。君も世話焼きだねぇ」
でも、うれしかった。帰る場所がある、迎えてくれる人がいる、そのことが。
そんなことさえできなくなった人を、たくさん見てきたから。
「僕は幸せだよ……」
言って、ベッドに寝転がり、目を閉じた。
閉じた目の中に、雪が反射した月の光が、ちらちらと入り込んでいた。
翌朝。
「うわぁっ! お兄ちゃんっ!」
何の気もなしに居間に行くと、リクシアに仰天された。
「……そんなに驚かれると、傷つくよ?」
「わ、悪気は無いのっ! 今までいなかったから、急に現れてびっくりして……」
「昨日からいたよ」
どこからかやってきたフェロンが、さりげなく割り込む。
「まぁ、戻ってきたのはリアが眠った後だし。起こさないでって言っておいた」
「そんな! 起こしてよぅ!」
「リアも休めってこと。まったく。兄妹そろって、休むってことを知らないんだから」
その言葉に、リュクシオンが反応する。
「……休んでないの?」
「あ……う……」
「兄さんがいない分私が頑張るだの、兄さんがいつ帰ってもいいように環境を整えるだの……。口を開けば兄さん兄さん。そりゃ、休む暇もないよね」
「フェロン〜!」
フェロンがあっさり暴露した。
リュクシオンは苦笑いする。
「仕方ないなぁ。じゃあ、みんなで出かけようか。それが、僕らの休息さ」
「……家で休めって言ってんの。このブラコン、シスコンが」
フェロンの小さなつぶやきは、無論、二人に届かない。
「どこ行くどこ行く〜?」
「山に行ってみようか?」
「賛成!」
「……勝手にしろ……」
……常識人のフェロンは、苦労人でもあった。
冬の山は、昨日降った雪で真っ白に染まり、きらきらと日の光を反射していた。
「きれい……!」
春は野花、夏は新緑。秋は紅葉に、冬は雪。
四季折々で違う顔を見せる山の中でも、リュクシオンは冬が好きだった。
雪の、白。何にも染まらぬ、天上の白。それがすべてを埋め尽くし、一面の銀世界へと変える。その白さ、美しさを。リュクシオンは愛した。
澄みわたった空気は思わず深呼吸したくなる。深呼吸すれば、すがすがしい冷たさが喉を渡って、頭をすっきり冴えさせる。
「冬って、いいよね。綺麗で」
冬にしては珍しく、すっかり晴れた快晴の空を、見上げた。
——この光景を見るために、僕はまた、戻ってくる。
「リクシア。競走してみよっか」
誘いかければ。
「オーケー兄さん! じゃ、あの木まで走ろっ! フェロンもね!」
「ええっ? 僕も!?」
文句いいながらも走るフェロン。
地を駆ければ、踏む雪の感触が気持ちいい。息をすれば、飛び込んでくる、すがすがしさよ。
リュクシオンは今、心から楽しんでいた。
戦も政務も。何もかも忘れて。
(楽しい、楽しい、楽しいよっ!)
無邪気に笑う、風の精のように。笑い踊りながら走った。
結果は、フェロンが一番、リュクシオンが二番。リクシアは三番でビリだった。
フェロンは一呼吸遅れたのにもかかわらず、堂々の一番。リクシアはそれが面白くない。
「なんでフェロンが一番なのよぅ」
文句を言えば。
「経験の差だね」
あっさり返すフェロン。
それを見て、リュクシオンがフォローする。
「ほら、僕らは魔法を使うだろう? でも、フェルは剣を使うじゃないか。剣士は体そのものを武器として使うから体を鍛えていて当然だけど、魔道師は体はそこまで使わないだろう? だから、これは仕方ないのさ」
「勝ちたかった……」
「まぁまぁ」
苦笑いして、リクシアをなだめる。
空を見る。日は中天に差し掛かっている。リュクシオンは言った。
「やぁ、もうお昼だね。ランチにしようか」
「……リューク、持ってきたわけ?」
「いいや?」
「——君ね!」
リュクシオンの天然っぷりに呆れかえるフェロン。
「……じゃ、何。このまま下山するの?」
「そうだよ?」
「…………知らない」
フェロンは呆れてものも言えない。
リクシアがうん、とうなずく。
「じゃ、帰ろっかー。帰ろ、帰ろー」
「……………………(—_—)(訳;もう知るか)」
……こうして一行は下山した。
この後、リュクシオンはこの家で二週間を過ごし、王宮に戻っていく。そしてまた、雑務に追われる日々に戻る。
でも、彼は忘れない。あの日。帰省したあの日。
確かに幸せだったこと。
喜ぶリクシアと仏頂面のフェロン。美しいあの銀世界。
夢のようだったあの日々を。彼は永遠に忘れない。
(こんなに楽しいなら、ちょくちょく戻ろうかなー)
しかし、彼が再び、戻ることはなかった。
季節は、冬。戦の前の小休止。
その年の春。彼は国を滅ぼして、魔物となってしまったのだから——。
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単発番外編です! 皆さま、どうでしたか?
彼らにもあった幸せな日々。物語の前日譚です。
ほのぼのした感じが伝わればいいなー。