ダーク・ファンタジー小説

閲覧数100記念! CH短編 「ありがとう」と言いたくて ( No.1 )
日時: 2017/08/09 01:20
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 ※CHは「カラミティ・ハーツ」の略ですよ。 

 どーも、藍蓮です!
 閲覧数100記念の話を募集していましたが、誰も来なかったみたいなので、勝手に書きます。あとからでもいいからアイデアおくれー。
 まぁ、始めて間もない割には、たくさんの方が拙作を読んで下さったようで! とても感激しております! 小説書くの楽しいですー!
 皆さま、ありがとうございました!


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 Speciai Story 「ありがとう」と言いたくて

(時はさかのぼる)

  ◆

「大丈夫か?」
 転んで泣いてた女の子に。
 そっと差しのべられた手は、温かかった。
 あの日、どうして言えなかったのかな。
 たった一言の「ありがとう」が。
 嬉しかったのに。

  ◆

「何? また、僕に用?」
 フェロンが面倒くさそうな顔をした。
 リクシアはうなずく。
「手伝ってほしいの。あれとあれとあれとあれを……」
「買ってくれって? 子供の使いじゃないんだから勘弁してよ……」
「そう言うフェロンもまだ子供じゃない」
「君よりは上だよ……」
 呆れたように言いながらも。いつもフェロンは従ってくれる。
「使い走りじゃないんだよ、リア……」
 文句を言ったって。いつもリクシアに甘えさせてくれる。
 そんなフェロンが、好きだった。
「はい、買っといたよ。で、他には?」
「あれとあれとあれ」
「……君も人使いが荒いよねぇ」
 フェロンはさらに溜め息をついた。

 買ってもらったのはたくさんの糸。綺麗な布地に刺繍針。
「……何やろうって言うのさ、君」
「内緒よ内緒」
「……わかったけど、夜更かしだけは、しないでね?」
「へーき、へーき! フェロンは黙る!」
「はいはい……」
 呆れ顔のフェロンを追い出し。
 針と糸を取り出して、作業を始めた。
 あの日は言えなかった「ありがとう」を、今度こそちゃんと言うために。

「……何してるんだか」
 フェロンは、するともなしに、彼女の部屋の扉を眺めた。
「どうせ、リュークに何か、作ってやっているんだろうけど……。でも、リュークがいないからって、なんで僕が話し相手なわけ? 僕しかいないのだとしたら、友達少なッ! なんか心配なんだけど」
 音の一切しない部屋。おそらく彼女は今、一心に何かを縫っている。
「幸せなやつ……」
 若干リュクシオンをひがみながらも、彼は剣の技を磨きに、秋の丘へと登って行った。

「フェロン、フェーローン!」
「なんだようるさいな。……って、それ!?」
「うん。私が作ったんだよぅ?」
 練習を終え、木の木陰で休んでいたフェロンに。
 バスケットを抱えたリクシアが近づいて行って、サンドイッチを差し出した。
「何か作ってたんじゃなかったの」
「それぐらい、今じゃなくてもできるじゃない」
「で、わざわざ?」
「そうよ?」
「……ありがとう」
 言って、彼はサンドイッチを受け取る。

 フェロンはすぐに、「ありがとう」が言えるのに。
 どうして言えなかったのかな、あの日。
 お礼が、したいんだ。
 だから今、頑張って、作ってる。

  ◆

「ん、こんな感じ」
 作っていたのはローブだった。ただのローブではない。機能性があって、模様もきれいで、動きやすくて……。そんなローブだった。
「あの人は動きにくいの嫌うもんねー」
 機能性重視の緑のローブ。
 あの人の目と、同じ色の。
「作って渡して、今度こそ言うんだ」
 あの日、言えなかった「ありがとう」を。
 ——そのためには、作り上げなきゃ。
 一心に、針と糸を動かした。

  ◆

「お兄ちゃん、まだかなぁ」
「リュークは忙しいんだよ」
「お兄ちゃん、まだまだぁ?」
「だから忙しいんだってば」
「会いたいなぁ」
「待ってりゃ会えるさ」
「話したいなぁ」
「……待つって知ってる?」
 木枯らしの吹く、秋の道。
 不毛な日常会話が、今日もまた、続いていった。

  ◆

「最近外に出てこない……。そんなにそれが大事なのか?」
 部屋にこもりっきりのリクシアが、フェロンは少し、心配だった。
(まあ、作り終わったら出てくるかな。でも心配だから、やめてほしいよ)
 フェロンは持ってきたトレイを部屋に前に置くと、中の少女に声をかけた。
「あの、サンドイッチ、置いとくから。おなかがすいたら勝手に食べてね」
 中から返事はなかった。よほど集中しているらしい。
 フェロンはため息をつき、その場を後にした。

  ◆

 部屋から出たら、サンドイッチの乗ったトレイが置いてあった。
「あ、フェロン……」
 また迷惑をかけたらしい。自分の甘さが嫌になる。
「ホント、いっつもいっつも……。ごめんね」
 フェロンには世話になりっぱなしだった。

  ◆

 冬の近づく、秋の終わりに。リクシアは「それ」を作り終えた。
 渡す人は決まっている。今日はあの人の誕生日なんだから。
 思い出の丘に行くと、彼は今日も、剣をそこで振っていた。
 誕生日でも、変わらず真面目に。

「……フェロン」

 その人の名を、口にした。
 彼はいつも通りの口調で、「何?」と答えた。
 リクシアは、出来上がったローブを、そっと差し出した。
「……それって、リア」
 今こそ言わなければならないんだ。

「—— ありがとう —— !」

「!」
 差し出されたローブと、思いのこもった言葉に。フェロンは瞠目する。
「……リア……?」
「言いたかったの。私、あなたに」
 はじめて出会ったあの日に、言えなかった「ありがとう」を。
 ちゃんとした形で。
「フェロンは私にいつも、色々としてくれた。血はつながっていないのに、兄さんみたいだった」
 なのに、それを「当たり前」と思い、「ありがとう」を言えない自分がいた——。
「だから、言いたかったの、あなたに」
 ささやかなプレゼントを添えて。
 はじめて出会った、あの日と同じ日に。
「ありがとうって」
 言いたかったの。言えなかったから。
「……リア」
 驚いたような顔のフェロン。彼はすぐに破顔した。
「そんなことを気にしていたの?」
 コクリとうなずくリクシア。
 なんだ、そんなこと、とフェロンは苦笑いを浮かべる。
「気にしてないし、過去のことじゃないか」
「でも、私は気にしたもん!」
「はいはい」
 言って、彼は渡されたローブを広げ、感嘆の声を上げた。
「……すごいものだね。動きやすそうだ」
 嬉しそうに、彼は言うのだ。

「ありがとう」

 その瞬間、全てのわだかまりが解けた。
 そうだ。私はあの冬の日。その一言が、言えなくて。
 暗い思いを抱えて。罪悪感めいたものを感じて。ずっと後悔していた。
 言ってみれば簡単なことだし、言われてみれば、嬉しいのに。
 言えなかったのは幼かったから。何もわからなかったからだった。
「ありがとう」
 口にしてみれば、ふんわりと優しい。
 ありがとう、フェロン。ありがとう、傍にいてくれて。
 言いたいことはたくさんあったけど、とても伝えきれないから。
 とびきりの笑顔でもう一度言うのだ。
 たった一言。

「ありがとう」

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 はい、今回は「ありがとう」に主眼を置いた短編です。相手の名が終盤まで明かされないのは、その方が面白いからです。
 言いたかったのに言えなかった「ありがとう」。そんな経験が私にはあります。
 心温まる話になれたら、嬉しいです。

 閲覧数100記念! さてどうしようと考えていたら、こんな話が浮かびました。

 これからもどうぞよろしくお願いいたします。
 皆さま、お読みいただき、「ありがとう」ございました!