ダーク・ファンタジー小説
- 閲覧数150記念! カラミティ・ハーツ短編 言えた名前 ( No.2 )
- 日時: 2017/08/10 18:15
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
どーも、藍蓮です!
皆さま、ありがとうございます!
閲覧数が150になりました!
というわけで、再び記念の話を。
Ep19までお読みでない方は、読むのをお控えください。
その話に関連した、エピソードですので。
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Speciai Story 言えた名前
嫌われ者だった、幼いころから。
父王の不義の子だからって。
生まれつき、深い闇の力があったからって。
同じようにして、生まれたのに。
他のきょうだいみたいには、なれなかった。
父親に、嫌われて。きょうだいに、嫌われて。
嵐のような暴力と暴言。傷つかぬよう、心を鎧った。
——だから、望んだんだ。剣を、と。
剣さえあれば、力さえあれば。きっといじめられないって。
悲しみに耐え、苦しみに耐え。涙の海を渡ってきた。
そんな僕の名は——
エルヴァイン・ウィンチェバル。
◆
時はさかのぼる。
「だからアンタは邪魔なのよッ!」
「ゴミめ、しっしっ、あっち行け!」
今日もまた、変わらぬ日常。
城を歩いているだけで。投げつけられた言葉の暴力。
「アンタなんて、死んじゃえばいいのッ!」
それを言ったのは実の姉。
殴ってきたのは実の兄。
「…………ッ」
殴られて、吹っ飛ばされて。地面に転がった。
「なんだよ? 睨んでんじゃねぇよ!」
今度はブーツの爪先で蹴られて。
剣を覚えたって、いじめは終わらない。
ここで剣を使ったら、犯罪者になってしまうんだ。
だから。
いくら、今がつらくても。唇を噛んで耐えるしかない。
「……剣の師匠のところに行くんだ。邪魔しないでくれるか」
努めて冷静な口調で言って、衣服の埃を払い、立ち上がった。
その背を。
「ぐあッ……!」
剣の鞘で、殴ってきた兄。
「剣の師匠? 真面目なもんだねぇ。ならこの一撃を、受けてみろッ!」
倒れ込むその脳天に、重い革の鞘が、
打ち込まれなかった。
「——あなたたちは、弱い者いじめがお好きのようね」
漆黒の少女が、その手を前に差し出していた。
手から現れた漆黒の鎖が。剣の鞘を縛り付ける。
「誰だ貴様はッ!」
「知らないの? あらまぁ、あなたたるお人が! 従妹の名前一つ、覚えられないなんて。これは失礼いたしましたわ」
芝居がかった仕草で例をして、名乗る。
「グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド」
彼女はふわりとほほ笑んだ。
「さて、質問。私の名前は?」
「ふざけるなよッ! そんな長い名前、覚えられるわけが——!」
「じゃ、あなた、名乗ってみなさいな」
「いいだろう! 聞いて驚け! 俺の名は——!」
王子は朗々と名乗りを上げる。
「ニコール・マクスウェル・グリージィアルト・ヴェヌス・フォン・クライシス・ローリヌス・ヴァン・ダグラス・ウィンチェバル! もう一回言ってみろ!」
「簡単よ。ニコール・マクスウェル・グリージィアルト・ヴェヌス・フォン・クライシス・ローリヌス・ヴァン・ダグラス・ウィンチェバル」
彼女はこともなげに言って返した。
「なッ——貴様ッ!」
「だから、もう一度問うわ」
悪魔の笑みを、浮かべて。
「グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド。さて、私の名前は? 言えないわけがないわよね? 私があなたの名前を、しっかり言えたのだから」
「く、くそッ!」
王子——ニコールは、唇を噛み、叫んだ。
「グラーキア・アルディヘイム・フォン・ヴァイナ・アリアンロッド! これでどうだッ!」
「……訂正していい?」
少女は、見てられないわと首を振る。
「まず、グラーキアじゃなくってグラエキアだから。で、ドはどうしたの? クラインレーヴェルもないし、ヴァイナじゃなくってヴァジュナだし、位置もフォンのあとじゃないし……。めちゃくちゃね。それでよく、自分の名前を覚えられたものよね」
「貴様ァッ!」
二コールは彼女に殴りかかろうとしたが、彼女が漆黒の鎖を呼び出すと、その身体は拘束された。
「外せッ!」
「私の名前は?」
「グランキア・ラーディヘルム——」
「情けないわね」
彼女はふうと溜め息をついた。
「こんな人が、王族だなんて」
言って、倒れたままの、エルヴァインに、手を差し出した。
「私の名前は?」
記憶力には自信があったから。
「グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド」
答えたら。
「上出来」
彼女は優しくほほ笑んだ。
「あんな馬鹿より、あなたの方が、よっぽどいいわ。あなたの名前は?」
「……エルヴァイン・ウィンチェバル」
長ったらしい名は、持っていない。
そう答えると。
「短い方が、覚えやすいものね。私だって、あんなに長い名でいつも呼ばれていたら、たまったものじゃないから、さ」
「……グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド……」
手を握って、立ち上がった僕に。
「グラエキアでいいわ。だから、私も。……エルヴァインって、呼ばせてくれる?」
彼女は、言うのだ。
「あなた、そんなに賢いんだからさ。あんな馬鹿にいじめられるなんておかしい。いじめられないように、考えたらどう?」
僕は、うなずいた。
小さく、礼を言う。
「……ありがとう、グラエキア」
「私の名前を間違えずに言えた人は、助けることにしているのよ」
それが、彼女との出会いだった。
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……書いてみて思いました。
グラエキア、強ッ! 何、あの弁論は!
臨時で作ったキャラですが、非常に成功したキャラでもありますね。
今回は、これまでとは打って変わって、リクシアもフェロンも出てこない短編です。エルヴァインとグラエキアの物語。お楽しみいただけたでしょうか? 正直、グラエキアの弁論のところは、書いていてめっちゃ楽しかったです。自分で書いていてなんですが、スカッとしましたですハイ。
これからも、また何か理由つけて、この短編集は更新します。
本編も楽しんでいって下さい。
ご精読、ありがとうございました!