ダーク・ファンタジー小説

閲覧数200記念! カラミティ・ハーツ短編 「Hearty」 ( No.3 )
日時: 2017/08/14 11:39
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 どーも、藍蓮です!

 皆様に感謝です!
 閲覧数200来たよ! 嬉しいな!
 ということで、またまた短編のお時間です。
 楽しんでいって下さいな。

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 Speciai Story 「Hearty」

 今はもう、いないけど。
 大好きだった人がいる。
 心優しく、そして強かった
 彼女の名前はハーティ。
 僕らを育ててくれた人。
 天使でも、悪魔でも。
 わけ隔てなく。平等に。

 今はもう、いないけど。
 今はもう、いないけど。

  ◆

 赤ん坊だったから覚えてないよ。でも、その日。ハーティの家の前に、天使の子と悪魔の子が、捨てられていたんだって。
 だからハーティは拾ったんだ。捨てられた子は見捨てられないって、さ。
 以降、僕らは彼女に育てられ。長く平和な時間を送った。
 春も夏も秋も冬も。
 やがて僕たちは大きくなった。

  ◆

「ねぇねぇ。みんな。お出かけしないー?」

 間延びした穏やかな口調で。
 その日、ハーティは笑って言った。
 穏やかな春の日のことだったよ。空はからっと晴れていて。
 絶好のお出かけ日和だね。
 僕が笑えば。
 兄さんも大きく伸びをして、言ったんだ。
「じゃあ、どこへ行くか?」
 ハーティは、幼い子供みたいに、無邪気に手を挙げた。
「お花畑に生きたいのです」
 目をきらきらと輝かせて。
「じゃ、そうしよっか。でも、近くにあったかな?」
 僕が首をかしげると。
「私、知ってるものぉ。ついてきてねー」
 少女みたいに軽やかな足取りで。ふわりと歩きだした。

「待ってよ!」
 気が付いたら、みんないなかった。
 僕がぼんやりしている間に。
 ハーティも、兄さんも。
 で、僕は知らない所にいた。
 知らない風景、知らない町。
 さっきまでハーティの家の前にいたと、思っていたのに。
 道行く人の、怪訝な視線。
 僕は不安になってきた。
 でも、どうすればいいのか。どうすればまた会えるのか、わからなかった。
 心細くなって。僕はその場にうずくまった。
「独りは……嫌だよ……」
 つぶやいてみても。見知った顔はどこにもなくて。
 ずっと固まっていた。じっと固まっていた。
 そんな時。

「フィオ!」
 駆け寄る声。よく知った声。
 縮こまっていた僕は、恐る恐る上を見た。
 すると、そこにあった、変わらぬハーティの顔と、心配に顔をゆがませた兄さんの姿。
「……みんな」
「見つかってよかったぁ」
「……どこ行ってたんだ。心配したぞ」
 その声を聞くと、安心して。
 立ち上がって、恐る恐る手を伸ばした。
 本物だと、確かめるように。
「怖かったの? ごめんねぇ。私、夢中になっちゃってさぁ」
 ハーティは。僕の母さんは。優しく僕を抱きしめた。
「でも、大丈夫。ハーティがいるよー。今度ははぐれないからさぁ。……一緒に、お花畑、行こうよ?」
「……うん」
「大丈夫。いなくなったりしないからぁ」
 言って、彼女は僕に片手を差し出した。握れということらしい。
「いや、僕は子供じゃないから」
「はぐれたくないもーん」
 無邪気に笑って。ハーティの方から僕の手を握ってきた。
 すると。
「なら、オレも」
 悪戯っぽく笑って、兄さんが反対の手を握った。
 僕は二人の間に挟まれるような形になって、憤慨した。
「兄さんまで! 子供じゃないってば!」
「はぐれたくないからな」
「…………」
 ……でも、まあ。
 ちょっと恥ずかしいけど。
 悪い気はしないんだよね。
 つないだ手。確かに感じる、「誰か」の温かさ。
 傍にいることの温かさ。
 不安なんて、とうに消えて。心がぽかぽかしてくるのを、感じたんだ。
 今、つないだこの手。
 手をつないでいる限り。みんないなくならないのだと。
 嬉しくなって、無邪気に笑った。
「行こうよ、行こう! お花畑へ!」
 感じた安堵と温かさが。僕の心を穏やかに満たして。
 やがて。
「ほらぁ、ほら! 着いたよ! ハーティのお花畑!」
 子供みたいにはしゃぐハーティ。でも、つないだ手はほどかない。
「きれいよねぇ、きれいだよぉ」
 無邪気に無邪気に。笑って跳ねて。
 僕は手を振りほどいて、明るく笑った。
「あの木まで競走しようよ!」
 言って、元気よく走り出す。
 穏やかな、春の光が。優しく群れ飛ぶ鮮やかな蝶が。
 幸せなひと時を。より美しく、演出していた。
 忘れない、忘れない。この暖かい、春の日を。
 つないだ手の、ぬくもりを。
 だって、今ならわかるんだ。
 すべてを失った今なら。
 幸せなんて。幸せな時なんて。
 あまりに脆く、儚いことを。
 本の刹那に過ぎゆくことを。
 だから、忘れない。忘れない。あの暖かかった、春の日を。
 幸せだった、晴れの日を。
 あの日、ハーティは確かにそこにいて。
 無邪気に笑い、手をつないでくれた。

 未来、彼女は魔物になる。
 平和な時は、一瞬で崩れて。
 僕らの長い旅が。ハーティを元に戻すための戦いが。
 始まることになるんだけど。
 それは別の物語だから。
 今、僕が語るべきことではないよ。
 いつかまた、別の時に。
 話すことにしよう。

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 語り手の名前も「兄さん」の名前も出さなかったのは、あえてです。
 まあ、「カラミティ・ハーツ」読んでいる人なら、「天使と悪魔」の時点で、誰かわかると思います。
 名前を出さなかったのは、「ハーティ」の存在を目立たせるためです。
 あの二人にも確実にあった、幸せだった時間。
 一番最初の話(「穏やかな時間」)と同じく、どこか切ない終わり方ですが。
 平和な日々を、しっかり書けたでしょうか。