ダーク・ファンタジー小説

閲覧数250記念!カラミティ・ハーツ短編 満ちた月欠けた月 ( No.4 )
日時: 2017/08/22 19:50
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 どーも、藍蓮です!

 閲覧数250来たぁぁぁぁあああああああ!
 感謝感激大号泣(!?)
 皆様に感謝です!

 ということで、また短編書きますよー。
 今回は、本編のキャラがまるで出てきませんが(笑)

 これは、美しき月の神話——。

※ 5300文字……。長いです。余裕を持って読みましょう。

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 Speciai Story 満ちた月欠けた月


  ◆

 ——月には、二つある。

 一つは、完璧な真円を描く、黄金の満月。
 一つは、在れど目に見えぬ、漆黒の新月。

 何もかもを失った新月は、しかし、日を追うごとに満ちて行き、やがては満月になる。
 何もかもを得た満月は、日を追うごとに欠けて行き、やがては何もかも失って、新月になる。

 こんな、双つの月に。それぞれ神と女神がいるとしたら。

 ——あなたはその面(おもて)に、何の神話を見ますか——?


  ◆


 はじめ、月は双(ふた)つあった。ルヴァインの月と、シャラインの月。その当時、月は欠けることなく、常に満ちていた。二人は姉弟であり、夜毎に上る双つの月を、それぞれの力で管理していた。



 しかし、ある日のことだった。


「ああっ!」
 シャラインの月は、地上のヒトの子に。神を殺す力を持ち、「英雄」と崇められたヒトの子に。
 

 その力を以て、粉々に破壊された。


 そのヒトの子の名前は、ウィンチェバル。のちに、ある王国を作った者だった。

「姉上ッ!」

 ルヴァインはあわてて駆け寄るも。

 月を失った月の女神は。再び、立ち上がることはできなかった。

 このままだと、シャラインは消えてしまう。

 自分の力の全てが宿った、月を破壊されてしまっては。

 ルヴァインとシャラインは、とても仲の良かった姉弟だったから。


 ——失いたくない。


 ルヴァインはそう考えて。
 決めたのだった。

「姉上、僕の手につかまって」

 言って、手を差し出した。シャラインは手を伸ばす。つながれた手。
 そして、ルヴァインは術を行う。自分の月を失ったシャラインに、新たな力を与え、消滅から守るため。



 ——それは、自分の月の、譲渡。



「やめてッ! ルヴァインッ!」
 彼がしようとしていることに気付き、シャラインは悲鳴を上げた。
「駄目! そうしたら……そうしたら、あなたは……!」
「消えないさ」
 ルヴァインは不敵に、しかしどこか悲しそうに、儚く笑った。
「姉上は満ちた月、僕は欠けた月。一つの月を分け合えば、ほら。二人とも生きられる」
「でも……欠けた月なんて……」
「欠けた月でもいつかは満ちる。だってもともと、一つの月だったんだから」

 力を、移し終える。消えそうだったシャラインの身体が、ひときわ強く輝いて。
 そして。

「…………ッ!」
 ルヴァインが、苦しそうに身体を折った。
 その身体が、薄くなっていく。
「ルヴァイン!」
 叫び、シャラインは弟の身体を抱き寄せた。
「消えないで……いなくならないで……! 嫌よ、こんなの嫌!」
 涙にぬれた顔。ルヴァインは、苦しみの中で健気に笑った。
「傷つくのは……僕だけで、いいんだ」
「良くない! 私は、あなたにいなくなってほしくない!」
 姉の言葉を無視し、ルヴァインはぽつりとつぶやいた。
「満ち月と欠け月は出会うことがない……。摂理だ。だからもう、出会うことはなくなるのかもしれない。同じ月を共有する以上……。でも……僕は、この方法でしか」
 姉上を守る方法を、知らなかったのだと、荒い息の中で言った。
 シャラインは、懸命に首を振った。
「嫌よ、嫌! 生きているのに! 消えていないのに! 永遠に別れるなんて、嫌! 私たちは姉弟なのに! 最近まで、ずっと一緒に暮らしてきたのに!」
 涙でゆがむ視界。シャラインの眼から、涙が一つ、二つ。弟の上に落ちていく。
 ルヴァインは、大丈夫だから……と弱々しく笑った。
 その身体はもう、ほとんど見えない。
 宙(そら)に浮かぶは満ちた月が一つ。シャラインの月は砕かれて。ルヴァインの月が辺りを照らす。

 ——自ら欠け月を選んだ彼には、満ち月のもとでは居場所がない。

「姉上……」
 ルヴァインは、そっと手を伸ばした。
「大好き……だった。守れて……良かった」
 それだけ言い残し。
 抱きしめたシャラインに、わずかな体温を残し。
 完全に、消え失せた。
 しかし、彼女は感じている。
 消えかけ、死を覚悟した、あの時には。
 感じられなかった、確かな生の鼓動を。
 そして、自分の中に。あの子がいるのを。
 今はもう、眠ってしまったけれど。月が完全に欠けるとき、あの子は再び出てくるのだろう。
 代わりに、シャラインが眠ることを、条件に。

 ——つまり。

 生身のままでは。もう、





 ——二度と、会えないのだ——。 





「…………ッッッ!」
 こみ上げた悲しみと喪失感に。シャラインは涙した。
 あんなに仲の良かった姉弟なのに。それは一瞬で引き裂かれた。
 あの、ヒトの子。あの、「英雄」。
 幸せな日々を、あの砕かれたシャラインの月の如く、粉々にして。
 いびつな笑いを思い出す。「空に月は二つもいらねぇーんだよ」と、嘲るように笑っていた。あの、「英雄」。神殺しの魔性の子。

「……いいわ、後悔させてあげる」

 いびつな笑いを浮かべ、月女神は立ち上がる。
 腕にはまだ、あの子の最後のぬくもりが、残っていた。
「待っていなさい、『英雄』。私が、あなたを。倒すのだから」
 たとえ悪の神となっても。愚かな理由で幸せを奪ったあなたを、私は許さない——。

 と、そこまで思った時だった。シャラインは不意にめまいを感じ、その場に倒れ込んだ。

 シャラインの身体がすうっと消えて。現れたのは、漆黒のルヴァイン。
 空は雲で覆われて。だから彼が「出る」ことができた。
 彼は、小さくつぶやいた。
「傷つくのは……僕だけでいいんだ。汚濁を背負うのだって……」

 やがて、雲が晴れ、満月が再び姿を現した時。ルヴァインは消え、代わりにシャラインが、首を傾げて立っていた。
「あれ? 私、さっき何かを考えていたような……」
 頭をひねってみるが、何も思い出せなかった。
「まあ、いいか。月女神の仕事をしよう」
 言って、フラフラと歩き出す。

 彼女は、知らない。自分の抱いていた黒い感情を。

 ——ルヴァインが、代わりに全部、引き受けた、なんて、ね。


  ◆


 月は満ち、やがては欠ける。

 月が一つになってから、初めての新月の日が訪れた。
 その日、シャラインはルヴァインになる。
「……行くか」
 小さくつぶやいて。
 彼は、歩き出す。
 すべてを奪った「英雄」を探しに。
 それが、汚濁を引き受けた彼の、使命だったから。


  ◆


「……ウィンチェバル」

 ある、町の街道で。ルヴァインはついに、「英雄」を見つけた。
 「英雄」は仲間に囲まれて。楽しそうに歓談していた。
「……僕を、覚えているか」
 声をかけると。「英雄」は仲間に「ちょっと待っててね」と話しかけ、こちらを見た。
「誰だい? 見覚えがないなぁ」
「当然だろう。貴様が斬ったのは僕ではなく、姉上の月だったのだから」
「月……。ああ、君は、あの月神の片割れかい? もう一人はどうしたい? ああ、そっか。消えちゃったんだよねぇ。ご愁傷さま」
「消えてはいない……ここにいる」
 ルヴァインは、そっと自らの胸に触れた。
 月が完全に満ちるまで。ここで、眠っている。
 「英雄」は首をかしげたが、どうでもよさそうに言った。
「あっそう。……で、君は? 僕に何の用?」
「復讐なんかに意味はないが……。呪いを、掛けに来たんだ」
「ほう?」
 その言葉に、警戒したように「英雄」は距離をとる。
「でも、言っておくけれど。僕は神殺しなんだよ? その意味わかってる? 下手にかかると死ぬだけだよ?」
 わかっているさ、と彼は笑って。
 漆黒のローブから、三日月形の刃の剣を取り出した。
「それで戦うつもりなの? 月の神様なのに、弱っちいの。死んでも知らんよ僕は」
 「英雄」は嘲るように嗤って、いつも腰に提げている剣を、鞘から抜いた。
 これまで。数多の神々を斬り殺した、神殺しの剣。
 それを、ルヴァインに、向けた。

「——そういう行動を取ると思ったから、好都合なんだ!」

 叫んで、ルヴァインは己の剣を振り下ろした。





 ——自分の、右腕に。





「なっ……!」
 驚いたような顔の、「英雄」。


 ——血は、吹き出なかった。


 代わりに、腕の落ちた傷口から溢れたものは。





 ——黒い闇。




 帯のような形状をした黒い闇が、次から次へとあふれ出た。
 それは、一瞬で「英雄」の身体に巻きついた。
「な、なんだよッ! 放せ放せぇッ!」
 「英雄」はもがくが。黒い闇は一向に。その身体から、離れる気配がない。
「呪いを掛けに来たと、言ったろう……?」
 ルヴァインは不敵に笑った。
「その鎖はあなたを直接は縛らない。しかし、新月の神の名において、予言しよう。あなたが満月を堕としたことを、僕は忘れない。その鎖によって、あなたの未来は縛られた。あなたは国を作ったらしいな。だから僕は予言しよう」


 語られるのは、未来の出来事。


「あなたの国は、三百年以内に絶対に滅びる。黒い闇の纏わりついた子が目印だ。その子が生まれたら、それか二十年以内に、あなたの国は滅びる。これは確定事項であり、誰にも変えられない。全てが忘れられ、平和になったとき……。あなたの国の民は、祖先の犯した所業を知るだろう」


 彼の予言は、重く冷たく。決して逆らえないような圧倒的な重圧を以て、「英雄」を縛った。

 ——これが、神の力。

「あなたは愚かな罪により、己の子孫に永遠に消えない呪いを押し付けた。姉上を堕としたことを、後悔するがいい——永遠に!」

 叫んで。ルヴァインは、その場を去った。
 

 限界だった。失った腕。その傷口が、激しく痛んだ。
 これでよかったのだろうか、と思っても。今さら予言は変えられない。
 彼は地面に膝をつき、うめいた。
「姉上…………」
 復讐は、果たしたけれど。
 こんな方法しか、なかったんだ。
 くたびれきった彼は、そのまま大地に倒れ込んだ。

  ◆

 目が覚めると、そこはとある家だった。
「目覚めたか?」
 優しく微笑んできた、一人の青年。
「あんなに大きな怪我をして……。何があったか、なんて野暮な詮索はしねぇけどさ」
 食えるなら食えよ、とスープの椀を差し出しながらも、青年は名乗った。
「おれはグラエイン。グラエイン・アリアンロッドだ。事情は訊かねぇけど、名前くらいは訊いたっていいよな?」
 ルヴァインは椀を受け取り、礼を言うと、小さく名乗った。
「……ルヴァイン……だ」
「へぇ? 月の神様と名前同じじゃねぇか」
「その……月の神様……なんだけど……な……」
 ルヴァインの言葉に、グラエインと名乗った青年は、目を丸くした。
「あんたが、神様!?」
「……おかしいか? 『英雄』と呼ばれた奴と、やり合ったんだよ……」
 グラエインは、はっはっとおかしそうに笑った。
「ってぇことは、何? おれ、神様とお知り合いになっちゃったってわけ? ヒュウッ! ついてるぜ! ナイスだおれの運!」
 ……どこまでも無邪気に、笑った。
「……あんたは……僕を、恐れないのか?」
「月のどこを恐れるね? 月ってきれいじゃん! 恵みもくれるじゃん!」
 ……これが本性かと言いたくなるくらいの、見事な豹変ぶりだった。
 それに若干引きつつも、その明るい態度を好ましく考えているルヴァインがいた。
 彼は、苦笑した。
「……馬鹿な、奴だよ」
「うん? 何か言ったか?」
「何でもない。助けてくれて……ありがとう」
「当然だろって」
 その笑顔を見ながらも、彼は小さく予言をした。
 いわく。

「三百年後、この国が滅びるとしても。アリアンロッドの者は、絶対に無事に生き残る」と。

 その予言が。グラエインの無邪気な親切が。未来、常闇の忌み子とアリアンロッドの少女の二人を、数奇な運命に導いていくことになるなんて、彼は知らない。

 恩は、返す。仇は、討つ。
 ただそれだけの、行動原理の中に。
 生まれる、沢山の運命があった。

 どこだかよくわからないが、波の音のする暖かい寝床で。
 予言はできるが未来は知れない、黒い黒い新月の神は。
 三百年の未来に、思いを馳せるのだった。

  ◆

 ルヴァインと、シャライン。それぞれの名を持つ運命の二人が。
 出会うのは、それから三百年後のこと——。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 はい、本編を読んでいる方ならよくわかる、意味深な終わり方となりました。
 今回の話は神話ですが、その物語が、三百年後の未来たる本編につながります。満月の神と新月の神、と決めた時点で、この話は書きたく思っていました。結果、過去最高の5300文字ですが……。まぁ、沢山書けましたしね。
 人間と直接関わる神々の話が好きです。浮世離れしていなくて、どこか人間臭くて。そんな神様って、親しみわきますよねー。

 まあ、長かったですけれど。
 ご精読、ありがとうございました!
 そして、「カラミティ・ハーツ」ご愛読、ありがとうございました!
 次も頑張りますよぉ!