ダーク・ファンタジー小説
- 閲覧数300記念! カラミティ・ハーツ 短編 天使たちの青空 ( No.5 )
- 日時: 2017/08/22 21:46
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode
え、閲覧数300!?
嬉しすぎて、思わずガッツポーズをとってしまった藍蓮です。
というわけで。またやります、記念の話。
本編をEp25まで読んでいない方はお控えください。
ただし、本編をEp31(現時点での最終話)まで読まないと、最後の言葉の意味はわからないと思いますが。
そこの関連です。
5000文字行きましたので、時間のある時に読みましょう。
※ 下手くそですが、リクシアの絵を描いてみました。貼ったURLから飛べます。
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Speciai Story 天使たちの青空
◆
——あの日。
あの、思い出の日。
未来を信じて疑わなかった私たち。
十年後も、二十年後も。一緒にいられると信じていた私たち。
失った今ならわかるんだ。そんなこと、叶うわけがないと。
でも、無邪気だったあのころは。愚かだったあのころは。
——みんなで空を自由に舞った、あの日は。
無邪気だったけど、楽しくて。
愚かだったけど、幸せで。
忘れられない、日があるんだ。
五人で笑った、遠いあの日が。
◆
時はさかのぼる。
「うわぁ、すっごくいい天気!」
リルフェリアは、窓を開けて、大きく息を吸い込んだ。
「ねぇ、アル! あたし、ちょっとみんなを呼んでくる!」
言うなり脱兎のごとく、駆け出した。
その背中を、苦笑が追いかける。
「……いつもいつも大騒ぎ……。時にはのんびりしたっていいじゃない」
それでも嫌な気がしないのは、彼女の性格が明るく無邪気だからだろう。
「行ってらっしゃーい」
気のない声を、投げかけた。
◆
「ラーヴェル、ラーヴェル!」
「ん? 何? 何の用?」
リルフェリアは、町をのんびり歩きまわっていた彼を捕まえて、言った。
「ね、今日はいい天気だし! みんなで遊びにいこうよ?」
「おっ、楽しそうじゃねぇーか。いいねいいねぇ。どこ行くんだよ?」
「未定なんだけど、さ……。それよりみんなを集めなきゃね」
「……相変わらずの行き当たりばったりで。んー? ヴァッツは参加するかねぇ?」
「するわよ、もちろん! 行こう、行こう!」
「……おれより能天気な奴はじめて見たわ」
騒がしい二人は、町を歩く。
◆
「…………ッ」
ヴァンツァーは、今日も真面目に剣術修行に励んでいた。漆黒の彼が剣を振るたび、流れるような太刀筋が美しい。彼は生粋の剣士だった。
そんな張り詰めた雰囲気が、一瞬にして台無しにされる。
「あっ、ヴァッツ見っけ! 家にいないと思ったら……」
「こいつがまともに家にいたことがどれほどあるか! リルも頭を使えよな〜」
「ラーヴェルに言われたくはないわよ! あたし、あんたほど馬鹿になった覚えはない!」
「言ったな? なら、リル……」
「……静かにしてくれないか?」
呆れたような溜息とともに、喧嘩する二人の間を、冷たく澄んだ声が裂いた。
「ヴァッツ!」
「よっす〜。お邪魔するぜ!」
反省する様子すらない二人。彼はもう、呆れるしかない。
「……で? 何しに来た」
「何するって」
「そりゃ、遊びの誘いに……」「断る」「即答!?」
ヴァンツァーは、呆れたように首を振った。
「生憎俺は忙しいんだ。遊びなんかにつきあう暇はない」
そう、返すと。リルフェリアは、ラーヴェルを睨んだ。
「もうっ、あんたがあんなこと言うから!」
彼女は、必死な表情を作った。
「今日、いい天気じゃん! だから、みんなでどっか出かけようって!」
「つまらん。断る」
「つれないよ、ヴァッツ! あたしたち、あんまりみんなで遊ばなくなっちゃったし、さ? 今日くらいはいいじゃん!」
リルフェリアは、背中の翼までバタバタいわせて、必死さをアピールした。
「だからさ、お願い! 一緒に来てよ! あたしたち二人だけじゃつまらな……」「……わかった。行けばいいのだろう」「え?」
ヴァンツァーは溜め息をつきながらも、言った。
「ずっとやかましいのは耐えられないな。さっさと行って終わらせるぞ」
自分の感情に素直になれないヴァンツァーの、これが精一杯の譲渡。
それがわからないほど浅い付き合いではないから。
「やったぁ! ヴァッツ、ゲットぉ!」
拳を突き上げて喜んだ。
「ゲットって……物か、俺は」
背後で、呆れたような声がした。
それに便乗するように、ラーヴェルがガッツポーズを決める。
「とりあえず、最難関クリアおめでとさーん!」
「……何もしていない貴様が言うか……」
◆
「遊びに行く〜? 面白そうです〜」
リリエルの家に行き、事情を話す。
すると、彼女は目を輝かせて言った。
「行きたいです! 行かせてくださいよー」
その、あまりに無邪気な姿に。
「……リリーを最初に持ってきた方が、ヴァッツが早めに落ちたかも」
そんなことを、思わずつぶやいたリルフェリアだった。
「……おい」
かわいそうなヴァンツァーの言葉は。今日もまた、無視される。
◆
「……そんな次第で」
ぞろぞろと仲間を引き連れて、家へ戻ったリルフェリアは。事の次第を報告した。
「リルも頑張ったねぇ。でも、お出かけかぁ」
アルフェリオは、自分の身体に目を落とした。
うまく動かない足、飛べない翼。
どう見ても、足手まといだ。
と。
手を差し出す者があった。
「俺に負ぶさればいい」
ヴァンツァーだった。
彼は、言う。
「おそらくこのメンバーの中なら、俺が一番力がある。お前は俺が運ぶ。気兼ねしなくていい」
いつもは無口だけど。
差し出されたのは、まぎれもない善意。
アルフェリオは、笑ってその手を取った。
「ほら」
差し出された脊中。
恐る恐るしがみつくと、とても頼もしく、不安を感じさせない。
「で? どこへ行く」
彼が問えば。
「空へ!」
笑って、リルフェリアが答えた。
「折角のいい天気なんだし! 飛びましょ、空へ!」
「いいんじゃねぇの?」
「賛成ですよー」
ラーヴェルとリリエルが賛同の意を示し。
「いいんじゃない?」
「……悪くない」
残る二人も、それぞれうなずいた。
「じゃ、飛びましょ、空へ!」
赤い翼をはばたかせ。リルフェリアは空へ舞った。
「置いてくんじゃねーし!」
「待って下さいよぉ〜!」
緑と黄の天使も、後を追う。
「行くぞ。落ちるなよ」
「大丈夫だって」
そのあとを。
黒の天使と、彼に背負われた青の天使が、追いかけていった。
空へ空へ! 青い空へ!
◆
「いぇ〜い!」
「捕まえてみろよッ!」
「ふわふわ、ふわふわ〜」
「……平和だな」
「平和だねぇ」
空に舞い上がった天使たちは。空に着くなり、好き放題やり始めた。
逃げるラーヴェルをリルフェリアが追いかけ、リリエルはその後ろで、のんびり空中散歩を満喫している。
アルフェリオ、ヴァンツァー常識人組は、その様をぼんやりと眺めていた。
明るい太陽。澄み渡った空。極北の地には珍しい青空。
ここは、極北だから。一年中雪に降りこめられて。青空が見られることはめったにない。
「ねぇ、ヴァッツ」
アルフェリオは、声をかけた。
「飛んでくれる? もっと高く!」
「構わないが……どこまでだ?」
「私がいいと言うまでさ!」
「……ったく。人使いが荒い……」
文句を言いながらも、それでも彼は飛んだ。高く高く、さらに高く。
◆
「…………ッ。流石に俺も苦しくなってきたぞ」
「うん、もういいよ。ありがとさん」
それからかなり飛んでから。アルフェリオは、ヴァンツァーを止めた。
かなりの高さに来た。空気もそれなりに薄い。ヴァンツァーは少し苦しそうだ。
「ヴァッツ、大丈夫?」
「はあ……はあ……。……自分で高く飛ぶようにけしかけといてそれを言うか……。俺は、大丈夫だ、このくらい。アル、見たいものがあったのか?」
「うん。見て」
アルフェリオは、地上を指した。
その高さからは、何もかもが豆粒のように見える。
しかし、アルフェリオが言いたかったのは、それではなくて。
「……この世界って、丸かったんだ」
しみじみとした顔で、言うのだ。
「……知らなかったのか?」
「知っていたけど、見たことがなかったのさ。僕は飛べない天使だから」
世界は丸い。丸いんだ。それだけを、目で見て知りたかった。
大人になったらきっと、みんな、別れてしまう。
でも、知りたかった。知って、安心したかったんだ。
——たとえみんな、別れても。僕たちきっと、つながってる——。
十年後の未来。自分たちが、いつまでも一緒にいられる保証なんて、ないけれど。
ずっと、歩き続ければ。時に山越え海越えれば。きっとまた、巡り合えると。この世界は丸いから。いつかまた、再会できると。
——信じたかったんだ——。
そう思ってしまうくらい、未来というものは曖昧で、あやふやで。すぐに消えてしまいそうで。
確認しなければ不安だったのだと、彼はヴァンツァーに打ち明けた。
ヴァンツァーは、笑った。普段笑わない彼は、大きな声で笑った。
「そんなことを気にしていたのか?」
言って、後ろを向いて、呼びかけた。
「大丈夫だ、いなくなったりはしない。十年後も、百年後も——俺たちは、一緒だ」
その言葉を聞くと、無性にうれしくて、頼もしくて。
「ありがとう」
満面の笑顔で、そう返した。
ところで、とヴァンツァーが言う。
「空気が薄い所に長時間いるのは……まずいんだが。気分悪くなってきた」
その顔色は、少し悪そうだった。
「あ、ごめん! 戻っていいから!」
「……行くぞ。リル達が待っている」
ヴァンツァーは背の翼をたたみ、一気に急降下した。
アルフェリオが悲鳴を上げた。
「うわぁぁああああああっ! ちょっと待って、ちょっとストップヴァッツ、ヴァンツァー! 悪かった、私が悪かったからいきなりそんな急降下は——!」
「自由落下してみようか?」
「許しておくれーっ! 何でもするからぁぁぁあああああああ——!」
悲鳴を上げるアルフェリオを背中に乗せて。黒い天使は笑いながら、落ちていった。
◆
「……何よあれ」
リルフェリアは、自分たちのはるか上空を見上げた。
——落ちてくる。
黒い天使が。背には悲鳴を上げる青い天使。
「やばくねぇか? 何かあったんじゃ——」
「いえいえ。ヴァンさん、笑ってますよー」
焦ったようなラーヴェルの言葉を、このメンバーの中で最も天使らしいリリエルが否定する。
「ヴァッツが——笑ってる?」
呆然として、リルフェリアは空を眺めた。
確かに。
いつも仏頂面だった彼の顔には、まぎれもない笑顔。
「……天地がひっくり返るんじゃないかしらー」
思わずそうつぶやいたのも、むべなるかなである。
やがて。
「やめて下さい許して下さい——って、おわぁっとと!」
ぐるんと軽く宙返りをして、勢いを殺してヴァンツァーは急停止した。
「ただいまだな」
「ったく! どこ行ってたの! あたしたち、心配したんだからぁ!」
「空だ。もっと高く、とアルが望んだものでな」
言って、言葉少なに、彼は空であったことを説明した。
それを聞いて、リルフェリアはため息をついた。
「……ったくねぇ」
彼女は腰に手を当てて、怒鳴った。
「こら、そこの青天使!」
「……まだ酔いがぁ……。……えっと、何かな?」
目を回した風なアルフェリオが、遠慮がちに尋ねた。
リルフェリアは、怒ったような顔で言った。
「あたしたちはずっと一緒って決まってんの! 何、シケたこと言ってんのよさ! そうよ、ずっと一緒なの! 十年後も、二十年後も……。だから、わざわざ絆を確かめたりはしないでッッッ!」
怒ったような顔で、怒鳴った。
——ずっと、一緒、かぁ。
アルフェリオは、微笑んだ。
十年後も、二十年後も。歳をとって、老人になっても。
——ずっと、一緒。
「ありがとう」
「当然じゃないの? あ、そうそう。次にそんなこと言ったら、あたし、今度こそ殴るから!」
「殴られたくはないねぇ」
笑って、そして、みんなに言った。
「じゃぁ、帰ろうか」
ヴァンツァーも疲れているみたいだし(他人事)、充分空を満喫したし。
「「「「「帰ろう」」」」」
みんなの声が重なった。
それぞれの翼が、はばたいた。
帰ろう、我が家へ。花の都、フロイラインへ。
◆
天空を舞う五つの翼は。
十年後も、二十年後も。
みんな一緒にいられると、信じて疑わなかった。
青い空。美しい風。丸い世界。
何もかもが、希望に満ちて、輝いて見えたのに。
——どうして、終わってしまったのだろう。
もう戻らない遠い日を想い。生き残った天使たちは、嘆くのみ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
最近の話は悲しくて困りますねハイ。
藍蓮です。またまた切ない終わり方になってしまった……。
とても仲の良かった天使たちだったのに。その幸せな日々は長く続くことはありませんでした。
穏やかで優しい雰囲気の中に、ツンと鋭く痛む切なさを感じていただければ幸いです。
最近本編がバッドエンドの嵐で荒れに荒れていますからねぇ。幸せな場面を書けてうれしいです。気持ちをリセットしよう。いい加減、バッドエンドから抜け出せ私。
……ということで。
ご精読、ありがとうございました!
閲覧数300、ありがとうございましたっ!