ダーク・ファンタジー小説
- 閲覧数350記念! カラミティ・ハーツ 短編 殺人剣のF ( No.6 )
- 日時: 2017/08/27 00:49
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
こんばんは、閲覧数が350来たことに幸せを感じる藍蓮です。
もはや恒例の短編集!
話は現在から、一気にさかのぼりますよー!
※ 5900文字……。あっぶない! もうすぐで文字数MAXいくところだった! 本編よりも長いです。読むときは沢山の余裕を持ちましょう。一話でまとめようとするからこうなった。これは果たして短編と言えるのか……。
※ 一部グロ描写あり
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Speciai Story 殺人剣のF
◆
あの頃の僕は、とても未熟で。
あの頃の僕は、とても愚かで。
何の希望も見つからなくて。
ただ絶望しか見えなくって。
走って走って失った。
駆けて駆けて喪った。
あの子と再開する時なんて、考えもせずに。
失った半貌は、僕を嘲笑う。
——なあ、お前。どうしてあんなに、自暴自棄だったんだ——?
◆
時はさかのぼる。
「——ウィンチェバル王国、滅亡だって——?」
僕は思わず、立ち上がった。
「お客さん、落ち着いて!」
宿の店主の声に、僕はあわてて座りなおした。
額に浮かんだ汗を拭う。
目の前に座る、「情報屋」を自称する男が、にやりと笑った。
「疑うならば来てみると良い。国があったところは焦土。人っ子一人、いやしねぇ」
「言われなくてもそうするところだ」
僕はそのまま席を立って、宿の店主にウィオン銅貨(ウィンチェバルの硬貨だ)を一枚、投げて寄越した。
「僕は行く。貴様の言ったことが真実かどうか、その目で確かめるために」
僕はそのまま歩きだした。
ここは、ウィンチェバルとバルチェスターの国境に当たるところにある町だ。特に名前はないが、「辺境の町」と呼ばれている。
僕の国ウィンチェバルは、隣国ローヴァンディアから侵略を受けて、今は防衛戦の最中のはずだ。僕はウィンチェバルの大召喚師であり幼馴染でもあるリュクシオンの手によって、今は隣国バルチェスターに逃されているんだ。
——そのウィンチェバルが、僕の故国が。滅んだ、だと?
一面中焦土になって、人っ子一人いなくって。
——信じられるか、そんなもん。
怒りと焦りに任せて。僕は歩を進めた。
そして、見たのは。
————何もかもが焦土と化して、変わり果てた祖国の姿だった————。
「嘘だろ……おい」
僕は、思わずその場にへたり込んだ。
「夢じゃ……ないのか……?」
勢いを込めて、自分の頬を引っぱたいてみる。痛い。確かに痛い。
——ならば、この景色は。
この悪夢は。
————すべて、現実のことなのか——?
「リュクシオン」
あの召喚師の名を呟く。
「リクシア」
妹みたいに可愛がった、あの召喚師の妹の名を呟く。
「オルーディン・ウィンチェバル」
ウィンチェバル王国最後の王となった、暗愚な王の名を呟く。
——みんなみんな、いなくなってしまった——。
絶望が、心を満たす。そこに魔性のモノが入り込んでくる。
そして、魔物になりかけた僕は、見た。
「ウォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
茶色の毛並み、青の瞳の、狂ったような叫び声をあげる、一体の魔物を。
僕にはそれが、一瞬で誰だかわかった。
その瞬間、僕の中の魔物は、いなくなった。
「…………リューク。お前、魔物になったのか」
乾いた声で、ハハと笑った。
それが、喪失の始まりだった。
◆
「誰か、商隊の護衛を……」
「引き受ける」
「罪人が暴れだして……」
「すぐ行く」
「狼退治を……」
「いつ行けばいい?」
山ほどの依頼を受けながらも。僕は愛用の片手剣を握りしめた。
——あれから、一週間。
心に重く沈みこむ現実を忘れんがため、僕は剣の腕には自信があったので、そっち関連の依頼をひたすらに受けて回っていた。
それは、戦いの毎日だった。剣を振るたびに血飛沫が飛び、時に悲鳴をあげて崩れ落ちていく人間や獣。戦うたびに疲労は溜まり、しかし依然、狂ったような戦意は衰えることを知らない。
——僕は、戦いに狂っていた。
飢えた人間がパンを欲しがるように。渇いた人間が水を欲しがるように。
僕はひたすら、飢えた人間みたいに、渇いた人間みたいに、戦いを欲し続けた。戦わなければ生きていけなかった。この、心に空いた大きな穴を。虚ろになった自分自身を、忘れるためには。飢えを満たすよう、渇きを潤すよう、闘い続けるしかなかった。そうでもしなければ、魔物になってしまいそうだった。
「疲れているんじゃないかい? 今日はやめた方が……」
「引き受けると言ったからには、最後まで完遂する」
心配してくれる人の善意すらも跳ねのけて。
砥石を取り出して剣を研ぎながらも、僕は壊れた人形みたいに、呟くのだった。
「大丈夫だ、戦える」
言葉で身体を誤魔化して。
「で、場所は」
「あんた、休まないで行くのかい」
「集合場所はと訊いているんだ」
僕のとことん事務的な口調に恐れを抱いたかのように、依頼人は場所を口にする。
「でも、大暴れしている罪人なんだよ?」
「大丈夫だ、戦える」
もう一度、呟いて。
疲労に叫ぶ身体を叱咤して、問題の場所へ急いだ。
◆
——血飛沫が、飛んだ。
「ぎゃぁああ!」
悲鳴をあげて、絶命する罪人。
殺す必要はなかった、と声が上がったが。
生憎と、僕の剣は殺人剣なんだ。本来ならば違うけれど、今はもう、殺さないでいる余裕がない。ゆえに、殺人剣。この一週間の間に、『殺人剣のフェロン』の名は、辺境の町中に広まった。
僕は剣をサッと振って、刃に着いた露を払う。
そして、がくりと膝をつきそうになる身体を叱咤して、無理にも次の場所へと向かう。
はたから見れば、死にたがりにしか見えないだろう。
だが、これでいいんだ。こうでもしなければ僕は、生きていられないんだ。
空気や水が、人間にとっては欠かすことのできないものであるように。今の僕にとっての戦闘とは、空気や水と、同じようなものだった。
——戦闘がなければ、生きていけない。
だからまた、戦闘をするために。
自分に言うんだ。
「大丈夫だ、戦える」
本日何度目かの台詞で。倒れそうになる身体を叱咤する。
次の戦闘が、待っているから。
◆
商隊の護衛は、特になんともなかった。
商人さんは、ニコニコしながらも僕に笑いかけた。
「あなたが『殺人剣』かい? まったくそうは見えないけれど」
「で? 何? 何の用?」
「いや〜、特に用はないんだけど。まあ、ありがとうね〜」
「用がないなら話しかけるな」
言って、僕は彼に背を向け、そのまま歩きだした。
「って、君! 報酬は?」
「報酬なんて、要らない」
僕は相手に背を向けたまま、言った。
「僕はただ、生きているだけなんだから」
さて、狼退治に向かおうか。
◆
夜まで待つ。しかし眠らない。神経が高ぶって、眠れないのだ。
疲労はもう限界に近いが、何もしないと心に闇が迫る。
仕方なく僕は、剣を抜いて。これまでの動きを繰り返す。
しかしそれも数分が限界で、僕は地面に大の字に倒れた。
息が乱れる。全身がだるい。
当然だ、三日間も眠っていないのだから。
しかし、今ここで眠ってしまうわけにもいかないから。
頭の中で、幸せだった日々のことを、考えた。
◆
——夜。
ウォオオオオオオオオオオン!
狼の遠吠えが聞こえる。
ここの狼は、しょっちゅう街道まで降りてきて、人間を襲うらしい。
僕は剣を握りしめた。
暗闇の中、光る瞳と僕の瞳が交差する。
刹那、僕は剣を抜いて、それに襲いかかった。
「——狩りの開始だ」
緊張感に研ぎ澄まされた五感は。瞬間、一気に冴えわたる。
「そこだッ!」
薙ぐように払われた一閃は。狼を一撃で葬り去った。
「……まずは、一匹」
剣を振って、露を払う。
そして、再び構えなおした先には。
三匹の狼。
だが、僕は、笑った。狂ったように、獰猛に。ただ笑った。
「——三対一とは、卑怯だなッ!?」
血で滑る剣を握りしめ、静かに構えて迎え撃つ。
大丈夫だ、戦える。
いまだに闘志は衰えないでいて。
狂ったような、戦いへの渇望は。今この時に、燃え上がる。
グァァォォオオオオオオオオン! 三体の狼が、同時に僕へ襲いかかった。
それでも冷静にすべての攻撃を見切り、その身体に、強烈なカウンターを叩き込んでいく。
瞬く間に、三匹の狼の死体が出来上がった。
「……次いで、三匹」
剣の露を払い、次を待つ。
◆
それから二時間。見かけた狼を、僕はすべて退治した。
疲労にゆがむ視界。狼はいなくなったことだし、帰るのも億劫だ。
このままこの森で休むのも、いいのかもしれない。
そんな誘惑に駆られて、僕は森の落ち葉の絨毯の上に、倒れ込んだ。
そのまま目を閉じて、息を整える。
緊張がゆるみ、身体の至る所が悲鳴を上げた。
「まず……い……。動けなく……なるぞ……」
いつもの警戒心でそう呟いたが、もう自分を襲うものはいなかったなと思い至って、安堵の息をつく。
狼はすべて倒した。だからもう、大丈夫だ。
— — — — そ う 、 思 っ て い た の に — — — — 。
——狼が。
白い、狼が。
突如、視界に現れて。
動けない僕に襲いかかって。
「ぐあッ!」
顔の左半分に、これまでにないほどの激痛が、襲いかかった。
痛みのあまり、転げ回る。左の視界は? そんなものない!
鋭い牙の感触が、僕の半貌に何があったのかを思い知らされる。
白い狼の顔の口の部分には。沢山の血と。
——僕の。
僕の僕の僕の僕の!
— — 噛 み 潰 さ れ て ど ろ ど ろ に な っ た 目 玉 が 、 付 着 し て い た 。
— — 食 わ れ た 。
顔 の 左 半 分 を 、 狼 に 食 わ れ た !
「うああ……うぐあッ! あ……ああああああああああああああッッッ!」
堪え切れない激痛に、僕は残った目玉から涙を流しながらも、ひたすらに地面を転がって、悶え苦しんだ。狂ったように叫び続けた。
痛い痛い痛い痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイタイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイイタイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そんな僕を、嘲笑うかのように。無表情の瞳で僕を見つめる、白き狼。
僕は叫んだ。ひたすらに絶叫した。気持ちの悪さに腹の中のものを戻し、その上を転げ回ってのたうち続けた。吐くものがなくなったら胃液が出てきた。ますます気持ち悪くなって、僕はさらに悶え苦しんだ。まるで地獄のようだった。
そして狼は、苦しみ続ける僕に、一歩近づいた。何だ? 終わらせてくれるのか?
しかし、狼はそんなに親切ではなくて。
嘲るように一声吼えると、そのままどこかへ消えていった。
涙も胃の中のものも出しきって、それでも引かない痛みに。
苦しみの中、死のうと決意して。手探りで剣を探した。
しかし、剣に手を触れても。それを持ち上げる気力すらなくて。
息を詰まらせて泣きながらも、小さく願った。
「誰か……僕を、殺して……」
誰でもいいから。この苦しみを終わらせて。
そう、願った、時。
「…………戦い続けるから、悪ィんだろうが」
声が、して。
僕の傷だらけの身体は。誰かにそっと、抱きかかえられた。
「助けに来たぜ、殺人剣。帰って来ねぇからどうしたもんかとみんな心配していたが……。まさか、殺してくれ、とはな。恐れ入るぜ」
その人は、町でよく、僕と一緒に仕事をする人だった。とても頼りになる人だった。
僕はその人の名を、潰れた喉で呟いた。
「ヤシュム……さん……」
「おうよ、殺人剣。言っておくが、殺してくれってのはナシだかんな。生きることすらまともにできねぇ人だっているんだ。『殺してくれ』なんて、何甘えたこと言ってんだよ馬鹿」
それにしてもひでぇ怪我だなオイ、と呟いて。彼は僕の顔の左半分に、何かの液体を垂らした。
「…………ッ」
それが大きすぎる傷口に染みて。僕は身体中を引き攣らせた。
我慢しな、と彼は言う。
「今は大きな手当てができねぇもんでよぉ。応急処置だ。傷口をな、特殊な植物の葉で消毒したんだ。これなら傷口が膿むことはねぇ。……念のため、持ってきて大正解だったぜ」
言って、彼は僕を背負い上げた。でも、僕の傷口が背中に付かないように、慎重に。
「とりあえず、町に帰るぞ」
夜の森を、ヤシュムさんに背負われて。
そして僕は帰還する。
◆
その日以降、僕は狂ったように戦いを求めることは、無くなった。
あの、大怪我をして半貌を失った日。自分の愚かさを知ったから。
時間をかけて、傷を治して。あの大怪我から三週間は過ぎた頃。
まだ治りきらぬ傷を抱えた僕のもと、一つの知らせが舞い込んだ。
いわく、リクシア・エルフェゴールらしき少女が、アロームにいると。
——彼女は、生きていたのか。
まるで妹みたいだった、あの少女は。
僕はベッドから起き上がり、そっと失われた半貌に触れた。
まだ痛みはするが、傷はあらかた塞がったようだ。
あの日。僕のために村の人々がお金を出して、高名な治療魔法使いが、この国バルチェスターの王都から、呼ばれたんだ。
その人のおかげで、傷の治りは早かった。
「大丈夫だ、戦える」
呟いて。ベッドから降り、壁に立てかけてあった剣を手に取った。
今の僕はもう、殺人剣じゃない。もう、闘いに飢えてはいないから。
ベッドの脇に畳んで置いてあった着替えを手に取り、着替え終わって剣を身に着ける。
「行くのか? 傷痕」
それを見て、ヤシュムさんが声をかけた。
うん、と僕はうなずいた。
「会いに行ってあげなくちゃならない。大丈夫だ、無理はしないさ」
正直、ここの人たちには世話になったし、別れがたかったけれども。
僕には僕の、道があるから。
「ありがとう」
笑いかければ。
「達者でな」
声が追いかける。
その声を背に受けながらも、僕は世話になった村を出た。
僕が彼女に出会うのは、そのすぐ後のこと——。
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フェロン編です。リクシアと再開する前の話を書きたかったのですが、どうしてこうなった。すみません長すぎますね。完成するのに3時間はかかりましたわ。
リクシアと再開する前の、『殺人剣』だったフェロン。そのすさんだ心境が、うまく伝われば幸いです。
最近出番が少なかったし! これで一気に輝けたねフェロン!
……流石に文字数がやばくなってきたので、あとがきはこれくらいで。
ではでは。
……ご精読、ありがとうございました!(心から)
閲覧数350、ありがとうございました!