ダーク・ファンタジー小説

カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 2 僕の日常 ( No.2 )
日時: 2017/08/11 10:51
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

※いじめ要素あり

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「…………」
「偉いねぇ、エルは。こっちは大助かりだなぁ」
 石の敷かれた道を、歩く。
 二コールは上機嫌で、どっさりと買い物をしていた。
「あれもいいし、あれもほしいし……。それっ。はい、よろしくー」
 荷物がドンと積み上げられる。
 それを持つのはいつも僕。逆らったら、何されるかわかったもんじゃない。従うしかないんだ。……僕は立場が弱いから。
 精一杯伸ばした両の腕に。かかる重さは果てしない。
 当然だ。二コールはあえて、重いものばかり買っているんだ。
「これよろしくー」
 腕にかかった新たな重さ。乗せられたのは、金の杯。
「これ、壊れやすいからな。落とすなよ、絶対に落とすなよ?」
「…………」
「返事はどうした!」
 殴られた。
 あ、まずい。
 殴られたひょうしに、バランスを大きく崩して。。
 金の杯が、腕からすっぽ抜けた。
 地に落ちて。
 大きく、
 ゆがんだ。

「——貴様ァッ!」

 激怒した二コールは、剣で鞘ごと、僕に殴りかかった。
 何も持っていなければよけられたのに。今、僕の腕の中は、二コールの荷物でいっぱいだ。
 渾身の殴打が僕を襲う。
 よけられない衝撃が、全身を震わせた。
「ぐあぅッ!」
 容赦ない一撃。
 もう一発。
「あぐぅッ!」
 全身に走る痛み。
 さらに一発。さらに一発。さらに一発。
 果てしない殴打。
 骨は折れたか。ひびだって入ったかもしれない。
 僕は何もしていないのに。いつもこんな目にあわされる。
 ——これが、僕の日常なんだ。
 これを師匠が見たら、きっと二コールを殺してしまう。
 僕は師匠を犯罪者には、したくないんだ。
 大切な人だから。
「う……あ……」
 引き裂く痛みに朦朧とする意識。
 僕は痛みと、必死で闘った。

「へい、お疲れさん」
 やがて、終わった殴打。僕は涙目で兄を見た。
「泣かないんだな。可愛くないやつ」
 言って、町を後にする。
「俺の荷物、拾っておけよ」
 無情な言葉を残して。
 町の人は、そんな僕らを。ただ遠巻きに眺めるだけだ。
 当然だ。こんな、王族同士の醜い争いになんて、誰が進んで関わろうとするものか。
 僕は激痛をこらえ、身体の被害状況を確認する。
(あばらが三本、それと右腕……? まずい、下手に動くと悪化する……)
 特にあばらはかなりまずい。慎重に動かなければ、肺が傷ついてしまう。
(で、右腕、か。こんな状況で、どうやって運べって言うんだ)
 唯一使える左腕には。闇が這いあがりつつあった。
(万事休す、だな)
 足は何ともないみたいだが……。手ぶらで帰ったら殺されるかもしれない。
 だから剣を習ったんだ。強くなるために。
(でも、この怪我じゃあ)
 身を守れる、訳がない。
 これが僕の日常なんだ。日常茶飯事なのさ。
(往復を繰り返すか)
 闇の這いあがる左腕は激痛がする。が、怪我があるわけではないので、これを使えば。
 左腕を使い、なんとか立ち上がって。
 散らばった荷物を回収する。
 どれもこれも重いから。一つずつ、拾って。
 遠い王宮へ歩いていく。傷の手当もそのままに。
 日が暮れても。夜になっても。僕はずっと往復を続けた。
 やがて、全てを運び終わった頃。
 門はとっくに閉じていて、僕は城に帰れなかった。
「……今日は、黒星」
 小さくつぶやいた。
 動かない左腕だけで、なんとか即席の手当てをする。
「……夜は、冷えるんだよね」
 でも、帰れないのだから仕方がないか。
 僕はあきらめ、町に戻って。
 そこらに生えている街路樹にもたれて、傷に障らないようにして、眠ったんだ。
 明日は訓練場にいけないなぁ。師匠にどう言い訳しようか。
 そんなことを考えながら。

 これが、僕の日常だった。

 だから僕は、人が嫌いだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆