ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 2 僕の日常 ( No.2 )
- 日時: 2017/08/11 10:51
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
※いじめ要素あり
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「…………」
「偉いねぇ、エルは。こっちは大助かりだなぁ」
石の敷かれた道を、歩く。
二コールは上機嫌で、どっさりと買い物をしていた。
「あれもいいし、あれもほしいし……。それっ。はい、よろしくー」
荷物がドンと積み上げられる。
それを持つのはいつも僕。逆らったら、何されるかわかったもんじゃない。従うしかないんだ。……僕は立場が弱いから。
精一杯伸ばした両の腕に。かかる重さは果てしない。
当然だ。二コールはあえて、重いものばかり買っているんだ。
「これよろしくー」
腕にかかった新たな重さ。乗せられたのは、金の杯。
「これ、壊れやすいからな。落とすなよ、絶対に落とすなよ?」
「…………」
「返事はどうした!」
殴られた。
あ、まずい。
殴られたひょうしに、バランスを大きく崩して。。
金の杯が、腕からすっぽ抜けた。
地に落ちて。
大きく、
ゆがんだ。
「——貴様ァッ!」
激怒した二コールは、剣で鞘ごと、僕に殴りかかった。
何も持っていなければよけられたのに。今、僕の腕の中は、二コールの荷物でいっぱいだ。
渾身の殴打が僕を襲う。
よけられない衝撃が、全身を震わせた。
「ぐあぅッ!」
容赦ない一撃。
もう一発。
「あぐぅッ!」
全身に走る痛み。
さらに一発。さらに一発。さらに一発。
果てしない殴打。
骨は折れたか。ひびだって入ったかもしれない。
僕は何もしていないのに。いつもこんな目にあわされる。
——これが、僕の日常なんだ。
これを師匠が見たら、きっと二コールを殺してしまう。
僕は師匠を犯罪者には、したくないんだ。
大切な人だから。
「う……あ……」
引き裂く痛みに朦朧とする意識。
僕は痛みと、必死で闘った。
「へい、お疲れさん」
やがて、終わった殴打。僕は涙目で兄を見た。
「泣かないんだな。可愛くないやつ」
言って、町を後にする。
「俺の荷物、拾っておけよ」
無情な言葉を残して。
町の人は、そんな僕らを。ただ遠巻きに眺めるだけだ。
当然だ。こんな、王族同士の醜い争いになんて、誰が進んで関わろうとするものか。
僕は激痛をこらえ、身体の被害状況を確認する。
(あばらが三本、それと右腕……? まずい、下手に動くと悪化する……)
特にあばらはかなりまずい。慎重に動かなければ、肺が傷ついてしまう。
(で、右腕、か。こんな状況で、どうやって運べって言うんだ)
唯一使える左腕には。闇が這いあがりつつあった。
(万事休す、だな)
足は何ともないみたいだが……。手ぶらで帰ったら殺されるかもしれない。
だから剣を習ったんだ。強くなるために。
(でも、この怪我じゃあ)
身を守れる、訳がない。
これが僕の日常なんだ。日常茶飯事なのさ。
(往復を繰り返すか)
闇の這いあがる左腕は激痛がする。が、怪我があるわけではないので、これを使えば。
左腕を使い、なんとか立ち上がって。
散らばった荷物を回収する。
どれもこれも重いから。一つずつ、拾って。
遠い王宮へ歩いていく。傷の手当もそのままに。
日が暮れても。夜になっても。僕はずっと往復を続けた。
やがて、全てを運び終わった頃。
門はとっくに閉じていて、僕は城に帰れなかった。
「……今日は、黒星」
小さくつぶやいた。
動かない左腕だけで、なんとか即席の手当てをする。
「……夜は、冷えるんだよね」
でも、帰れないのだから仕方がないか。
僕はあきらめ、町に戻って。
そこらに生えている街路樹にもたれて、傷に障らないようにして、眠ったんだ。
明日は訓練場にいけないなぁ。師匠にどう言い訳しようか。
そんなことを考えながら。
これが、僕の日常だった。
だから僕は、人が嫌いだ。
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