ダーク・ファンタジー小説
- カラミティ・ハーツ 常闇の忌み子 5 僕のともだち ( No.5 )
- 日時: 2017/08/11 22:55
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
「僕の話はいいからいい加減本編書きなよ」
「『常闇の忌み子』の章書いたら疲れきってしまった」
「主人公が活躍してないよね? あと、無駄に僕を苦しめるのやめてくれる?」
「世の中に犠牲は必要なのさ」
「……いい加減にしようか、藍蓮さん」
「茶番済みませんでしたー! (前書きを書けない仕様だからここで弁解した)
ちなみに、この話の内容は「短編集」とほとんど同じらしいよ」
さてと。
閑話休題。僕の話に移ろうか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あれから、しばらく。僕は母上の離宮で療養していた。久々の親子の時間は穏やかで、幸せな時間を過ごせたと思う。
で、僕は。その日、久々に離宮から出た。怪我も治ったし、身体もなまっていることだし。師匠にまた会って、稽古をつけてもらうんだ。
そこで。大嫌いな兄上と、大嫌いな姉上と。すれ違った。
「だからアンタは邪魔なのよッ!」
「ゴミめ、しっしっ、あっち行け!」
朝から敵意丸出しで。暴言を吐いてきた兄上と姉上。
まあ、もう慣れっこなんだけど。
「アンタなんて、死んじゃえばいいのッ!」
それを言ったのは実の姉。
殴ってきたのは実の兄。
いつもみたいに殴られて。吹っ飛ばされて、地面に転がった。
「なんだよ? 睨んでんじゃねぇよ!」
今度はブーツの爪先で蹴られて。
剣を覚えたって、いじめは終わらない。
ここで剣を使ったら、犯罪者になってしまうんだ。
だから。
いくら、今がつらくても。唇を噛んで耐えるしかない。
僕は剣を覚えたけれど。喧嘩の仕方は知らないんだ。
「……剣の師匠のところに行くんだ。邪魔しないでくれるか」
努めて冷静な口調で言って、衣服の埃を払い、立ち上がった。
その背を。
剣の鞘で、殴ってきた兄ニコール。
「剣の師匠? 真面目なもんだねぇ。ならこの一撃を、受けてみろッ!」
まずい。
そんなものを叩き込まれたら。
場所によっては、死ぬぞ。
中に入っているのは、剣。
鉄の武器なんだから。
倒れ込んだ僕の脳天に、重い革の鞘が、
打ち込まれなかった。
「——あなたたちは、弱い者いじめがお好きのようね」
「…………!」
不意に現れた漆黒の少女が、その手を前に差し出していた。
手から現れた漆黒の鎖が。剣の鞘を縛り付けていた。
この人が、助けてくれたみたいだ。
「誰だ貴様はッ!」
ニコールが吼える。
「知らないの? あらまぁ、あなたたるお人が! 従妹の名前一つ、覚えられないなんて。これは失礼いたしましたわ」
芝居がかった仕草で例をして、名乗る。
「私の名前は、グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド」
その名乗りを聞いた時。僕は師匠の言葉を思い出した。
『グラエキア・アリアンロッド。お前の従姉だよ、エルヴァイン』
彼女の名乗った名前は。
グラエキア・アリアンロッド。グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド! 確かに長い名前だが。僕の記憶力ならこのくらい余裕だ。
彼女はふわりとほほ笑んだ。
「さて、質問。私の名前は?」
ニコールは憤慨して、叫んだ。
「ふざけるなよッ! そんな長い名前、覚えられるわけが——!」
「じゃ、あなた、名乗ってみなさいな」
「いいだろう! 聞いて驚け! 俺の名は——!」
ニコールは朗々と名乗りを上げる。ニコールも……無駄に長かった記憶がある。
「ニコール・マクスウェル・グリージィアルト・ヴェヌス・フォン・クライシス・ローリヌス・ヴァン・ダグラス・ウィンチェバル! もう一回言ってみろ!」
「簡単よ。ニコール・マクスウェル・グリージィアルト・ヴェヌス・フォン・クライシス・ローリヌス・ヴァン・ダグラス・ウィンチェバル」
グラエキア・アリアンロッドは。こともなげに言って返した。大した記憶力だ。
「なッ——貴様ッ!」
「だから、もう一度問うわ」
悪魔の笑みを、浮かべて。彼女は言った。
「グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド。さて、私の名前は? 言えないわけがないわよね? 私があなたの名前を、しっかり言えたのだから」
「く、くそッ!」
ニコールは、唇を噛み、叫んだ。
そう言えば、ニコールのこんな顔、見たことがない。
「グラーキア・アルディヘイム・フォン・ヴァイナ・アリアンロッド! これでどうだッ!」
……ミスを連発し始めた。
「……訂正していい?」
グラエキア・アリアンロッドは、見てられないわと首を振る。
「まず、グラーキアじゃなくってグラエキアだから。で、ドはどうしたの? クラインレーヴェルもないし、ヴァイナじゃなくってヴァジュナだし、位置もフォンのあとじゃないし……。めちゃくちゃね。それでよく、自分の名前を覚えられたものよね」
冷静な口調で、侮辱した。
「貴様ァッ!」
二コールは彼女に殴りかかろうとしたが、彼女が漆黒の鎖を呼び出すと、その身体は拘束された。
それは、僕の「闇」とは違うものだけれど。似たものの匂いが、した。
「外せッ!」
叫ぶ二コールに。
「私の名前は?」
悪魔みたいに笑って、問いかけた。
「グランキア・ラーディヘルム——」
案の定、間違えれば。
「情けないわね」
彼女はふうと溜め息をついた。
「こんな人が、王族だなんて」
言って、倒れたままの僕に、手を差し出した。
そして、問う。
「私の名前は?」
あんなに聞けば。覚えるのなんて楽勝だ。
「グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド」
答えたら。
「上出来」
彼女は優しくほほ笑んだ。
「あんな馬鹿より、あなたの方が、よっぽどいいわ。あなたの名前は?」
「……エルヴァイン・ウィンチェバル」
長ったらしい名は、持っていない。
そう答えると。
「短い方が、覚えやすいものね。私だって、あんなに長い名でいつも呼ばれていたら、たまったものじゃないから、さ」
「……グラエキア・ド・アルディヘイム・クラインレーヴェル・ヴァジュナ・フォン・アリアンロッド……」
手を握って、立ち上がった僕に。
「グラエキアでいいわ。だから、私も。……エルヴァインって、呼ばせてくれる?」
彼女は、言うのだ。
「あなた、そんなに賢いんだからさ。あんな馬鹿にいじめられるなんておかしい。いじめられないように、考えたらどう?」
僕は、うなずいた。
小さく、礼を言う。
「……ありがとう、グラエキア」
「私の名前を間違えずに言えた人は、助けることにしているのよ」
それが、彼女との出会いだった。
未来、僕のかけがえのない友達となる人との——。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とまあ、こんなふうに終わるけど。
「短編集」(オリジナル)とほとんど内容変わらないけど。
この話は、書かなきゃいけないと、思ったから。
読んでくれて、ありがとう。