ダーク・ファンタジー小説

夜明けの演者—Performer of Dawn— ( No.33 )
日時: 2017/09/12 22:25
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 最後の話です。
 これにて「夜明けの演者」本編は完結となります。
 しかし、まだ物語は続きます。
 だってあるじゃないですか! 後日譚とか!
 だから、本編が終わっても、この物語は終わらないのですよ……。

 ではでは!
 最後のエピソードへ! エンディングへ!
 ご案内!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


〈エピローグ どんな夜にも……〉


  ♪


 リクセスが死んだ翌日。
 アルドフェック王ニコラスが討ち取られたとの報が届き、戦争は終結した。
 草木芽吹く季節のことだった。

「終わった……ね……」

 フルージアがつぶやけば。

「終わった、ね」

 スーヴァルが返す。
 今はもう、彼しかいない。他のみんなは死んでいったし、ハインリヒだって、目覚めるかはわからない。

「リクセス……あと一日、生きていれば……夜明けを見られたのに……」

 空は紫から藍色を経て、次第に青に変わっていく。——夜明けだ。戦いの、戦乱の、新しい日々の、夜明けだ。——夜明けが、来た。

「……もう、特殊部隊はないんだね」
「もう、不可視の軍団はないんだよ」
「……寂しいね、スーヴァル」
「……悲しいね、フルージア」

 あの戦争で、たくさんの人が死んだ。死んでいった。
 そして残ったのは、たったの二人。

「会いたいよ……みんな……」

 フルージアは、泣いた。大きな声で。まるで幼い子供のように。失った、喪ったものを思って。もう手の届かない、あの懐かしい日々を思って。たくさんの思い出があった。たくさんの幸せがあった。あの場所に、あの部隊に。こんな日々が永遠に続けばいいなと、夢みたいな景色の中で思った。
 永遠なんて、存在しない。失ってみて、初めてわかった。
 大好きなものも大切なものも。どんなに守ろうとしたって、いつかは必ず、消えていく。

 泣いていたその身体を、誰かがそっと抱きしめた。こんな時に慰めてくれるのは、いつだってクィリだった。

「クィリ、わたし、大丈夫だから」

 思わずつぶやいてはっとする。


 ——もう、クィリはいないんだ。


 あの死に様、しかと見た。
 なら、わたしを抱きしめている、この人は——。



「……僕じゃクィリの代わりになれないかもしれないけれど」



「スー……ヴァ……ル……」
「大丈夫。今は、泣いて、いい」

 優しいその言葉と、確かな腕の感触に。フルージアは、彼の身体にしがみついて、わんわん泣いた。胸が張り裂けそうだった。悲しみに押し潰されそうだった。喪失感に、呑み込まれそうだった。

 ——でも、スーヴァルがいるから。

 彼という存在が、彼女をつなぐ確かな鎖。生き延びてくれた大切な仲間。ただそれだけで、嬉しかった。

「存分に、泣いて。僕は、泣けない。こんなにも悲しいのに、辛いのに。泣けないんだ、涙が流れないんだよ。だから……僕の分も、泣いて」

 そうして抱き合う二人を、やがて朝日が照らし出す。

「……もう、いいわ。ありがとう」

 フルージアは、ちょっと恥ずかしそうに、笑った。

「夜明けが来た。わたしは劇団に帰るわ。あなたは?」
「里の仲間と連絡が取れた。僕も帰るよ——ミスルの、新しい里へ」

 全てが終わったら別れなければならない。だって特殊部隊は、もうないから。

「よかったら、カウィダに来てよ。わたし、そこでまた、劇をやるわ。そして、演じるの! インヴィシブル・アーミー……セラン特殊部隊の、物語を」
「楽しみに待ってる。僕は都合上、里においでとは言えないけど……」
「ううん、気にしない。あなたにはあなたの生活があるから」
「ありがとう」
「当然でしょ?」

 別れがたかったけれど、夜明けが来たんだ。別れなければならない。

「じゃあね、スーヴァル。わたし……幸せだったよ。みんなと、出会えて。思えばたった半年しかなかった日々だったけれど、わたし、本当に幸せだった! だから、忘れないわ。時が過ぎて、お婆ちゃんになったって。あの日々はおそらく、私の人生の中でも、いっちばん輝かしいい日々になると思うの! 出逢えて——よかったっ……!」

 その言葉に、スーヴァルの碧い瞳が優しく答えた。

「僕たちの生きた日々は、決して無駄なんかじゃない。戦争の中に消えた無数の命のこと。劇でしっかり伝えておくれね」
「もっちろんよ! 将や王ばかりがすべてじゃない。その陰で生きてきた命にだって意味があったんだってこと、伝えてやるんだからっ!」


「その意気だよ、フルージア。泣いてる君は、君じゃない」


「…………!」

 じゃあ、と、彼は歩き出す。



「またね、フルージア。僕の大切な……ともだち……」



 別れは、必ずあるから。

 フルージアは、笑顔で彼を見送った。
 また会える日を信じて。


  ♪


「たっだいまー!」

 ふきのとうが顔を出し始める、初春。
 フルージアは、帰ってきた。

「おお、フルージア!」
「今まで一体どこ行ってたんだい? みんな心配したんだよ」
「ルーシュはルーシュでわけわからないこと言うし……説明してもらうよ」

 帰ってきた途端、熱烈な歓迎を受けた。フルージアは嬉しそうに微笑んだ。

「色々あったの。そこでわたしも変わったわ。でも……こうしてみんなにまた会えて、嬉しい」

 また会いたいと思ったって、現実がそれを許さなかった。みんなみんな死んでいった。だから、幸せに思う。誰一人欠けず生き残ってくれた劇団の仲間たちを見て。変わらぬ日常を見て。
 知らず、一筋、頬を涙が流れた。

「……フルージア?」
「……嬉しい……」

 あふれる思いに胸がいっぱいになって、フルージアはそれしか言えなかった。
 ウォルシュが、優しく笑った。

「……色々、あったんだね……」
「…………うん」
「たくさん、辛い思いをしたんだね……?」
「…………うん」
「でも、その毎日は、幸せだったんだね……?」
「————うん!」

 幸せだった。幸せだったからこそ。こんなにも涙が流れるのだ。
 ウォルシュはそれを見ると、皆に言った。

「みんな、今日は解散だよ。あと、彼女に構わないで。彼女はいっぱい傷付いてる。だから、しばらく一人にしてやって」

 何人かは不満そうな顔をしたけど、泣いているフルージアを見て、渋々引き下がっていった。
 それを見届け、ウォルシュは、言う。

「君の友達……ハイン? は、まだ目覚めてない。けれど、生きているよ」
「……ハインリヒ」

 ぽつりと、その名を呟いた。あんなに怪我して。あんなに傷付いて。それでもなお、「自分の見つけた大切なもの」のために戦おうとした、勇者。英雄。
 目覚めなくとも、生きている。

「わたし、会いたいです。どこにいますか? 目覚めてなくたっていい。何ならわたしが目覚めさせる。そして、言うんだ。もう戦争は終わったよ、いつまで眠っているのって。わたし、またあなたと話したいよって!」
「その人は君の、大切な人なのかい?」
「そうよ、大切な友達よ! あとね、ウォルシュ……」
「何だい?」

 問われ、フルージアは考えを話す。

「わたし……劇を……やりたいの……」

 巡り巡って、夜明けの演者は帰りつく。
 己の原点に。天職と思った、劇に。

「わたしたちの過ごした日々を……形にしたいの……!」

 しかし、彼女はもう、彼女ではない。
 半年の日々を得て、彼女は変わり、強くなった。















「その劇の名前は——!」















  ♪


 不可視の軍団インヴィシブル・アーミー。その昔、そう呼ばれた一団があった。


 彼らのほとんどは、「火花大戦」にて命を散らしてしまったけれど。


 語り継がれる、物語がある。


 少女は、声をからして叫ぶのだった。


 どんな夜にも。どんな闇にも。





 ——夜明けは来る。      





   END


 Thank You for Reading!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 え〜、完結です。完結したのです。
 それは嬉しいのですが、折角ですし、余韻を崩したくないので。
 あとがきは次のレスに書きます。
 それまでコメントしないでほしいのです。
 よろしくお願いしますですハイ。

 執筆期間
 2017/8/17-2017/9/12

 Stories of Andalsia 夜明けの演者、本編完結!