ダーク・ファンタジー小説
- 夜明けの演者—Performer of Dawn— ( No.33 )
- 日時: 2017/09/12 22:25
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
最後の話です。
これにて「夜明けの演者」本編は完結となります。
しかし、まだ物語は続きます。
だってあるじゃないですか! 後日譚とか!
だから、本編が終わっても、この物語は終わらないのですよ……。
ではでは!
最後のエピソードへ! エンディングへ!
ご案内!
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〈エピローグ どんな夜にも……〉
♪
リクセスが死んだ翌日。
アルドフェック王ニコラスが討ち取られたとの報が届き、戦争は終結した。
草木芽吹く季節のことだった。
「終わった……ね……」
フルージアがつぶやけば。
「終わった、ね」
スーヴァルが返す。
今はもう、彼しかいない。他のみんなは死んでいったし、ハインリヒだって、目覚めるかはわからない。
「リクセス……あと一日、生きていれば……夜明けを見られたのに……」
空は紫から藍色を経て、次第に青に変わっていく。——夜明けだ。戦いの、戦乱の、新しい日々の、夜明けだ。——夜明けが、来た。
「……もう、特殊部隊はないんだね」
「もう、不可視の軍団はないんだよ」
「……寂しいね、スーヴァル」
「……悲しいね、フルージア」
あの戦争で、たくさんの人が死んだ。死んでいった。
そして残ったのは、たったの二人。
「会いたいよ……みんな……」
フルージアは、泣いた。大きな声で。まるで幼い子供のように。失った、喪ったものを思って。もう手の届かない、あの懐かしい日々を思って。たくさんの思い出があった。たくさんの幸せがあった。あの場所に、あの部隊に。こんな日々が永遠に続けばいいなと、夢みたいな景色の中で思った。
永遠なんて、存在しない。失ってみて、初めてわかった。
大好きなものも大切なものも。どんなに守ろうとしたって、いつかは必ず、消えていく。
泣いていたその身体を、誰かがそっと抱きしめた。こんな時に慰めてくれるのは、いつだってクィリだった。
「クィリ、わたし、大丈夫だから」
思わずつぶやいてはっとする。
——もう、クィリはいないんだ。
あの死に様、しかと見た。
なら、わたしを抱きしめている、この人は——。
「……僕じゃクィリの代わりになれないかもしれないけれど」
「スー……ヴァ……ル……」
「大丈夫。今は、泣いて、いい」
優しいその言葉と、確かな腕の感触に。フルージアは、彼の身体にしがみついて、わんわん泣いた。胸が張り裂けそうだった。悲しみに押し潰されそうだった。喪失感に、呑み込まれそうだった。
——でも、スーヴァルがいるから。
彼という存在が、彼女をつなぐ確かな鎖。生き延びてくれた大切な仲間。ただそれだけで、嬉しかった。
「存分に、泣いて。僕は、泣けない。こんなにも悲しいのに、辛いのに。泣けないんだ、涙が流れないんだよ。だから……僕の分も、泣いて」
そうして抱き合う二人を、やがて朝日が照らし出す。
「……もう、いいわ。ありがとう」
フルージアは、ちょっと恥ずかしそうに、笑った。
「夜明けが来た。わたしは劇団に帰るわ。あなたは?」
「里の仲間と連絡が取れた。僕も帰るよ——ミスルの、新しい里へ」
全てが終わったら別れなければならない。だって特殊部隊は、もうないから。
「よかったら、カウィダに来てよ。わたし、そこでまた、劇をやるわ。そして、演じるの! インヴィシブル・アーミー……セラン特殊部隊の、物語を」
「楽しみに待ってる。僕は都合上、里においでとは言えないけど……」
「ううん、気にしない。あなたにはあなたの生活があるから」
「ありがとう」
「当然でしょ?」
別れがたかったけれど、夜明けが来たんだ。別れなければならない。
「じゃあね、スーヴァル。わたし……幸せだったよ。みんなと、出会えて。思えばたった半年しかなかった日々だったけれど、わたし、本当に幸せだった! だから、忘れないわ。時が過ぎて、お婆ちゃんになったって。あの日々はおそらく、私の人生の中でも、いっちばん輝かしいい日々になると思うの! 出逢えて——よかったっ……!」
その言葉に、スーヴァルの碧い瞳が優しく答えた。
「僕たちの生きた日々は、決して無駄なんかじゃない。戦争の中に消えた無数の命のこと。劇でしっかり伝えておくれね」
「もっちろんよ! 将や王ばかりがすべてじゃない。その陰で生きてきた命にだって意味があったんだってこと、伝えてやるんだからっ!」
「その意気だよ、フルージア。泣いてる君は、君じゃない」
「…………!」
じゃあ、と、彼は歩き出す。
「またね、フルージア。僕の大切な……ともだち……」
別れは、必ずあるから。
フルージアは、笑顔で彼を見送った。
また会える日を信じて。
♪
「たっだいまー!」
ふきのとうが顔を出し始める、初春。
フルージアは、帰ってきた。
「おお、フルージア!」
「今まで一体どこ行ってたんだい? みんな心配したんだよ」
「ルーシュはルーシュでわけわからないこと言うし……説明してもらうよ」
帰ってきた途端、熱烈な歓迎を受けた。フルージアは嬉しそうに微笑んだ。
「色々あったの。そこでわたしも変わったわ。でも……こうしてみんなにまた会えて、嬉しい」
また会いたいと思ったって、現実がそれを許さなかった。みんなみんな死んでいった。だから、幸せに思う。誰一人欠けず生き残ってくれた劇団の仲間たちを見て。変わらぬ日常を見て。
知らず、一筋、頬を涙が流れた。
「……フルージア?」
「……嬉しい……」
あふれる思いに胸がいっぱいになって、フルージアはそれしか言えなかった。
ウォルシュが、優しく笑った。
「……色々、あったんだね……」
「…………うん」
「たくさん、辛い思いをしたんだね……?」
「…………うん」
「でも、その毎日は、幸せだったんだね……?」
「————うん!」
幸せだった。幸せだったからこそ。こんなにも涙が流れるのだ。
ウォルシュはそれを見ると、皆に言った。
「みんな、今日は解散だよ。あと、彼女に構わないで。彼女はいっぱい傷付いてる。だから、しばらく一人にしてやって」
何人かは不満そうな顔をしたけど、泣いているフルージアを見て、渋々引き下がっていった。
それを見届け、ウォルシュは、言う。
「君の友達……ハイン? は、まだ目覚めてない。けれど、生きているよ」
「……ハインリヒ」
ぽつりと、その名を呟いた。あんなに怪我して。あんなに傷付いて。それでもなお、「自分の見つけた大切なもの」のために戦おうとした、勇者。英雄。
目覚めなくとも、生きている。
「わたし、会いたいです。どこにいますか? 目覚めてなくたっていい。何ならわたしが目覚めさせる。そして、言うんだ。もう戦争は終わったよ、いつまで眠っているのって。わたし、またあなたと話したいよって!」
「その人は君の、大切な人なのかい?」
「そうよ、大切な友達よ! あとね、ウォルシュ……」
「何だい?」
問われ、フルージアは考えを話す。
「わたし……劇を……やりたいの……」
巡り巡って、夜明けの演者は帰りつく。
己の原点に。天職と思った、劇に。
「わたしたちの過ごした日々を……形にしたいの……!」
しかし、彼女はもう、彼女ではない。
半年の日々を得て、彼女は変わり、強くなった。
「その劇の名前は——!」
♪
不可視の軍団。その昔、そう呼ばれた一団があった。
彼らのほとんどは、「火花大戦」にて命を散らしてしまったけれど。
語り継がれる、物語がある。
少女は、声をからして叫ぶのだった。
どんな夜にも。どんな闇にも。
——夜明けは来る。
END
Thank You for Reading!
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え〜、完結です。完結したのです。
それは嬉しいのですが、折角ですし、余韻を崩したくないので。
あとがきは次のレスに書きます。
それまでコメントしないでほしいのです。
よろしくお願いしますですハイ。
執筆期間
2017/8/17-2017/9/12
Stories of Andalsia 夜明けの演者、本編完結!