ダーク・ファンタジー小説
- 夜明けの演者 後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば ( No.36 )
- 日時: 2017/09/17 16:55
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
後日譚です。
主人公たちが大人になった後の話です。
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《後日譚 水晶の欠片を透かしてみれば》
♪
——あれから、二十年。
眠ったままのハインリヒも目覚め、フルージアはいつしか大人になった。
平凡な男と結婚し、子供だってできた。
だけど——。
「フルージア!」
「スーヴァル! ハインリヒ! 久しぶり!」
もう、かつてのような日々はない。皆、すべて平和になった、けど。
「そう言えば、今日は終戦の日だな。忘れてはいないだろう?」
あの怪我の後遺症で、右半身の自由と、彼を象徴していた「空間使い」の力を失ったハインリヒが、優しく微笑みかける。その彼も大人になり、今はリクセスの知恵の輪を受け継いで、「組師」として独り立ちした。
「その前日に、リクセスが死んだんだよね……」
痛みをこらえるかのように目を閉じるスーヴァル。そんな彼からは、かつてのような無愛想さがなくなり、代わりに、どこか諦観のような、達観したものが現れるようになっていた。
「あれから、何年? もう二十年は経ったかしら。でも、不思議と忘れられないのよね……」
少女から大人になった今でも、鮮やかに思い出せる、あの遠い日々の物語。
クィリがいた。アミーラがいた。マキナがいた。アイオンが、ヴィラヌスが、時雨が、リクセスがいた。フルージアがいた時期は短いけれど、それでもそこには確かに、「居場所」があった。——幸せがあった。
それはもう二十年も昔の物語だけど、決して、久遠まで忘れられない、鋭く痛む刹那の記憶。
もし、この場に彼らがいたのなら——変わった自分たちを見て、何と言うだろうか? この平和を見て、どんな表情をするだろうか。
その日々を想い、手の届かぬ遠い日々と、愛した人々を思い、こぼれた涙に。
「おかーさん。泣いているの?」
二番目の子供、ミカーナが不思議そうに問いかけた。それを見て、微笑む。
ミカーナ——Mikana——Makina——マキナ。
そう、この名前はあの子から採った。文字をばらして並び替えて。マキナから、とった。
「あのね、おかーさん。ミカ、きれいなもの、ひろったの!」
紅葉のような手が差し出したのは、輝く水晶の欠片。
「ミカ、もっとたくさん、きれいなものひろってくるね。だからおかーさん、なかないで」
フルージアは優しく微笑んだ。
「……みんな、変わったね」
感慨深げにスーヴァルがつぶやく。
「でも、思い出は、色あせない」
いくら時が過ぎたって。刻まれた思い、忘れないから。
夢のようだったあの半年。でもそれは夢じゃない。夢で終わらすことのできない、確かな記憶がそこにある。
「……お墓参り、行こうね」
言ってフルージアは、ミカーナからもらった水晶の欠片を、美しい朝の光に透かしてみた。
朝の透み渡った光を受け、水晶の欠片は見つめていられない程眩しく輝いた。
まるで、あの刹那の思い出のように。
水晶を透かして見た空には、懐かしい人々が、いた。
FIN
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ハインリヒの伏線、回収できなかった藍蓮です。
本当はエンディングで、闇の神と再会する手はずだったのですが。
まあ、そこはifストーリーとして、いずれ載せますね、たぶん。