ダーク・ファンタジー小説
- 風色の諧謔 1-1 10の誕生日に ( No.39 )
- 日時: 2017/09/24 09:36
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
話がそれなりに浮かんだので、予告していたリクセス編、スタートです。
タイトル決めるの手間取った……。
ではでは。
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《風色の諧謔》
第一章 始まりのオルヴェイン
1 10の誕生日に
◇
リクセス・オルヴェイン。彼はセラン王国の上流平民の次男。両親と兄のヴィクトールとともに、平凡な日々を過ごしていた。
幼いころからパズルが大好きだったリクセス。彼は生まれながらに宿る『組師』の力に幼いながらに気づいていたが。聡明だった彼は。自分に「力」があることを、黙して誰にも語らなかった。彼の所属するオルヴェイン家は。魔法をあまり、快く思っていなかったから。
当時の彼は病弱で。外に出ることすらままならなかった。だからとても退屈していた彼に。
ある日、彼の祖母がやってきて、彼の10歳の誕生日にあるものをくれたのだ。
「リクセスや。大事におしよ」
熱で苦しんでいた彼の手に。押しつけられたのは、金色の。
「智恵の輪というんじゃよ。絡み合った輪を一つにするのさぁ。あんたの好きなパズルだよぉ。良かったら、これで遊んでおくれねぇ」
押しつけられたそれは。純金のような重さはなかった。
「金メッキの智恵の輪さぁ。純金じゃなくっても、まぁいいだろ?」
リクセスはそれを握りしめた。
その唇が、言葉を紡ぐ。
「ありが……とう……」
「しゃべるんじゃないよ。しっかりお休みねぇ」
祖母は優しく微笑んで。部屋から出て行った。
リクセスはぼんやりと渡された智恵の輪を眺めていたが、やがて。
「こう……かな」
ものの数秒で、それを完成させてしまった。リクセスの器用さは本物だ。
いつもの彼ならば。遊び終わったパズルになんて、興味をなくしてしまうのに。
しかし彼は、その智恵の輪が気に入った。
祖母から直接もらったものだからだろうか? そうではないものだって、この金の輪にもあるような気がして。
なくさないように。寝具の袖を軽くほどいて一本の糸を取り出し、それを使って智恵の輪を首にかけた。それはしっくり収まった。
それを確認し、柔らかく微笑むと。
重くなる意識に引きずり込まれるように、リクセスは再び眠りに落ちた。
未来。この智恵の輪が彼のトレードマーク的アイテムになることを、彼は知らない。
そして。この智恵の輪を託して、自爆して果てることも——。
何はともあれ。リクセス・オルヴェインは。ここから始まった。
◇
「まだ……病気なのか?」
「そうみたいだねぇ。折角の誕生日なのに……」
リクセスの部屋の前で。腕を組む青年と、よぼよぼの婆さんが一人。
オルヴェイン家長男かつリクセスの兄たるヴィクトールと。祖母のユンファであった。
ヴィクトールは、痛ましげな顔をした。
「……俺が代わってやれればな。くそっ、明日には王都に行かねばならん。リクのことが気がかりでたまらないっていうのに……」
いらだたしげに拳で軽く壁を殴った彼に。ユンファが諭すように言った。
「あなたはオルヴェイン家の跡取りさぁ。だから王都でしっかり働いてもらわにゃいけんのさぁ」
「わかっているさ……でも」
「優しいのは結構だけれど。それで責任を見失ったら元も子もないさね」
ユンファの言葉に、正論に。ヴィクトールは悔しげな顔をした。
「……わかったよ、ああ。……じゃ、行ってくる」
「もう行くのかい」
「仕事の途中だったんだが、リクの誕生日だしな、帰ってきた」
「のに、彼は病気でぶっ倒れていたと」
「仕方ないさ、ああ。次会うときは、元気なリクに会いたいな」
「そうだねぇ……。じゃあ、行ってらっしゃい?」
「行ってくる」
ユンファに軽く手を挙げて。
セラン騎士団所属、ヴィクトール・オルヴェインは。騎士団の仕事に戻るために、家を発ったのだった。
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