ダーク・ファンタジー小説

風色の諧謔 1-1 10の誕生日に ( No.39 )
日時: 2017/09/24 09:36
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 話がそれなりに浮かんだので、予告していたリクセス編、スタートです。
 タイトル決めるの手間取った……。
 ではでは。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


《風色の諧謔》


 第一章 始まりのオルヴェイン


 1 10の誕生日に


  ◇


 リクセス・オルヴェイン。彼はセラン王国の上流平民の次男。両親と兄のヴィクトールとともに、平凡な日々を過ごしていた。
 幼いころからパズルが大好きだったリクセス。彼は生まれながらに宿る『組師』の力に幼いながらに気づいていたが。聡明だった彼は。自分に「力」があることを、黙して誰にも語らなかった。彼の所属するオルヴェイン家は。魔法をあまり、快く思っていなかったから。

 当時の彼は病弱で。外に出ることすらままならなかった。だからとても退屈していた彼に。
 ある日、彼の祖母がやってきて、彼の10歳の誕生日にあるものをくれたのだ。

「リクセスや。大事におしよ」

 熱で苦しんでいた彼の手に。押しつけられたのは、金色の。

「智恵の輪というんじゃよ。絡み合った輪を一つにするのさぁ。あんたの好きなパズルだよぉ。良かったら、これで遊んでおくれねぇ」

 押しつけられたそれは。純金のような重さはなかった。

「金メッキの智恵の輪さぁ。純金じゃなくっても、まぁいいだろ?」

 リクセスはそれを握りしめた。
 その唇が、言葉を紡ぐ。

「ありが……とう……」
「しゃべるんじゃないよ。しっかりお休みねぇ」

 祖母は優しく微笑んで。部屋から出て行った。
 リクセスはぼんやりと渡された智恵の輪を眺めていたが、やがて。

「こう……かな」

 ものの数秒で、それを完成させてしまった。リクセスの器用さは本物だ。
 いつもの彼ならば。遊び終わったパズルになんて、興味をなくしてしまうのに。
 しかし彼は、その智恵の輪が気に入った。
 祖母から直接もらったものだからだろうか? そうではないものだって、この金の輪にもあるような気がして。
 なくさないように。寝具の袖を軽くほどいて一本の糸を取り出し、それを使って智恵の輪を首にかけた。それはしっくり収まった。
 それを確認し、柔らかく微笑むと。
 重くなる意識に引きずり込まれるように、リクセスは再び眠りに落ちた。

 未来。この智恵の輪が彼のトレードマーク的アイテムになることを、彼は知らない。
 そして。この智恵の輪を託して、自爆して果てることも——。
 何はともあれ。リクセス・オルヴェインは。ここから始まった。


  ◇


「まだ……病気なのか?」
「そうみたいだねぇ。折角の誕生日なのに……」

 リクセスの部屋の前で。腕を組む青年と、よぼよぼの婆さんが一人。
 オルヴェイン家長男かつリクセスの兄たるヴィクトールと。祖母のユンファであった。
 ヴィクトールは、痛ましげな顔をした。

「……俺が代わってやれればな。くそっ、明日には王都に行かねばならん。リクのことが気がかりでたまらないっていうのに……」

 いらだたしげに拳で軽く壁を殴った彼に。ユンファが諭すように言った。

「あなたはオルヴェイン家の跡取りさぁ。だから王都でしっかり働いてもらわにゃいけんのさぁ」
「わかっているさ……でも」
「優しいのは結構だけれど。それで責任を見失ったら元も子もないさね」

 ユンファの言葉に、正論に。ヴィクトールは悔しげな顔をした。

「……わかったよ、ああ。……じゃ、行ってくる」
「もう行くのかい」
「仕事の途中だったんだが、リクの誕生日だしな、帰ってきた」
「のに、彼は病気でぶっ倒れていたと」
「仕方ないさ、ああ。次会うときは、元気なリクに会いたいな」
「そうだねぇ……。じゃあ、行ってらっしゃい?」
「行ってくる」

 ユンファに軽く手を挙げて。
 セラン騎士団所属、ヴィクトール・オルヴェインは。騎士団の仕事に戻るために、家を発ったのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

風色の諧謔 1-2 「化け物」と呼ばれた子 ( No.40 )
日時: 2017/09/28 20:44
名前: 流沢藍蓮 ◆PjBJDnQsow (ID: GfAStKpr)

 トリップ入れてみましたが本人です。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 2 「化け物」と呼ばれた子


  ◇


 その日は比較的元気だった。だからリクセスは町に出て、町を見物していた。
 体調は良好。熱もないし咳もでない。
 久しぶりの楽しい朝だった。
 彼の兄ヴィクトールは、今は騎士団の仕事で王都に行っていていないらしい。折角体調が良い日だったから一緒に町を歩きたかったなとリクセスは思ったが、兄には兄の仕事がある。諦めるしかないのだろう。
 そんなことを考えながらも。リクセスは町を歩いていた、
 時。

「助けてぇ、助けてぇ!」

 ……どこかで悲鳴が上がったのを彼は聞いた。
 そしてそれは。今の時間は織物工房で仕事をしている母の声だった。
 リクセスはとっさに走り出した。その声のする方へ。いつもなら走るなんてできない身体のはずなのに。母を想い、ひた走った。
 そして、彼は見た。怯える母。泣き叫ぶ他の子供たち。彼女らに襲いかかる、醜い影を。
 この町は治安がいいはずなのに。突如外から襲い来た、異形の怪物たち。

 人はそれを——魔物と呼ぶ。

 考えるより先に身体が動いた。リクセスは祖母からもらった智恵の輪を、首から下げた金メッキの智恵の輪を手に取り、それを超高速で組み合わせる。
 幼いころから持っていた技、組み合わせの秘技、『組師』の力。
 その力を使えばこの状況を何とかできる。そう思って、組む手を速める。
 彼の目には魔法素(マナ)こそ見えなかったが。この智恵の輪を使えば、間接的に自由に操ることができる。
 魔法を嫌うオルヴェイン家。しかし緊急事態だ、そんなこと言ってはいられないから!
 出来上がった式、名もなき式。宿す魔法は風の力!
 リクセスは瞬時に頭の中に浮かんだその名を唱え、式を発動させる——!

「魔物さんたちこっちをご覧! ……一掃の嵐(スウィーピング・ストーム)!」

 胸に提げた金メッキの智恵の輪がきらりと輝いて。
 組みあげた式が発動し、現れるは巨大なる竜巻。

「巻き込んで——吹き飛ばせ!」

 それは的確に魔物だけを選んで内に取り込み、呆然とする人々を残し、一気に空へと駆け上がっていく。
 リクセスはそれを限りなく高く上げた後、竜巻を消して一気にはるか上空から叩き落とした。
 落ちて肉が飛び散る様は流石に見えない距離だったが。魔物は確実に屠(ほふ)れたであろうことを理解する。
 そして。

「もう大丈……」

 振り返ったら。
 別にリクセスは感謝の言葉がほしかったわけではない。皆の安心した顔が見られれば、それで良かった。皆の無事を確認できれば、それで良かった、
 のに。
 振り返った皆の顔は、恐怖に染まっていて。
 母すらも、恐れた顔でこちらを見ていて。
 最初に誰かが言ったんだ。





「ば、化け物ッ!」





 最初の一人がそう言ったら、他のみんなも口々に叫んだ。

「化け物だ! あれは化け物だ!」
「まだ子供だぞ! どこの家の子だ!」
「殺せ殺せ、化け物は殺せ!」

 ……みんなを助けたのは、リクセスなのに。
 弱い身体をおして走ったのは、リクセスなのに。
 皆が彼を見る目には、感謝も安堵も浮かんではいなかった。
 まるで化け物を見るような、恐怖と軽蔑に溢れた目線が。幼い彼を突き刺した。

「げふっ」

 無茶をした分が後からやってきて、リクセスは軽く咳こんだ。
 とっさに口に押し当てた手に、付着した微量の血。
 胸が苦しい。呼吸が途切れ途切れになる。
 眩暈がする。世界が回って見える。
 リクセスは突如襲ってきた体調不良に、そのまま地面に倒れ込んだ。
 魔法を使うのは体力とは別の部分だったが、そもそも体力が限界だった。
 苦しみにリクセスは手を伸ばす。

「助けて……」

 しかし。彼に手を差し伸べる者はいなかった。
 冷たい無表情で、苦しむリクセスを眺めるだけで。

「助……け……」
「化け物なんて、死んでいればいい」

 冷たい言葉を放ったのは。
 彼が守ろうとした、母親だった——。
 その声を聞き、絶望に付き落とされて。
 リクセスの意識は闇に包まれた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

風色の諧謔 1-3 束縛を脱して ( No.41 )
日時: 2017/10/01 15:00
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 3 束縛を脱して


  ◇


 目覚めたのは、いつもの部屋。リクセスの部屋、変わらぬ部屋。
 胸が苦しい。頭痛がひどい。
 何となく胸元に手をやって、金メッキの智恵の輪に触れたとき。リクセスは思い出した。

「ああ……化け物、だっけ」

 実の母に言われた言葉が。冷たい刃となってリクセスの心を切り裂いた。
 ただ、守りたかっただけなのに、どうして。
 無情な現実。リクセスは押し寄せてきた苦しみに、また弱々しく咳をした。

 時。

「リクセス」

 誰かが部屋の扉を開いて入ってきた。リクセスは起き上がろうとしたが、力が入らない。
 しかし声で、わかる。枕元に近づいてきたその姿で、わかる。

「父さん……」
「魔法を、使ったのか」

 問答無用の口調で、リクセスの父ブライツは詰問した。
 やはり、魔法を快くは思っていないらしい。
 リクセスは、そうさとうなずいた。

「でも、そうでもしなきゃ母さんは、生きていなか——」
「——この馬鹿息子がッ!」

 言いきれず。リクセスは父の平手に吹っ飛ばされた。
 リクセスの華奢な身体はベッドから落ち、リクセスは盛大に咳こんだ。

「父さ……ん……?」
「化け物めが」

 リクセスを睨むその瞳は、息子を見る父親のものではない。
 そもそも武を重んじるこの家で。リクセスみたいにひ弱な子供が生まれたこと自体、この父親にとっては不愉快であった。
 そのリクセスが。この家で禁忌とされる魔法を使い、「化け物」呼ばわりされた。
 それは。オルヴェイン家を貶(おとし)める行為に外ならない。
 ブライツはリクセスの腕を強引にひっつかんで立たせた。

「外へ出ろ! 俺がお前の身体の中から、魔法を叩きだしてやる!」

 リクセスの体調不良なんてお構いなしに。
 ほとんど引き摺られるようにしながらも、リクセスは外へ出た。


 外で、ブライツはリクセスに言った。

「魔法を捨てろ」
「無理……だね……」

 父の言葉に。にべもなく彼は返す。

「魔法はそもそも生まれつきだし……。僕には、魔法以外で身を立てられないから」

 その言葉に、ブライツは目を吊り上げた。

「父の言葉に逆らうか」
「子供は親の道具じゃない」
「……貴様ァッ!」

 あくまでも冷静に返したリクセスに、再び平手が飛んだ。
 吹っ飛ばされて、吐血する。しかしそれでもリクセスは言い募った。
 口に跳ねた血を手の甲で拭って、緑の瞳で父を睨む。

「子供は親の道具じゃないんだ……。親の敷いた道を命令どおりに歩く木偶人形のように……なりたくはないね。……僕は騎士にはなれない、から……魔導士になるんだ」
「子供の分際で何を言うかッ!」

 吹っ飛ばされた息子に駆け寄り、その胸ぐらをつかみあげてブライツは殴る。殴打、殴打、殴打。繰り返される暴力の嵐。気の遠くなるような激痛の数々。リクセスは激痛にうめき苦しみに悶えたが、怒れるブライツは止まらない。

「子供のくせして親に逆らうかッ!」

 仮にも武門の家である。その一撃一撃は重い。
 リクセスは己の死を感じた。無様な死に様だと、遠のく意識の中で思った。
 王都に言った兄を想い、優しかった祖母を想う。たった10年の短い生が、走馬灯のように頭を流れる。

 死ぬんだ、ね。僕は、死ぬんだ——。

 そう、思っていたのに。










「父上にとって、子供は道具かッ!!」










 突如、殴打が止まる。リクセスは咳こみながらも顔を上げた。
 そこにいたのは——。

「……兄さ……ん……!?」

 兄のヴィクトールだった。
 おかしい。王都で騎士をやっていたのではなかったか。
 彼はリクセスを背後に庇いながらも、ブライツを睨みつけた。
 倒れたリクセスの位置からは兄の目は見えない、が。
 兄は今、かつてないほどの怒りに燃え、父を睨んでいるのだとわかった。
 その身から放たれる裂帛(れっぱく)の怒気に、思わずリクセスは震えた。
 するとそれを見て、ヴィクトールは彼に優しく笑った。

「大丈夫、お前に怒っているわけじゃないからな」

 血塗れの彼の髪を優しく撫でてから、ヴィクトールは父親に向き直る。
 放たれた言葉は、絶対零度の響きを宿していた。

「信っじられない。これが親の、子に対する仕打ちか? しつけるにしてもやりすぎだ。このままじゃリクは死んじまうぜ。……何だ? 俺の麗しき父上はいつも、リクに対してこんなひどいことをなさっていたのですかな? ——人間じゃない」

 その言葉に。その宿した絶対零度に、ブライツは気づかない。
 彼は変わらぬ口調で怒鳴った。

「こいつは魔法を使ったんだ! 挙句の果てには魔導士になるとほざきやがったんだ! ここは武門の名家だぞ? 身体が弱かったのはまだ我慢できるが、魔導士だと! 言語道断だろうがッ! 我が家の面汚しだッ!」
「それがどうした? やりたいようにやらせればいいじゃないか。リクは魔導士になりたいと言った! ならば魔導士にしてやって、それの何所が悪い! ……子供だからといって、リクが親に拘束されるいわれはないと思うのだがな?」
「お前も俺の子供のくせに、俺に逆らうのかッ!」
「そうだ」

 いきり立って拳を固めたブライツに、ヴィクトールは冷たく言った。

「忠告。俺を殴るのはやめた方がいいと思うぜ? あんたは無手で、俺の腰には剣がある。あんたが剣を取りに戻ったって、どうせ俺には勝てないさ」
「何だとッ!」
「俺は知っているんだよ、オルヴェイン家の面汚しさん」

 ヴィクトールは、憐れみをその目に浮かべた。
 指を折りながらも数えていく。

「一つ。あんたは騎士の家に生まれたにもかかわらず、剣より拳で殴り合うことが好きで得意だった。二つ、あんたは剣の才能がないから騎士学校を途中で追い出された。三つ、あんたは何かあったら仲間を見捨ててすぐに逃げるそうじゃないか。それの何処が騎士道だ? オルヴェインが聞いて呆れる」

 暴露された黒歴史の数々を聞き、ブライツは顔を青くする。

「ヴィクトール……それを、どこで」
「簡単だ。王都の騎士の仲間たちからだ。お前は父親に似なくて優秀だねぇと言われて育ったよ」

 だから、と彼はその目に地獄を宿す。

「誰がオルヴェインの面汚しだッ! リクセスはあんたみたいに堕落しきっていないしあんたみたいに人でなしでもないッ!」

 宿った地獄は、今度こそ完全にブライツを射抜いた。





「——本当に面汚しなのは、あんたの方だ」





 そう言い放って。
 ヴィクトールは血まみれの弟をそっと抱きあげ、その軽さに目を丸くしつつもその場から去ろうと動き出す。
 ブライツの声が追った。

「どこへ行く!?」
「騎士の寄宿舎が近くにあるんだ。……あとな、親父。子供は親の付属物じゃない。だから何処へ行こうと勝手だぜ?」

 言って、彼はいなくなった。


  。○


 騎士の寄宿舎で、リクセスは傷の手当てを受けた。しかし殴打による傷は切り傷と違い、明確な手当てがしづらいのが難点である。血の滲んだところには包帯を巻き、折れたところは固定して。あとはその場にいた騎士仲間に薬草を取ってくるように頼みこんで、それで作った軟膏を痣に塗るだけ。リクセスの病が悪化したって治せない。所詮、応急処置でしかない。
 眠りこんだリクセスの顔は、ひどくやつれていた。
 ヴィクトールはそれを見て、溜め息をついた。
 そこへ。

「あ、ヴィクトールじゃん。あれれ? 王都にいなかったっけ」
「虫の予感がしてとんぼ返りした。そういうヴァランは何でこんな寄宿舎に?」
「うん? 下らない用事でさぁ」

 王都でのヴィクトールの顔馴染みが、話しかけてきた。
 ヴァランとヴィクトールが呼んだ彼は、ふと横たわったリクセスを見て目を瞠る。

「って、この子が前にヴィクが言っていた弟? 何でこんな大怪我してんの」
「父親からの虐待だ。この子は魔導士になりたいと言ったが、武門の家だからという理由で許せなかったんだってな。……子供は親の付属物じゃないんだ」
「……そっちも色々あるわけね」
「ああそうだ」

 魔導士かぁと、ヴァランは首をかしげる。

「そう言や、おれ魔導士知ってるぜ? 王都で弟子とってんの。めっちゃ高名な魔導士。良かったら今後のその子のために、おれが口添えしてやってもいいけどよ? どうするね?」

 その言葉に、ヴィクトールは目を見開く。

「本当か!? ああ、リクセスの今後について悩んでいたところなんだが……。魔導士の弟子になれるなら、そんなにいいことはないだろう。是非、紹介してくれないか」
「おっけー。じゃ、その子が回復したら、みんなで王都に行こうぜぇ」
「それはわかったが……。ヴァラン、あんたの用事はいいのか?」
「実は単なるサボりだったり。おもしろそうだし一緒に行くよ」
「……いずれ退学になっても知らんぞ」

 呆れたように、ヴィクトールは彼を見た。

 何はともあれ、道は定まった。
 ヴィクトールは、苦しそうに息をしながら眠る弟を見る。
 そして、小さく誓った。
 

 ——絶対に、救いだす。


 お前を、この地獄から。
 お前には幸せでいてほしいんだ——。

 剣は、誰かを守るために。
 傷つけるためじゃない、守るために振るわれるんだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

Re: 【番外編始動】SoA 夜明けの演者 ( No.42 )
日時: 2017/10/02 16:37
名前: 上瀬冬菜 ◆P8WiDJ.XsE (ID: 3rAN7p/m)

 こんにちは、初めまして。
 いつぞやは拙作にコメントしてくださりありがとうございます。

 こちらの小説をエピローグまで読ませていただきました。
 まず思ったことが、心情描写がすごくいいなぁということ。あと、伏線回収……と言うべきなのかな、フルージアさんのあるセリフが違う場面で二回使われていた、もしくは似たようなセリフを言っていたのに涙ぐみました。
 部隊のメンバーのセリフや過去も身に染みるものだったのですが、主人公はさすがと言うべきか、フルージアさんのセリフの一つ一つが、こう、いいなあと。気持ちが溢れ出ているなぁと思いました。

 リクセスくんの口調と性格が好きです。あとアイオンちゃんの口調も可愛くて好きです!
 どのメンバーにも個性があり、能力にも個性があって面白いなと。
 そのメンバーたちの生き様、その命の散りようが、なんと言いますか美しいと思いました。既に本編は完結しているらしいですが、ネタバレなので……ネタバレごめんなさいっ。

 リクセスくんの過去編も密かに読ませてもらってます。
 ファンタジーは大好物なので、それがなくとも読んでいてとても楽しいです!
 乱文失礼しました!

Re:コメ返し ( No.43 )
日時: 2017/10/03 00:38
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)

 今日はダーク・ファンタジー更新する気がなかったのですが、何となくのぞいてみたらびっくりしました(゜o゜)


 >>42
 読んでいただけたんですか、ありがとうございます!
 三人称小説なので上手く心理描写ができたか自信はなかったのですが……。そう言っていただいてうれしいです♪
 伏線回収……あれれ、なんか色々書きすぎて、どこのことなのかわからなくなっちゃいました。自分の作品なのに……。えーと、良かったらそのフレーズだけでも教えてくれませんか? ざっと読み返してみましたが何がなんやら(汗)
 部隊メンバー、ほとんど出ないままで使い捨てにしちゃったキャラが三名くらいおります(汗)
 主人公は……「力」が活かしきれていない結果になってしまったのではと落ち込んでいます。まあ、性別も私と同じですし、歳も近いので感情とかは書きやすかったです。私は自分の作るキャラを自分と近い歳にしがちなのです。

 リクセスは個人的にも好きです。アイオンは……幼い子供ですからあんな口調になりました。彼女の短編もいずれ書きます。本編ではあまり活躍できなかったですし。
 能力は考えるの苦労しましたが、この世界「アンダルシア」は異能の宝庫ですから! まだ出していない特珠職業とかたくさんあるんです。特殊部隊は異能のサラダボウルですが、10人いてもまだ網羅しきれていなかったり。
 はい、キャラの散らせ方を考えるのには一番苦労しました。同じ死に方をしても面白くはないですし。死に方にも「個性」って必要なんですよね〜。
 最初から「あの人数」生き残らせることは決定事項だったので、後はどのようにして生き残らないキャラを美しく死なせるか、ずっと考えていました。
 ちなみにこれでも人数削減した方です。物語が一番膨らんでいた時は部隊メンバー19人もいたので流石に扱いきれんわと思い、一気に削減しました。本来なら「あのキャラ」は裏切らず、そこに別のポジションのキャラがいたのにそのキャラを消したことで彼が裏切る羽目になったという。そこから悲劇につながったので、私は彼に恨まれてますな(笑)。そういう裏事情が実はありました。

 わぁい、読者様がいる!
 はい、更新頻繁に頑張ろうと思います。モチベーションが急上昇です!
 素晴らしい感想、どうもありがとうございました!
 読んだ瞬間、感動しましたよ……!

風色の諧謔 1-4 二人の絆 ( No.44 )
日時: 2017/10/04 20:49
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)

 以降のコメントは、藍蓮の所有する雑談スレにてお願いいたします。
 コメントはめっちゃ嬉しいのです!
 しかし目次の作成上の問題もありますしねぇ。
 よろしくなのですよー。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 4 二人の絆


  ◇

 
 暖かい。ふわふわした感触。ここはベッドの上らしい。

 翌朝。リクセスは朝の光に目を覚ます。自分の家ではない。なぜこんなところにいるのだろうと記憶をたどれば、父親に殴られて兄に助けられたことを思い出す。今いる場所は、騎士の寄宿舎だということも。
 そして、彼は感じた。

「僕は……自由になったんだねぇ」

 もう、魔法を隠さなくてもいい。こっそり生きなくたっていい。
 しかしそれは、両親との永遠の断絶をも示していた。
 決して好きな両親ではなかったが、リクセスにとって彼らは、まぎれもない家族で。
 解放感と同時に、彼はどことなく寂寥感を覚えた。
 様々な思いを抱えながらも、彼はそっと身を起こす、が。

「…………ッ」

 昨日受けた傷の数々が激痛を放ち、たまらず彼はベッドに倒れ込んだ。
 すると、それに気づいて、部屋の奥から何者かが現れた。
 落ち着いた茶色の髪、深い海の瞳。
 リクセスの兄、ヴィクトールだ。

「おっと、まだ起きるなよ」

 彼は優しく笑って、リクセスにスープの椀を差し出した。

「簡単に動ける身体じゃないんだから無理するな。……と言っているそばからだが。起きれるか? 俺の友人がスープ作ってくれたんだ。身体はつらいかもしれないが、何か食べないとまずいだろう」

 その言葉にうなずき、もう一度起き上がろうと力を込めたリクセスの背を。ヴィクトールの大きな腕がしっかりと支え、姿勢が楽になるようにしてくれた。リクセスは何とか兄の手からスープの椀を受け取り、匙で中身をそっと掬った。
 口に入れたスープは温かくて甘い。身体中にじんわりと力が満ちていくのを、リクセスは感じた。

「美味しい……」
「それは良かった。あいつ、大雑把な奴のくせに料理だけは上手いんだ」

 リクセスは微笑んで、静かにスープを掬っていく。
 やがて食べ終わり空になった椀を、兄に突き出した。

「食べたな? よし。こっちはお前が動けるようになるまでは動かないから、遠慮なく休んでいいんだぞ?」

 いつもリクセスには甘いヴィクトール。
 両親はあんなに冷たかったのに。
 ヴィクトールは彼を、「化け物」と呼ばないんだ。

「兄さんは」

 純粋に疑問に思って、部屋を去りゆく兄に言葉を投げる。

「僕を、化け物と呼ばないのかい?」
「呼ぶわけないだろう」

 当たり前さと言わんばかりに、ヴィクトールは鼻を鳴らした。
 リクセスは首をかしげた。

「……どうしてだい? 父さんも母さんも、僕をそう呼んだのに」

 だって、と彼は去りゆく戸口から振り返って言った。


「大切な、弟だからさ」


 ヴィクトール・オルヴェイン。
 彼の所属する騎士団では、生真面目でお堅い奴として名が知られているが、実は彼は。

 ——大変な、弟思いなのであった。


  ◇


 それから一週間ほど。
 完調とはまだ言えないが、リクセスの受けた傷もそれなりに癒えてきたから。
 ヴァランも連れて。リクセス、ヴィクトール、ヴァランの三人で、王都を目指す小さな旅が始まった。
 旅そのものは平穏で、特に何事もなく王都についた。
 その日は夜だったから、ある小さな宿に泊まった。
 そしてその次の日、リクセスは彼の人生を左右する、ある大魔導士に出会うことになる——。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇