ダーク・ファンタジー小説

風色の諧謔 1-4 二人の絆 ( No.44 )
日時: 2017/10/04 20:49
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)

 以降のコメントは、藍蓮の所有する雑談スレにてお願いいたします。
 コメントはめっちゃ嬉しいのです!
 しかし目次の作成上の問題もありますしねぇ。
 よろしくなのですよー。

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 4 二人の絆


  ◇

 
 暖かい。ふわふわした感触。ここはベッドの上らしい。

 翌朝。リクセスは朝の光に目を覚ます。自分の家ではない。なぜこんなところにいるのだろうと記憶をたどれば、父親に殴られて兄に助けられたことを思い出す。今いる場所は、騎士の寄宿舎だということも。
 そして、彼は感じた。

「僕は……自由になったんだねぇ」

 もう、魔法を隠さなくてもいい。こっそり生きなくたっていい。
 しかしそれは、両親との永遠の断絶をも示していた。
 決して好きな両親ではなかったが、リクセスにとって彼らは、まぎれもない家族で。
 解放感と同時に、彼はどことなく寂寥感を覚えた。
 様々な思いを抱えながらも、彼はそっと身を起こす、が。

「…………ッ」

 昨日受けた傷の数々が激痛を放ち、たまらず彼はベッドに倒れ込んだ。
 すると、それに気づいて、部屋の奥から何者かが現れた。
 落ち着いた茶色の髪、深い海の瞳。
 リクセスの兄、ヴィクトールだ。

「おっと、まだ起きるなよ」

 彼は優しく笑って、リクセスにスープの椀を差し出した。

「簡単に動ける身体じゃないんだから無理するな。……と言っているそばからだが。起きれるか? 俺の友人がスープ作ってくれたんだ。身体はつらいかもしれないが、何か食べないとまずいだろう」

 その言葉にうなずき、もう一度起き上がろうと力を込めたリクセスの背を。ヴィクトールの大きな腕がしっかりと支え、姿勢が楽になるようにしてくれた。リクセスは何とか兄の手からスープの椀を受け取り、匙で中身をそっと掬った。
 口に入れたスープは温かくて甘い。身体中にじんわりと力が満ちていくのを、リクセスは感じた。

「美味しい……」
「それは良かった。あいつ、大雑把な奴のくせに料理だけは上手いんだ」

 リクセスは微笑んで、静かにスープを掬っていく。
 やがて食べ終わり空になった椀を、兄に突き出した。

「食べたな? よし。こっちはお前が動けるようになるまでは動かないから、遠慮なく休んでいいんだぞ?」

 いつもリクセスには甘いヴィクトール。
 両親はあんなに冷たかったのに。
 ヴィクトールは彼を、「化け物」と呼ばないんだ。

「兄さんは」

 純粋に疑問に思って、部屋を去りゆく兄に言葉を投げる。

「僕を、化け物と呼ばないのかい?」
「呼ぶわけないだろう」

 当たり前さと言わんばかりに、ヴィクトールは鼻を鳴らした。
 リクセスは首をかしげた。

「……どうしてだい? 父さんも母さんも、僕をそう呼んだのに」

 だって、と彼は去りゆく戸口から振り返って言った。


「大切な、弟だからさ」


 ヴィクトール・オルヴェイン。
 彼の所属する騎士団では、生真面目でお堅い奴として名が知られているが、実は彼は。

 ——大変な、弟思いなのであった。


  ◇


 それから一週間ほど。
 完調とはまだ言えないが、リクセスの受けた傷もそれなりに癒えてきたから。
 ヴァランも連れて。リクセス、ヴィクトール、ヴァランの三人で、王都を目指す小さな旅が始まった。
 旅そのものは平穏で、特に何事もなく王都についた。
 その日は夜だったから、ある小さな宿に泊まった。
 そしてその次の日、リクセスは彼の人生を左右する、ある大魔導士に出会うことになる——。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇