ダーク・ファンタジー小説
- 風色の諧謔 2-3 青玉の証 ( No.47 )
- 日時: 2017/10/20 23:11
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: GfAStKpr)
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3 青玉の証
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セランの王都、セルヴィスには沢山のものがある。
大きな図書館、下町に行けば色とりどりの屋台や様々な店。
そして、ここにはセラン王国にしかない「ある施設」があった。
「まずは魔導士たるお前は、『ギルド』で登録をしなければならん」
レヴィオンの案内によって、たどり着いたのは石造りの建物。落ち着いた色の看板には、「魔導士ギルド」と書いてある。
セランには『ギルド』と呼ばれる制度がある。ギルドにも様々な種類があって、魔導士ギルド、」暗殺者ギルド、商人ギルド、傭兵ギルド、職人ギルド、運送ギルド、など。ギルドによって管理する職種が違う。
ギルドは様々な立場の人が自分の職業にあったところに登録し、登録によって恩恵を受けられるシステムだ。魔導士ギルドの人はここに行けば魔法アイテムを半額で買えるし、暗殺者ギルドには種々の暗器がそろっている。
ギルドに登録した人は皆、管理される立場にある。悪事を犯したらギルドによって制裁を受けるし、ギルドの意向から完全に外れたことをやってはならない。暗殺者ギルドでは『管理』が顕著で、ここに入った者は子供であれ何であれ、暗殺者教育を受ける義務がある。守秘義務を破ろうものなら即抹殺され、家族がいるならその家族も消される。ギルドに登録するということは大きな枷を受けることでもある。
だが、それでも恩恵は大きい。登録さえすれば、自分が危機に陥ったとしてもギルドメンバーが助けてくれる。ギルドに入ってない者に比べ、上にも多少は融通がきく。
別にギルド加入は義務ではないのだが、国全体で推奨している。ギルドに入っていない対象者は社会から白い目で見られる。片田舎に住んでいる分ならば別にそれで構わないのだが、王都に来たのならば話は別だ。
そんなわけで。魔導士たるリクセスは今、登録を受けるために魔導士ギルドの目の前に立っているのだった。
若干緊張気味のリクセスを見て、ミューシカが明るく励ました。
「別にそこまで緊張しなくてもいいんだよ? ただ登録するだけだしさ。私も登録受けたけど、名前と使う魔法を聞かれただけだもん。あと名前書くだけ」
リクセスは彼女の言葉に小さくうなずいた。
「入るぞ」とレヴィオンがギルドの扉を開く。
中に入ったそこには、内側から青色の光を放つ球が、石造りのテーブルの上に置かれていた。それの放つ光は神秘的で美しく、思わずリクセスはそれに魅入った。
「ようこそ、魔導士ギルドへ。って、レヴィオンさん!? 何ですか、新しいお弟子さんですか?」
その感動を打ち破るかのように、素っ頓狂な声がする。彼らの目の前には、栗色の髪をお下げにして青い瞳を持つ、眼鏡をかけた女性が経っていた。
彼女の言葉に、レヴィオンはそうだと返す。
「リクセスという。たぐいまれなる『組師』の才能を持っている。彼をギルドに登録したい」
「はいはいわかりました。じゃ、この手紙にサインして」
彼女は懐から一枚の紙を取り出して、リクセスに差し出した。ついでに、先が異様に尖ったペンも渡される。リクセスは書かれた文字を読んでみたが、それはリクセスの全く知らない文字で、彼には一文字たりとも理解できなかった。
眼鏡の女性は説明する。
「この登録書には魔法が込められているの。余計な手続きは要らないわ、あなたはただそこに名前を書くだけ。けれど書くのは普通のインクではいけないの」
彼女はリクセスに渡した先の尖ったペンを見た。
普通の文字を書くだけならば、ここまで先を尖らせる必要はない。つまり。
「これであなたの皮膚を傷つけて、あなたの血で署名するのよ」
血はその人と大きくつながるもの、故にこういった契約には有効なのだと彼女は付け足して、リクセスに微笑んだ。
「さあ、少年。痛いのはたった一瞬なのよ、怖いなんて言わないわよね?」
「もちろんさ」
リクセスは大きくうなずいて、そのペンの先で自分の手首を傷つけた。
傷つくことには慣れていた。だから、このくらいリクセスにとって痛みではない。
にじみ出た血をペン先に吸わせて、リクセスは登録書に自分の名前を記して女性に渡した。それを受け取り、彼女は満足げに笑った。
「はい、登録完了よ。登録完了の証にこれをあげるわ。魔導士ギルドメンバーの証」
渡されたのは、青い球の描かれたペンダント。そこに描かれた青い球は先ほどリクセスが見た、あの神秘的なものと同じものだった。
あれは何なのだろうとリクセスは思ったが、それを聞く前にレヴィオンがいとまを告げた。
「登録承認、感謝する。では行くぞ、我が弟子たちよ。これも確かに重要だったが今日は遊びの日。思う存分王都を楽しめ!」
そのまま彼は師匠に引っ張られるようにして、ギルドを出た。
ギルドを出た彼の首には、青い球のペンダントが下がっていた。それは、魔導士ギルドメンバーの証。彼の所属する巨大組織の証。
故郷を出て失ったと思われた生活は今、少しずつ取り戻されつつある。沢山の仲間たちの手によって。
リクセスは、今は騎士舎にいるであろう心配性な兄を想い、小さく微笑んだ。
(大丈夫さ、兄さん)
——この王都になら、僕の居場所はあるから。
状況が落ち着いたら騎士舎にも足を運ぼうかなと、彼はぼんやり考えた。
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