ダーク・ファンタジー小説
- 夜明けの演者 2-1-1 騒がしい千里眼 ( No.7 )
- 日時: 2017/10/15 11:13
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
第二部 セラン特殊部隊
一章 新しい仲間たち
1 騒がしい千里眼
♪
「クィリ・ロウ、ただいま帰還した」
「帰るの遅かったじゃん! 何かあったのっ?」
「色々、な」
それから数時間。罪悪感を胸に抱えながらも劇団を発ったフルージアは。特殊部隊の野営している森へとたどり着いた。劇団には置き手紙を残している。フルージアは本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。特にウォルシュに対しては頭が上がらない。これも運命だと割り切るしかないのだろうか。
「ところでマキナ、新入りだ。名をフルージアという。ほら、あいさつしろ」
「よ、よろしくお願いします」
クィリに促されてあわてて頭を下げる。マキナと呼ばれた少女は、なるほどとうなずいた。
「クィリが遅れてたのは新メンバーのスカウトのためだったんだねっ! 成程納得大満足! って?」
朗らかに微笑んだ彼女は、フルージアに手を差し出した。
「あたいはマキナだよっ! 能力は『千里眼』! 距離制限はあるけれど、隠されたものだって見ることができるんだっ! よろしく、フルージアちゃんっ!」
「よろしくお願いします、マキナさん」
慣れない環境にびくついていると、マキナがその肩をばんと叩いた。
「マキナでいーよ。ほら、しっかりしなさいなっ! あたいたちはなぁんにも怖くなんかないからさぁ! ね、クィリ、彼女さあ、他のみんなに紹介してもいい? いいよねっ! じゃ、行ってきまあっす」
「わっ! と、とっ?」
「悪いとは言っていないが、せめて相手の返事を待つぐらいのことはしないのか……」
クィリの呆れたような声を背中に受けながらも、マキナはフルージアを引きずっていった。
♪
「あっ、スーヴァル見っけ!」
野営している森の中。木にもたれて本を読んでいる少年に、マキナは声をかけた。その少年は雪のように白い髪と、空のように碧い瞳をしていた。スーヴァルと呼ばれた少年は、つと本から顔を上げて、感情のない声で問うた。
「……何か用?」
そのつれない態度にマキナは口を尖らせる。
「もうっ! スーヴァルは静かすぎるようっ! もっとさ、こう、あたいみたいに騒がしく……」
「無理だね」
「早っ! おおう、わずか〇・三秒で切り捨てられるとはっ! あたい、もしかして嫌われてるっ?」
「用は何。そこにいるの新入り?」
「無視されたっ! これもまた反応が早いっ! ねえ、今のひどくない? ねえったらぁっ!」
「まあまあ」
なんとなく取り成す役に回ってしまった感がある。それでも、ここは案外楽しそうである。
いささか元気を取り戻したフルージアは、腰を折って自分から名乗った。
「初めまして! 今日からセラン特殊部隊に入ることになった、フルージアです。能力は……なんて言ったらいいのかな? とにかく、自分が何かの役を演じたら、それになりきることのできる能力です。わたしはそれを『演者』と呼んでいます。よろしくお願いしますッ!」
「無属性魔導士スーヴァル。以降、よろしく」
彼は相変わらず素っ気ない。
マキナがキランと目を輝かせた。いちいち反応が面白い。話していて楽しい。
「なりきるのっ!? どーやってっ!?」
確かにこの能力は珍しい。どころか唯一無二のものなのかもしれない。マキナが驚くのも当たり前か。
フルージアは、デモンストレーションとして見せてあげることにした。選んだ役は「封神の七雄」のエルステッド。彼の魔素使ならば目で見てわかるし、効果範囲が小さいので、周りの迷惑になることもない。
「じゃあ、デモンストレーションとして『封神の七雄』のエルステッドになったつもりで行くわよ? あ、エルステッドって、わかるかな?」
スーヴァルは無言でうなずいたが、マキナは首を振った。
「誰それ? あたい、そこの辺りは無知だもん。教えて!」
「知らないの? まあ、育った環境にもよるかもね。いいわ、教えるね!」
かくしてフルージアは、マキナに歴史の講義をすることになった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
- 夜明けの演者 2-1-2 幸せの特殊部隊 ( No.8 )
- 日時: 2017/10/15 11:17
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2 幸せの特殊部隊
♪
「……って話なの。わかったかしら?」
「ううっ! そんな悲しい話があるなんてぇ! しくしく!」
「とりあえず始めるわよ。正史ではエルステッドしか生き残っていないけれど、劇では生き残るのはフィラ・フィアだから。で、わたしはそのエルステッドになりきってみるわよってわけ」
泣いているマキナはさておき。フルージアはいつしかのように、心を集中させた。わたしは、否、俺はエルステッドだ!
「見えざる剣は闇を断ち、見えざる盾は我らを守る! 自在の魔神、エルステッド見参!」
あの日のように、叫んで手を振れば。
現れる、演者の証。
右手には剣が。
左手には盾が。
何もないところから突如、出現する。
「すごいすごーいっ!」
マキナが目をまん丸にしていた。
「確認するけど、フルージアちゃんは魔素使じゃないよね? ウチには魔素使が一人いるけど、魔素使って超希少種じゃん。二人も三人もいるワケなしっ!」
「もちろんよ! 嘘をつく必要なんてないじゃない?」
「ってことは、フルージアちゃんは何にでもなれるんだあ……?」
「ま、そういうことかもね」
手を振って剣と盾を消しながら、フルージアは微笑んだ。
嬉しかった。力を存分に振るえること。自分に怯えずに生きられること。力を使って恐れられるのではなく、力を使ってほめられること。喜ばれること。
ここに至ってようやく、自分の居場所ができたのだと、実感して。
「わっ! フルージアちゃん、どうしたのっ!」
「嬉しい……」
思わず、涙をこぼしていた。胸に温かいものがこみあげる。
「わたし、さ。今まで、この力をずっと恐れてたの。この力で誰かを傷つけてしまわないかって、ずっと。だから、こうして力を現して、それですごいって言ってもらえて、とても、嬉しかったの」
「え? あたいは特に何もしてないよっ? 素直な気持ちを言っただけっ!」
マキナは気づかない。その、素直にすごいと言ってくれることこそが、フルージアの喜びとなったことを。
「わたし……劇団に入ってた。でね、ある日、その力をあらわしてから……本気で役にのめり込むことができなくなった。わたし、花形スターだったんだよ? でも、『演者』の力で誰かを傷つけるのを恐れて、わたしは没落していったの」
落ち着ける居場所は一転して、地獄と化した。そこから救ってくれたのはクィリだ。あの、仮面をかぶった堅物さん。口下手な生真面目さん。
「わたし、ここに入って良かったって思ってる。ここでなら、力を存分に使ったって、誰も文句を言わないもの。マキナ、あなたが気付かせてくれたんだよ。感謝しても足りないわ」
そう言ってにっこり笑ったら。マキナは照れくさそうに頭を掻いた。
「そんなことないってばあ。ま、元気になったならいいや。そろそろ広場に集まらないと。ご飯の支度をしなきゃいけないの」
「え? でも、わたし、何をすればいいのかよくわからない……」
「あたいが教えたげますって! 気にせずゴーゴーゴーッ!」
走り出すマキナを慌てて追いかけながらも、フルージアは新しく始まる日々に思いを馳せた。
♪
「はあい、みんなぁ! クィリが連れてきた新入り、フルージアちゃんだよっ! よろしくねっ!」
野営地につくと、マキナが集まってきた皆に大声でフルージアを紹介した。
「よ、よろしく……」
マキナのテンションにはついていけない。少々気後れしながらも、フルージアは挨拶した。
「この子はまだ野営の方法とか知らないから、紹介ついでにレクチャーしてあげてねっ! あたいも色々手伝うけどさっ!」
マキナが言うと、早速一人の少年が近付いてきた。生真面目な顔をしている。
「クィリから聞いた。僕の名はヴィラヌス。魔素使だ。よろしく頼む」
フルージアは頷いた。この人が、マキナの言っていた魔素使か。
「よろしくお願いしますっ!」
彼は野営での火のおこし方や食べ物の見つけ方、毒の野草やキノコなどについて、懇切丁寧に教えてくれた。それ以外の人も何度か話しかけてくれたので、フルージアはメンバーを覚えた。今更だが、一人ぼっちだったフルージアにとって野営は当たり前だったことをあとから思いだした。本当は説明なんてなくても大丈夫だったけれど、色々話せたし、結果オーライか。
マキナ、スーヴァル、ヴィラヌスはもう知り合いになったので省いて。
金メッキの知恵の輪をいじっている、緑の髪の、人を食ったような態度の少年がリクセス。
白いロングヘアーに緑の瞳を持つ、内気な少女がシフォン。
黒髪黒眼の異国風の服を身に纏った、警戒心の強い少年はシグレ(時雨と書くらしいが、異国の字なので読めない)。
蒼い髪と灰色の瞳の、ヴィラヌスと気が合うらしい、思慮深い少年はソールディン。
この他にあと四人いるらしいが、そのうち二人は『任務』のため出張中だと皆は言った。
もう二人は、事情あって、長期にわたっていないそうだ。
また、死や事情によって、欠けたメンバーがいる、とも。
「これが、これから貴公と日々を共にする仲間だ。よく覚えておくと良い」
そう、クィリは言っていた。
その日。慣れた固い土の上ではなく、森のふかふかした落ち葉の上で。実用重視のマントにくるまりながらもフルージアは寝た。一人でいるのとは違う環境。誰かがいる、側にいる。
それがとても安心できて。幸せの中、彼女は眠りに落ちた。
クィリだけは最後まで眠らず、木々の隙間から星々を眺めていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆