ダーク・ファンタジー小説
- Re: Change the world ( No.83 )
- 日時: 2018/04/06 23:04
- 名前: 和花。 ◆5RRtZawAKg (ID: qU5F42BG)
39話 時には息抜きも
「よし、次だぜ!」
フレイはジェットコースターへのワクワクが止まらないらしい。
昔からそうだったよな。こういうのを待っている間、お前はまるで欲しいものを買って貰える時の小さな子供みたいにテンションが上がるのは。立場を考えないのは。
「シートベルトの確認のため、スタッフがお客様の元に向かいます」
スタッフと思われるお兄さんがシートベルトを固くしめる。
これだけしめれば落ちることはないだろう。
ブザーがなった。いよいよ始まるらしい。
「みなさん、今日はご来場ありがとうございます…」
そこからこのジェットコースターの説明が始まった。
…地味に長い。きっとこのせいであの長い行列ができてしまうのだろう。
「良い旅を!」
俺にとっては『酔い旅』だがな。
ゴゴゴゴ、という音がしたと思うと、機体が動き始めた。
早速目の前に大きな登り坂が見えてきた。
ゆっくりと上がり、坂の頂点で止まると一気にスピードを出し下った。
その勢いで一回転もし、もう一つの坂を上がる。
「もう、ダメだ…」
「ちょ、おい! どうしたんだよ?」
酔いが最高潮まで達した。
やはりこのようなジェットコースターは俺には無理だった。
気がつけば、ジェットコースターが終点まで付いていた。
「お前、そういえばこういうのダメだったな… ゴメン」
「次こんなことしたら、後がないと思えよ…」
「…はい」
機体から降り、外に出る。まだ、少しふらふらとする。
俺のふらつきを見たためだかわからないが、フレイはより反省してるように見えた。
「少し休憩したらどうだ?」
「そうだな… あそこのベンチででも休んでるか」
近くにあった海の見えるベンチ。
そこに俺は座り目を閉じる。
涼しい潮風が頬に当たる。その気持ちよさは孤児院にいた頃を思い出す。
少し休もう。ここなら静かだし落ち着ける。
そして俺は座りながら寝た。
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フレイがこっちに戻ってきた時、レオンはいなかった。
フレイ曰く、休憩しているとのことらしい。
ジェットコースター… きっと酔ったんだな。絶対そうだ。
「自分で運転するか、慣れた乗り物以外は酔う」って前に言っていたような気がするもの。
「お〜い、オリガ?」
「ん? なに?」
「あれ、乗ろうよ」
フレイヤが指をさした先にあったのは、クルクルと回るコーヒカップ。
なんだか、とてつもなく早く回りそうで楽しそうだった。
「いいよ、でも次は私が指定するね」
コーヒカップの列に並ぶ。
相変わらず、ここに来るお客さんは多い。さすが世界一。
並んでいる途中にコーヒカップを見ると、ありえない速さで回っているのもあった。
人の力であれほどまでできるとは…
なんだか肩が震えている。
震えている右肩にはフーが乗っていたはずだ。どうしたのだろうか。
「どうした、フー?」
「ワゥ…」
あんな回転したら、吹き飛ばされそうで怖いワン。
そう言っているように感じたのはきのうせいだろうか。
「怖いんだね?」
「きゅぅ…」
フーはいつもよりも元気がなかった。
よほど吹き飛ばされるのが怖いのだろう。
どこか、安全な場所はないだろうか…? ん?
急にフーがジャンプして地面に降り、どこかへ走って行った。
吹き飛ばされるのが怖いみたいなのに、高い所からのジャンプは怖くないようだ。
走って行った先にいたのは、シド。
フーは得意なジェスチャーを使ってシドに来た理由を伝えているみたいだった。
その必死に何かを伝えようとしている姿はとても可愛らしかった。
どうやら無事伝わったようだった。
シドはフーを肩に乗せフレイと共にどこかへ行ったみたいだった。
「オリガ、あそこにしよ〜」
「あ、うん! いいよ」
フレイヤが声をかけてきた。
気がつけばもう私達が乗る番になっていた。
フレイヤが指定したコーヒカップは、先程ありえない速さで回っていたコーヒカップだった。
見た目は他のと変わりない。しかし、腰元あたりにシートベルトがある。差込口へ差し込むとカチッと音が鳴った。これでシートベルトは完全に着用できただろう。
安全確認のため、スタッフのお姉さんがやって来た。
コーヒカップの扉を閉じると共に、話しかけられた。
「このコーヒカップは回しすぎ注意ですよ。先程のようになってしまいますので。…と言ってもここに乗ったという事は、最速を味わいたいということですよね。くれぐれも気をつけてくださいね」
スタッフのお姉さんが操縦室へ戻ると、ブザーが鳴った。
「みなさん、今日はご来場ありがとうございます!くれぐれも回しすぎにはご注意くださいね。では、開始です!」
ファンシーな曲が流れると共にコーヒカップが回り始めた。
早速、フレイヤは中央にある銀色の円形をしたハンドルを回し始める。
「最高まで回していいよね?」
「もちろん! だってそのためにここにしたんでしょ?」
「えへへ、ノリがいいねオリガは〜 ミントもいたら、もっと楽しかっただろうな…」
フレイヤがボソッと呟く。大がつくほどの親友だったミントのことを。
毎回、ミントの事を思うと『なぜあそこで自らを犠牲にしてあの魔法を唱えたのか』という疑問がわいてくる。
確かに、ミントがあの魔法を使わなければ緑の国は滅んでいただろう。でも、それ以外に方法はなかったのだろうか。
いつもそうだ。戦いの結末を迎えると共に過ごしたり、戦った誰かがいなくなる。
院長も、女王様も、ジンくんも… みんな私達を残していなくなってしまう。家族だってそうだ。
その時人は『そういう運命だったんだから仕方ない』とか『あの人のおかげで今生きていれているのだから頑張ろう』とか前向きになろうと言ってくることがある。でもそれって言い訳だと思うんだ。
運命にだって抗えるし、他の方法がきっとその時は思いつかないだけでもっとあると思う。なのにいなくなってしまった人達をそんな風に言うのは、なんだか生かされた者としてずっと嫌だった。
なぜ皆が生きていられる結末を選ばないのだろうか。
「お〜い、大丈夫?」
「ん?」
「ボーッとしてたから」
「…考え事、してたの」
「今はこの旅で滅多にない、思いっきり遊ぶ時だよ。何にも考えないで弾けようよ。ずっと考えてたり、悩んでたりすると、気づけたり、変えられたりした事とかできないで終わっちゃうよ… だから、ね?」
フレイヤにはフレイヤなりの考えがあるようだった。最後の一言から伝わってきた。
「そうだね… さて、遊ぶぞ!」
「おー!」
先程の速さを超える勢いでハンドルを回しコーヒカップを回した。
降りた後にスタッフのお姉さんから聞いたが、歴代最高速度が出ていたらしい。そのため入場料無料券をもらった。もしここへ来る時があったら使ってみよう。
次に私のリクエストで、乗り物型のシューティングゲームをやった。機体に備わっている銃のおもちゃから出る光線を、周りにあるモンスターの動く人形にある小さな的に当てるという簡単な物だった。ペアで乗ると1vs1ができる仕組みになっているようでフレイヤと得点を競う事になった。
結果はもちろんフレイヤの勝ち。さすが、2丁拳銃を操り百発百中のフレイヤ。降りた場所にある得点板に載っていたフレイヤの得点は私を含めお客さん、スタッフさんが驚きを隠せないぐらいのものだった。ここでもフレイヤは歴代最高得点を取ったらしくまた入場料無料券が貰えた。後に、この出来事がこのゲームの常連達の間で伝説として語り継がれていくらしい。まぁ、後ろにいたお客さんが言っていたのだが…
その後は、レオンを除いたメンバーで様々なアトラクションを楽しんだ。お化け屋敷でのシドの対応、ジュリィの反応は忘れられない。
「はぁ… 疲れた…」
「私はバリバリ元気だよ〜」
「オレも多分このメンツじゃ一番アトラクションに乗ってるけど疲れてないぜ」
なんだこの兄妹は。数百ともあるアトラクションで乗っていないものが残り3つほどとなったなかでもバリバリ元気だ。疲れというものを知らないのだろうか…
「アタシもまだ行ける」
「僕もあんまり乗ってないから大丈夫だよ」
この2人はまぁ、あんまり乗っていないのだから大丈夫だろう。
それにしても今日1日の疲れがバッと出てきた。どこかで休みたい。
「休んだら…?」
「そうしたいけど、そんな場所あったっけ?」
「今もいるかわかんねぇけど、レオンが休んでるエリア5には海の見えてベンチが置いてある休憩所があったはずだぜ。近いからどうだ? あと、様子見てきてくれっか?」
「了解… あとは任せたよ〜」
エリア5の休憩所… あそこだろうか。
気がつけばもう夕方。街灯の明かりがつき始めるか始めないかぐらいの時間になっていた。
潮風が気持ちく、水平線に太陽が沈み始めオレンジ色と夜空の色が混ざり合い幻想的な環境のなか、レオンはベンチで1人で眠っていた。
「寝てる…?」
目を閉じ、静かに寝ている。近くにマジックペンでもあったら落書きしてやりたいぐらいに静かに無防備に寝ている。しかし、疲れが出ている現在の私には、そんな気力もなかった。
とりあえず、そろそろエリア1に戻らないといけないから起こしておこっと。
「お〜い」
無反応。相変わらず寝ている。
「お〜い、起きてよ」
まぶたが少し動いた。こいつ、もう起きているな。なんならさっさと起きないだろうか。
「…起きないと、ふふっ」
「…悪かったな」
やっと目を覚ましてくれた。とりあえず、隣にでも座っておこう。本来は休みにここへ来たのだから。
胸がドキドキする。2人っきりになった事なんてあまりないしなんと言ったって…