ダーク・ファンタジー小説
- Re: Change the world ( No.86 )
- 日時: 2018/04/17 21:38
- 名前: 和花。 ◆5RRtZawAKg (ID: qU5F42BG)
42話 里の案内人
召喚士の里。それは、十数年前に廃墟となってしまった里。
そして、ミントの本当の故郷。
その場所に俺達は今立っている。
木々の隙間から漏れる星や月の光で辺りはなんとなくわかる。
家は屋根が崩れていたり、半壊していたりと様々。壁には蔦が生えていたりもする。
道は石レンガで作られているようだが、苔が生え隙間から雑草が溢れていて歩きにくそうだった。
奥にある広場であったであろう場所にある噴水の水は枯れ、人気が全く感じられない
はずだった。
「動いた…?」
シドが壁が少し崩れている家の方を見る。
目を凝らしてよく見ると、茶色い尻尾が見える。
「とりあえず、行ってみようよ〜」
モンスターかもしれないため、慎重に近寄っていく。
歩くと雑草が音を立て揺れてしまった。それに気づいたのか尻尾が動き、顔が見えた。
子供のような外見で、金髪の右側を編み込みにしたストレート。耳が尖っている。
…目が合ってしまった。
「!?」
「あ…」
尻尾を持つ子供はすぐに剣を取り出し構えた。
子供のような外見に尻尾… クロエルだ。
クロエルが一歩こちらへ踏み出そうとした時、フレイヤが前に飛び出し叫んだ。
「ちょっと待った〜!」
クロエルが驚く。
「私達は敵意ありません! ほら、構えてないでしょ」
クロエルが俺達を見る。
そして、手にあった剣が姿を消した。
「ここに何しに来たの?」
クロエルが初めて喋った。その声はまさに子供の声だった。
「幻獣界へ行くためにここにやって来たの。あと、個人的な話になっちゃうけど、帰郷ってところかな」
オリガにも召喚士の血が流れており、遠い昔に祖父母に会いに家族でここへ来たことがあると前に話していたことを思い出す。
本当の故郷に帰る…ってどんな気持ちなんだ?
俺は幻獣界の民だと書かれていた。しかし、正直なところ孤児院へ来る前の記憶が無い為本当なのかわからない。でも、もうじき幻獣界へ行く。そこの王のオーディンなら俺の事がわかるかもしれない。わずかな希望を抱く。
「敵じゃない?」
「最初っからそうさ。お前から仕掛けたんだろうが…」
「ごめんなさい、おばさん。ここへ来る人間達、いつも襲ってくるから…」
「あ、アタシが… おばさん…」
19歳にとってその言葉は衝撃的なものだっただろう。
…俺もそう言われたらさすがにショックだ。
「ま、それは置いといて。どこか休める場所はないかい?」
「それなら、ここ。他、危ないから」
それは、クロエルが隠れていた家だった。
中に入り、転がっていたランタンに火を灯しそれを囲むように壁に寄りかかり座る。
クロエルの名はヴェルと言うらしい。
年は外見よりももっと上で、俺達よりも700歳ぐらい上らしい。
さすがモンスター。長生きなヤツはほんと長生きだ。
それを聞いてジュリィは「お前の方がよっぽどおばさんだろう」と思ったであろう。
…しかし、外見だとヴェルの方が若く見える。 …外見だと。
「『他世界への鍵』を持ってるって言ったね」
「幻獣界へ行くには、必要だからな」
「それを持っていて輝きを失ってないなら、幻獣界へ行けるよ」
ヴェルがジロジロと『他世界への鍵』を見つめる。
珍しいものなのだろうか… 他の宝石と変わらないような気がするが。
「力、取り戻した方がいいかもね」
「力?」
「そう。輝きがあっても鍵の力がなければ行けないよ。狭間に行っちゃうかもしれないからね」
「どこで力を?」
「今日は疲れたから明日。案内してあげる。ヴェルはここの案内人だから」
とりあえず、幻獣界へ行くのは後になりそうだった。
ランタンの火を消し、眠りにつく。
今日1日だけで、いろんな事があった。この旅はあとどのぐらい続くのだろうか。
世界の平和を願うのなら早く終わってしまった方がいいかもしれない。だが、この旅が終わったら皆それぞれの道へと歩んでしまう。せっかく会えたのだからまだ一緒に話したり遊んだりしていたい。
まだ、旅が続くことを願って俺は眠ることにした。
- Re: Change the world ( No.87 )
- 日時: 2018/04/20 18:54
- 名前: 和花。 ◆5RRtZawAKg (ID: qU5F42BG)
42.5話 シドとジュリィの思い
正直なところ、僕はこの場所で深い眠りにつくことはできなかった。
静かで月光が綺麗な場所なのに何でだろう。座っているから?
とりあえず、歩いて体でも伸ばしてリラックスしよう。
眠りを妨げないように静かに立つ。崩れた壁から外に出てみた。
石レンガの道を歩いていく。雑草が生えているため少し歩きにくい。
石レンガの道に沿って建てられている家は、人が住めるような物ではないぐらい崩れたり、壊れたりしている。
なんとか壁が崩れているぐらいの程度の家もあり、休み所ぐらいならできそうな場所もあった。しかし、安全の保証はできそうにない。
壊れ具合から見て、この里は植物などの生き物を除いて滅びた当時のままに近いようだ。
でも、生き残った人がいた様な形跡がない。もしかして滅びた時に全員… あるいは…
『私が孤児院に来る前… 院長に助けられた時、私以外、里に人がいなかったって聞いたことがある』とミントが前に言っていた。
里の者はいったいどこへ…?
そうこう考えているうちに、大きな木のある場所に辿り着いていた。
ここだけは他と違い、雑草は生えていなく、壊れて危険な場所もない。
森に囲まれた草原は月光により輝き、夜とは思えないほど明るい。
その草原の真ん中に里を見守っているかのようにたたずむ巨大な神木。葉の一つ一つが風で揺れ、様々な個性を引き出していた。まるで、人間かのように。
「大きい…」
「そうだな」
「う、うわっ!?」
急にかけられた声に驚く。
後ろを向くと、ジュリィが立っていた。
「そんなに驚くことしたか…? アタシ…」
「背後に急に立たないでくださいよ…」
「急に? …ずっとついてきていたんだが」
「ま、まぁ、ともかく! ジュリィは何しにここへ?」
「目ぇ開けてみたら、シドがどっか行くのが見えてな、気になったからついて来ただけさ。…アンタこそなんでここに?」
「ただ探索していただけです。眠れないので…」
「へぇ〜」
ジュリィが神木を背に地面へドサッと座る。
すると光の粒が少し舞い上がる。
「この光… なるほどね」
ジュリィはボソッと呟く。何かわかるのだろうか。
「なぁ」
「なんだい?」
「アンタはどーいう目的で旅してんの? 敵は母国なんだろ?」
どういう目的? それは…
「……」
「フクザツなんだな、アタシは10代最後ってことで楽しむって目的で旅してっけど。
…と言うのは表向き。裏は、アイツらが心配だから見守るっていうかサポートするつもりで旅してんだ。親友との約束だから。」
初めてジュリィの本当の思いが聞けたような気がする。
レオンに聞いたところ、ジュリィと孤児院メンバーは小さい頃から家族同然の付き合いらしい。
「小さい頃はみんな純粋で可愛かったのにな…」とジュリィが呟いたのを聞き逃さなかった。
小さい頃から接してきていた彼女には、『年上』という立場だからこそのいろいろな思いがあるのだろう。
それは、責任とも言えるかもしれない。
…責任か。
「うまく言葉にできませんが、僕は、帝国を止めるつもりで旅をしているんだと思います。あそこまで技術を進歩させたのは僕ですし、実は… 僕の母は皇帝と再従らしいんです。それに、皇族の血を引いて今生きているのはいるのは僕と皇帝のみ。でも皇帝は操り人形同然。だから、同じ皇族の血を引くものとして、皇帝を楽にしてあげたいんです。だって本当は皇帝は… もうこの世の者ではないんですから。」
「なんかいろいろありすぎて、頭パンクしそう… とりあえず、アンタも責任ってもの、感じてるんだな」
「レオン達が孤児となってしまう原因を作ったのは帝国ですし、もう僕以外の帝国府関係者はパナソのものとなってしまっていますから。あ、僕の後輩はまだ本当の事を知っていませんが。だから帝国を正しい道へと戻すことができるのは、本当のことを知っている僕しかいないかと思いまして」
リガンにシトリー… みんな同期で昔はワイワイやっていた。仲が本当に良かった。
時に皇帝… いや、パナソが残虐な進軍命令や任務を下すことがあった。いくらその命令が国のためとなろうと僕達は反論して中止するように求めた。いくら特殊部隊でも罪なき人々の命を奪うのは心が痛む。
でも、ジンが帝国を抜けたあたりからみんな人が変わったかのように任務を遂行するようになった。会話も減って合う機会も少なくなった。きっとこれにはパナソが関わっているのだろう。
もう、僕しか帝国を正しき道へ戻すことができないかもしれない。
だから、レオン達と共に帝国を止めるために旅をしているのだろう。
「重いもん背負ってんのは一緒なんだな」
「ですね」
「でもさ、こーいうのできんのあんまないよね。未来なんてどうなるかもわかんないし。ただ… 今を全力で楽しんで生きないと、さ」
未来の保証なんて誰にもできない。後のことなんてどうなるかわからない。
それだからこそやることややりたいこと全てやって全力で楽しんで生きる。
それがジュリィの思い。そして覚悟。
僕だって半端な覚悟や思いでここまでやってきたわけではない。
でも、全力でやるまでもしていなかった。
なぜなら、全力でやった結果が、今の帝国なのだから。
…僕は恐れていたのかもしれない。
未来が悪い方向に行ってしまうかもしれなくて、思いっきり全力でやることを。
…このままじゃいけない。
みんな、平和な未来を望んで、これ以上悲しむ者が出ないようにするためにここまでやっている。僕も平和な未来を望んでここまでやってきたんだ。
「決めました」
「…何を?」
「全力でやることをです」
「…ふ〜ん。深くは聞かないけど、固まっているんだな」
ジュリィは全てお見通しだったかのような態度だった。
これで僕の悩みは晴れた。すっきり前へ歩いていけそうだ。
…そうすれば、きっと…
「さて、戻りましょうか」
「戻ったらヴェルとか起きてそうだな」
気がつけばもう、朝日が昇る時間帯だった。
草原の輝きは失せていない。まるで、人々が抱く希望のように。
結局、眠れなかったけどいっか。
こうして全力でやっていくのは、あの頃のように楽しいから。