ダーク・ファンタジー小説
- Re: Change the world ( No.88 )
- 日時: 2018/04/23 21:22
- 名前: 和花。 ◆5RRtZawAKg (ID: qU5F42BG)
43話 懐かしい音色
「ヴェルは迷わないし、1人でも大丈夫… 行くよ」
ヴェルに俺達はついて行く。
見た目は俺達よりもずっと子供に見えるが、豊富な知恵、常識などからずっと年上だと改めて感じる。
しかし、『1人でも大丈夫』という言葉から少しの寂しさも感じる。
その寂しさは、俺がここにいる誰よりも知っているものだろう。
「何かあったら僕達に言ってくださいね」
シドの言葉にヴェルはこちらに振り向く。
「ヴェルは本当に大丈夫なんだから! そんなこと言っていられるのも今のうちだからね」
「後ろ… 」
「え? うぎゃっ」
傾いている木の枝に前を向いたヴェルがおでこをぶつける。
…全然大丈夫じゃないだろう。
「うぅ… いてて…」
木の枝が太かったため、よほど痛かったのだろう。若干涙目になっている。
それに気づいたフレイヤはヴェルに近づきぶつけた所を撫でて
「痛いの痛いの飛んでけ〜」
と言いつつ傷薬を塗る。
少し赤みを持っていたおでこが元の色に戻り始めた。
「少しスースーする…」
「緑の国産なおし草の傷薬だよ〜 少しスースーするけど、それが消えたら痛いの消えるから」
「…ありがとう」
お礼を言うとすぐ前へ向き直り、進む。
ヴェルは痛みには弱いらしい。
少し歩くと、道と同じ石レンガで造られた小屋のようなものについた。
小屋は4方位が入り口となっており北側のずっと先には大きな神木があるのがわかる。また真ん中に祭壇のようなものがあって祭壇の天井だけ屋根がない。
お昼12時ごろになれば太陽が、夜0時ごろになればちょうど月の光が入る設計となっているのだろう。
「ここだよ、ちょっと待ってね」
ヴェルが背負っていたミニリュックから何かを取り出す。
その何かは3つに分かれた金の細長いもので、組み立てると
「フルート?」
木管楽器に分類されるが今は金属で作られている楽器… フルートだった。
「そうだよ。これでとある曲を吹くの」
「銀メッキじゃないのか?」
「フルートは銀以外に、銅、金、プラチナなどがあって素材が変わると音が変わるの。この里でずっと使われてきたのは金色なの」
そう言うとヴェルは「音出ししてくる」と言ってどこかへ行ってしまった。
「最近吹いてねぇな…」
フレイがボソッと言い放つ。
孤児院にいた頃、フレイはよく緑の国に住む人々の手伝いをしていた。
働き者な性格のせいかわからないが手伝いはすぐ終わってしまい、暇だと俺によく言ってきていた。
それを見た院長はフレイにある楽器を買って与え、教えていたのをよく覚えている。
時に変な音が聞こえて笑っていたら怒られたっけ。
「なんだっけ、お兄ちゃんが吹いてたの」
「サックス。まぁ、オレが吹いていたのはサックスの中で2番目に音が高いアルトサックスだけどな」
「よく変な音鳴ってたよな…」
「リードミスはしょうがねぇんだってば! 木管楽器なら誰でもなっちまうさ」
「フルートはなっていないっぽいけど…」
「あれはエアリード式つって、アイスの棒みたいなの使ってないからなんないんだ。使ってないぶん難しいらしいけどな…」
フルートの音色が聞こえなくなった。
「お待たせ。きっと大丈夫だから吹くね」
ヴェルは祭壇に立ち、北側を向き吹き始めた。
暗くも明るくもないなんだか懐かしく感じるメロディ。俺は… 聞いた事ある…?
なめらかでビブラートのかかったその音が里中に響く。ただ、フルートの音色だけが。
最後の1音の余韻が消えたと同時に、地下へと続く階段が音を立てて現れた。
「じゃあ、行こう」
ヴェルはフルートを片付け、再び俺達を案内してくれた。
- Re: Change the world ( No.89 )
- 日時: 2018/04/28 00:09
- 名前: 和花。 ◆5RRtZawAKg (ID: qU5F42BG)
43.5話 生命の輝き
階段を下りると、1本道となっていた。
道の両端は水路となっており、壁にはハイランドにあった部屋のように松明が均等についている。
また、光の粒が空中を漂っている。何かに引き寄せられているみたいに。
「この光の粒の正体って…」
「人間や動物、モンスターが神のもとへ旅立つ時に現れる光だよ。ヴェルとかは『生命(いのち)の輝き』って呼んでる。理由はなんだっけ… 覚えてないや」
今回はちゃんと前を向いて話すヴェル。よっぽど痛かったのだろう。
生命の輝き… 俺達はこの旅でどれぐらい見てきたのだろう。見届けたのだろう。
見るたびに誰か、あるいは何かを失っていた。だからこの光を見ると、胸が苦しくなる。
生命のように輝かしい光の粒。それが理由のはず。
俺は、なんで知っているんだ?
「ついたよ、あの滝に他世界への鍵を入れて」
先ほどとは違い、人工物が1つもなさそうな場所に着いた。
天からは神木の根が垂れ下がって、浅い湖に少し先がついている。
どうやら湖は海からの水が流れ込んでいるらしく、奥は3メートルほどの滝となってそこから太陽の光が入り、湖が反射することでこの幻想的な空間を作られているらしい。
「服、濡れちゃうな」
「大丈夫だよ、おばさん。ここら辺の水はちょっと特殊な水だから。」
「…おばさんじゃないって言ってるだろ…」
湖に足を踏み入れる。
水に入ったという感覚はあるものの、濡れている感覚は全くない。
これはきっと水属性の幻獣の加護があるためだろう。
ということはここの近くの海にその加護をもたらす幻獣… ウェンディーネの魔石があることとなる。
気配がするという事が俺の中で根拠となっている。
さっきからちょっと俺、自分でいうのもアレだが何かおかしい。
ヴェルのような過去を知る者しか知らない事、幻獣の気配とかが歩き進むとどんどん正確にわかってくる。
生命の輝きが俺をそうしているのか? あるいは俺が思い出しているのか?
…ヴェルなら知っているかもしれない。
「ヴェル、ちょっといいか…」
フレイ達に素早く手順を教え、ヴェルがこちらに走ってきた。
「何?」
「実は、ここへ来てから知らないはずの事とか、幻獣の気配とかがわかるようになってきているんだ…
これっていったいなんなんだ?」
ヴェルは「まさか…」とつぶやく。
「お兄さん、もしかして幻獣界の民? それしか考えられない…」
「そう、らしい。詳しくはわからないが…」
「そうか、多分原因は生命の輝きを体内に取り込んじゃっているんだよ。意識ないみたいだけど」
「意識はしてない。なぜ…?」
「もしかしたらのもしかしたらなんだけど、確率はかなり低いと思うけど、幻獣の血が流れてたりするのかも。そのお兄さんの体に。幻獣って生命の輝きをもとにして作られた道具、じゃなくて生物なの。だから幻獣は生命の輝きを体内に取り込む事でいろいろな事を知れたり、体力の回復ができるの。でも、はっきりとした原因はわからないな… ここから出て休む?」
「いや、大丈夫だ。もうじき幻獣界へ行ける。そこで全てがはっきりするからな」
「うん、わかった。もうちょっと我慢してね」
幻獣界へ行けば、きっとわかる。俺のほとんどが。
そう思うと、『頑張ろう』とか、『やっとだ』いろんな気持ちが入り交ざった気持ちになってくる。
でも、一番は安心した気持ちだ。
なぜならヴェルから見て俺は、『お兄さん』だったから。