ダーク・ファンタジー小説
- Re: Change the world ( No.93 )
- 日時: 2018/05/12 00:36
- 名前: 和花。 ◆5RRtZawAKg (ID: qU5F42BG)
45話 覚悟と思い
扉の向こうに広がっていた場所は、前に夢のような感覚でオーディンと会った時と同じ光景だった。
長い白い布の敷かれたテーブルの左右にある椅子は誰もおらず、寂しい印象を受ける。
「よくぞ来てくれた、若者達よ」
奥に立っていたオーディンが言う。
オーディンのその一言により、重い空気が辺りを包み込む。
「まずはここに来てくれと頼んだ理由から話そうとしよう。気を楽にして良いぞ」
そういわれても、相手が幻獣王なのだから楽にはなれない。
緑国王とは違って。
「伝えたいことがあるのだ。いろいろとな。まず1つは、お主達のその戦いに最後まで協力するということ。…まぁ、もうしておるがな」
確かに、俺達の力となって共に戦ってくれている。
1つ目は特に重要にしなくて良さそうだ。
「2つ目は帝国を操りし者のことだ。彼奴の本当の目的は、世界と世界の間にある世界を繋ぐゲートと言われておる次元の狭間の中の『狭間の世界』から神のいる次元へ行くための扉を開くことだ」
パナソの目的。それは神のいる次元へ行くための扉を開くこと。
なぜそんなことをようとするのだろうか。
「なんでそのようなことを?」
「彼奴の名は、パナソ・ホウフハ・マニプュレートという。気づいただろうか?」
「ホウフハの名を持つ… そういうことか!」
どういうことだよ。ちゃんと言葉にしてくれよ…
「昔話にあっただろう? ホウフハの一族と。一族の目的は古くから1つ。『神から与えられた使命を果たす』という事。その使命こそが『世界へ試練を与え、神を超える者を作り、扉の向こうの神へあわせる』という事なのだ。今までしてきた帝国の行いを世界への試練と考えると、お主達は帝国の行い… つまり戦いで力も能力も、ましてや思いの強さも強くなったであろう。」
「という事は… オレ達が!?」
「そう。お主達が神を超える者に選ばれたのだ。だからお主達を帝国… いや、彼奴は孤児になるよう仕向けたのだ。」
「そうだとしたら、あたしはどうなるんだ? 帝国から酷い目にもあってないし、孤児にもなっていない」
「シドとジュリィ。お主達は寄り添う者として選ばれたのだろう。この4人の者との今までの関わりを思い出してみなさい。見守ったり、支えたりする事が多かっただろう」
「確かにそうですね…」
「彼奴は全てを見通していたのだ。使命を果たせずにいると25歳で亡くなってしまう呪いから一族を解放するために」
「初めから見通していた… としても、パナソは僕達と大体同い年。レオン達をこの運命にするために仕向けるためにはかなりの歳上でないといけないのでは? とっくに亡くなっていてもおかしくはないのではありませんか?」
「彼奴は、表に出ていないだけでお主達よりも倍以上歳上だ。しかし、呪いの影響はうけていない。それは、その見通し… 作戦が神に気に入られたからだ。だから神は彼奴に永遠の命を与えたのだ。作戦が成功すれば使命を果たせ、神自身の目的も達成できるのだから。」
パナソのしてきた事は、簡単に許せる者ばかりではない。
だが、オーディンの話を聞いてパナソは、一族を苦しめてきた呪いと使命から開放すべく自分を犠牲にしてでも解き放そうとしている事が分かった。
永遠の命。憧れる者もいるだろうが、死にたくても死ねず、逃げ出したくても逃げ出せず、周りの者を何度も失い続けながら生きていかないといけない物。考えれば考えるほど、パナソの悲しみが分かってくるような気がした。
皆それぞれに正義がある。その言葉の意味が理解できたようなきがする。
「でも、なぜ魔石を集めているの〜? 私たちに与えられてきた試練はほとんど魔石… 召喚獣をつかってなかったよ」
「それは扉を開くためだ。我々の魔石をすべて集め、そこにあるという型にはめれば扉が開くと我々は聞いておる。それと同時に、主からその扉は開いてはならぬとも聞いておる」
扉を開く事は全てを司る神の目的なのに、属性を司る神… 幻獣達の主はそれを許さないと言う。
神が許さないのだから、ちゃんとした理由があるのだろう。
「なぜだ?」
「今、世界は4つに分かれている事は知っておるな。その状態で扉を開くと世界のバランスが崩れてしまい、存在が消えてしまうというのだ」
「神とパナソは知っているの?」
「神は知っておる。しかしパナソは知らぬだろう…」
「さきほど『その状態で』と言いましたよね。ならば世界が元通り1つになったら、バランスなどはだいじょうぶなのですか?」
「そうだ。だが今のところ1つになる方法は見つかっておらぬ。」
「どうすれば…」
「現在、ホウフハの一族はパナソ以外いない。つまり、パナソで最後なのだ。だからパナソを…」
「そんな事できるかよ! 同情じゃねーけど、自分を犠牲にしてでも一族のためにやってるやつをやっちまうなんてよ」
「そういえば、言っておらぬかったな。」
「え?」
「バハムートから聞いたのだが、『どの道使命を果たせば、永遠の命はなくなって身は限界なのだから死んでしまう。例え果たさなかったらこの苦しみを永遠に背負うことになる。レオン達を選んだのは、そんな自分を開放してくれそうだからだ』とパナソは言っていたらしい」
「開放してやる… か」
なんだか複雑な気持ちだ。
パナソの思いを知ってしまったからなのだろうが、俺達に頼むなんて…
「やるしか、なさそうだな」
「うん… それが思い… 願いなら。私達に託しているのだから」
「決まったようだな。3つ目を言わせていただこう。パナソをどれかにしても我々は、この戦いを最後に消える事を選んだ」
「え…」
「もう、今の時代に我々は必要ない。仮にまた同じような事をするような奴が現れても、我々がいなければこのようにはならない。だから…」
「……」
いろいろな事がありすぎて、返す言葉が見つからない。
しかし、1度覚悟を決めた者を止めるわけにはいかない。なぜなら、たくさんの思いがあって覚悟を決めたのだから。その覚悟は本人以外には全てはわからない。だが、その覚悟を受け入れる事はできる。
だから…
「わかった、俺達が扉を開く事を防いでパナソの願いを叶えてやればいいんだな」
「話のわかるやつで助かる。そうだ」
「やってやるよ。それが俺達に託されたものなんだからな」
「ありがとな。では、健闘を祈る。」
「こちらこそ。ではまた」
皆が部屋から出て行く。
俺が出ようとした時、オーディンに声をかけられた。