ダーク・ファンタジー小説

Re: Change the world ( No.94 )
日時: 2018/05/19 20:09
名前: 和花。 ◆5RRtZawAKg (ID: qU5F42BG)

46話 運命に抗え

「話したい事があるとやらを言っておらぬかったか?」
「… 忘れていただけだ。」

おっと危ない。本当に忘れていた。
なぜなら、話された事が衝撃的だったから。

聞きたい事がたくさんある。
やはりここは1番知りたいことをストレートに聞くべきなのだろうか。

1番知りたいことーーー俺と幻獣との繋がり。
それがわかれば幻獣界の民とか、生命の輝きについての事をより深く聞けるはずだ。
しかし、オーディンも俺に『話したい事がある』と言っていた。
それと俺の知りたいことは関係あるのだろうか。

「ここに来るまでの間、俺のことを『幻獣界の民かもしれない』ってヴェルとかが言っていたんだ。俺には孤児院にいた頃よりも前の記憶はない。知っているはずの人はもういない。だから幻獣王のあんたなら… って思ってな。つまり、俺と幻獣の繋がりを知りたいんだ」
「ほう、そうか」

オーディンは辺りを見回し、誰もいないことを確認する。
それほど重要なことなのだろうか。

「『幻獣界の民かもしれない』と言ったな。確かにお主は幻獣界の民だ」
「じゃあなぜ新世界にいるんだ?」

自分が幻獣界の民だというのは、薄々そんな気がしていた。
だからこそ思いつく疑問を投げかける。

「幻獣界には人間が誰1人おらぬかっただろう」

この世界に来た時のことを思い出す。
人の気配がなく、民家が立ち並ぶ静寂に満ちた夜の世界ーーーそれが第一印象でもあり、事実だった。

「この世界に人がいないのは、我々が追い出したからだ」
「追い出した? なぜだ?」
「お主達に言った通り、我々は消えることを選んだからだ。この世界は幻獣がいる事で成り立っている。つまり我々、幻獣が消えるということはこの世界が消えるに等しいのだ」
「残された人々はどうなるんだ?」
「世界が消え、残された人々は狭間の世界へ行き着くがそこから出られなくなる。要するに、その残された人々のために追い出したのだ」

救われた、と言っても過言ではなかった。
もしかすれば、などとこの話を聞いたことで少ない希望を持てた。
残された人々が新世界にいる。ということは両親に会えるかもしれない。
普通に旅が終わっても暮らしていけるかもしれない。

「しかし… お主は消える可能性がある」
「……え?」

その希望は、すぐに壊れてしまった。
俺が幻獣が消えるのと同時に消える可能性がある……?

いや、『可能性がある』と言っているだけだ。
言動からすると、消えないという事もあるとも言っている。
ただ、言われたことについて受け入れられない。

「なんでだ?」
「それを話そうと思ってここへ呼んだのだ。すぐに信じてはくれなくてもよい。ただ、受け入れてほしい…」

すでに前に言われたことが受け入れられないのだが。

オーディンは一息吐くと意を決したように言う。

「お主は……我と血が繋がっておる」

『血が繋がっている』という事は俺の親族と言うことになる。
確かにすぐには信じられるようなことではなかった。幻獣と人、種族は違うのにそのような事はあり得るのだろうか。
いや、あり得る。竜人という人と竜の血を引く種族がその証拠だ。

「正確に言うと、お主は我の息子だ。そのためだろうが、お主の体には幻獣の血が濃く流れている」

血。話を聞いて思い出す。シドに初めてあった時のことを。
かなりの重傷を負ってジンにより、雪の国のシドの診療所とも言える小さな家に運ばれた。
意識が朦朧としていて詳しくは覚えていないが、出血が酷く輸血しないといけなかったらしい。
しかし、俺の血が珍しく2種類あり、片方の物しかなかったとのちに聞いた。
きっと片方の物は人間の血の事であり、なかった物が幻獣の血なのであろう。

そう考えるとオーディンの話したことに説得力がつく。まぁ、幻獣王なのだから真実なのであろう。

「他の幻獣の民は消えないのか?」
「幻獣の血を引いているのはお主のみ。幻獣の民とは新世界、古世界から迷いやってきた者でここに住むことを選んだ者のことを指す。全ての幻獣の民が幻獣の血をひいているわけではないのだ」
「つまり、俺が幻獣の血をひいているから消える可能性があるんだな」

オーディンは静かに頷く。
もし、俺が消えたらどうなるのだろうか。消えた時、感情や記憶も失ってしまうのだろうか。
ただ確実にわかるのは、オリガとの約束を守れないこと。

「約束……守れないな」
「そう決めるのはまだ早い。我は『可能性がある』と言ったのだ」

全てが決まったわけではない。なのになぜ諦めようとしていたのだろう。
そんな自分が悔しくて目線を伏せる。

「消える運命、かもしれぬ。だがその運命に抗おうとする力こそが人間の力であろう」

オーディンが俺を励まそうとしているのが伝わってくる。
『運命に抗う』、響きだけでなぜだかかっこいいと思ってしまう。まぁ、それは置いといて。
目線を戻し、俺の思いを伝えようと声を出そうとした途端、

「やる気になりおったな。運命とは抗えるもの。お主の力見させてもらうぞ」

目を見て伝わったのだろうか、小さく微笑み言った。

「最後の最後までちゃんと見てろよ、今まで見なかったぶんな」
「もちろんだ」
「じゃ、俺、行くから」
「行ってらっしゃい」

最後の言葉には何やら温もりを感じた。
ちゃんとゆっくり話せるのはこれが最後かもしれない。でも、思いを伝えることができた。そのことだけで満足だ。

後ろにある大きな扉を開く。その先には未来に無限の可能性があることを示すかのように明るく、眩しかった。
まるで勇気づけるかのように。
しかし『消える可能性がある』という事をみんなに言う勇気はない。特にオリガには言えない。
だってオリガの思いを聞いてしまったのだから。
複雑な気持ちを胸に、扉の奥へ踏み出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

誰もいなくなった部屋にただ1人佇むオーディン。
ここに残されているのは冷たい夜空と無機質な大理石。そして、息子ーーーレオンの思いという名の覚悟。
彼にあの事を言って良かったのだろうか。それは言ってしまった今でもよくわからない。

『真実は言ってしまった方がいい。人はそこから進もうとするから』

誰もいないはずなのに、愛する妻ーーーレオナの声が聞こえたような気がする。
いつもそうだ。困った時、つまづいた時に彼女の声が聞こえたような気になる。それはきっと胸に刻まれ、記憶に残っている言葉だからだろう。
彼女はオーディンにとって大切な人であり、支えてくれた人でもあった。
種族は違う。あの頃はそんな事どうでも良かった。
ただ、彼女のそばで……

そこで不意に思う。彼にもそのような人がいるのだろうか。
言動からするにいるのだろうと思える。それが仲間なのか、大切な人なのか……
気になるが彼も年相応の事をしているのだと思う。

「レオナ…… そちらへ行くのはもう少しだけあとになりそうだ。見ているかはわからないがそちらへ行く時は、とびっきりの土産を持って行こうと思う。それまで寂しい思いをさせるが、待っていてくれ」

オーディンは満月に向かって語りかけた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今回から『ー』(ダッシュって言うんだっけ…?)を使いたかったのですが、そのような形状の物がたくさんあってわからないためよく「ソーダ」などで使う『ー』を使う事にしました。
『ー』が三つ連続で使われている時は、本来ならダッシュを使っているところです。
もしキーボードのどこを押せばいいか知っている方いましたら、コメントお願いします。