ダーク・ファンタジー小説

Re: アビスの流れ星 ( No.13 )
日時: 2017/09/06 19:30
名前: Viridis ◆vcRbhehpKE (ID: fuzJqlrW)




フミヤの日記・1



【10月6日】
 今日は蛇のようなレイダーが相手だった。蛇のようなレイダーの尻尾が私に向かってきたとき、マツヤマさんが咄嗟に拳銃の引き金を引いて、尻尾を弾き飛ばしてくれた。後で私に怪我は無いか心配してくれた。やっぱり、根は優しい人なんだなと思う。そして、後でアイカワ隊長に褒められて、口では「別に」と言いながらも顔を赤くしてうつむいていたのが可愛かった。

 戻ってきてから、アルベルトさんとミズハラさんが話しているのを見かけた。なんでも、アルベルトさんが大好きな作品のひとつに、ミズハラさんが好きな曲が使われているのだそうだ。タイトルも教えてくれたので自分で調べてみると言ったら、ミズハラさんが今度CDを貸すと言ってくれた。楽しみだ。ウォークマンに入れておこう。

 今ではCDもウォークマンも珍しくて滅多に手に入らないけれど、アビスが出現する前まではごくありふれたものだったらしい。どんな世界だったのだろう。
 もしもレイダーが居ない世界だったなら、色んなCDを聴いてみたり、他にももっと色んな珍しいものを見てみたいと思う。
 けど、そんな平和な世界でも、第一部隊のみんなとは仲間で居たいな……なんて、考えてみたりする。



【10月7日】





【10月8日】
 私のせいだ。私のせいで皆死んでしまった。私こそ死ねばよかったのに。最低だ私は。死ねばいい。私なんて死ねばいい。私が死ねばよかったのに。どうしていつもあんな良い人たちが死ななくちゃいけないんだ。なんで私の周りでは皆死んでいくんだ。私は悪魔だ。まるで悪魔だ。私のせいで皆死んでいく。私なんかいなければいいんだ。私に自殺するほどの勇気があれば良かったのに。醜い。こんなものいなくなればいいのに。生まれてきてごめんなさい。生きててごめんなさい。死ね。私なんか死ね。死ねばいい。いちばん悲惨な死に方で死ねばいいのに。ぐちゃぐちゃに潰されて原型も留めなくなって死ねばいい。私なんて。生きてる価値もないのだから。生きていたってみんなを殺してしまうだけだ。みんな私のせいで死んでいくんだ。私は最低だ。こんなことになっても、まだ自分で自分を殺していない。私なんて死ねばいいのに。どうして生きているんだろう。



【10月9日】
 明日、新しい隊長が別の支部から来るそうだ。
 それまで私も任務に出ず待機するようにと言われている。
 一人で勝手に出て行ったらレイダーに殺されて死ねるだろうか。



【10月10日】
 新しい隊長は最悪だった。何が大佐だ。わかってるよ全部わかってるよ。全部私のせいだよ。言われなくたって全部わかってるんだよ。なのに無神経にずばずば立て続けに言わないでよ。おかげでびっくりして何も言えなかった。いくらお偉いさんでも、アイカワ隊長とは大違いだ。どうしてあんなふうに人を傷つけることを平気で言えるんだろう。何も考えていないのだろうか。ふざけんな。いくら偉くたって大切なものが欠けてる。きっとあの人とは仲良くなれない。ばかみたいだ。なんであんな人が新しい隊長なんだろう。ばーか。

 悔しい。全部新しい隊長の言うとおりで、何も言い返せなかった。全部向こうの言っていることが正しいのに、私は逆恨みしている。なんなんだろう、私は。次はあの人までも死なせてしまうのだろうか、私は。



【10月11日】
 今日は前の4足歩行でタコ頭のレイダーと、姿を消せるレイダーが相手だった。
 四足歩行のレイダーが、実はタコ型のレイダーと4足歩行のレイダーの2体だったなんてびっくりした。あの時それに気がついていればアイカワ隊長やみんなは今も生きていただろうか。

 2人だけで任務に行くのもわけがわからなかったのに、私を残してシドウ大佐が自分からレイダーの口に飛び込んでいったときは心臓が止まるかと思った。せめて最低限、作戦の内容ぐらいは事前に教えて欲しい。ほうれんそう、報告、連絡、相談は基本だと思う。
 きっと連絡されても相談されても報告されても、止めていたと思うけど。

 シドウ大佐の戦い方は凄くて、何より速かった。真紅の流星なんて呼ばれているのにも納得してしまうほどだった。二つ名……ちょっとだけ、私も欲しいかもしれない。
 そういえば腕力も、一撃でレイダーを両断するっていうのは初めて見た。
 サーベルでそんなこと出来るんだ。少なくとも、私にはまだ無理そうである。

 任務が終わった後、シドウ大佐は私に「生きろ」って言ってくれた。
 悲しくもないし、悔しいわけでもないのに、なぜか私は泣いてしまった。
 コーヒーを飲んだ時みたいに、胸の奥がじーんと熱くなった。
 でも、また人前で泣いちゃったのはちょっと悔しいかな。
 今度は絶対に、逆に泣かしてやる。あの仏頂面。

 アイカワ隊長、マツヤマさん、アルベルトさん、ミズハラさん、ナナミさん、フジサトさん、他にもたくさん、私の前で死んでいった人たちのためにも、生きよう。