ダーク・ファンタジー小説
- Re: アビスの流れ星 ( No.19 )
- 日時: 2018/02/15 20:52
- 名前: Viridis ◆vcRbhehpKE (ID: vGcQ1grn)
フミヤの日記・2
10月20日
今日は大きな鳥のようなレイダーが相手だった。シドウさんが頼りになるのはもちろんだけど、スギサキさんがいることで戦略の幅が大きく広がっていると思う。
それはそうと、今日はついに、二人に私を鍛えてもらうように頼み込んだ。スギサキさんはめんどくさがってたけれど、シドウさんは快諾してくれた。相変わらずの仏頂面だったけど。
11月5日
そろそろ、シドウさん達とのトレーニングにも少し慣れてきた……かな?
でもやっぱり二人には程遠い。いつもの、一対一の剣術戦では手も足も出ない。特にシドウさんは、スギサキみたいに身体を改造されてるわけでもないのに、剣術に限ってはどうして彼より強いんだろう。
でも前よりは私だって腕が立つようになってきている自信はある。うん、頑張ろう。
11月10日
今日はサイクロプスという、大きな人型のコードネーム持ちが相手だった。最近はコードネーム持ちがやたらと多く出没していると思う。倒したけどねっ。
シドウさんが、トレーニングの成果が出ていると褒めてくれた。それから頭を撫でてくれた。凄く嬉しかった。
11月15日
今日はヘカトンケイルというコードネームを持つ、触手が何本も生えた巨大なレイダーが相手だった。作戦はいつもどおり、問題なしに完璧。
それから任務が終わった後、三人で屋上に行った。寒いから水筒にコーヒーをたっぷり入れて持っていって、皆で飲んだ。
シドウさんが星について色んなことを話してくれた。あの星々は果てしなく離れているから、今見えている星でも、実際には何百年も前に死んでしまっている星もあるのだそうだ。でも、星は死んでも、死んだときに散ったガスや塵がふたたび集まって新たな星を生み出すのだそうだ。……覚えられたのはそれくらいだけど。
ずっとずっと昔は平和で、そんなことを、学校という場所で、誰もが学べたのだそうだ。私もいつしか、学校へ行ける日が来るのだろうか。
11月25日
今日も任務が終わってから皆で屋上に入り浸った。ここ最近はずっとそうしてると思う。寒いけど、落ち着くから、私も嫌じゃないけど。
ただなぜか今日は、シドウさんとスギサキの口喧嘩から、なぜか彼らの一対一の剣術戦に発展していた。あれがシリウスだの、今の時期じゃあんな場所に見えるはずがないだの、なんてくだらないきっかけで、無駄にハイレベルな戦闘を繰り広げていた。
でも、きっと彼らにとってはじゃれあうようなものなんだろうけど。見てて、ちょっと可愛いなと思った。
♪
「はい、シドウさん」
「うむ」
「スギサキも」
「おう」
マグカップにコーヒーを注いで、二人に手渡す。湯気が白く薫って風にあおられてゆく。屋上は風も強いものだから、温かいマグカップを持った手が妙にじんわりと、幸せな感覚を持つ。
三人で並んで星空を見上げていた。最近では、任務が終わった後にここで入り浸るのが私たち第一部隊の日課になっている。それで、シドウさんが星座や星について私たちに講釈して、でもだいたいスギサキさんは寝ているのだ。今日はまだ来たばかりなので、彼は起きている。
「……居場所が出来た気がするな」
不意に、シドウさんがそんなことを口にした。私はシドウさんを見る。彼は、マグカップを持ったまま星空を見上げていた。
「アメリカは激戦区だった。とりわけその中でも難易度の高い仕事を任され続けていた私は、本当に数多くの死を見て来たよ」
彼の言葉に胸が詰まる。彼がクラヴィスに入隊したのは5年前だという。きっと私よりもよっぽど多く、彼の周りで人が死んでいったのだろう。ほとんど感情を表に出さない人だから、きっとそれら全部を自分で抱え込んで。
しかし、だが、と彼は言葉を続けて。
「何だろうな。ようやく信頼できる仲間を得た気がする」
そう言って、彼は一息置いて、自嘲気味にひとつ鼻で笑った。やはり私にはこういう言葉は似合わんな、と誰ともなくつぶやきながら。
私は、また泣きそうになった。何度か経験してようやく解った。これは、幸せな涙だ。
「……また泣いてんのかフミヤ」
「なっ……泣いてないもんっ」
慌てて手の甲で涙を拭く。
「……そうですね、シドウさん」
嬉しかった。
私も、ここにやっと自分の居場所が出来たと思い始めていたから。そして、彼も私と同じように、そう思ってくれていたから。
きっとそれはスギサキも同じだ。何も言わないけど、腕を組んで枕代わりにして寝そべったまま、一度だけ鼻で笑ったから。
「——あ……流れ星」
「……知ってるか? 流れ星に願い事をすると叶うらしいぞ」
「迷信に決まってるだろ」
「もう……スギサキは夢が無いなあ」
「まあ確かにそれで叶うなら苦労しないがな」
「えっちょ……シドウさんまで!?」
スギサキが悪戯っぽく笑って、シドウさんも静かに微笑んだ。
「……もう消えちゃったけど、間に合いますかね」
「試してみる価値はあるんじゃないか?」
「ん……じゃあ」
この二人とずっと一緒に居られますように——……。