ダーク・ファンタジー小説
- Re: アビスの流れ星 ( No.33 )
- 日時: 2018/03/01 20:11
- 名前: Viridis ◆vcRbhehpKE (ID: lMEh9zaw)
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今の俺に何が出来る。
答えは解らない。
では俺は何がしたいのか。
フミヤを助けたい。連れ戻したい。
あの後俺はクラヴィス日本支部から抜け出した。あのまま居座っていても、投獄されるであろう事は目に見えていたからだ。
俺に限って、レイダーに襲われて死ぬ恐れは無い。危惧すべきとすれば、むしろ餓死する事だろうな。
そんなことを思いながら、銃を乱射してサーベルを振るい乱舞する。
今までに無い大群との対峙だった。
どうやらアビスが空を覆って以降、レイダー共の活動が活発になっているようだ。日本支部の周囲に大量のレイダーが迫り包囲していた。
クラヴィスを抜け出し単独で交戦している。
しかし俺でも埒が明かない物量だ。益してや第2部隊を失った今の日本支部に、太刀打ちする術があるとはとても思えない。
せめて他の支部からの増援が到着するまで、クラヴィス日本支部を、フミヤが帰ってくる場所を守り抜く。
それが今俺に出来る唯一のことだと思えた。
しかし、俺は本当に何やってんだろう。
レイダーに加担して、そのくせレイダーを殺しまくって。
俺は何がしたいんだっけ。
そうだ、フミヤを守りたいんだ。
フミヤは今あの真っ黒な空の只中に居るのだろうか。
どうやったらあの空まで辿り着けるのだろうか。
アビスをぶっ飛ばせるのだろうか。
考えれば考えるほど思考はめぐるばかり。
だけど確かに判っていることは、レイダーを大量に殺されればアビスは困る。
だから斬って撃って斬って斬って撃って斬って撃って撃って撃って斬って撃って斬って斬って斬って。
「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
一瞬でも、気を抜けば死ぬ。
全身全霊で、力尽きるまで戦い抜く覚悟で。敵は数百数千のレイダー。嘘。実際は何体居るのかすら全く見当がつかない。
ここに部隊が到着するまでの辛抱だ。そうすればもう少し先の相手まで効率よく殲滅できる。
「上等だッ! 俺はッ、てめぇら化け物を殺すことに関しちゃ……誰よりも得意なんだッ!」
実際のところ、レイダーと戦うのは嫌いじゃない。
奴等はいわば本当の化け物だ。俺たち人間よりもよっぽど強大で、俺たちは奴らの死骸から作られた装備が無ければ立ち向かうことも出来ない。
体の半分がその装備で出来ているからと、ただ独りだけ戦闘能力が高いからと、周りから化け物扱いされている俺でさえ、それは例外ではない。
むしろ俺はそれが無ければ、一人では立つことすらままならないのだ。
だからこいつらと戦っているとき、俺は人間であることを実感できる。
フミヤと一緒に居るとき、一人ではないと実感できる。
シドウと一緒に居るとき、こんな人間も居るのだと思える。
世界なんて規模がデカ過ぎるもの、最早俺の想像には負えないし、そんなもの背負うつもりも無い。
ただ流れ流れてようやく手に入れたこの場所。
ようやく一人ではないことを実感させてくれた仲間達。
背中を預けても良いと信頼できる相棒達。
それをこんな理不尽なカタチで、奪わせはしない。
だから舞い躍る。
万華鏡のように切り替わる視界。
皮膚の末端一枚まで神経を張り巡らせ。意識と挙動のタイムラグを消し去れ。次の次へと慣性を繋げ。全身全霊よ刹那足りとも留まるな。
全身への命令は、切実な願いじみていた。
横薙ぎ一閃。旋回して接射。反動で宙返り。騎士型レイダーの頭頂を深々と突き刺す。剣を手放して銃を掴む。振り返り様に二挺を連射。今度は銃を高く放り投げ。持ち替えた剣で切り伏せながら突き進み。剣を投げて突き刺して。空高くから落ちてきた二挺の銃を掴み。更に2匹の頭部を吹き飛ばす。
息切れを忘れていた。
忘我と夢幻と、集中と現実の狭間に居た。
しかし気の遠くなるような剣戟と銃撃の連鎖の果てに——何かの一撃が頭を掠める。
「クッ……!」
身体中がが大きく揺らぐ。それは戦場に於いて致命的である。
マズった、と呟く暇もなかった。挙句血が視界を一瞬、ほんの一瞬遮る。
最悪だった。目の前には四足歩行のレイダーが、おそらく俺が反応できない位置まで踏み込んで、前脚を振り上げて。
目に映る全てがスローモーション。俺はそれを呆然と眺めて——。
——大きな翼の生えた何かが横から真紅の一閃。
四足歩行のレイダーは前脚ごと千切れてぶっ飛んだ。
絶句する。
そして翼は見覚えがあった。
バハムートのものである。
しかし翼を背負い俺に背を向けて立つその人影は、明らかにバハムートのものではない。
もっと見慣れた、赤い髪と黒コート。
「シドウ……」