ダーク・ファンタジー小説

頼まれ屋アリア 1-a いらっしゃい、お婆さん ( No.1 )
日時: 2017/09/29 00:55
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 新シリーズ、開幕!
 同じ世界の話なので、魔法の仕組みや国、神々などは「夜明けの演者」と同じです。
 いずれ設定集載せます。

 この作品は、明るいところはしっかりと明るいです。
 全体的に、のんびりした雰囲気ですハイ。

。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 

 今か昔かそれとも未来か!? 時も場所もわからぬ世界に。不思議な不思議な「店」がある。

 その名も「頼まれ屋アリア」と——。



 『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』


 その木造の「店」には。「開店」の板の横に、上のようなことが書かれていた。


  。。。☆


 1番目の依頼 王都までお使いを

 a いらっしゃい、お婆さん 
    

  。。。☆


 ここは、アンディルーヴ魔道王国の片田舎、平凡なるリノールの町——。


 カランコロン。ドアベルが鳴る。今日も『頼まれ屋アリア』の一日が始まる。

「はいは〜い、ただいま!」

 パタパタと足音を立てて接客カウンターに立つは、赤い髪が特徴的な少女。この「店」の店主、全属性魔法使いアリア・ティレイトである。

「やぁ、アリアちゃん。いつもごひいきにねぇ」

 やってきた客は腰の曲がったおばあさん。その顔を見て、アリアは花が咲いたかのように微笑んだ。

「あら、ファナさん! 今日は、何の御用かしら?」

 どうやらアリアとこのおばあさんは、旧知の間柄らしい。
 ファナと呼ばれたおばあさんは、しわがれた声で言った。

「王都に行ってほしいんだよ。わしの孫娘がのぅ、今度結婚するんじゃけど、この町にあるのじゃたいしたアクセサリーなんてないし……。お金は後から払うし、行けないかのぅ?」

 本当はわしが行きたいのじゃが、年寄りだしそこまで歩けんわ、と彼女は言った。
 アリアは笑って、快くうなずいた。

「でも、あたしが選んじゃっていの? お孫さんの外見とかは?」
「アリアちゃんの美的センスなら大丈夫じゃろう。まぁ、参考までに。孫娘のエリルは翡翠みたいな緑の髪に、綺麗な水色の瞳をしちょるよ」

 青や緑系のアクセサリーの、似合いそうな子だ。
 アリアは腰に手を当てて、宣言する。


「頼まれ屋アリア、依頼、承りました!」


 契約成立だ。

「ファナさんのおうちはあたしが知ってるし、用が終わったら届けに行くね! ただし、依頼料は、品物の代金に、あたしたちの働いた分のお金も上乗せされるから、割高になるわよ?」
「アリアちゃんくらいしか婆さんのこんなしょぼい頼みを聞いてくれる人がいないんじゃい。だから別にいいんじゃよ」
「了解よ! じゃ、待っててね!」
「頼みましたぞ〜!」

 扉を閉め、手を振って。彼女は店から出ていった。
 それを確認した後、アリアは後ろに声をかけた。

「ヴェルゼ!」
「聞いてる」
 
 カウンターの後ろ——様々な木箱や道具であふれかえっている区画から、漆黒の少年が現れた。
 人ぞ知る『頼まれ屋アリア』の第二の住人、アリアの弟ヴェルゼである。

「何か用か?」
「あたしの依頼について行ってよ!」
「だが断る」
「何でっ!?」

 アリアの驚いたような顔に、彼は冷静に返した。

「お使いくらい、一人で行けるだろう。オレは留守番で構わん」
「え〜? でも、ヴェルゼ、一人で残すのは心配……」
「オレはもう十五だぞ? 姉貴に心配されるような歳か?」

 その、不敵にさえ見える横顔は確かに安心できる。
 それに馬鹿なアリアが頭のいいヴェルゼを説得するのは、難しいことだし。
 アリアはふうっと溜め息をついた。

「はーい、はい。一人で行くわよ。ヴェルゼがついてきても、アクセサリーなんてわからないでしょ?」
「武器ならわかるんだがな」
「ハイハイ。一人で行くわ」

 あきらめたように投げやりに言って。アリアは店の外へ出る。
 春が始まったばかりの空気は。まだ少し肌寒い。
 彼女は、店の外壁にかかっている「開店」の木製のプレートを、裏返して「仕事中 閉店」にした。これでしばらく他の客が来なくなる。
 その仕事を終え、空を見上げた。
 まだ早いツバメの夫婦が、霞色の天を飛んでいく。
 アリアはしばらくその様に見入った後、店兼住居へと戻った。

  。。。☆

「そう言えばヴェルゼ、何か欲しいものとかある?」

 その夜。店の奥で夕飯を作りながらもアリアは弟に訊ねた。
 ヴェルゼは少し首をかしげると、いいや、特に必要ないと答えた。
 いや、実際に必要なものはないわけでもないが、それは王都ではそろえられないものなのだ。
 その答えを聞いて、アリアはうなずいた。

「じゃ、あたしが適当にお菓子とか買っていくね」

 そうなるとアリアは必然的に、自分の欲しいものばかり買うことになる。
 ヴェルゼはハァと溜め息をついた。

「2000ルーヴだ」

 言って、財布を差し出した。

「アクセサリー代含めて2000ルーヴだ。それ以上使ったら赤字になるが?」
「ふっかければいいじゃん」
「どこの悪徳業者だ?」

 ヴェルゼは呆れたように首を振った。

「オレが会計やっているんだから、口を挟むくらいなら自分でやってくれ」
「あ、ごめん、あたし、計算苦手……」
「ならば2000ルーヴ。それ以上の出費は認めないぞオレは」
「……りょーかい」

 アリアはヴェルゼから財布を受け取った。
 その頭は今、沢山の妄想に膨らんでいることだろう。
 それでも料理は完璧にこなすのが、アリアがアリアたる所以である。


  。。。☆


「おまちどお」

 しばらくして。アリアがいくつかの皿を持って、ヴェルゼのいる机にやってきた。
 スープ皿からはほこほこと温かそうな湯気が上がり、まだ肌寒い季節にはちょうど良かった。

「「いただきます」」

 掬ったスープは。じんわりと温かく胃を満たす。
 アリアは明日、行ってしまう。彼女が行ったら料理はヴェルゼが作らなければならない。ヴェルゼは料理は苦手ではなかったが、やはり姉と囲む食卓が一番だと思った。

 やがて食べ終わり、二人して皿を片づける。
 皿洗いはいつもアリアがやるので、やることのなくなったヴェルゼは部屋へと戻る。
 窓から見える空は、美しい漆黒をしていた。

 鼻歌を歌いながらも、アリアは皿を洗う。
 家事に慣れた手はテンポよく、次々と皿の汚れを落としていく。
 皿を洗いながらも、アリアは依頼のことについて思いを馳せていた。

(あんなアクセサリーや、こんなアクセサリー。あまったらお菓子とか買って)
 
 今日も平和に、日々は過ぎゆく。
 これが、『頼まれ屋アリア』の毎日だった。

。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 


 ハイどーも、藍蓮です。新シリーズをお送りします。

 この物語は、特にこれといった最終目的はないので、のんびりゆっくり書かせていただきます。
 とりあえずのプロローグはこんな感じですね。なんだかみんな、幸せそう。

 次の話は。お茶でも飲みながらのんびりと、お待ちください。

頼まれ屋アリア 1-b ネックレス大騒動 ( No.2 )
日時: 2017/09/29 01:02
名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)

 内容が明るいから、シリダクじゃなくてコメライに書け?
 いや、今さらですし! 後にもちろん、お約束のシリアスも入りますからね……。

。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 

 b ネックレス大騒動


「じゃぁ、行ってきまーす!」

 翌朝。そう明るく元気に言って、アリアは王都へと出発していった。
 この町リノールから王都までは、一日と半分かかる。単純計算、アリアは三日間店を離れることになるが……。これはまだ軽い方だ。
 しかも当人は、あまり行けない王都に行けるということで、浮かれていて。

「……本来の目的を忘れるなよ」
「わかってるって! あたし、そこまで馬鹿じゃないし!」
「……行ってらっしゃい」

 相変わらずのヴェルゼに見送られ、アリアは出発した。


  。。。☆


 いつもの道は、平坦で。
 いつもの道は、つまらない。
 こういうときヴェルゼがいれば、楽しい話し相手になるのかなとアリアは思ったが、生憎と彼はその場にいない。

(一緒に行ってくれたってよかったんじゃない? 薄情ヴェルゼ!)

 そんなふうにすねてみたって。この長い距離は変わらない。

(さっさと行って、王都に着こうか)

 ただそれだけを考えて、足を速めた。


  。。。☆

 
 その日は街道の途中にある宿で眠った。
 アリアは思った。
 そう言えば、ヴェルゼと離れるのも久しぶりだな、と。
 アリアは知らない。
 何の意図があって、ヴェルゼがあえてついて行かなかったのか。
 彼は正論を駆使して姉をやりこめた。
 しかしその裏に隠された意図があるなんて、純粋なアリアにはわからない。
 『頼まれ屋アリア』には、二つの顔がある。
 一つは、アリア&ヴェルゼの経営する「表」の顔。
 もう一つは、ヴェルゼだけでひっそりと経営する「裏」の顔。
 
 今現在、アリアがいない時。
 アリアがいないからこそ開店する「裏」の店で。
 既に依頼は始まっているということを——。


  。。。☆


 それから半日。歩き続けてアリアは王都にたどりつく。
 前にも行ったことはあるけれど、久々に見る王都はやはり美しくきらびやかで。
 この国はアンディルーヴ魔道王国。魔法の栄える国。だから。
 夜は色とりどりの魔法の照明が美しいのだが……。生憎と今は昼。残念である。

「えーと、青系統か緑系統のアクセサリー……」

 お婆さんに言われたことを思い出しながらも、手持ちのお金と格闘しながらも。アリアは立ち並ぶ宝飾店を物色した。
 すると、声をかけられた。

「お嬢さん。アクセサリーをお探しかい?」

 声をかけてきたのは、目の前の宝飾店の人だった。アリアはうなずいた。

「友達の結婚祝いに買うものを探しています。青か緑がいいです」

 宝飾店の人はうなずいた。しばらくして、青玉石と緑柱石をあしらったネックレスを彼女の前に差し出した。頭の中にあるエリル像とに会いそうだが、一見それなりに高そうだ。
 アリアは恐る恐るその人に尋ねた。

「……あの〜、お値段はいかほど?」

「2000ルーヴ……と言いたいところだが、(アリアの表情が石になった)まけてやろう。(アリアの表情が安堵したようになった)1800ルーヴだ(アリアの表情が再び固まった)」

 その答えにアリアは泣きそうになった。
 折角王都まで来たのに、所持金が200ルーヴしか残らないなんて!
 しかし彼女はアリア。『頼まれ屋アリア』の店主だ。その名と誇りに賭けて、この素晴らしく似合いそうなアクセサリーを、断るわけにはいかなかった。
 アリアはしょんぼりして、小銀貨を二枚出した。
 小銀貨は一枚で1000ルーヴ。二枚出して、アリアはおつりをもらった。

「毎度ありー!」

 残ったお金を見て。あと1000ルーヴはほしかったのにと思ったが、ヴェルゼの経済観念はしっかりしているし、アリアが口を挟むことでもないのだろう。
 アリアは残ったお金と格闘しながらも、楽しめるだけ、王都を楽しんだ。


  。。。☆


 結局、アリアが買ったのは。

・依頼の装飾品(1800ルーヴ)
・王都定番のお菓子(50ルーヴ)
・王都にしかない特殊な薬草数種(100ルーヴ)
・食べ歩き(50ルーヴ)

 となった。
 これを見ると、アリアは100ルーヴ分しか遊べていないことになるが……。(宝飾品が高すぎた)目的は果たせたし。後からもっと多くのお金をもらえるし!

(でも、次に王都に行けるのはいつの話よ……)

 ポジティブ思考のアリアだが、今回ばかりはネガティブになってしまうのも仕方のないことだろう。

「もっとまけとけばよかった!」

 ヴェルゼがいればもっとお得にお買い物できたのかもしれないと、悔しがるアリアであった。
 まあ、何はともあれ。

「帰ろっか」

 今から歩けばあの宿に着くころには夜になってしまうけれど。

「依頼、達成よ」

 買ったアクセサリーを壊さないよう大事に運びながらも。
 アリアは夕暮の王都を出て、行きに泊まった宿ヘ向かった。

  。。。☆

「ただいまー!」
 
 その翌日の夜。店に帰りついたアリアは、元気よく扉を開けて店に入ってきた。

「予想よりも早いな。寄り道しなかったのか」

 出迎えるは、相変わらずのヴェルゼ。彼は、椅子に座って本を読んでいるところだった。
 アリアはヴェルゼに文句を言った。

「あんたが2000ルーヴしかくれなかったから、あたし、あまりものを買えなかったのよ」
「妥当な判断だな」
「ええ〜?」

 文句を言うアリアに。

「で? 買った品物は? 見せろ」
「見せてもヴェルゼじゃアクセサリーはわからないんじゃない?」
「宝石というものには霊が宿ることがある。悪しきものが宿っていないかの鑑定だ」

 言って、彼は手を差し出した。
 ヴェルゼは死霊術師だ。死霊を呼び出して死者の声を聞いたり、悪しき霊を祓ったりする。彼はいつも首から笛を提げているが、その笛を奏で死者の魂を鎮めることもできる。そんなことをやっているがゆえに彼は「霊」というものに対しては、優れた感覚を持つ。
 アリアは鞄を開け、例のものを取り出した。

 その途端、カッと見開かれる彼の瞳。



「触るなッ!」



 一閃。いつの間にか彼の手元にあった漆黒の大鎌が、そのネックレスを粉々に打ち砕いた。
 そしてそこから何かもやのようなものが立ち上り、天井へと吸い込まれていった。

「え? え、何よ?」

 アリアの驚いたような声。
 ヴェルゼは油断なく大鎌を構えていたが、やがてそれを下ろして一言。

「あれには悪しきものが宿っていた」

 と言った。

「それを売った人は気がつかなかったのかもしれないがな……。こんなものを結婚祝いになんか送ったら、嫁さんは三年以内に死ぬね」
「……そんな、まずいものだったの?」
「直接触れていないか?」
「……触れたけど」
「……わかった。三日は一人で出かけるな。絶対だぞ」
「依頼は? せっかく買ったのに、壊しちゃったから……」

「今度はオレも行く」

 ヴェルゼはフッと微笑んだ。

「馬鹿みたいだな。最初からこうしていれば、こうはならなかったものを」
「でもヴェルゼ、一人で行けって……」
「こうなったからには仕方がない。それに、姉貴には若干、死霊の呪いがついているみたいだからな」
「……それって、そんなにやばいやつだったの?」
「ああ、そうさ」

 破壊されたネックレスを、彼は冷たい目で見ながらも、低く呟いた。

「見えたのは一瞬だったがな……。遠い昔、実の親に閉じ込められてそのまま命を絶った貴族の令嬢の、宝物だったネックレスだ」


  。。。☆


 その後。アリアはヴェルゼとともに再度王都に向かい、彼の「鑑定」によって無難なアクセサリーを選び無事に帰途についた。そしてその足でお婆さんの家に向かい、アクセサリーを届けて大いに喜ばれて報酬の3500ルーヴをもらって、依頼は完了した。

 アリアは「閉店」の札を裏返して、「開店」にする。



『頼まれ屋アリア   願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』



 次は一体、どんな客が来ることだろう。



〈一番目の依頼 達成!〉

。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 

 内容が「カラミティ・ハーツ」みたいに暗くないので、サクサク書けてうれしい藍蓮です。

 「頼まれ屋アリア」一番目の依頼、お送りします。
 この物語は、こんな感じで話が進んでいきます。アリア&ヴェルゼが、二人して、持ち込まれる様々な依頼をこなしていくという……。

 次の依頼は一体何なのか?
 の〜んびりと、お待ち下さい。