ダーク・ファンタジー小説
- 頼まれ屋アリア 2−a ハゲ商人からのお願い ( No.4 )
- 日時: 2017/09/29 00:47
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
……ま、毎日更新できるなんて、言ってないんだからねっ!
こんにちは、藍蓮です。
一日ぶりに更新……。
ちなみに物語の中の依頼は、二週間に一回来ます。
今は三月の三週目。次の依頼が来るのは四月の一週目です。
なぜそういった時間設定をしているのかは……話を最後までお読みいただければ、わかるはず。
それではどうぞ。
今回は短めですぅ。
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今か昔かそれとも未来か!? 時も場所もわからぬ世界に。不思議な不思議な「店」がある。
その名も「頼まれ屋アリア」と——。
『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』
その木造の「店」には。「開店」の板の横に、上のようなことが書かれていた。
。。。☆
2番目の依頼 『風の司』を探しています
a ハゲ商人からのお願い
。。。☆
カランコロン。ドアベルが鳴る。今日も『頼まれ屋アリア』の一日が始まる。
「ようこそ。今日は何の御用かしら?」
今回は前回みたいにドタバタせず、最初からカウンターに着いてアリアが問うた。
ちなみにヴェルゼは相変わらず、店の奥で帳簿管理や読書などをしている。
やってきたのはどこかの商人のようだった。服装などから、それなりに成功しているところだとわかる。その、少し太ったハゲ頭の商人の男は、遠慮がちに切り出した。
「え〜と、ここ、何でも引き受けてらっしゃるんですよね?」
「物によるけど」
「じゃあ、『風の司』を……引き受けて下さいませんかね?」
「……『風の司』って、何?」
その言葉を聞いて、背後でヴェルゼが盛大な溜め息をついたのを感じた。
アリアは内心ですねた。
(あたし、ヴェルゼみたいに頭良くないから!)
商人は、こりゃしまったと額を打った。
「あっしの説明不足なようで。我々はこれから船を使って南の島国エルドキアまで行くのですが、いつも連れている風の魔導士が具合悪くて行けないそうでして。で、海というのは荒れますからなぁ。彼女に代わって船を先導してくれる魔法使いを、探しておったのですよ。それをあっしらは『風の司』と呼んでおりまして」
要は、風の魔導士に船を導いてくれということらしい。
「一応聞きますが、そちらは風の魔法、使えるんで?」
「あたしは全属性魔導士よ。風だけでなく、水も操れるわ」
「そりゃあ助かります。あ、でも行きだけでいいですよ。あっしらはしばらくエルドキアに滞在するんで。帰りの船代も出しまっせ。料金は現地、エルドキアにて」
「了解。ところで、訊いていい?」
「何でございましょう?」
アリアはちらりと後ろを見た。
「その船、あたし以外にもう一人乗せられる?」
その言葉に、ヴェルゼが軽く身じろぎをしたのがわかった。
商人は首をかしげる。
「お連れ様がいらっしゃるんで?」
「看板にもあったでしょ、アリア&ヴェルゼって。ヴェルゼはあたしの弟。いつも奥で会計やってるけれど……。ヴェルゼー? 出てきなさいよ」
「……オレにもついてこいと?」
アリアが奥に声を投げれば。面倒くさそうに漆黒の死霊術師が現れた。
アリアはうなずく。
「そう。まず、海にたどり着くだけでも時間かかるんだから! 王都までなら大したことないけど、今回は割と長いのよ? あたし、馬鹿だから。ヴェルゼいないと不安なの」
「……口で言うほど馬鹿ではないだろうが」
呟きながらも。ヴェルゼは商人に手を差し出した。
「ヴェルゼ・ティレイトだ。良かったら貴船に乗せていただきたいのだが、よろしいだろうか? 風の魔法こそ使えないが、戦闘では率先して前へ出よう」
商人はその15歳らしからぬ物言いに若干気後れしつつも、その手を握った。
「ティレイト姉弟、乗船を歓迎いたします!」
「頼まれ屋アリア、依頼、承りました!」
新しい旅が始まる。
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この依頼は、大体三話構成を予定しております。長くなるか短くなるかは、藍蓮次第ですけれどね。
まあ、こんな感じで、アリアたちは依頼をこなしていきます。
平凡とか、陳腐とか、展開が平坦でつまらないとか……言わないで下さいよ?
こっちはメインの話ではないので、更新は遅めです。
ゆった〜りと、お待ちください。
- 頼まれ屋アリア ( No.5 )
- 日時: 2017/09/08 03:00
- 名前: アンクルデス (ID: Uj7l3HCB)
お疲れ様ですw実は某企画にヴェルゼ君が出てから、こっそり読んでました!w
アリアとヴェルゼた対照的な性格なのがいいですよね!
(ちなみに、読む前はてっきりヴェルゼの方が主人公なのかと思ってました)
自分は社会人なので来る時間は限られますが、また来ますんでよろしくお願いします!!
- 頼まれ屋アリア 2-b 賊ども迫る船の上 ( No.6 )
- 日時: 2017/10/20 16:54
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
>>5
感想ありがとうございます!
返信遅れてすみませんね……。
よろしくお願いしまーす!
。。。☆
五日ぶりに再開です。次からはもっとペース早くなるはず……。
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b 賊ども迫る船の上
。。。☆
ハゲ商人に案内されて。アイルベリア川に停めてあった、やや大きめの船に乗る。
そこにはすでに、何人かの乗組員がいて、アリアたちを歓迎した。
「やったぁ! 風の司さま、感謝いたします! 今年は海が荒れに荒れてねぇ」
嬉しそうにそう言ったのは、まだ年若い少年のクリス。
「おい、錨を上げろ。海へ出るぞ」
どこまでも冷静なのが、年長のザック。
しかし、どうやらここは、若者が多いようである。
もっとごつい男ばかりなのを想像していたアリアは、ハゲ商人にその理由を聞いてみた。
すると。
「若手の船乗りの修行さぁ」
と、陽気に笑ってそう言った。
「うちは成功しているもんで。だから時々、こういったチビどもを連れて船出する。もちろん商売はするが、それはあっし一人でも出来まして。だから一種の慈善事業。あ、そうそう、まだ名乗っていませんでしたな? あっしはロブと言います。よろしくお願いしやす」
というわけがあるらしい。
しかし、川の旅はまだ本番ではない。川の流れが、何もしなくても、船を勝手に海へ連れて行ってくれるからだ。ここでは『風の司』の出番はない。
しかし、魔導士の出番は、あった。
「そこの商船、止まれ止まれぇ!」
この船は。ロブが貿易するために、それなりの物資を積んでいる。
アイルベリア川は大きな川で、それないに整備も進んでいて治安も悪くない、が。
場所によっては川幅が狭くなっているところがあり、そこに賊たちが出没するのだ。
川の両岸に。弓を構えた荒くれ者どもが見える。
そして生憎。この船には、戦えそうな者が一人もいない——。
——そう、ある二人を除いては。
「止まってなるものですか!」
「……切り抜ける。みんな、さがっていろ」
アリア&ヴェルゼ。「店」からやってきた二人が、それぞれの得物を構えた。
アリアは水晶の嵌めこまれた杖、ヴェルゼは漆黒の大鎌。
しかしヴェルゼは、どこか右腕を庇うようにしていて、動きがややぎこちなかった。
それを見逃すようなアリアではない。
「ヴェルゼ! どこか怪我したの!」
「話は後だ! 戦うぞ!」
叫び、彼は術を展開させていく。
「抵抗する気か!」
「仕方ねぇ、矢を放て! 人は皆殺しで物資を奪え!」
「させないわよ!」
矢が放たれた。
が。アリアが手を天に掲げれば。
呼び出された風が矢の進路を変え、矢はあらぬ方向に飛んでいく。
「くそっ、こいつ、魔導士か!」
「杖を持っている時点で気付きなさいよねっ!」
追撃とばかりに。
アリアは水を坂巻かせ、その水で賊の一人を川に叩き落とした。
そして次の瞬間、ヴェルゼの術が完成する。
「……デュナミス!」
彼の求めに応じて。
彼の衣から一体の霊が現れい出て、反対の岸の賊どもに絡みついた。
——デュナミスは、彼の親友だった。
彼が逃げだした悪霊を追って店を離れていた時。
偶然出会った、もう一人の死霊術師。
二人は意気投合してしばらく共に旅をしていたが、狙う死霊は強すぎて。
共闘した。が、戦いのさなかにデュナミスは死んだ。
しかし、その霊だけは残って。今も、呼べば彼に力を貸してくれる。
あの死霊を倒せたのも、ひとえに死してなお残る「彼」の存在があってこそだった。
ヴェルゼあはあまり、遠方攻撃の手段を持たない。
いや、あるにはあるが、それに払う代償が大きすぎるのだ。
だから時折。申し訳ないと思いつつも。デュナミスの力を借りる。
気がつけば。賊どもは皆、戦闘不能になっていた。
「すげぇ……」
感嘆の声を上げるロブを無視して。
ヴェルゼは鎌を背の鞘に収めて。そのまま先へ進もうと、船員の一人を見た。
「行くぞ」
「待って」
しかし。アリアが彼を呼びとめた。
彼女は、彼の服の右の袖をつかんでいた。
ばれたか、と彼は苦笑いする。
「見せて。怪我しているんでしょ」
「……姉貴の目はごまかせないな」
「当然でしょ!? あんたがぎこちなくしているの、あたしにはすぐわかったんだから!」
「はいはい」
ヴェルゼは左手だけで長い漆黒のマントを脱ぎ、右の袖をまくった。
応急処置は施されているらしいが。巻かれた包帯には、それなりの血がにじんでいる。
「見てもいい?」
「死霊関係の傷だからな? 姉貴には治療できんぞ」
「また何かやったんだ」
「オレの勝手だろう」
アリアは彼を心配するがゆえに睨みつけ、その包帯を解いていく。
そこにあったのは、皮膚をずたずたに引き裂かれた、醜い裂傷だった。
「……ッ! 痛くないの?」
「慣れてる。で、これはしばらく治らない。厄介な相手とぶつかったものだな」
「でも……ヴェルゼ」
「慣れていると言ったろう。で、まずは依頼を果たせ。文句はすべて終わってから受け付ける」
これで話は終わりだとばかりに。
彼は左手だけで、器用に包帯を巻きつけていった。
「戦闘には、そこまでの支障はないんだ。だから気にすることじゃない」
言って、彼はアリアから離れるように、船室へ消えて行った。
心配そうな顔をする彼女を。
「大丈夫ですよ。簡単に死にそうな人じゃないですし!」
見当違いのことを言って、クリスが励ました気持ちになっていた。
でも、アリアは知っているんだ。死霊術師は短命だって。
……でも、まあ、杞憂かもしれない。
気持ちを振り払って。アリアは叫んだ。
「出発進行!」
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- Re: Stories of Andalsia 頼まれ屋アリア ( No.7 )
- 日時: 2017/09/12 09:18
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
※ 1ルーヴは日本円にして20円です。
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c 嵐の海を越えて
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その後は特に何もなく。船はついに、海へ出た。
風の司の出番である。
予想通り、海は荒れに荒れていた。
アリアの額を汗が伝う。
「随分……厄介な……お仕事ねッ!」
帆を張った帆船を。正しい方向へ導くために風を送ろうとするが。
四方八方から絶えず吹きつける突風が、なかなかそれをさせない。
というか、こんな日になぜ船出するんだ……。
アリアの当然の疑問には、ロブが答えた。
「この時期のエルドキア周辺の海はいつも荒れていましてねぇ。でも、今あっしが積んでいるのは、時間が経つと悪くなるものなんでして。この季節風が止んだ後に届けに行っても、もう遅くなってしまうんで。そうすると大損なんでして」
「先に言ってよ! あたし、いくらなんでもこんな暴風の中を進むなんて、考えたこともなかったんだからさぁ! そもそも海とか、出たことなかったんだから!」
アリアたちの住む町リノールは川べりにあるし、故郷のエルナスは山の中だ。ヴェルゼは死霊を追いかけて、時々遠出するから海を知ってはいるが、基本は店から動かない、動いてもせいぜい王都までしか行かないアリアにとっては、海なんてまるで無関係の所なのだ。
で、話だけはよく聞くから、海に出てみたら……これだ。
暴風に叩きつけられ、散々な状態だ。
「あたし……海が嫌いになりそう……」
「姉貴、晴れているときは綺麗なものだぜ?」
「何でヴェルゼが知っているのよ……」
「伊達に外出しているわけではないからな」
吹きつける風。叩きつける雨。
アリアは風と水を操って、何とか何とか先へ進もうと船を動かす。
やがて、遠くにエルドキアらしい島影が目に映ったが、それがもう限界で。
「あたしだって万能じゃない……」
疲れ切ったように地にくずおれた。
アリアの魔法の制御を失った船は、風と雨に翻弄され、くるくる回る。
船員たちが悲鳴をあげた。
「ちょ、ちょっとアリアさぁん!」
「助けて! 神様ぁ!」
「……人使いが荒すぎなんだよ! それで前の風の司も倒れたのだろう!」
まるで世界の終わりみたいな船の惨状。
このままでは——沈没する!
ヴェルゼはカッと目を見開き、アリアの腕をつかんだ。
「ヴェ、ヴェル……ゼ……?」
「オレの魔力を譲渡するから」
漆黒の瞳が、炎を宿す。
「姉貴の魔力が駄目ならば。オレの魔力を使うがいい。今はまず、無事に到着することが先決だ。……違うか?」
言って。彼はつないだ手から、問答無用で己の魔力を流し込む。
アリアは、彼の暗黒の力が自分に流れ込んできたのを感じて、その闇の深さに思わずあえいだ。
「ヴェルゼ……そんなに……そんなに……深い闇を……!」
「知るか。姉貴、オレの力、使いこなせ。オレの闇を自分の内側で光に変えて、さっさとこの現状を抜け出すんだ!」
「……わかったわ」
つながれた手から流れ込む、深い深い暗黒の力。
アリアはそれを受け取り、呑み下し。扱いやすい、光の力へと変える。
——渡された力は、膨大だった。
まず何よりも、密度が濃い。少しの量に、沢山の力が圧縮されている。
アリアは確信した。
——乗り切れる!
ヴェルゼからもらった力を。風と水に変えて。
解き放つ。
「動けッ!」
唱えれば。きりきり舞いしていた船は無事、舵を取り戻し。
アリアの呼んだ風で、正しい方角へと向かう。
ついに、目前に迫った島影!
港が見える。アリアはそこへ船を誘導し、なんとか停泊することに成功した。
疲労がどっと押し寄せた。
「着いたぁ……」
久方ぶりの重労働だ。嵐の中。初めての海で。
きりきり舞いする船を導けだって? ヴェルゼがいなければ、確実にみんな、海の藻屑になっていたことだろう。
「ありがとあんした」
船の上で。くたびれきって座り込む姉弟を見て。
ロブがそんなことを言った。
「助かった。おかげで無事、到着することができまして。で、お代は幾らで?」
「6000ルーヴだ」
「……はぁ?」
お代を聞かれ、ヴェルゼは問答無用でぶった切った。
6000ルーヴともなれば、そこそこの借家の家賃一カ月分に相当する。
ロブは困ったような顔をした。
「は、払えないことはないんですがね、ちぃと高すぎやしませんかね」
「なぜそんなに吊りあがったか教えてやろうか?」
ヴェルゼはまるで容赦がない。
彼は一つ一つ指を折りながらも説明する。
「一つ。まあ、これは風の司の平均的なお代として、そしてこの店の平均的なお代としての3000ルーヴ。二つ、これはそっちに非はないが。オレは怪我をした。その治療費として500ルーヴいただくぜ。三つ、貴様の注意不足により、こちらが甚大な被害を被りそうになったこと。これで2500ルーヴ。危険があるなら最初からそう言え。何も知らないオレたちは危うく死にかけた。……以上で6000ルーヴだ。特に最後のは大きい。文句はないな?」
……彼の理論は完璧で、まるで隙がなかった。
彼が『頼まれ屋アリア』の会計係になっている由縁である。
ロブは参ったような顔をして、彼に小銀貨を六枚渡した。
「……悪かったですよぉ」
「そして。前置きする。図々しくないぞ? 当然の権利だ。あんたがオレたちに一晩の宿を恵むってことくらいな?」
それだけの働きはしたと、彼は暗に言っていた。
一種の脅迫である。
ロブは参ったような顔をして、アリアたちを案内して、そのまま宿を恵んだそうな。
宿でアリアははっきり、こう言った。
「頼まれ屋アリア、依頼、完了しました!」
帰りは安全な道で行くことにして。その船代も出してもらって。
こうして彼らは、帰路に着いたのだった。
〈二番目の依頼、達成!〉
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