プロローグ「霞姫」青年────鬼頭颯は一人の少女に声をかけた。暗闇に浮かび上がる霞姫の白い頬がよりいっそう、妖艶な彼女に仕立て上げる。「颯────私、怖い。魔物が出そうで……」颯は、霞姫の肩を抱き、囁く。「大丈夫です。この刀があるから」「だと良いけど─────」底知れない不安が、霞姫の恐怖を掻き立てる。紅い月が、二人を照らす。ザッ!獣が飛び出したような音がし、霞姫の悲鳴が響く。しかし、誰もその悲鳴を聞かず。やがてあたりは、もとの静けさに戻った。