ダーク・ファンタジー小説
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.137 )
- 日時: 2010/12/19 14:35
- 名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》1/5
てくてく、という擬音が似合いそうな足取りで、ゆっくり店内に入ってくる女性。
進藤麻衣はそんな店に入ってくる闖入者を、茫然とした瞳で見つめる。
先程までは太陽光の所為で、顔が影になっていたために声だけが聞こえていたが。
女性が店内に入ってきた為に、しっかりと顔や全体像を認識出来るようになっていた。
スレンダーな体形で、身長は平均的な女性より少し高い印象。
人形のように透き通った白い肌。
光をいっぱいに受けて宝石のように輝く緑の長い髪。
均整の取れた造形をした顔。
どこか相手に氷の様な印象を与える、髪と同様の緑色をした瞳。
そして、それらをより栄えさせる白と黒を基調とした質素なドレス。
その容姿から見て、おそらく外国の人だろうと麻衣は予測する。
どれもこれも【美人】という印象を与える女性だったが。なによりも麻衣の目に留まったのは【表情】だ。
その顔は麻衣が今まで見てきた顔の中で一番。いや、恐らく今後の人生を含めても一番。
表情が無かった。
その顔は笑っているようにも見えた、怒っているようにも見えた、泣いているようににも見えた、何も考えていないようにも見えた、何もかもを考えているようにも見えた。
決して【無表情】なのではない。【表情が無い】のだ。
ありとあらゆる表情を具現化しているかのような顔。
だが、それはつまり相手に何の感情も伝えていないという事になる。
「やあ、鉄仮面ちゃん。久しぶり!」
「訂正申請。私の名は鉄仮面では無い。何度も言っている。それにあなたとは先程会ったばかり」
そんな【表情の無い美人】と会話をする【眼鏡の壊れた狂人】。
どうやら、二人は知り合いのようだと麻衣は思った。
と、そこで彼女はようやく気付く。
自分が父の捜索を依頼した、【便利屋】霧島終夜が驚きの表情で固まっていることに。
「ど、どうしたんですか?」
自らの恐怖をそっちのけで、麻衣は終夜に尋ねる。
そこで終夜は、ハッっとした表情で彼女のほうを向いて、安心させるように軽く微笑みながら、麻衣を心配する言葉を掛ける。
「なんでもないですよ。大丈夫ですか麻衣さん。立てます?」
「え、あ、は、はい」
自分がまだ床に恐怖で座り込んでいたことをようやく思い出し、急いで立ち上がる麻衣。
そんな彼女の様子を見た後、改めて突然現れた【闖入者】に、霧島は目を向けた。
———この人は……。間違いない。間違えるはずがない。
心の中で【闖入者】に対して、驚きと、喜びと、悲しみを混ぜた感情を描く霧島。
そんな彼の存在にようやく気付いたのか、【闖入者】はゆっくりと【少年】のほうに目を向け、言葉を発した。
「驚愕。そして歓喜。久しぶり、終夜君」
「……。光加(みか)さん……。どうして……」
今まで【無かった】表情を、ほんの少し喜びの混じった顔にしながら、霧島に声をかける【闖入者】。
「あれあれあれ?【便利屋】の少年と。鉄仮面ちゃんはお知合いなのかい?」
「肯定」
と、無粋にも二人の間に割って入った【眼鏡の青年】の声によって、もとの【表情が無い顔】に戻る女性———緑髪の髪を持つ美女【光加】。
そんな彼女の変化もどうでもいいとてでも言うように、青年は再びナイフを構える。
「ま、どうでもいいか。んじゃさっきの続きをやろうよ。ねえ、少年」
先ほどまでの莫大な【敵意】は消えたが、この店に入ってから常時出している、異常な【殺意】は全く消えていない。
そんな様子の青年を見て。光加のせいでいったん冷静になった思考の影響なのか、霧島はこの男と【殺し合い】をするのは、正直遠慮したい気分になってきた。
きっとこの男と【始めて】しまったら、自分は【壊れ無ければならない】だろう。
それは麻衣がいるこの場では、得策ではない。
場合によっては【依頼人】である、麻衣を傷つけてしまう場合もある。
さて、どうしたものか。と考えていた霧島に。思わぬ助け船が出される。
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.138 )
- 日時: 2010/12/19 14:36
- 名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》2/5
「行動停止要求。刹羅(せつら)。あなたは組織から無意味な殺人は避けるようにと、要求されていることを忘却しましたか?」
「無意味じゃないさぁ。僕はこいつら全員殺したいんだよぉ?組織なんてどうだっていいんだ」
「……、警告。それはあなたが組織に対する反逆の意思がある、とあなた自身が認めた事になる。理解?」
言葉とは裏腹に、警告を出しているような雰囲気を全く感じさせない光加の声と表情。
まるでやる気のないコンビニのアルバイト店員のようなテンションだ。
そんな危機感を感じさせない【警告】に、眼鏡の青年刹羅は。嗤いながら彼女に、というよりその場にいる全員に対して高らかに自らの欲望を声に変えて口から吐き出した。
「あのさぁ〜。いいかい?僕はさぁ、何度も何度も何度も言ってるよねぇ?【殺したい】ってさぁ。わかってる?この言葉の意味がわかってる?理解している?意味をちゃんと熟考した?だったら一々【警告】なんて発しないよね?こんなにも壊れている僕に一々警告なんて発するわけがないよねぇ?僕は【人】を。【命】ある【生命】を【殺したい】って言ってるんだよ?……わかってるんだよ。自分【いかれている】事くらい。でも、そんな小さいことはどうでもいいんだ。どうでもね」
顔面に笑みを。どこまでも純粋に狂った笑みを受けべて、とつとつと語る青年。
しだいにテンションが上昇してきたのか、手に持ったナイフを器用にクルクルまわしながら、劇役者のような大袈裟な手ぶりも加えて語りだす。
「だからさぁ。君たちは黙って殺されろよ。死ねよ。死んで死んで死んじまえよ。消えて消えて消えちまえよ。大丈夫。僕がしっかりちゃっかり的確に明確に君たちを殺してあげるから。だからさ。だからだからだからだから」
ピタリ。
とナイフの回転を止め。ゆっくり視点を光加から、霧島と麻衣に合わせ。
同時に足に力を込め始め、
「だからだから、だからさぁ………………………………安心して死に消えろ」
力強く地面を蹴った。
「———ッ!?」
刹羅の突然の行動に、何も身動きが取れない少年と少女。
そんな中でも霧島少年は、自らの【依頼主】を守る為に。必死に体を、呆然と突っ立っている少女の前に突き出す。
だが、彼が出来たのはそこまでだ。
霧島終夜という人間は決して超人的な力を持っているわけではない。
確かに人よりは多少鍛えていたり、経験もあったりするが。彼は飛びぬけた特殊能力があるわけではないのだ。
人並み以上、超人以下。それが霧島終夜という人間の限界……。
よって、彼は自らの守るべき者の為に自分の【命】を盾にするくらいしかできなかった。
目と鼻の先にやってくる青年。
———どうする!どうするどうするどうする!!
自らの状況に混乱する霧島。
このままだとやられてしまう。
どうすればいい、どうすればこの危機を回避できる?
自分がすべきことはなんだ?どうすれば麻衣さんも自分も救うことができる?
そんな思考が一気に脳内を駆け巡る。
だが、無情にも青年のナイフはすでに顔面に近づいてきていて。
後数センチ、後数ミリ。
もうだめかと霧島が目を瞑った瞬間。
ゴガッ!
鈍い音が前方から響いてきた。
それと同時に何かが吹っ飛ぶ感覚と、今の今まで霧島を射抜いていた【殺意】がきれいさっぱり消えていた。
いや、消えていたというより、【かき消された】というほうがしっくりくるような感じだ。
「き、霧島さん……」
少年が後ろでかばっていた少女が、声を震わせながら彼の名を呼ぶ。
彼はその声を聞いて、強く閉じていた瞳をゆっくり開けた。
そしてぼんやりと浮かんできた視界に広がった光景は。
「……え?」
青年が目の前にいない【光景】だった。
だが顔を横に向けると、そこには。
「がっ。うぐ……。な、なんの……。何のつもり……だ……」
床に無様に転がった、青年の姿があった。
その顔は苦悶に歪みながら、どこかまだ笑みの成分を残して、真っ直ぐと視線を一人の人物に集中させていた。
その視線の先には一人の女性が、何も顕わさない表情で立っている。
「強制停止。あなたの行動は目に余る。よって、武力行使」
淡々とした声と表情で言う光加。
その言葉に青年。刹羅はよろよろと立ちあがりながら言った。
「あは……はは。珍しい……ね。鉄仮面ちゃ……ん。もしかして……この少年は君とって大事な子なの……かい?」
「……。帰還。拒否すれば戦闘。理解?」
刹羅の質問を無視して、自分の意思だけを淡々と伝える光加。
「……、僕に獲物を逃がせって言うのかい?」
「肯定」
もう先ほどのダメージから回復したのか、言葉には元の活力が戻りつつある。
その様子を見て霧島と麻衣は驚愕した。
なぜなら彼が吹き飛んだ原因は、
テーブルが【飛んできた】からなのだから……。
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.139 )
- 日時: 2010/12/19 14:36
- 名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》3/5
———なに、何なの?あんな重そうなものを持ち上げて、投げるなんて……。あ、あり得ない……。それにテーブルなんて大きなものを投げられて、平然としているあの男の人も……。
麻衣は自分の常識と、今の非常識的な光景に今日何度目かの混乱に襲われる。
だが、今自分の目の前でその【非常識】な事態はまぎれもない【現実】として起こった。
そう、光加が両手で店の木製テーブルをつかんだかと思ったら、それをおもむろに刹羅にぶん投げたのだ。
本当になんでもないかのように、筋肉なんてなさそうな細腕で、そんな【行動】に出た女性。
【異常】だった。
おそらくこの店内に入ってくる時も、ドアを吹き飛ばしたのは彼女だろう。
蹴り飛ばしたか、殴り飛ばしたのかはわからないが、とにかく彼女がドアを金具ごと強引に吹っ飛ばしたという【事実】は【現実】だ。
今日だけで何回こんな【異常】を感じ取っただろう。
そんな思いを抱きながら、麻衣はまた体が震えだしてくるのを感じた。
体の芯から冷たいものに満たされる。
【恐怖】。
そんな単純で圧倒的な感情が、彼女の体の隅々まで蝕んでいた。
止まらない。
震えが止まらない。
恐怖が止まらない。
体がガクガクと、ガタガタと。震える。
———怖い。怖い怖い怖い怖い怖いっ!!
今にも恐怖で【発狂】してしまいそうな麻衣。
そんな彼女に突然。温かいものが触れる。恐る恐るその温かさに目を向けると。
霧島が麻衣の手を、自分の手で握っていた。
困惑しながら霧島の顔を上目遣いで見上げると。彼は暖かい笑みで麻衣を見ていた。
「大丈夫です。あなたの事は最後までしっかり守ります」
優しく、暖かに、霧島終夜は進藤麻衣に微笑んでいた。
「で、でもこんな状況じゃ、わ、私たち殺され———」
「大丈夫!」
麻衣が自分の【恐怖】を言葉にしようとしたのを途中で遮る霧島。
「僕は【便利屋】です。【依頼人】の安全は絶対に守ります」
霧島は笑顔で言う。
決して狂った笑みではなく、冷たい笑みでもなく。
相手を思いやった、他人を安心させる暖かい笑み。
その笑みを見て、バラバラになりそうだった麻衣の心は繋ぎ止められる。
「……はい!」
その力強い言葉を聞いて、霧島は安心して再び意識を前に向ける。
と、そこで初めて刹羅から感じていた【殺意】が消えていることに気がついた。
「あ〜。ったく。余計なことをしてくれちゃって。まあ、ちゃんと止めを刺さなかった俺も悪いかな……」
ぶつぶつと意味不明なことをつぶやきながら、刹羅は霧島達に背中を向けて歩き出した。
「刹羅。行動理解不能。説得に応答?理解完了?」
「う〜ん。というよりね、強制的に退去させられた。かな?死に損いの所為でね」
クククッ、と笑いながら刹羅は壊れた店の入り口を指差した。
「聞こえるだろう?もう近い……」
その言葉に応じて、その場の人間が皆、外の音に耳を傾けた。
確かにかろうじて何か日常とは少し違う異質な音が聞こえる。
この音はなんだろうか、よく聞くことがあるにはあるが、【日常】という言葉からは何故か切り離される音。
その疑問に対して、刹羅は無邪気な笑みを向けながら、してやられたという顔をして言った。
「パトカーと救急車のサイレンの合奏だねぇ〜」
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.140 )
- 日時: 2010/12/19 14:34
- 名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》4/5
「んで?そいつらはもう逃げちまったのか?」
年齢は五十歳程度らしいが、外見だけを見ているとまだまだ働き盛りの年代に見える。
無骨な体に、高い身長。その姿はまるで熊のようだが、かろうじて整った顔の造形が、彼を人間として繋ぎ止めていた。
服はあちこち汚れている背広姿。ネクタイもよれよれだが、まあ、それなりに体裁は整ってるだろう。
そんな男が椅子に座って霧島に質問を浴びせかける。
「はい、サイレン音が聞こえた途端とっとと帰って行きました。最後に『また会おう。少年少女たち。ハハハッ!!』とか薄気味悪いこと言ってましたけど……」
「成程。全く。その場で仕留めておいてくれれば楽だったものを……」
「いや、無理でしょう!相手は本当に危険な奴等だったんですよ!?」
容赦ない男の言葉に、必死で反論する少年。
男———萩原 栄志(はぎわら えいじ)は警部だ。
霧島にとってはそれなりに付き合いの長い存在で、色々と頼りにしたり頼りにされたりする存在である。
そんな男と霧島は、今現在一緒に店———『BARロゼリオ』の中で話し合っていた。
どうやら麻衣を【便利屋】に紹介したのは、始めに予想した通り栄志だったらしく、そのことに対する文句は後でこの【依頼】を完遂した後にゆっくり言うことにした。
本来ならこんな事件に直面したら霧島たちも事情聴取やらなんやらをしなくてはならないのだろうが、栄志の【特別な立場】を理解してか、ほかの警官たちに対する栄志の、
『悪いがこの場で見たことや、こいつらの存在はすぐに忘れろ。長生きしたかったらな……』
という言葉によって、それに了承して事後処理をして去っていった。
「しっかし、【マスタ—】は流石だな。あんな大怪我しながらも、俺に連絡よこすなんてな。あっぱれだ」
栄志がため息をつきながら言う。
そう、彼等が来たのは【マスタ—】のおかげなのだ。
倒れ伏し、血だらけの瀕死の重傷を負いながらも、必死で携帯によって栄志にメールしたらしい。その文面を見て、栄志は急いで部下を連れてここに来たというわけだ。
その【マスタ—】はパトカーと一緒に来た救急車に運ばれていった。
担架に乗せられて運ばれて行くのを、麻衣はすがりつきながら泣いて呼びかけていたが、結局その場で目が覚めることはなかった。
もしかしたら、あれが生きているうちの今生の別れになってしまうかもしれない。
そんな不吉なことを考えるほどに、彼の状態は深刻だった。
彼の状況を考えると気分が深く沈んでくるが、今はそんな状況ではない。
泣くのが許されるのはこの場では麻衣だけだ。今も霧島と栄志がテーブル席で話し合っているのから、少し離れたカウンター席でずっと泣いている。
霧島には掛ける言葉が見つからず、今だけはそっとしておくことにした。
「それでよ、【光加】の奴はどうしたんだ?」
「……。あの、刹羅とかいう眼鏡の男と一緒に、さっさと行ってしまいましたよ。まあ、出て行く前に一言『ごめんなさい……』って言ってましたけど。何に対して謝っているのやら……」
「ふん、相も変わらず無愛想なこったな、一年たっても変わらねえか」
そこでしかめっ面を少し柔らかくしながら、栄志は言う。
その言葉に霧島も苦笑しながら答えた。
「ええ、そうですね……。社長にも会わせてあげたかったな……」
「全くだ。つーかあの馬鹿はいつまでたっても連絡がつかないんだが……」
「あ、僕もなんです。どうしたんでしょうか……。何か面倒なことに巻き込まれてなければいいんですが……」
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.141 )
- 日時: 2010/12/22 16:10
- 名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
第二章『奪う人間と守る人間』———《殺戮者は休息して破壊者は始動する》5/5
「やっちゃいましたねぇ〜。こりゃ始末に栄志さん呼ばなきゃダメかな……」
「栄志さんを知ってるんですか?」
「え、ああ。色々世話になっているもんで」
「そうなんですか。私も栄志さんには色々お世話になってるんです」
「あ、そうなんですか。偶然ですね〜」
「ええ、偶然ですね。ふふっ」
上品に笑う女性と、呑気に笑顔を浮かべる男性。
木地見輪禍と祠堂鍵谷は朗らかに会話していた。
辺りに変死体だらけの状況で【笑い合っていた】。
首のない死体、腕のない死体、足のない死体などはまだ良い方で。
体の原型を留めていないものがほとんどだ。顔が無意味に切り裂かれたものや、胴体をクリスマスケーキのように切り分けられているもの。実に様々な【死体】の種類。
人通りの一切ない路地に広がる地獄絵図。
その絵の【素材】は、先ほど彼らを襲ってきた黒服の連中だ。襲いに来たのに返り討ちにされ、しかも無意味に無残に殺されてしまった下っ端達。
そんな黒服達の死体を前に彼等は会話を続けていく。
「じゃあ、私は今携帯を家に忘れちゃってるので、【便利屋】さんに連絡をお願いしてもいいですか?」
先ほどまでの、黒服を殺している最中の頬を赤く上気させた恍惚の笑みは、今ではすっかり消え。残ったのは上品な雰囲気を纏った女性だけだ。
そんな彼女の言葉に祠堂は、わかりましたと返事をして、自分の懐から携帯を取り出して開く。
「それじゃあ、ちょっと失礼して……、ってあれ?電源切りっぱなしだったみたいです。うわっ、不在着信とメールがこんなに……」
少しあわてた調子で携帯の画面を見る祠堂。誰がこんなに連絡を寄越したのか疑問に思いながら、ボタンを押そうと手を動かしたその時。
「おいおいおい。なんだこりゃ」
声が聞こえた。
その声に反応して二人は路地の入り口にいる、声の発信源に目を向ける。
そこにいたのは壮年の男性だった。
筋骨隆々という言葉がぴったり当てはまる容姿の男で、服の上からでもその鍛え上げた肉体が見える。来ている服は周りの死体達同様のダークスーツ。
顔には無精ひげが顎に生えており、目は鋭い眼光を放っている。時代が違えばどこかの【マフィア】のボス幹部といった感じの容姿の男だった。
そんな男はギラついた笑みを浮かべながら、ゆっくりと祠堂と木地見に近づいてくる。
「なんでこんな無意味にスクラップしてやがんだぁ?つーかよぉ、これって普通にあり得ねえよなぁ?あり得ねえよなぁ!?」
自分で言いながらテンションが上がってきたのか、顔を真っ赤にしながら怒鳴り始める男。
「おい、祠堂。てめぇは一体どういうつもりなんだぁ?一様おめえにとって俺たちは常連客だよなぁ?」
男の口から祠堂の名前が出てきたことを疑問に思い、木地見は祠堂の方へ目を向ける。
すると祠堂は苦笑しながら、へらへらした笑みを浮かべ、言い訳を並べ立てた。
「いやぁ、旦那。お久しぶりですねぇ〜。いつもお世話になっています」
「……」
「いやだなぁ、そんな怖い顔で見ないで下さいよ。【コレ】をやったのは私ではないんですから。それに私は全ての敵であり味方ですよ?それは解っているでしょう?」
「……、そうだなぁ〜。確かにそうだ。悪いのはそこの女であって、おめえは何の関係もねえよなぁ」
獰猛な笑みを受けべながら祠堂の言葉に同意する男。
その言葉を聞いて安心した祠堂だったが、次の言葉を聞いて硬直する。
「つまりよぉ、てめえは仕事か何かか知らねえがたまたまそこにいて、たまたまこの状況を傍観して、たまたま俺が通りかかった訳だ。つーことはよォ、てめえは今から起こる【殺し合い】にもたまたま巻き込まれるってえことだよなぁ?」
「え、ちょ、旦那?落ちついてくださいよ」
ヘラリとした笑みは崩さぬまま、冷や汗をたらし始める祠堂。
反対に木地見の方は、うれしそうな笑みを顔いっぱいに広げ始めた。
「大丈夫だ。狙うのはあくまでそこの女だ。てめえなんか眼中にねえよ。だけどよ、人間壊れるときは壊れちまうよなぁ?」
だからさぁ、と男は続けて。
【殺し合い】を始める合図の言葉を吐きだした。
「たまたま壊れろ。くそ野郎」