ダーク・ファンタジー小説

Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.14 )
日時: 2010/10/03 22:05
名前: トレモロ (ID: C4aj9LgA)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

第一章『便利屋と殺し屋の出逢い』———《便利屋の仕事事情》1/2

「がはぁ、がぎ、っぐかかがぁあ!!」
悲鳴が響く。
いや、最早悲鳴と言うより叫びだ。
「おいおい、どうしたぁ?この程度なのかい、くそ野郎が」
その悲鳴を上げる男は椅子の上に座っていた。というより【拘束】されていた。
そしてその【拘束】されている男に言葉を掛けるもう一人の男。
声を掛ける男は先ほどから、鉄パイプを【拘束】されている男に振りかざしていた。
「ったく、さっさと『私がやりました』とでも言やぁ良いのによォ。しぶといなぁ、おまえ」
唾を吐き捨てながら、下劣で厭らしい声を【拘束】されている男に掛ける【拷問師】。
もっとも彼の本来の仕事は拷問などでは無いのだが……。
簡単に言うと彼らは【暴力団】だ。
だが別に昔の【暴力団】の様な、シャバ代徴収や他の【暴力団】との抗争……、なんてことはしていない。
そのようなあからさまな事をしては、昨今の警察の優秀さによりすぐに手が後ろに回ってしまうだろう。
彼らは表向きはただの【企業】だ。
そして【企業】に見せかけた会社をいくつも持ち、その金を最終的に大きな【暴力団】に治める子会社。
俗に言う【フロント企業】というものなのだが、その幹部と構成員が彼らの職業だ。
そして、今拷問している男が幹部。拷問されている側が構成員という構図だ。
「ふ、ふざけるな…」
「あぁ?」
と、それまで悲鳴しか上げていなかった【拘束】されている男——暴力団構成員は自らの上司である、幹部に声を上げる。
「な、何が…、私がやった…だ。俺は…、貴様がやった横領の、罪をかぶせられただけだ……、その俺が、何故そんな事を認め…、がはっぁ!」
「あー、うるせえよくそが。テメエみてえな下っ端構成員と、幹部である俺。どっちを【組織】が信用すると思う?俺だよなぁ?俺に決まってるよなぁ!!いやぁ〜、アリガトウ、俺のために罪をかぶってくれて!ホント【組織】も馬鹿だよなぁ〜、『今回はお前の部下がした不始末だ。責任はお前一人で取れ』とか何とか言っちゃって!詳しい事情も調べねえでよぉ!ホントにバカバカバカ、馬鹿すぎだよねぇ!ヒヒャハハ!」
下劣な言葉を部下に浴びせかけながら、笑い続ける幹部。
ここはとある【廃工場】だ。
周りに民家などは無く、海に面したこの場所は秘密事をするにはもってこいの場所になっている。
周りにはもう使われなくなった、工具などの廃棄物が置いてあり、どれもこれも拷問の鈍器になりそうなものばかりだった。
実際先ほどから構成員の体を執拗に叩くモノ。それは、幹部の男がそこらへんの廃棄物から持ってきた、鉄パイプである。
何度も何度も、やってもいない事を証言しろと迫られる男。
頭からは血が流れ、体は最早立ち上がる力など全く残っていない、そんな状態の全てから見放された男には、最早助けなど来るはずもなく、来たとしたら【死神】かなにかだろうと思っていた瞬間。


彼のもとに【死神】より、余程たちの悪い【人間】が現れる事になる。

Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.15 )
日時: 2010/12/22 21:30
名前: トレモロ (ID: DTrz5f5c)
参照: http://blog.goo.ne.jp/roki000

第一章『便利屋と殺し屋の出逢い』———《便利屋の仕事事情》2/2

「どうも、お取り込みのとこすいません。【組織】さんから派遣されました、【便利屋】ですぅ〜」
軽薄な顔をした男だった。
へらへらと笑いながら、二人の【暴力団】に近づいていく男。
格好は一様黒のスーツなモノの、ネクタイはしておらずシャツの上のボタンは開いている。
背広はどこか着崩していて、なんともだらしない印象を受ける。
と、そんないきなり表れた見るからに異質な男に、【拷問師】の男は荒っぽく声を掛ける。
「なんだ、てめえは!」
「いえ、ですから【組織】に雇われてきたんですって」
軽薄な男はへらへらと笑い続けながら言う。
そんな男の態度に腹が立ったのか、苛立ちながら【拷問師】の男が怒鳴る。
「んなのはさっき聞いた!俺が言ってんのは、うんなもん要らねえからさっさとどっか消えろ、ってことなんだよ!」
「それは困りますねェ〜」
「あぁ!?」
男は笑いながら、【拷問師】に近づく。
そして……。

「俺はあんたの横領の件のケジメを付けに来たんだからよ」

「え……?」
【拷問師】が呆けた声を上げた瞬間。鉄パイプをもった右腕が【落ちた】

「は?え?————ぎ、ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

自分の右腕の手首から先の方が消失しており、行き良い良く血が吹き出るのを見て、痛みと恐怖で狂乱し膝から崩れ落ちる【拷問師】。
そんな彼に軽薄な男は上から淡々と語る。
「あなた、自分のやっている事が【組織】にばれていないとでも?あまり自分の席を置く場所を甘く見るのはまずいですよ?【組織】は私に事実関係の調査を依頼するほどには、優秀です」
「がああああ!!、な、なに!?」
先ほどまで部下に悲鳴を上げさせていた男が、今は逆に悲鳴を上げている。
何とも皮肉な光景。
そして、それを作り上げた男はニヤニヤとした粘ついた笑みを受かべ、哀れな男に死刑宣告をする。
「私の調査の結果。あなたが組織の金の一部。まあ、【マネーロンダリング】している金の一部を自分の懐に入れているのが解りましてね。その罪を部下に押し付けている事もはっきりと解りました。ああ、証拠もあるので言い逃れは無理ですよ?」
「ひぃ!」
【拷問師】の男はその言葉に怯え、突如として表れた【便利屋】から、這いずって逃げる。
「全く。ルートの一部を任されているとはいえ、無謀な事をしましたね。残念ですがあなたの人生はここで終わりです」
【便利屋】は逃げまどう【拷問師】。いや、もうその名で呼ぶには無理がありすぎる、【裏切り者】にゆっくりと近づく。
手には、先ほど男の手首をバッサリと切った、銀に輝くナイフを持って。
「あ、あああ。待ってく、くれ!あ、謝るから、謝るから!かかかか、金も返す、だから!」
そんな必死の叫びにも【便利屋】は動じず、ゆっくりとナイフを上に掲げる。
「そういう良い訳は私に言っても仕方ないですよ?」
そして、思いっきり振り下げた。
「やめてくれええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」

哀れな男の意識はナイフが届く前に、ぷっつりと途切れてしまった……。




「ふう、こんなもんですかね」
【便利屋】はそう呟きながら、椅子に縛り付けられたままの構成員に近寄って、縄をほどいてやる。
「あ、ありが…とう」
「いえいえ、これも仕事ですから」
先ほどまでの軽薄な笑みをやめ、ニッコリと笑う【便利屋】。
そんな彼に疑問を抱きながら構成員は、もっと疑問に思った事を口にする。

「あいつ…、殺さないのか?」

そう、彼は結局【裏切り者】を殺さなかった。
ナイフをすんでのとこで止め、意識を奪うだけにとどめたのだ。
「ええ、殺す事まではしないようにと言われてますので」
「そうか……」
笑いながら言う【便利屋】に、うすら寒いモノを感じながら構成員は相槌を打つ。
と、そんな彼の思いを知ってか、知らずか。【便利屋】は笑みを軽薄なモノに変え、男に軽い調子で言う。
「どうやら、あなたはこの気絶している方の後釜になるそうですよ?よかったですね!大出世だ!」
「そうなのか?」
「ええ!おめでとうございます!」
素直にほめたたえてくれる男をみながら、構成員から幹部になった男は複雑な思いを巡らせる。
そして、少しでもその思いを軽減したいと思い【便利屋】の男に問いを掛ける事にしてみた。
「なあ、あんた。いったい何者なんだ?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね」
こりゃ失敬と言いながら、【便利屋】は自分の名前を口にする。
「私の名前は祠堂 鍵谷と申します」
祠堂は懐の財布から名刺を取り出し、【組織】の幹部になった、以後自分のお得意様になるかもしれない男に渡し、こう付けくわえた。

「どんな事だろうと【仕事】の一言でかたずける。『祠堂雑事専門事務所』をよろしくお願いします」