ダーク・ファンタジー小説
- Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.155 )
- 日時: 2011/03/13 23:36
- 名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)
第三章『霞み堕ちていく優しき想い』———《狂人たちの戦闘と優しい決意》
刀が振るわれる。
横凪の一閃。
その攻撃を向けられた人間は、その神速の速さの攻撃を、一歩後ろに下がる事でギリギリ避ける。
しかし、刀による攻撃は止まらない。
さらに、もう一手、二手と激しく攻撃対象を追いつめていく。
だが、それらの攻撃も最小限の動きで、受ける側は避けていく。
「どうした木地見輪禍ぁ! その程度かぁ?」
避けながら更に挑発の言葉まで発する男。
それに対し、猛攻を仕掛けている人間。木地見輪禍は、うっとりとした笑みを浮かべて答える。
「いいですねあなた。強いです。先程の方たちと比べて私の動きについてきている。とても殺し甲斐があります」
明らかに銃刀法違反な長い刃を持った刀を振りながら、喜色の笑みを浮かべて男を追いつめんとする木地見。
「けっ! その余裕が何時まで持つだろうなぁっ!!」
叫び、大きく後退する男。
木地見と大きく距離を離す事で、彼女の間合いから外れることに成功する。
「余裕じゃありませんよ? でも、楽しいです!」
頬を紅く染めながら、妖艶な笑みを顔いっぱいに広げる木地見。
そして、刀を右手で握り、刃先の部分を男に向けながら、自らの願望を言葉にして、男に突き付けた。
「ですから、あなたに死が訪れるまで、精一杯私を楽しませてください!!」
「これからどうするんだ?」
『BARロゼリオ』を後にし、外の狭い路地の上に出た途端。
萩原栄志が、疑問の言葉を霧島終夜に向けた。
「とりあえず、【依頼】の仕事を続行する事にします」
「大丈夫か? 結構危険な件に首を突っ込んでるかもしれねえぞ?」
厳めしい顔を、更に厳めしくしながら。栄志は霧島に問う。
しかし、栄志の心配の言葉を、霧島は笑いながら。
「大丈夫ですよ。危険は慣れっこです」
と言って流す。
そんな霧島の様子を見て、栄志はため息をつきながら、呆れた表情を少年に向け、どこか寂しい雰囲気と共に言葉を発する。
「危険に慣れるなんて、良い事無いんだがな……」
そう告げながら、【警察】は少年に背を向けて、その場を去って行った。
片手を後ろにヒラヒラと振りながら、自分たちから遠ざかっていく栄志を見送った後。
霧島は自分の後ろにいる【依頼人】に向けて、今後の方針を話す。
「とりあえず情報収集したいと思います。本当は社長に合流してから話を進めたかったんですが、仕方ありません」
「……はい。よろしくお願いします」
覇気のない声。
その声の発信源。進藤麻衣の顔からは、深い悲しみの跡が見て取れる。
目は泣き腫らした所為か、真っ赤に充血していて痛々しい。
「……麻衣さん。今なら引き返せます。依頼を取り消しますか? もしかしたらこの先とてもつらい結末が待っているかもしれませんよ?」
マスタ—が【刹羅】に刺された場面を間近で見て、本気で悲しんだ少女。
そして、今尚彼女の悲しみは持続している。
そんな少女を見て、霧島はとある【不安】を抱え始めていた。
どうやら【探し人】は【こちら側の人間】の可能性があるらしい。
そういう人間が【消失】したという事は、霧島の様な人間なら【死】をまず予想するだろう。
そして、実際にその可能性は否定できない。
他人の【不幸】に涙出来る少女が、自分の父親の【不幸】に直面した時、どうなってしまうのか。
霧島には想像できない。想像をすることさえしたくない。
だからこそ【諦める】という行動を、少女に提示した霧島だったが。
すぐにその必要はなかったと、知ることになる。
「いえ、依頼は取り消しません」
「……大丈夫ですか? 最悪の可能性もあり得ますよ?」
「それでも、取り消しません」
覇気のない声で、それでも精一杯、強く自分の意思を伝えてくる麻衣。
その態度を受けても尚、言葉を並べようとした終夜は、その次の瞬間、麻衣の表情と言葉に固まる事になる。
「私は絶対諦めません」
笑顔。
どうしようもなく儚くて、折れそうなのに。
優しくて強い笑顔。
いや、微笑みというべきだろうか。
今まで霧島が見た事のないくらい、優しい微笑みが麻衣の顔には浮かんでいた。
言葉にも言いようのない、強い【意思】を感じ取る事ができる。
怖いはずなのに、恐怖を感じない訳はないのに。
彼女はとてつもなく【強かった】。
「……解りました。改めて、よろしくお願いします」
「はい!」
そこで初めて麻衣の声に生気が戻る。
マスタ—の事は心に残っているだろうが、それでも前に向かう決心を麻衣はしたのだ。
ならば、霧島がとやかく言う必要も意味も無い。
【便利屋】として、彼女の力になるのが、少年の今出来る一番の【行動】だ。
「それで、情報を集めるにはどうすればいいんですか?」
「そうですね……」
改めて、事態の進展の為の話を進める二人。
【情報】を収集できる場所。
本来それは、【情報屋】などに金を払って聞くのが一番だ。
【便利屋】として、そういうあても在るにはあるのだが。
(あの変態は情報量が糞高いからな……)
とある女装癖のある【情報屋】を思い出し、彼(もしくは彼女)の法外な情報量を考え、即座にその場所へ行く考えを打ち消す。
今回の【依頼人】には余り報酬は期待できない。ならなるべく金のかからない方向で話を進めたほうがいいだろう。
そう少年は考え、行く場所を余り悩まずに決めた。
「【志島・井出見組】って知っていますか?」
「しじま? いえ、聞いたことも無いです」
キョトンとした顔で返す少女。
だが、彼女がそんな顔になるのも無理はないだろう。
なにせその場所は、【一般人】にはあまり縁のない所なのだから……。
麻衣の表情を見て、霧島は困ったように笑いながら、これから向かう場所について説明する。
まるで、その場所に彼女を連れていくのに抵抗があるかのように……。
「まあ、端的に言うと、ヤクザ屋さん……ですかね?」