ダーク・ファンタジー小説

Re: 殺す事がお仕事なんです ( No.32 )
日時: 2010/10/11 10:48
名前: トレモロ (ID: C4aj9LgA)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

第一章『便利屋と殺し屋の出逢い』———《午前に来店する殺戮者》

コーヒー
その飲み物を黒く濁った水と昔は思ったものだ。それを今はこんなにも好いているとは、我ながらおかしいものだ。
そんなことを思いながら、霧島終夜は静かにカップに注がれた液体を飲んだ。
そして、
「——!!、これコーラじゃないですか!!」
叫びをあげることになる。
「いや、終夜君。そんな小さいうちからコーヒーを飲むと頭の回転が悪くなるよ?」
「どこの土地の迷信ですか!そんなことにはなりませんよ……」
その言葉を聞いてフッ、と無駄にダンティズム溢れる笑い方をする壮年の男性。
彼は『BARロゼリオ』のマスターだ。名前は知らないが皆【マスター】と呼ぶので名を知らなくとも問題はない。
彼の経営する【街】のはずれにあるこの店は、そこそこ繁盛していて常連も多い。料理がおいしかったりコーヒーが美味という理由も在るのだが、一番の理由はマスターの人あたりのよさであろう。
客の愚痴を聞いたり、何かめでたい時などは笑顔ともにサービスをしてくれたりする。その客への対応から『BARロゼリオ』はこの辺ではちょっと名の知れた店なのだ。只、今は自分たちしか客はいないようだが。
そんな店を一人で切り盛りしているマスターに少年は、コーラをちびちび飲みながら顔をしかめて愚痴る。
「しっかし、社長は本当にどこ行ったんすかね……、折角依頼人の方が来たって言うのに」
そう言いながら隣でこの店オリジナルの紅茶を幸せそうな顔で飲んでいる、【依頼人】進藤麻衣をみる。
何時もこの店に入り浸っているから、今日もここで朝食をとっていると思ったら、残念なことに空振りだった……。これでは依頼人の事を直接話すのは無理そうだ。
「あ、すいませんお話聞いてなくて……」
見られた事に気づいて謝る少女。恐らく話を聞いてなくて気に障ったとでも思われたのだろう。
「ああ、いえいえ、幸せそうに紅茶飲む方だなぁと思いまして。紅茶お好きなんですか?」
そう言いながらニッコリと笑う少年。
この笑いは他人に無意味に恐怖与えない為の彼なりの心遣いだ。彼は自分の外見が多少相手に恐怖を与える事を自覚している。目つきが鋭い為狼のように見えコワいとよく言われショックを受けつつも、【便利屋】という職業に就くものとして、相手に好印象を与えるのも大事な事なのだと思い。そう思う事で少年は作り笑いを受かべる事を割り切っていた。
例え自分の笑顔が決して心の底から出るものではない、偽りの笑みだと理解していたとしても……。
「はい!ここの紅茶は今まで飲んできた中でも一番おいしいです!」
「ありがとうございますお嬢さん。そう言ってもらえると店主としては嬉しい限りです」
少々芝居がかったお辞儀を少女にするマスター。
それを見て少女はクスクスと笑いながら、マスターと朗らかに会話を続ける。
そうした彼女の行為を横目で見ながら霧島少年は思う。

———気丈にふるまってるな……。

ここに来る前に依頼の詳細は聞いた。
父親が失踪したまま帰ってこない事、父の仕事は聞いたことは無いが何か【悪い事】をしているのかも知れない、という予感が在る事。そのせいで何か事件に巻き込まれてしまったのではないか?と考えている事。

———こういう子には幸せになって欲しいよなぁ

自分より歳の上の少女にそんな事を願う少年。恐らく彼女は今不安に満ち溢れているのだろう。なのにこんなにも明るくしている彼女を見ていると、素直に感心する。
話を聞くうちにもうお金の事は気にならなくなっていた、とにかくこの少女の父親を見つけ出して、早く再会させてやりたい。
ん?そういえば自分は何故お金を欲しかったのだろうか?
それを思い出そうと考えている間、

カランコロン

入口の鈴の音がなった。
音につられてそちらを見ると、そこにいたのは。

「ああ、とても悲しい事になっちゃうねぇ〜、この場所……」

長身の男が何か言いながらドアの前に立っていた。
格好は黒のTシャツに上にフード付きの長袖を着ている。
下は安物のズボンのようだ。
顔はほっそりとした顔で、美形。スポーティな眼鏡を掛けているのが印象的な男。
「いらっしゃいませ」
そんな突然現れた男性にもマスターは丁寧に対応する。
「お客様、こちらへは初めてのご来店ですね?メニューはこちらです」
その言葉を聞いて少年と少女が座るカウンターの傍の椅子に近づく男性。
そのまま椅子に座るのかと思いきや、歳がようやく20後半に差し掛かった感じの青年は椅子に座らずカウンターの前で突っ立っている。
「お客様?」
不審に思ったマスターが青年に問う。
そんな青年の様子に少年少女も訝しげに男を見る。
そして次の瞬間。

ドス

マスターの腹部に銀色の輝きが治まっているのを見た。

「は?」
呆けた声を上げる少女、今目の前で何が起こったのか脳が理解できない。
そんな彼らの状態を無視して、突如現れた青年はゆっくりと言葉を発する。

「はぁ〜い、お一人様ゲームオーバー」

軽い調子で言う。
今自分が一人の人間にした事とあまりにも不釣り合いな言葉。
一人の人間の腹に刀身の短いナイフを突き刺したという事象にあまりにも不釣り合い。
だが、その行動をした彼の顔は言葉とぴったりに軽い笑みが浮かばれていた。
楽しそうに、楽しそうに。
子供の様な軽い笑顔。
「嘘……」
少女はようやく自分の目の前で起こった事を理解する。
ナイフはマスターの血で徐々に濡れていく、そして、彼の服にも赤黒いシミが広がっていた。
「う、うあ。い、いやああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
少女は椅子から飛び退り叫び声をあげる。
だが店内から逃げ出したくても、足が震えて動けない。
「逃げないでよ〜?殺すんだからさぁ。君たちを僕が綺麗に綺麗に汚く汚く、優しく丁寧に激しく乱暴に殺すんだからさぁ〜」
ニコニコと笑いながら言う眼鏡を掛けた青年。
手にはナイフが握られてままで、そのせいでマスターの血が手に伝わってしまっている。
それに不快を感じることも無く、寧ろそれが嬉しいかのようにただただ笑っていた。

この今の状況で冷静な人間は一人だけだ。
少女は恐怖に冷静な判断が出来ないし、マスターは刺された恐怖で言葉も発せない。
眼鏡の青年にいたってはこの場のだれより冷静では無い、人を刺したという事象に全身の感覚が興奮しきっている。
この場で唯一冷静なのは一人だけだ。
その冷静な狼のような雰囲気を持った少年は静かに思う、目の前の情景をみて静かに思う。
たった一つの意志と目的と共に思う。


———こいつ、殺していいよな?