ダーク・ファンタジー小説

悲劇の始まり、そして終わり ( No.3 )
日時: 2017/12/24 14:03
名前: 氷アイス (ID: KE0ZVzN7)

登場キャラが未だに主人公一人と謎の金髪少女一人ってどういう事なんですかね。展開が遅いにも程があるんじゃないですか?
作者自身そうつっこまずにはいられないこの作品、ようやくこの回で物語が動きます。少し長めですが、どうぞお付き合いください。

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そう、全てはあの小屋から始まった。

巨大な建物をめがけ走り始めた透を待ち構えていたのは、どうして今まで気付かなかったのだと自分を責めたくなる程生い茂る森林だった。
元の世界で見た事のある森林と似ていたが、木一本一本で見てみるとそれは全く違う別物だった。
まずもって木の形がおかしい。どう人生踏み外せばそんなに捻じ曲がったのかと不安になる程の奇形。どんだけ辛い過去を送ってきたのかと同情してしまう程やせ細った幹。かと思えば傲慢すぎるだろうと引いてしまう程巨大な幹もある。
葉に至っては、言葉を失ってしまう程だった。どうして赤や青、黒といった色の葉が存在するのか。ぜひ植物研究者の方々には一度この世界を訪問して研究してほしいものだ。『原因不明』と書かれたレポートが提出される未来は目に見えているが。

そんなこんなでいかにもファンタジー世界を思わせる森林に、透は不安になりながらも突撃した。
ここに来ていきなりファンタジー要素が深まったのだ。フィールドチェンジにも程度というものがある。この異世界はやはりどこかおかしい気がしてならない。

「おっと。危ない危ない」

勢い良く走っていた透の足を止めたのは、深い渓谷だった。
なぜ森の中にこんな地形が形成されてしまうのだ、とつっこまずにはいられないが今優先するべき事を考え透は回り道を探し始めた。

底を覗いても、見えるのは暗闇だけだ。
落ちてしまったら最後、二度と生きて地上に戻ってこられ無いだろう。
慎重に進みながら、透は辺りを見渡した。

その時、遠くも近くもない前方で一つの小屋を発見した。
丸太が積み重なってできた、これまたファンタジー要素てんこ盛りの建造物だった。

「なんかいきなりイベント発生しすぎじゃね?ま、こんくらいのスピードじゃないとやっていけいないよな」

ブツブツ呟きながら、進路を小屋へと変更し歩き始めた。
思えば異世界に来たばかりの時は御都合主義がなんだのと嘆いていたものだが、今になってもやはり御都合主義は大事だとつくづく思わされる。

今小屋を発見できたのも、捉え方を凝らせば御都合主義だと言う事もできる。
だが、体験している本人にとっては御都合主義でもなんでもない。苦労の末ようやく見つけた一つの小屋にすぎないのだ。
そんな事を考えながら歩いていると、突然奇妙な音が森の中に響いた。

金属と金属がぶつかり合ったような、甲高い音。
森の中でこだましながら、その音はしばらく森の中に留まった。
当然透の耳にも響いた。その音は、小屋から発せられたように感じ取ることができた。

「なんだなんだ、戦闘イベントでも発生してるのか?」

金属音=戦闘中と脳内変換してしまうのは、思春期真っ定中の透にとっては普通の事なのだろう。
なんの違和感も感じる事なく、小屋へと進む足を早めた。

その後も金属音は連続して響いた。
時に低く、時に高く、一回一回音を変えながら響く金属音は透の頭の中でハリウッドばりの戦闘シーンを連想させた。
一体何が起こっているのか、期待と興奮を胸に抱きながら遂に小屋の扉を開けた。

透を歓迎したのは、鮮やかすぎる赤の血だった。

「え?」

目の前で、同年代くらいの少女が腹から刃物を覗かせていた。
元の世界でお金持ちの令嬢が着用していそうな高級感漂うドレスのような黒色の服は、無残に切り刻まれていた。
腕の部分を覆う白色の服は、血で真っ赤に染まっていた。

透の体に付着した血は、目の前の少女のものだった。

「……おい!しっかりしろ!」

ドサリと倒れた少女の体を急いで抱き起こし、声をかけた。
刺された箇所からは血が止まる事なく溢れ出し、内臓までもが飛び出ていた。
腕は白色の骨がその姿を露わに表していた。足は不自然な方向に曲がっている。

酷く、悲惨な状態だった。
顔だけが、なぜか不自然に、綺麗に残されていた。

「今度……は……助ける……から……」
「喋らなくて良いから、ジッとしてろ!」

妙な正義感が湧き、急いで自分の衣服を剥ぎ取り腹部を覆った。
どうしてこんな事をするのか、自分でも理解できなかった。
ただ、なぜだろうか。どうしても、目の前で死に行く少女をただ見過ごすわけにはいかなかった。

もう分かっている。もうこの少女は死ぬだろう。
それでも、死んでほしくない。目の前で死ぬのは、もううんざりだ。

もう?今まで一度も、人が死ぬ場面なんて見た事がないのに?

記憶と思考に違和感が生じ、混乱し始めた透の視界は、悲しくも更に鮮明になった。
薄暗い小屋の中には、赤い海が誕生していた。
全部、血だ。肉塊が浮かんでいる。
おそらく、この少女だけではない。この小屋の中で、他にも誰かが死んだ。
そう考えると、吐き気が一気に押し寄せた。

必死に口を押さえ、吐き気を抑えようとした透の右頬を。

背後から何物かが優しく撫でた。

「安心して。あなたもすぐ楽にしてあげるから」

人のようで、人ではないような妖しい声。
撫でる手から伝わる冷たさは、狂気だけが感じられた。

冷静になって考えれば分かった事だ。
扉を開けた時少女は腹を刺されていた。
部屋の中にもう一人いる事くらい、簡単に分かったはずだ。

冷静になることができず、頭だけがぐるぐる、ぐるぐると回った。
息が荒くなった。
寒い。鳥肌が立つ。

「そう怖がらないで。死ぬのは一瞬で、とても気持ちが良いのよ」

怖がらないで?無理だ。
だって殺される。
今から死ぬ。
死ぬ?
今から?
嫌だ。
死にたくない。
助けて。
誰か助けて。
怖い。
早く。
誰でも良いから。
助けて。
助けて。
助けて。
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくにない死にたくない死にたくにない死にたくない死にた

「さようなら」

死んだ。

* * * * * * * * * * *

「……!!」

目覚めた。死んだはずなのに。
痛みは無い。ただ恐怖だけが、体に残っている。
急いで周りを見渡した。すると、ありえるはずもない光景が目の前に広がっていた。

「ここ……俺の部屋、か?」

そう、透自身の部屋だった。
自身のベッドの上で、透は汗だくになっていた。

* * * * * * * * * *

それから鏡で体全体を見てみたが、何も起こっていなかった。
あの時確かに、どこかを斬られた。痛みを感じる暇もなく死んだから、どこかは分からないが。

やはりあれは夢の中での出来事だったのだろうか。
目覚めてからは何事も無く母親の作った朝食を食べ、制服に着替えて家を出て高校へ向かっている。
いつも毎朝通っている道が、今日はやけに懐かしく思えた。

「やっぱり夢だったのかな、もう分かんねーよ……」

夢にしては、あまりにもリアルで。
現実と言うには、あまりにも残酷で。

今まで体験していたあの見知らぬ世界での出来事が、もう現実か夢かすら分からない程遠くへ離れて行っている。
もうそれで良い。忘れられるなら、忘れてしまった方が良い。

全部、夢だった。
そう思い込んでしまえばいい。

* * * * * * * * * *

「どうした?浮かない顔してるな。告白にでも失敗したのか?」
「そんなわけないだろ。ちょっと嫌な夢を見てな……」

いつも通りの教室で、いつも通り友達と会話を交わす。
これが現実だ。これが現実なんだ。

「嫌な夢か。俺も最近よく見るぜ、女子に嫌われる夢とかさー」
「お前の夢はいつもそんなんばかりだな。俺の見た夢はそんなくだらないもんじゃねーよ」
「な、くだらないとはなんだ!男に生まれた以上、女の子に嫌われるのは何があっても避けたい事態だろう!全く、そんなんだからお前は……」
「はいはい、分かったよ」

こうして馬鹿話をして笑い合う、いつも通りの光景が。
あの夢を見た後だと、とても貴重で儚い時間に思えてしまう。
もうあの夢は見る事はないだろう。
これからは普通にどうでもいい夢を見て、いつも通りのこの日常を普通に感じ取る事が出来るのだろう。

でもそれは幻想で、現実はもっと非情だった。

家に帰り、夕食を家族で食べ、風呂に入り、宿題を済まし、そしてベッドに横たわる。
次の目覚めはこの部屋で迎えられると信じて、目を閉じた。

そして、目覚めの時がきた。







「昨日と全く同じ状況じゃねーか、どうなってんだよ……」

二度目の草原。二度目の始まり。
悲劇はまた始まるのだろうか。
それとも、終わるのだろうか。

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やっと話が動いたと思います。
今回の話で出てきた新キャラ二人(腹刺され少女と妖しい声さん)は、今後のストーリーに大きく絡みます。というか片方はずっと絡みます。言いたい事は分かりますね?
どっちかがこの話のヒロインです。どっちかは……分かると思いますがご想像にお任せします。

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