ダーク・ファンタジー小説

Re: スキルワールド ( No.3 )
日時: 2023/04/22 00:14
名前: マシュ&マロ (ID: 81ny2H6d)

 知らない天井が見える、瞬きをニ回してみた。

 知らない天井が見える。

 周囲を見回してみる、鼻を突くような消毒液のにおい、ここは病室だろうか。

 ベッドから身を持ち上げる、此処はどこだ、なぜ此処にいるのか、考えろ、考えなければ___。

 

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 半刻が過ぎただろうか、時間の感覚が分からない、外の様子を見ようとしたが病室の扉は開かなかった。窓や時計、外部の情報知る手掛かりとなるものは一切なく、今が昼なのか夜なのか、自分はどのくらい寝ていたのか____。

 次に思ったことはどうして此処にいるのかだった、がしかし、それが思い出せない。頭を強く掻いた、何かが欠落していている、記憶の一部が抜け落ちたかのようだ、結局は分からなかった。

「___っ!」

 不意に頬に触れてみた、ガーゼで覆われた方の頬に触れると布越しだというのに酷く痛む、頬の内側から傷口を舐めると糸で縫われたいるのが分かった、金属のような味が口に広がり鈍い痛みが走って思わず顔が引き攣る。

 覚えているのは京八といつものように帰り道を歩いていたこと、そして彼が不思議な表情を浮かべていたことぐらいである。

「____?」

 疑問に思い周囲を見回す、京八はどこにいるのか、彼は大丈夫なのかと___。

 やはり誰も、自分以外は誰もこの病室には居なかった。

「_____っ!?」

 扉がウィーン、と機械的な音を挙げて開いた。ここの看護婦か、女性の白衣が目についた。女性は少し驚いた様子で自分をしばし見つめて立ち尽くす、訳がわからず首を傾げていると彼女は早足にここを去っていく、彼女が戻ってくるまでにそこまで時間は掛からなかった。

「あの、えと、、、気分は大丈夫ですか?」

「え、まぁはい、大丈夫かと?」

 多分そんな内容の会話を交わしたことだろう、彼女は手をそっと伸ばして自分の額に触れてきた、どうやら熱を測っているのだろう、いくつか質問され、それを慣れた手つきで彼女は事細かく紙に書き留めていく、看護婦は自身の書いた紙に一通り目を通すと物腰柔らかに自分を部屋の外へと誘導する。

 廊下に出た、とてつもなく長く感じた、すべてが白い、壁も床も天井までも、これがまた歩いてみると足が鉛を入れたかのように重いのだ、まるで何日も歩いていないかのようであった。

 しばらく歩くと自分がいた部屋とは異なる部屋についた、道中では自分と同じか下の年ぐらいの子とも数人すれ違った、中には見るのも憚られるような深手を負ったのも何人か見かけた、ここは何の施設なのだろうか、そう頭で思考する。

 着いた部屋に入ると年配、それもかなりの年であろう風貌の男が白衣を身につけ諸々の書類に目を通しているところであった、男は曲がった背骨を動かしこちらの方を一瞥する、目線はすぐさま書類を見ていた、こちらを見ぬまま口が動かした。

「よく生きていたものだな」

 しわがれた声、称賛ではなく呆れているといった方が近いかもしれない、額に皺を寄せた訝しむような顔で___。

「えと、あの・・・・・・?」

「座りなさい___」

 こちらを見ずに老人は椅子の方を指し示す、看護婦が小声で座るよう自分の耳元で囁いてきた。

「あの、それで、先程の言葉はどういう意味で・・・・・・?」

 老人の目線がじろりとこちらを向く、ヘビに睨まれたカエルの心境、固唾を飲む。

「ほんとうに何も覚えていないのか?」

 はい?、思わずこんな顔を浮かべていただろう。老人が軽くため息をついた。
 
「そんな呑気な頭で、これでよく死なずに済んだな」

 一周回って腹が立ってきた、今すぐその顔を殴りつけたい、そう思った。しかし、看護婦がどーどー、と自分の肩を押さえてくる。これではまず立ち上がることは不可能である。

「カマキリ__。君はこの男を覚えているか?」

 え??、疑問が増える、話が見えてこない。

「そうか、分からないのならそれでいい、それもまた君自身が選んだことなのだから」

 鋭い痛みが脳を刺す。カマキリ?、蟷螂___??

「____ッ!!?」

 記憶が溢れてくる、思い出したのだ。

 苦虫を噛む、脳が焼き切れたかのように熱をうねらせ、痛みを伴った警報が頭蓋を強く叩いてくる。看護婦の悲鳴だろうか、周囲の音がよく聞き取れない。視界がひどく霞む、そして大きく傾いた、とつぜん平行感覚を失い、頬が床に吸い込まれたかのように倒れ込む。視界を覆う暗闇、もはや悲鳴は聞こえない。