ダーク・ファンタジー小説

Re: スキルワールド ( No.65 )
日時: 2018/09/10 18:46
名前: マシュ&マロ (ID: BB67RT0Y)


 友間は今、ストラング内にある自身の部屋に座っているのだが、困ったような表情を浮かべて自身の目の前で会話をしている美香とシロの二人を見ていた。


 「友間との出会いはいつ頃なの?」


 「実のところ会うのも話すのもあの一件が初めてでして、友間さん自身も私のことを知らなかったと思います」


 「うん! うん! 一目惚れってわけ。キャ〜友間のモテモテ〜〜」


 「一目惚れ、というわけではないのですが.....」


 「分かる! 分かる! 感覚で運命を感じちゃったのよね!」


 「あ、いや、そういうわけでも....」


 「話してる途中で失礼、それとちょっとシロは付いてきて」


 「分かりました友間さん」


 「ふーラブラブ〜。二人の子供が待ち遠しいわね〜」


 「かあ〜)) えっ!、子供ですか!?」


 「いいからシロは付いてきて」


 シロを携えて洗面所に入ってきた友間はドアを鍵まで閉めるとまだ頬の紅潮しているシロにこう言った。


 「お姉ちゃん、俺とシロのことカップルだと勘違いしちゃってるみたいだよ....」


 「はい、私と友間さんは世界の運命で繋がっています」


 「違うよ!、それは俺が世界の命運を握っているっていうやつでしょ?」


 「はい、ですから友間さんを運命の時までお守りすることが私の宿命です」


 そんな事を言っている二人だが、実はシロによると友間には世界の命運を左右する選択が待っているらしくシロはそれが訪れるまでの護衛だとか。


 「シロが俺を守ってくれるのは分かった、でもこのままカップルだと勘違いされ続けたら最終的には結婚をしなきゃならないんだよ?」


 「ケッコン?....あー、血痕のことですか」


 「いや、何か言葉の意味が今違っている気がしたけど....まあいいや、お姉ちゃんが待ってるし行こっ」


 「はい、友間さん」


 子供については分かっているが結婚については全くもって無知だったシロと共に美香のいる所へ戻ってきた友間は少し心配しつつも先程まで座っていた場所に座り直したのであった。


 「二人でキスでもしてたのかしら?」


 「え!、えっ!? キ、キスですか!?」


 「もうお姉ちゃん、シロをからかわないでよ。それにシロとは付き合ってないんだし」


 「あら、それなのにどうして二人で暮らしてるのかしらねー」


 「それはシロが俺とできるだけ近くにいたいっていうから.....」


 「はい、友間さんは私が守ります」


 「やっぱりアンタ達二人って付き合ってると一緒じゃない。 でさ、式はいつになるの? 5年後?、6年後?」


 完全に友間の話を聞いていない美香はまだ頬が火照り気味のシロにそう聞いてみたが、当たってるようで間違った答えがシロから返ってきたのであった。


 「シキ?.....あー、死期ですか!。私の場合だとまだまだ先になるかもしれませんね」


 「そっか、まあ焦っても物事は決まった通りにしか進まないしね、ゆっくりとでも進んでいきな。それと弟の友間をこれからもよろしく頼んだよ?」


 「はい!、私の命に代えてでも守り切ってみせます!」


 「よしっ!、その意気だ!。そんじゃ私は失礼するよ、またな友間とシロ」


 そう言い残して部屋から立ち去っていった美香、その様子を見てから友間自身もう後戻りができない程に勘違いされてしまったのだと思った。


 「な、なんか色々あったけど今回ばかりは今からでも覚悟を決めた方がいいかもしれないな」


 「えーと.....ケッコンの事ですか?」


 「そう結婚、......それとシロってボスと知り合いだったりするの?」


 「いいえ、昨日が初めてですが?」


 「いや何かさ、二人が会った瞬間にシロもボスも顔見知りみたいな感じだったから」


 「いえ、私は知りません」


 シロ自身が話したがらないのか友間は肩を落とすと今の話は一旦打ち切りにして話題を変える事にしてみた。


 「まー、ところでボスって今何してるんだろうね?」


 天井を見上げながらそう言った友間、その横顔を見ていたシロは少し気まずそうな感じで頭の中に蘇った過去の思い出を押し殺した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一方その頃ボスはというと誰も見当たらないストラング内にある通路を足早に移動しながら誰かと電話越しで話していたのであった。


 「おい美香!、会議までもう少しだぞ! お前は何処をほっつり歩いてるんだ?」


 『そう騒ぐなって金森、えーと....あっ! おーい金森ィ〜ッ!!』


 ふと顔を上げてみたボスは遠くから手を振っている美香の姿をとらえると軽く息を吐いてから美香との電話を切った。


 「悪いな金森、ちょっと友間のとこへ行ってたからさ。それに“あの子”のことも気になってたしさ」


 「シロの事か....。人生とは本当に分からないものだな....」


 「感傷に浸ってるとこ悪いけど、さっさっと会議を終わらしに行きましょ」


 「あぁ悪い美香、確かに今はそれが先決だな」


 そう言ってボスは急に美香と共に立ち止まり一つのドアが開くのを待った。そして開いた先に見えてきたのは何十席にもわたり会議室と呼ばれる部屋の中には大勢の人間が座っておりボスはそこを歩きながらこの場の全員に向けてこう言った。


 「今日は集まってくれてうれしいよ、幹部の諸君。それでは諸君らと共に会議を始めようか・・・・・・。」

Re: スキルワールド ( No.66 )
日時: 2018/09/12 22:44
名前: マシュ&マロ (ID: BB67RT0Y)



 会議は終始熱を帯びていた。反論による反論、飛び交うざわめき声。それに対してボスは自身が手を置いている机を壊れない程度に叩いて周囲の飛び交っているた声を静かにさせると落ち着いた様子でこう言った。


 「これを“会議”だということを忘れるな。ただの大声だけの討論にするのなら他所でやってくれ、いいな?」


 ーーゾワッ!!


 この場にいた全員が何も喋ろうとはしなかった。全員でならボスに勝てるだろうが、先手を切って犠牲になることはこの場の誰も負いたくないリスクである。


 「・・・・・・・それでは、ちょうど一週間前になるがここストラング第2基地のセキュリティーを軽々と突破したうえ、さらにはストラングへの宣戦布告を申してきたノアの件だが・・・・・・、この一週間で何か分かった者はこの場にいるか....。」






 誰も手を上げたり立ち上がる者はこの場には居なかった。すると何処からか携帯の着心音が鳴り出したかと思うとボスの耳に一度聞いた事のある男の声が電子音混じりに入ってきた。


 『やあ諸君、ここは今から始まるショーには実に最適な場だ』


 そんな声が聞こえてきた後、ボスからして右側の幹部の座っている席から何かが飛び出してきた。


 ーースタっ....!


 「ふむ、ここは実に警備が手薄過ぎではないかね?」


 「電子機器の中まで移動できるとはな、ノア」


 「それは誉め言葉として受け・・・・・。」


 ーーバキッ!!


 ノアの素顔が見えない顔にボスの拳が一撃入って体勢が崩れ、その後は目にも止まらぬ速さでボスに床へと拘束されながらノアは倒れ込んだ。


 「俺がストラング内にいる限り、俺自身がここの警備システムだ」


 「ふュー。痺れる言葉の途中で悪いけど、後ろ取られちゃってるよ?」


 その直後ボスの背後から突如として現れたドルスの蹴りが入る....が、ボスは何の反応も見せずに口を動かした。


 「ああ、知ってたよ.....。だが喰らったところでダメージは負わないがな」


 そう言っていると段々としてボスの全身がダイヤモンドに変化していき、周りからは指の骨がボキボキと鳴る音が聞こえてきた。


 「確かに、基地自体の防衛力など裏世界の住人達からしてみれば紙切れ程度だろうが......だが、そのそんな基地の中には相手にしてはならない怪物どもがいる事を覚えておいてくれ」


 周りの雰囲気が混乱から押し潰されそうな程の殺気に変わり、まるで視線の先にいるノアとドルスを食い殺したくてウズウズしているような得体の知れない野獣と言って等しいだろう。


 「ストラングを舐めるなよッ!」


 ーーバチンッ!!


 ノアは得体の知れない何かを感じて反射的に体が動くと自身を抑えているボスを弾き飛ばした。


 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、確かにそうらしいな」


 「おいノアっ!!、大丈夫か?」


 「心配ない、大丈夫だ」


 ノアはそう言っているが自身の左腕から激しい痛みを感じており折れているか骨にヒビが入ってしまったのだろう。


 ノアは心を一旦落ち着かせると自身の荒くなってしまった息を整え、周りにいる幹部やボスを見回して言った。


 「今日はお前らなどと戦いに来たのでない。 そう、一種のショーというところどろうね」


 「ショー...?....、お前の遊びに付き合うつもりはない」


 ボスはそう言ってノアへと近付こうとした瞬間、ボスの真横から次元の大穴が突然に開くと中から大量の何かが飛び出してきてボスをその波が飲み込んだ。


 「どうだいサプライズだ。コイツらも君たちと遊べて喜んでいるよ」


 大量の何かの正体は黒いローブに赤々した鎌を構える死神のような風貌の骸骨たちだった。


 「コイツらは言うなれば電子世界の支配者、つまりデスオメガの分身であり子どものような存在だ」


 「おいノア!、ホントにコイツらは使えんのかよ?」


 「安心しなよドルス、コイツらの力は単体でも精鋭レベルだからね」


 だがそう言った直後、死神の集合体の中心から何かが小さく聞こえてきたかと思うと次の瞬間にボスの片腕が飛び出してきた。


 「なら安心したよ、この程度では俺たちを倒そうなんて不可能だからな」


 次々と群がってくる死神たちを掴んでは潰し、また掴んでは潰していき徐々にボスのピカピカなダイヤの肉体が見えてきた。


 「まあ、まだ余興だ。そしてこれがメインだッ!!」


 ノアの背に次元の狭間が何十も出現すると次から次へと周りに死神が飛び散って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「そうそうシロ、その調子だよ」


 「う〜ん、“リョウリ”というものは難しいものですね」


 「いや、これ『卵焼き』だから難しくはないと思うけど?」


 「私は昔から捕まえた生き物を丸焼きにしたりしかしなかったので細かい作業は苦手なんです」


 「えっ!?、シロって今何歳なの?」


 「んー・・・・・・、世界に文明ができ始めた頃ぐらいですかね?」


 「えーと、その時は何処に住んでたの?」


 「むー・・・・、色んな場所を旅していたので見当が....。」


 「ならさ、日本に来たのはいつ頃なの?」


 「んー・・・・、日本に漢字が伝わってきた時ぐらいでしょうか?。その当時は言葉も分からず川で魚を捕っていましたね」


 「泳いだり、素手とかで魚を捕ってたの?」


 「はい、そのあと日本に来る途中で捕まえていた亀の甲羅を改造して中に保存していました」


 「・・・・・・・そ、それって背負ったまま泳いだりしてた?」


 「はい、わざわざ毎回取りに行くのは効率が悪いと思ってましたし力加減も当時はまだ未熟で魚を殺してしまう恐れがあったので」


 「ま、まさか皿とか頭に乗せてたりしてないよね??」


 「えーと、皆さんが“ぷーる”という四角い箱の中で泳ぐ時などに被るような帽子のように私も似ているものを被っていましたよ?」


 (あっ....河童の正体が明らかに...。)


 「どうしましたか、友間さん?」


 「あっ!、いや....まさか姿は見られてないよね??」


 「えーと、たまに人を見かけるので世間に溶け込むには信頼が必要と思いまして挨拶をしたりしていました」


 「でっ、結果はどうだったの?」


 「全裸で泳いでいたのが原因で肌に苔や水草が付いてしまっていたようで、そのこともあり怖がれてしまいました」


 (あっ.....河童伝説に終止符が...。)


 どこか遠い目をしていた友間だったが焦げた臭いが鼻を刺してきたことで我に返ってみるとシロの焼いていた卵が目が当てられない程に悲惨な状態になっていた。


 「あっ!、折角の卵を焦がしてしまい失礼しました友間さんっ!」


 「俺の方も一方的にシロに質問しちゃってごめんね、まだ卵もある今度は俺が作るよ」


 「いえ、己の主人に雑事を任せるなど失礼ですので....」


 「いいから、俺も少しは料理はでき・・・・・・。」


 ーープルル〜、プルル〜


 「んっ?、あれ...お姉ちゃんからだ? もしもしお姉ちゃん?」


 『あっ!友間〜、お姉ちゃんだけど敵が逃げ込んじゃってるから気をつけてね〜』


 「え!、えっ! ちょっと今何て言ったの!?」


 『そんじゃ友間、頑張ってね〜』


 ーーガチャッ!!、ツー・・・ ツー・・・


 「・・・・・敵が、逃げ込んでる....?」


 「あれ友間さん、お散歩ですか?」


 「うん、ちょっと基地内を歩いてくるよ」


 「・・・・・・あの.....、気をつけて下さい」


 「....分かった、約束する...。」


 友間はまだ卵を焼くことに苦戦を強いられているシロと別れの約束をすると静かに....でも力強く部屋を出て行ったのであった。


 「・・・・・むー、やはり止めるべきだっただろうか.....。あっ! しまった、また1つ無駄にしてしまった....」

Re: スキルワールド ( No.67 )
日時: 2018/09/15 23:59
名前: マシュ&マロ (ID: BB67RT0Y)



 友間は一人ストラング内の通路を歩いていた、だがどこか緊張しており慎重に一歩一歩を踏みしめていた。


 (しまった、敵の見た目って分かんないんだけど大丈夫かな?)


 「よっ!、黒奈っ!」


 「うおっ!!、京八っ!?」


 「何だよ?、俺になんか付いてんのか?」


 「い、いや〜 そういう事じゃないんだけど・・・・・。」


 友間が受け答えに困っていると京八の後ろから片腕にギブスが巻かれたジャッキーが現れて友間に話しかけてきた。


 「久しぶりね友間!、ところでシロとは上手くいってるの?」


 「はぁー、ジャッキーも信じちゃってるの?」


 「何よ?、だって一緒に住んでるじゃないの?」


 「ソレさ、お姉ちゃんにも言われた」


 「まっ、そういう事で諦めなさいよ友間。それにシロのどこに不満があるのよ?、可愛いし良い子じゃない?」


 「ただ俺は.....シロに見合うような人間じゃないと思ったんだ....。俺はシロより強くもないし何の覚悟もないから.....」


 友間がそう言って下を向いていると突然 京八に軽く頭を叩かれ思わず視線を京八へ向ける。


 「たくよー・・・・。あのな黒奈?、男と女に見合うか見合わないかなんて理由はねぇんだよ。 まー強いて言うなら自分の女を幸せにできるかどうかだな」


 「・・・・・・ありがと京八、俺がバカだったよ」


 「おうよ!、何があっても何度だって親友のお前を助けてやるぜ」


 「ちょっと二人共!、大事なお話の途中で悪いけど厄介な迷子がいるみたい」


 横から二人の話に入ってきたジャッキーの指差している方向を見てみた二人は自身の骨で雑音を奏でている死神らしき集団が目に入ってきた。


 「まいったな、背骨の亀裂がまだ完治してねぇのにタイミング悪いな」


 「同感ね京八、私もまだ片腕が使えないのよね」


 「じゃあ俺がこの場を引き受けるから二人はサポートに回ってちょうだい」


 「了解だぜ黒奈!」


 「OK、友間!」


 二人が後ろへ下がったのを確認すると友間は久しぶりにスキルを発動して目の前にいる集団へと体を向けて身構えた。


 「性質<炎>ッ!!、さあ来いっ!!」


 「黒奈!、いちょう気をつけろよ」


 「うん、分かった」


 友間はそう言うと前へと飛び出していき死神の集団に突っ込むと敵の攻撃に怯むことなく周りを掻き回した。


 「うわ〜、黒奈って初めて此処へ来た時より断然強くなってんな」


 「そりゃあ京八、友間は土神との一戦で死を覚悟で戦ってたのよ.....そんな奴が、弱いわけがないじゃない」


 「俺も抜かれねぇように張り切らねぇとな、それとジャッキーも気をつけてろよ?」


 「ハアッ? 何で私なのよ!?、私はまだまだアンタと違って大丈夫よ!!」


 「分かんねぇぞ〜、何が起こるのか分かんねぇのが人生だかんな」


 「ふんっ!、何か私も久しぶりに動きたくなったから友間に加勢してくるわね」


 「おいおいジャッキー、腕の方は大丈夫なのかよ? まだ完治してねぇだろ?」


 「私を舐めてもらっちゃ困るわよ」



  “復讐劇・血”ッ!!



 ジャッキーから禍々しいオーラが吹き出してきて次にはズカズカとした足どりで戦っている友間へと近寄っていくジャッキー、その様子に少し心配な目で見守っている京八であった。


 「うっ!、コイツちょっと手強いな?」


 「友間.....ちょっと下がっててくれる」


 「え...?、あ..はい?」


 友間が後ろへ下がった瞬間、恐ろしいというか驚愕というのか次から次へとジャッキーは敵を掴んでは地面に叩きつけてバラバラに破壊していき、それを見守る友間と京八は絶対に敵には回してはいけないと心に刻んだのであった。


 「あ、あの京八・・・・・、ジャッキーを止めた方がよくない.....。」


 「そ、そうだな黒奈。おーい! ジャッキー、そろそろで落ち着いた方が・・・・・・」


 京八が制止を呼びかけるもジャッキーが最後の敵を骨の一本一本に分解し終えたあとだった。


 「ふー・・・・・、いっちょあがりね♪」


 「ジャッキー、俺京八だけど分かるか?」


 「何よ?、私がなんかしたっていうの?」


 「いや、ただ言ってみただけだ」


 「そっ、なら良いけ・・・・・」


 ジャッキーの言葉が終わってないタイミングで地面にバラバラになって転がっている骨が小刻みに震えはじめて何もない空中で集合していった。


 「あー、やっぱもう片腕があった方が良かったわね・・・・・。」


 次の瞬間、ジャッキーは吹き飛ばされ先程までジャッキーのいた場所の近くには一回りも二回りも大きくなった死神ような敵の姿があった。


 「ジャッキーッ!? たくっ!、いくぜ黒奈っ!!」


 「えっ!、俺も?」


 「喰らえや化け物ッ!!」


 京八の拳は敵の顎を粉砕するような勢いで直撃して追撃として友間の炎の拳が炸裂したが全く効いてきる様子は敵にはなかった。


 「おい黒奈、まだ余裕か?」


 「まだ大丈夫だよ京八、でもジャッキーの方は無事な・・・・・」


 そうかけて友間の真横を誰かが突っ切っていった。最初はジャッキーかと思ったが残念ながら別の少女だったようで勇ましく敵に跳躍すると大きな敵の頭部に軽々と着地し、蛇の威嚇音のような音が辺りに響き渡ると共に少女は敵へと噛みついた。


 すると敵の体から段々と小さきながらも小刻みな音が聞こえてきて最終的には大きな巨体が呆気なく崩れ去ってしまった。そして元戦場だった所から先程の少女が現れて京八と友間の顔を交互に見合わせ少しだけ息を吐くと一言二人に呟いた。


 「ワタシは羽方ミレア。二人とも仲良くして下さいね?」


 「「え、あ、はい...。」」


 少し呆気にとられてしまった二人だが、ミレアに差し出された両手の握手を片っぽずつしっかりと握るとミレアの握手に二人はこう答えた。


 「よろしくねミレア、俺は友間って言うんだ」


 「でっ、俺は京八だ。よろしくな」


 しっかり握られている握手なのだが、友間と京八の二人はもう一人のことを忘れている気がするが気のせいなのかな?

Re: スキルワールド ( No.68 )
日時: 2018/09/21 20:32
名前: マシュ&マロ (ID: BB67RT0Y)



 「改めまして私は羽方ミレア、よろしくね」


 「ミレアね。私はジャッキーよ、よろしくね」


 ミレアから差し出された手を握るジャッキーは、友間とさっき会った時と比べてボロボロとなっており少しいたたましく思えたがそんな事は気にする様子もなしに京八の声が聞こえてきた。


 「まー敵も倒せた事だし、乾杯のコーラでも飲まねぇか☆」


 「私はパスするわ、京八」


 「どうしたジャッキー、つれねぇなあ?」


 「ちょっとヤンチャし過ぎたみたいだから、新しいギブス巻いてくるわ」


 「え〜・・・・・、じゃあ友間とミレアはどうだ?」


 「私もパスするわ....。」


 「あ、ごめん、シロを待たせてるんだ。しかも料理もやらせてるから何が起こるか分からなしさ」


 「しゃあねぇな、そんなら俺一人で飲んで来るぜ」


 そう言い残して京八が去っていくとそれが合図だったかのようにミレアと友間は自分の来た道を別々に戻っていったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーーガチャ....


 「シロ、ただいま」


 「あ、えーと、おかえりなさい友間さん.....」


 「んっ?、何か言葉に困ってるみたいだけど何かあったのシロ?」


 「お、落ち着いて聞いて下さいね友間さん!」


 「うん、シロの方がまず落ち着こうか」


 その後、友間の視界から消えたシロが手に持ってきたモノは世界の七不思議に匹敵するぐらい正体不明なドロッとした物体であった。


 「・・・・・・え...? な、何コレ?」


 「あ....その.....。た、卵焼き...です」


 「た、卵焼き...? じ、じゃあ今晩も俺が作るよ」


 「そ、その.....卵。全部使ってしまいました...。」


 「ま、まあ他の食材で作っちゃえば・・・・・。」


 「冷やそうと思って冷蔵庫に入れたのですが、全部腐らせてしまいました...。」


 「って、事はまだまだ作った卵焼きがあまってるの?」


 「はい、お恥ずかしながら冷蔵庫にたんまりと....。」


 「・・・・・・まあ、意外と見た目と違って美味しいかもしれないし....味見してみるよ」


 「え! ちょっ! 友間さん!?」


 台所の近くにあったスプーンを取ると友間は勢いに任せて卵焼きの盛られた皿に突っ込ませると、そのままの勢いで卵焼きを口へと流し込んだのであった。


 「ん〜、意外といけ・・・・・。」


 ーーバタッ.....。


 「ゆ、友間さんッ!? 大丈夫ですか!?、しっかりして下さい!!?」


 「あーなんて綺麗な川なんだろうか...。」


 「友間さん!?? ダメですッ!!、渡ったりしたら終わりですよッ!!?」


 「あー誰か手を振っ・・・・・((ガク...」


 口から泡を噴き、だんだんと意識が薄れていく中で最後にシロの声が聞こえてきた気がして友間は意識を失った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「ん....、う〜ん・・・・・。」


 友間はどこかのベッドの上で白い天井を見ながら目を覚ました、感覚的に言えば学校にある保健室にいるような感じがする。


 ーーギュウゥゥウゥゥゥ〜〜・・・・。


 友間は突然として誰かに抱きつかれ強く抱き締められた、よく見てみると涙目になりながら抱き締められくるシロの姿だった。


 「え....ここ、何処...?」


 「ホントに良かったです......本当に良かったです....。」


 「し、シロ? どうしたの?、それと何がどうなって・・・・・。」


 そこへ誰かが近づいてくる気配して京八が勢いよく現れてきて慌てた様子で話しかけてきた。


 「おい黒奈! お前ホントに黒奈だよな!?」


 「う、うん....俺、友間だよ京八。もしかして忘れてた?」


 ワケが分からずに自分自身を指差しながらそう言った友間。それに対して京八は震えはじめたかと思うと友間へと飛びついた。


 「バカ野郎〜っ!!」


 「ワッ! き、京八!? ち、ちょっと一旦離れてくれない!??」


 「あっ、悪い.....ふぅ〜。しかしよー、お前よく生きてたな?」


 「へっ?、“よく生きてた”??」


 「そうだぜ黒奈、お前間違ったらシロの作った食物兵器で死んでたんだぜ?」


 「し、死んでたッ!?」


 「ああ、お前の意識が戻らないまま3ヵ月も経っちまったんだぜ?」


 「さッ!、3ヵ月ッッ!!?」


 友間は半狂乱になりながら今までの出来事を整理してみたが頭の方が理解に苦しみ、そのうえ突如として頭がクラクラとしてきて友間はベッドに倒れそうになった。


 「うっ....頭が...。」


 「お前はまだ寝てねな黒奈、またブッ倒られたら次は俺が倒れそうだぜ」


 「ごめんごめん、じゃあもう寝るよ京八」


 「おう!、それとだな・・・・・。」


 するとそこへジャッキーとシセラの姿が見えてきて、ジャッキーは京八を押し退けると友間に一言呟いた。


 「もーどうなる事かと心配したわよ。それに京八の慌てようときたら・・・・・。」


 「し...シロ...さん、も...心配....してた...。」


 「そうそう黒奈! あの時のシロの顔ってのは、もうこの世の終わりみたいな顔してたんだぜ」


 面白そうに語っている京八のそれに対してシロはまだ泣き止まずにおり頬や目が熟れた林檎のように赤かった。


 「確かにそうみたいだね。それと今度から食事の方は俺が担当する事にするよ」


 そう言って友間は笑うと少しまた頭がクラクラとしてきたが、そんな事は気にならない様子でさらに笑顔を見せると周辺に皆の楽しそうな声が響いたのであった。

Re: スキルワールド ( No.69 )
日時: 2018/10/07 21:46
名前: マシュ&マロ (ID: 1l.7ltSh)


 友間の体調が回復して2日が経った。ようやくベッドから解放され今日は体の鈍りを直しに訓練場という所へ向かっている。


 「やっぱ3カ月も動かないでいると体ってダメになるな〜」


 歩くことにも少し苦労していると遠くの方から微かだが音が聞こえてきた。


 「やっと着いたー、ストラングって迷路みたいに複雑で広いから分かりにくいんだよな〜」


 そう独り言を呟いていると誰かに後ろから声で引き止められ振り返ってみた。


 「あっ、京八!」


 「よっ!、もう動いちまっても良いのかよ?」


 「んーまあ、でも今日は軽い運動にしとくよ。その方が怪我もしないと思うし」


 「おう! そうか。じゃあ俺も付き合うぜ」


 「ありがと、それだったら助かるよ」


 友間と京八は二人で歩き前へと進んでいく。すると訓練場へ行く途中、京八にこんな事を聞かれた。


 「黒奈さ、ノアとかドルスの言ってた事どう思う?」


 突然のことで返答に遅れてしまったが友間は迷わずある言葉を口にした。


 「えーと、何て言ってたんだっけ?」


 「いやいやお前な〜、なんか世界をどうとかって言ってたろ?」


 「あーそれか!。 んー・・・・あの二人のことだから世界征服とかじゃない?」


 「いや! それスラスラと言える事じゃねぇだろ!?」


 「え?、そうかな?」


 キョトンとした顔で自分を見返され京八は終始呆れたが気にせず続けた。


 「それと土神の件もあるだろ?、あいつ裏じゃ“トリガー”ってのを売っててかなり精通してたらしからな。しかもその土神の上司がドルスって事は絶対ドルスが大量トリガーでも持ってるだろうしよ」


 「トリガー...か、あれはちょっと厄介だよね」


 二人が会話をしていると通路が2つに別れており右が[実戦]で左が[基礎]というプラカードが貼られていた。


 「何で二つに別れてるの京八?」


 「えーとな“実戦”ってのは専用の仮想地帯っていう実戦を想定した戦いができる場所だな。そんで“基礎”ってのは、んー・・・・陸上とかのトラックとかをイメージしとけば良いさ。 まっ、今回俺らが用あんのは基礎の方だな」


 そう言って左の通路へと曲がって行った京八、友間も慌てて京八の後ろを追うが すると通路の後ろの方にある実戦ルームから何かが吹き飛ぶような音が響いてきた。


 「おっ、気にしねぇでいいぞー。あんな音なんてあっちの方じゃ日常茶飯事だからな」


 「じ、じゃあ俺はあっちの方に入るのは遠慮しとくよ」


 「まっ、そうだな。あんな所には血に飢えてる化け物しかいねぇからな。 んっ、着いたぜ黒奈」


 友間の目には一つの鉄のドアが映り、京八はそれを開ける。そしてこの先には何が待っているのだろうか?

Re: スキルワールド ( No.70 )
日時: 2018/10/04 17:39
名前: マシュ&マロ (ID: 1l.7ltSh)



 「あっ、友間〜! 京八〜!、久しぶだな〜!!」


 そう言って遠くの方から近づいてきたのは久しぶりに会った零だった。


 「あっ零!、久しぶり〜!!」


 「おう! 友間、それと色々と大変だったな」


 「ま まぁね。あ、ははは.....」


 シロの食物兵器を思いだして苦笑いを見せていると零の後ろに誰かが隠れているのが分かった。


 「灯利と会うのも久しぶりだったね」


 「あ...あ..、こんちには・・・・友間さん....。」


 「ところでよぉ零、俺と黒奈も運動しに来たんだがお前らもか?」


 「お前らも...というよりは、今日はここの連中の指導を任されてんだよな」


 「おう聞いたか黒奈?、ちょうど良いから頼もうぜ?」


 「」


 「別にいいけど、俺と灯利がやってんのは筋トレとかじゃなくて対人戦闘法とかだぜ」


 「望むところたぜ!、なっ 黒奈?」


 「なんか最初の主旨から反れちゃってるけど、まあいいや」


 「おっし! 決まりだなっ!!」


 「そんじゃ俺と灯利の指導についてこいよ二人とも?」


 「ふ...二人とも、...よろしく...ね....。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「まずは相手に対して絶対に自分の考えてる事を悟られるない事だ。出来るだけ顔はどんな時でも戦ってる場合は変えるなよ」


 「おう! 分かったぜ!」


 「うん、俺も分かった」


 「そんじゃ次だが、戦闘時で大事なのは相手にどれだけダメージを負わせるかより最小限にどれだけ自分がダメージを負わないだ。とにかく動きながら相手の動きに集中しろ、いいな?」


 「「ああ、分かった」」


 「よし、そんじゃ最後になるが敵を恐れてもいいけど絶対に生きる事を諦めるな。精神の衰退ってのは隙ができやすくなるからな」


 「OK 分かったぜ」


 「いちょう分かった...と思う...。」


 「そんなら次にお前らには灯利と戦ってもらう。別に手加減とかは必要ねぇぜ、逆に本気を出さねぇとヤバいしな」


 「・・・・・っ!!、でも灯利って男性恐怖症だよね?」


 「そこんとこは大丈夫だぜ友間、ちゃんと灯利には目隠しをしてもらってるからな」


 「何も見えない・・・・・・、これなら平気」


 「おっし!、じゃあまずは俺から行かせてもらうぜ黒奈」


 「背骨の方は大丈夫なの?」


 「まーかしとけ、俺はそこそこ頑丈だしよ」


 右肩をグルグルと回しながら言うと灯利と対峙する京八、もはや灯利に対して手加減する気は毛頭なさそうだ。


 「スキル『発電』ッ!!、クーー珍しく羽が伸ばせそうだ」


 「行きますよ、京八さん」


 「おう!、いつでも来や・・・・・ブホッ!!」


 初撃から当たるまでの時間はとても短いものだった。飛び散った鼻血が雨でも降るかのようにポツポツと地面に吸い込まれていった。


 「・・・・・・よし、当たった」


 「おー、こりゃ効いたぜ」


 もう初撃から致命傷を喰らってしまっている京八だが、何が彼を動かしているのか震える両足で立ち上がる。


 「今ので勝負はついてます、降参をお願いします」


 「悪いがよ灯利、男が潔くなんかに応じるのは自分の女を怒らした時か死を覚悟した時ぐらいだぜ」


 「・・・・・・では、構えて下さい」


 「おうよ、あっと言わせてやるぜ」


 ーードガァァアンッ!!


 意気込みも虚しく吐血と一緒に飛び散っていき京八の服が地面と擦れて全てが決着した。


 「はい!、そこまでっ!」


 「ちょっと京八、張り切りすぎじゃない?」


 「何言ってんだよ黒奈、男は何事も全力でだろ?」


 「はいはい、俺も負けないよう頑張るよ。だからゆっくり休んでて」


 「友間、戦う準備はできたか? それと俺の教えた3つを忘れるなよ」


 「分かってるよ零、それにじゃなきゃ半殺しは覚悟しなきゃだしね」


 次に灯利と対峙する友間、灯利は相変わらず目隠しをしているが打開のない以上は下手に攻められない。


 (んー、目隠しをしてても戦えるのは経験? それともスキルなのかな?)


 「行きますよ、友間さん」


 「ちょ、ちょっと待って!。性質<鉄>」


 これで少しは時間稼ぎ程度にはなっただろうが不明な点が残ってる今は警戒という言葉につきるだろう。


 「うん、ありがと灯利。これで準備よし」


 「じゃあ、・・・・・行きます。」


 その直後、目の前から灯利の姿を見失う友間だがそれと同時に直感的に横に飛びのいたその瞬間さっきまで自分のいた場所に灯利の踵落としがメリ込んでいた。


 「・・・・・外しましたか、なら....」


 「えっ!、ちょっ!」


 ーーガシッ!!


 反応する間もなく灯利の華奢な腕が友間の首を捕らえると自身へと引き寄せながら強烈な膝蹴りが顔面を直撃する。


 「・・・・痛いですね」


 そう痛みを感じて言った灯利だが、それと同じく友間も顔面に感じる痛みで少し怯んでしまった。


 (うっ!、顔がちょっと変形してるな。だとしたら鉄をへこませる程の蹴りって人間じゃないよね)


 双方どちらも少し後ろに下がった状況、ここからは先手を取った者が勝ちといった感じだろう。


 (ここは少し離れるべきか、それとも攻めるべきか....。)


 どちらかを決断しようとする友間、しかし灯利に動きがない事に気づいたので少し様子を見ることにしてみた。


 (動きがない...、罠? それとも動けない?、だとしたら相手をどうやって認識しるんだ?)


 目の前の事への緊張で少しバランスを崩してしまいバランスを保つため数歩後ろに下がった瞬間、灯利が恐るべき瞬発力で突っ込んできた。


 ーードガァンッ!!


 今の友間は鉄の塊にも関わらず後方へと吹き飛ばしてみせる灯利、これに対して友間は動こうとはせずに息を殺した。


 (やっと分かった、灯利の戦い方が...。)

Re: スキルワールド ( No.71 )
日時: 2018/10/21 07:13
名前: マシュ&マロ (ID: 1l.7ltSh)



 (灯利は、足音や声で相手を探してるんだ。少しありえない気もするけど絶対にそうだ)


 それを証明するために小さな石を拾って投げてみる、すると灯利は石が落ちた瞬間にその場所に蹴りを叩き込んだのであった。


 (うん、じゃあこれをどう利用したら良いのかな)


 仕組みは大体分かったが、ならどうやって灯利に勝つかと言えば悩み所としか言えない。


 (ただ正面から突っ走っての力じゃ勝てない、確実な不意打ちでなきゃ灯利は倒せない)


 「んー、少し私の戦い方がバレてきた様ですね」


 これには返事はしない、どうしても命は大切だからね。


 (ちょっと、スキルの実験でもやってみるかな)


 そう心で言ってゆっくり音を立てないように立ち上がる友間、緊張で顔から汗がふき出していた。


 (.....性質<樹>)


 ゆっくり体は木材と化していく、そしてそれが終わると友間は少し屈んで地面に手を着けてみた。


 (えーと、下に枝が広がるイメージで...。)


 友間の両腕から次々と枝が現れて地面へと忍び込んでいく、この時なんとなくだが地面の中で枝がどうなってるか分かる気がした。


 (そのまま地面全体を侵食する感じで枝を伸ばし続ける...。)


 自分の腕の一部が地面を這って侵食していくような感じが微かながらにするので体が少しむず痒かい気がした。


 (準備完了、あとは灯利のいる場所の感覚を掴めば)


 ちょうどその時、灯利の足元から一本の蔓がゆらゆらと出てきたところだった。なので友間はいよいよ攻撃に転じる事にした。


 「むむ、友間さん。あなた何かするつもりですね?」


 経験からの勘というやつなのか目が見えないながらに何かに勘づいた灯利だったが今となっては遅かった。


 ーーボコ...っ!!


 地面から大小様々な枝が出現しては全体をうねらしながら灯利を拘束しようとする。しかし灯利の勘と経験を舐めてはいけなかった。


 「ハッ! ホッ! ヨッ! ヤッ! 」


 枝ができたのは少しだけ服を傷つける程度のことだった。しかし薄々想定していた事だった


 (第二段階っ!!)


 ーーボゴンッ!!


 破裂にも似たような感じで地面全体が新たに出現した巨大な枝によって掻き混ぜられ灯利だけじゃなく周りの者の足場まで被害が及んだ。


 (こ、これは想定外...。これだとボスにあとで怒られるな....)


 色々と覚悟することが増えたが止まる気はなかった。どうしてなのかは今やその後も分からないままだろう。


 「足場がッ!?、卑怯ですよ友間さん!?」


 「ごめん!、あとで謝るからっ!」


 「スキル『布糸』ッ!!」


 その瞬間、灯利の服の一部が糸と変化して友間を襲ってきた。しかし目隠しのお陰かそれとも足場のお陰かギリギリのところで反れた。


 「ビックリした!?、今のって何??」


 「私は自身の肌に触れている布を自由自在に操れるんです、でもやり過ぎるとちょっと恥ずかしいんですけどね....。」


 何か苦い思い出でもあるのか最後の部分はよく聞き取りずらかった。


 「まだまだ行きますよ友間さん!!」


 次々と灯利の着けているフード付きパーカーが糸に変換されていき原型が薄れていく、それに伴い糸の長さはどんどんと伸びていき友間を襲う。


 「性質<解除>」


 危険だと判断した友間はスキルを解除して腕の枝から解放されると足場の悪いなか攻撃を回避する。


 「性質<炎>ッ!!」


 体が燃え盛っている状態で灯利に突っ込んでいく友間、それに対して糸で応戦しようとするが結果は見えている。


 (灯利の目隠しさえ取れれば傷つけないまま勝負をつけられる!)


 そう思った友間の心に比例してか一層と勢いを増していく炎、灯利までの距離あと僅か2m弱。


 「私だって負けられません、スキル『布糸<全開>』」


 灯利へと到達するまであと少しの時、灯利の服が全て糸に変わり色々と友間を驚かせた。


 「!!....ッ。あっ! スミマセン見ませんからッ!?」


 思わず目を瞑ってしまった友間、それが仇となったのか大量の糸が友間に押し寄せては弾き飛ばしたのであった。


 精神的に疲労困憊となってしまったからか友間のスキルが自動的に解けてしまう。それに友間自身も力尽きたようで立ち上がれない。そんな所へ灯利がやってきた。


 「私の勝ちで、良いですね?」


 「うん、それはそれで良いんだけど......寒くない?」


 「??、.....何のこ・・・・・・・。」


 ゆっくりと目隠しを上げながら喋っていた灯利の動きが止まった。そして続いて起こったのは灯利の悲鳴だった。


 「きゃっ!? あの、あの..ふ、服とか、えーとあの」


 声からして半狂乱となっている灯利、それに対して友間も混乱気味であたふたとしていたが理性の一部が働いたようで自分の着ている服の布の性質を吸収して別の新しい服を申し訳なさそうに差し出した。


 「あ、あ。ありがとう....友間...さん」


 「き、気にしないで、それといいから早く服を着けて」


 そんな調子の会話が続くところへ観戦していた京八や零が二人の所へと走り寄ってきた、そして京八の第一声がこれだった。


 「おいおい黒奈、こりゃあボスに呼び出しくらうかもな」


 「え、何の事?」


 そう疑問に思って目の前を見てみるとすぐに納得できた、目の前がまるで荒れ果てたジャングルのような感じになっており、どうやらヤンチャしすぎたようだった。


 「こ、これは確かにボスに起こられそうだね」


 そう言った友間の口元には引きつった苦笑いが浮かんでおり、おまけに冷や汗が頬を滑り落ちていったのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 時間は数時間ぐらいは経ったのだろうか、今友間はボスに至急の呼び出しをされたので所長室へと向かっているのだがどうも気が進まなかった。


 「はぁー、嫌な予感しかしないなー」


 所長室へと差し掛かった所、


 「おっ黒奈!、お前も呼び出しくらったのかよ?」


 「えっ!?、京八! 何で京八までいるの!?」


 「さぁな?、まずは部屋にでも入ろうぜ」


 京八に言われるがままに部屋へと見たところ、どうやらペルナルティー的なものは“今のところ”なさそうだった。


 「よく来てくれた二人とも、今日はある人からの依頼がある」


 「「へっ?、依頼?」」


 京八と友間はほぼ同時に同じところを向くと、そこには一人の少女が静かに座っていた。

Re: スキルワールド ( No.72 )
日時: 2018/10/15 20:49
名前: マシュ&マロ (ID: 1l.7ltSh)



 「どうぞ、金剛おじさんと二人方も」


 ボスの秘書を務めているらしいハルカという少女からお茶を頂いた二人は自分たちと対局して座っているボスの隣を見ていた。


 「この方は天音あまねさんと言ってな、君たち二人と同じくアビリティアの一人だ」


 「どうも、天音美琴(あまね みこと)と申します。二人ともよろしくね♪」


 少し落ち着いてるというかおっとりとした雰囲気をした美琴と名乗った彼女だったが、友間と京八は彼女の隣に置かれているものが気になっていた。


 「あっ、これの事? 私ね...、自分では上手く歩けないのよね...。」


 「すみません!、不快にさせるつもりではなかったんです」


 「オホンっ!。 友間、その事については気にせず天音さんからの依頼を聞いてあげなさい」


 「あっ、はい ボス。それで俺と京八に何の用なんですか?」


 「えーと実はね、今日は調べて欲しい事があって来たの。それで調べて欲しい事なんだけど」


 「はい、何ですか?」


 「私の弟....いえ、天音伊月(あまね いづき)について探ってほしいの...。」


 「?、また何で弟なんですか? しかも俺らなんかに...。」


 「俺の方から君達の事を推薦したんだ。この前、といっても3ヵ月は経ってはいるが土神との一件があったしな」


 「土神....ですか。でも土神の一件については俺はただラッキーだっただけで他の皆だっていま・・・・・。」


 「他の皆もいる、だろ? しかし今はジャッキーも負傷中であり龍紀や他の全員も別の任務に行ったりしているからな」


 「あのーボス、黒奈については分かったんですけど俺のいる意味は?」


 「京八、君には今回も友間のサポートをしてもらいたい。友間だけでは心配な面もあるからな」


 「うっす!、任せて下さいボスっ!」


 「それと君達にはもう一人程の助っ人を付けようと思っている、詳しい事は依頼の説明と一緒に行うつもりだから少し待っててもらいたい」


 「「分かりました、ボス」」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「私、綾音ニコラ。よろしくね二人とも♪」


 「よく来てくれたニコラ、君には二人と一緒に行動してもらいたいんだが...、行けるかい?」


 「任せて下さいボス!、それと今回はどういった内容ですか?」


 ニコラと呼ばれた少女はボスを目を向けて頭を右に傾ける。それに続くようにボスの隣に座る美琴がこう言った。


 「少し前に友間さんや京八さんにも説明したように、私の弟である天音伊月が何をしているのかを探ってほしいんです。最近、よく怪我をして帰ってくるんですよね....私、心配で...。」


 「ただの喧嘩とかじゃねぇのか?、それだったら怪我ぐらい誰でもすると思うぜ?」


 「それがなのですが、京八さん....。この頃 近所で失踪事件が多発していまして私が直接見たわけじゃないんですが......伊月らしき人物が事件の起こった付近で頻繁に目撃されているんです・・・・・。」


 「ふ〜ん、そんで弟さんの行動を見張ってほしいという訳で?」


 そう言った京八、すると美琴は罪悪感を感じたように顔を曇らせてながら話を続けた。


 「ええ、まあ....。私の勘違いだと良いのですが....。」


 「そういう事で三人とも、今回の依頼については頼んだぞ」


 「「「はい、ボス!」」」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 時間は進み、まだ冬の季節から抜けだせない様子の町の風景が友間の目の前には広がっていた。


 「あっ 家はこちらです、まだ伊月は帰っていないと思います」


 「マンションですか、高台なので町がよく見えますね」


 「はい、私もそこが気に入っています友間さん。坂が少しあるのが大変なんですけどね」


 そう言いつつ友間に微笑みかける美琴、すると友間の耳に京八の声が聞こえてきた。


 「おーい黒奈〜っ!、俺らも自分達の借りてる部屋に行こうぜ〜っ!」


 「分かったー!、俺もすぐ行くよーっ!」


 そう言って二階に向かうための階段を駆け上る友間、部屋は美琴と伊月が住んでいるすぐ隣になっている。


 (今回は安全に終われますよーに)


 そう心で祈った友間だったが、それと同時に雨が降り始めてしまい悪い予感がしてきたのだった。


 「・・・・・・・・あっ!、美琴さんが風邪引いちゃう!?」


 そう言って踵を返して駆け下りていく友間、だが次に聞こえてきた誰かが階段を滑り落ちていく音は痛々しいものだった・・・・・・。

Re: スキルワールド ( No.73 )
日時: 2018/10/21 07:16
名前: マシュ&マロ (ID: 1l.7ltSh)



 「だ、はははははッ!! 黒奈!、なつう顔してんだよ!?」


 「その事については触れないでくれないかな?」


 まだ顔がヒリヒリしていて悲惨な状況になっているだろう、しかし京八の笑いようには呆れがきてしまった友間だった。


 「友間さんも失敗する事があるんですね」


 「いやいやニコラ、俺は成功より失敗してばっかりの人生だよ?」


 「あら、それは失礼。ふふ...」


 三人は今、自分たちが借りている賃貸マンションの一室にいた。極めて平穏なので嬉しいこと他ならないことだろう。


 「そんで黒奈、これからどうするつもりなんだ?」


 「ん〜・・・・・。伊月って人が帰ってたら、まずは次に出かける時に尾行するぐらいしかない今のところないかも」


 「そんじゃ、気長に待ちましょうかね〜。俺は一旦寝るぜからなぁ 」


 そう言って立ち上がると別の部屋の方へ行ってしまった京八。そして残された友間とニコラは仕方なしに暇潰しの会話を始めたのだった。


 「友間さんは、お母さんが殺されてしまったらしいのですが犯人は捕まったのですか?」


 「んー、急にそう来られると少し困るんだけど.....率直で言ってまだ捕まってないみたい...、一度だけ会った事があるけど二度目は遠慮したいかな」


 「そうですか......、なら! もう一度会えるのなら、友間さんはお母さんに会いたいですか?」


「えっ? 急にそんな・・・・・・、んーでも、それが本当なら一瞬でも良いから会いたいかな」 


 「決まり!、私が友間さんの願いを一つだけ叶えてあげるね♪」


 「ははは、ありがとニコラ。ならそれは後のために大切に取っておく事にするよ」


 「えー・・・・勿体な〜い」


 「いいんだよ、この先何があるのかも分からないんだしね」


 「そお?、.......でも! 友間さんがそう言うなら大切に取っておくね!」


 「うん、分かった。....あっ!、それとニコラの方も叶えたい夢とかってあるの?」


 「え........そ、それはね・・・・・・。」


 唐突な質問に思わず頬を紅潮させて言葉に詰まってしまうニコラ。そして少しの間があったあと、ニコラは小さな声でこう言ってきた。


 「・・・・・・お、おに〜ちゃんと....ずっと幸せに.......過ごしたい...な..。」


 ーーカア〜っ!!


 「あっ、ニコラにお兄ちゃんがいたんだ。それでどんな人なの?」


 「ほ、本当は血が繋がってないんだけどね.....初めて...、私に優しく接してくれた人なの....。」


 もう恥ずかしさのあまり頬が林檎のように赤くなってしまったニコラ、気持ちを必死で抑えようとしながら友間との話を続けた。


 「そ、それでね....おに〜ちゃんは...芸術家をやってるんだけど、すんごく凄いんだけど周りからの評価があんまり良くなくてどこか悲しそうなの....。」


 「その、お兄ちゃんって凄く良い人なんだね。ニコラが嬉しそうに話してるからそうなんだって思える」


 「うんっ!!、すんごく良い人なのッ!。今度ね、友間さんにも会わせてあげたいなーっ!!」


 「うん、じゃあ今度ね・・・・・あっ、京八っ!!」


 「んもー、騒がしくて眠れやしねぇぜ」


 「ごめん京八、次から声ボリュームを考えるよ」


 「いや、それより隣の家の弟さんが帰ってきたみたいだぜ」


 「それじゃあ準備しとかないとね、ニコラも何か必要なのがあったら言ってね?」


 「はい、分かりました友間さん」


 こうして友間・京八・ニコラの三人の物語が開幕しようとしているのかもしれません。

Re: スキルワールド ( No.74 )
日時: 2018/10/20 10:53
名前: マシュ&マロ (ID: 1l.7ltSh)



 「あっ!、お帰り伊月」


 「ああ.....ただいま、姉さん」


 「・・・・・今日もボロボロじゃないの。そうだ!、私のスキルで治して・・・・・。」


 「いい....いらねぇ...。」


 「で、でもね。たまにはお姉ちゃんにも世話をやかせてくれないかな〜って・・・・・」


 「だから! いらねぇって言ってるだろッ!!」


 「そ、そう怒らなくても」


 「・・・・・・っ!!.....。ご、ごめん....姉さん...。」


 「ううん、お姉ちゃんの方もごめんね伊月。...でもね、お姉ちゃんだって心配なの、伊月が何処か行っちゃう気がして...。」


 心配するように伊月に語りかける美琴、だがそんな美琴の声を遮るように伊月は顔を背けてこう呟いた。


 「分かってるよ、俺だって分かってんだよ・・・・・・。悪い、また出掛けてくる」


 伊月はそう言って家を出て行こうとする、美琴はそれを引き止めると伊月にこんな事を言った。


 「約束して!、絶対に危ない事はしないって!!」


 「・・・・・・たぶんな....。」


 「伊月っ!」


 だが伊月は姉の声を無視するかのように足早に外へと出て行ってしまった。


 「・・・・・・はぁ....。」


 そう誰もいなくなった部屋で溜め息を漏らした美琴、その目には涙が浮かんでいたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 外へと出てきた伊月は少し肩を落としながら歩き出した、が その後ろから数人の人影がついてきていた。


 「だ、大丈夫だよね? こんな典型的な尾行の仕方だけど?」


 「静かにしとけ張れねぇだろ?、それに方法もこれしかねぇしな」


 「大丈夫ですよ友間さん!、自分の事を信じましょう!」


 「おっ、黒奈。ニコラ。伊月が曲がってったぜ!」


 「よし、自分の運でも信じようかな」


 そう自分に言い聞かせるかのように友間は呟くと、二人と一緒に角を曲がっていった....しかし、曲がってすぐに三人の足取りは止まった。


“伊月が消えた”


 「チッ!、勘づかれてたみていだな黒奈」


 「ん〜、だったら手分けして探してみるしかないのかな?」


 「仕方ねぇなー・・・・。おしっ!、じゃあ伊月を見つけた奴は各自で連絡するって事で良いな?」


 「分かった、京八」


 「分かりました、京八さん」


 そうして各自解散する事になった三人は、それぞれの道を進んでいく。そして友間も自分の勘に従って前へ前へと歩き始めた。

Re: スキルワールド ( No.75 )
日時: 2018/10/24 21:28
名前: マシュ&マロ (ID: 1l.7ltSh)



 友間は今、人が多く見かけられる都市部を歩いていた。その理由は目の前に伊月の後ろ姿を見つけたからだ。


 (京八たちに連絡はしたけど、すぐには二人も来れないよな)


 押し寄せてくる人の波を避けつつ伊月の背後を追っているのだが、どんどん前へと進んで行くので見失わないようにするのが精一杯だ。


 (もうちょっと人が少なかったら良かったのにな〜)


 そう思いつつ再び押し寄せてきた人の波を避けていると、なんと伊月を見失ってしまったのだ。


 「あー、もう少しよく見とけば良かったかな〜。・・・・・・うわっ!!」


 突如、左腕に万力とも呼べる力が加わり、人の波から引きずり出されると誰もいない路地へと連れて行かれてしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーバンっ!!


 「おい! アンタ、さっきから付けてたろ? 俺に何の用だってんだ?」


 首と左腕を掴まれた状態で路地の壁に押し付けらた友間、警戒のこもった眼で見つめる伊月の手に更に力が増していき友間の足元から地面の感覚がなくなっていく。


 「答えろッ!、お前は誰でッ! 何なんだッ!!」


 「い、わない......。せい...質<炎>」


 体から炎が吹き出し、あまりの出来事に身を翻して退いた伊月。だが次には驚きから怒りの表情に変わっていた。


 「お前も俺と同類かッ!、いいぜ! 殺り合おうぜッ!!」


 この時、友間には奇妙な恐怖を感じてしまった。目の前の相手はある意味では土神に等しい恐怖を感じさせる人物だと思った。


 「伊月さんでしたっけ?、あなたは最近何をしているんですか?」


 「・・・・・・さぁな」


 気分を削がれたかのような返信を返すと身構えていた体を元に正した、そしてこんな事を言った。


 「アンタからは姉さんの臭いや色んな人間の臭いがする、まさかストラングってとこの回し者か?」


 「・・・・・・そういう個人的な事は言えないし、言う必要もないから言えないんだよね」


 「そうかよ、じゃあ強引に聞くだけだな」


 伊月の足元が割れる、それと同時に身構えていた友間の体に強烈なラリアットが食い込んで路地の壁へと吹き飛ばれた。


 「ゲッホ! ゲホ! ゲホ! かなり強烈だね、純粋なパワータイプって感じか」


 「おー当たりだ、まぁそれがどうなるって事もねぇけどなッ!!」


 次の瞬間、友間の視界が空中で激しく回転したかのようになり地面へと叩きつけられる。そして首の無くなった体は力無く倒れたのだった。

Re: スキルワールド ( No.76 )
日時: 2018/10/25 17:22
名前: にゃあこ (ID: s00TEuml)

美琴と伊月を使ってくれて嬉しいです!

Re: スキルワールド ( No.78 )
日時: 2018/11/04 07:40
名前: 団子 (ID: grnWwvpR)

すごく面白いと思う
さすがはカキコ実力派のNo4だといったところか…

Re: スキルワールド ( No.79 )
日時: 2018/11/13 13:32
名前: マシュ&マロ (ID: 4rycECWu)


ありがとうございますねにゃあこさん、そして団子さん♪

 ですが団子さん、私なんて端くれの端くれですよ?
(それに執筆を開始してまだ一年ですし.....ですが!、感想を頂けたのは素直に嬉しかったですよ♪)



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ここはある町の路地裏、そこにいた友間は全身を燃え上がらせフラフラとしながらも伊月を見据えて対峙する。


 「フー、死ぬかと思ったー.....というか一度死んでるけど....。」


 「チッ!、面倒臭ぇタイプのスキルか」


 「まあ、スキル発動中は死なないっていうのだけど死んだら死んだで生き返ると凄く体力を喰うんだよね」


 「.....って事は、殺し続ければいつかは力尽きるんだよな?」


 「あっ、これは嫌な予感がする」


 ーーガシッ!


 伊月の手が友間の足首を捕らえた同時になにふり構わず周囲に友間を叩きつけていき、友間の体は砕けて戻るの無限ループを続けていた。


 「うえっ!、目が回っちゃうよ」


 伊月の無慈悲とも言えるような行為に友間は自身スキルで持ちこたえているがどんどん体力が削れていく、そして友間の顔色から見ても長くは持ちそうになかった。


 「視界が、そろそろ....ヤバ...イ..」


 友間の視界が地面に叩き付けられる痛みと一緒に薄まっていく、そろそろ体力の限界なのだろう。


 (ダメだ.....これは、...もう.....。)


 そんな風に友間が力尽きかけた時だった、少し離れた所から誰かの声が聞こえてくるような気がし次に伊月の痛みに吠える声が聞こえた。


 「おい黒奈っ!、しっかりしろ! 返事をしろやッ!」


 「あ、れ...こんな所に京..八が、いる...?..」


 「何寝ぼけた事言ってんだよ!、お前からの連絡があって来たんだろうが?」


 「そうですよ友間さん、ちょっと遅くなりましたがお疲れ様です」


 そう京八とニコラが言ったらしいが、この時の友間はよく聞き取ることが出来きなかった。


 「よし!、お前は寝てろよ黒奈? こっからは俺の出番なんだからな」


 そう言って京八は気絶してしまった友間をニコラに託すと首の骨をゴキゴキと鳴らし伊月と対峙した。


 「友情劇はいつ見ても良いね、特に嘘臭い親友との約束のシーンとか特にね」


 軽く挑発のつもりで口に出した伊月、だが憤慨すると思った京八本人はただ睨みつけるだけで、後ろにいるニコラにこんな伝言を伝えた。


 「ニコラ、友間を病院に連れてくかどうかして助けてやってくれ。あともし友間が目覚めたのなら俺はちょっと帰りが遅くなるって伝えてくれ」


 「でも、一人じゃ....」


 “危険”と言おうとしたニコラだったが、今自分が意見する方が危険だと思い友間を引き連れて去って行ったのだった。


 「スー...ハー.....これで伊月、お前と十二分に暴れられるぜ」


 「それはこっちも同じだよ、無駄な障害物は少ない方がいいからな」


 今にも一触即発な状況、お互いに相手を真っ直ぐと睨みつけている。そして今、同時に動き出したのであった。

Re: スキルワールド ( No.80 )
日時: 2019/08/03 18:14
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 ここは辺りが真っ暗な空間、強いて言うなら友間の精神世界のような場所だ。


 (「今回ばかりは無茶し過ぎですからね友間様っ!」)


 「えーと、その....スミマセン」


 今の現状を言うと、燃えている少女...つまりエンに散々と今回について叱られていた。理由の方はエンの話を聞いて分かるかもしれない。


 (「私の力は無限ではなく有限なんですよ?、それなのに今回のように一度に何度も再生する事になるとさすがに私でも疲れるんですよ?」)


 「ご、ごめんってばエン。次は伊月の時みたいにならないよう気をつけてるから」


 (「いいですよ!、今回は仕方なかったとして次は気をつけて下さいね?」


 「う、うん...分かった、約束するよ。・・・・・・ところでさっきエンが疲れたって言ってたけど具体にどんな感じなの?」


 (「んー具体的と言われましても.....。分かりやすく言うなら友間様のスキルは普通のとは違って私や他の者のような独自の意思を持った性質たちと根強く結びついています。」)


 「えーと・・・・・・、つまり?」


 (「そうですね・・・・・例えるなら、運命共同体ですかね?」)


 「う、運命共同体....?..」


 (「そうです、運命共同体です。つまりは友間様と性質たちは強く結びついていて友間様がもし炎の性質を扱った場合は友間様がその時に疲れた分だけこちらに疲労が還元されますし、友間様が死んだ場合だと私たちも道連れで死んでしまうんですよね」)


 「さらっと恐いこと言ってたけど、俺が死んだらエン達は死んじゃうんだね....。」


 (「まあ、死ぬという表現は生き物でない私達にとって正しいか分かりませんが、その逆に私達からも友間様に対して権限があります」)


 「け、権限? 何なのそれって?」


 (「簡単に言いますと性質の一人一人には友間様からの使用を拒否、または力の制限および増強が行えます。」)


 「拒否に....制限...か..。」


 (「はい、私の場合は友間様を認めていますので体が壊れない程度に最低限の制限をかけているぐらいですかね?」)


 「ちょっ!、ちょっと待って! ならその制限を外したら俺ってどうなっちゃうの!?」


 (「んー、体が力に対応しきれずに崩壊してしまいますかね?」)


 明るい感じで告げてきたエンだが友間自身はその事を想像してしまい顔が少し青ざめてしまった。


 (「あっ!、そろそろ時間みたいですので......また会えると良いですね、友間様!」)


 「うん!、次もまた絶対に会おうね!」


 そう言い残してその場から消えてしまった友間、すると残されたエンが何もない空間を見つめていると....。


 (「嬉しそうだなエン、もしや友間って奴に色恋沙汰でも」)


 (「あら、珍しい方が現れたものですね。」)



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「うぅ.....んぅ〜〜、よく寝たな〜」


 そう背伸びをしながら上半身を起こした友間、そして自分がアパートの一室で寝ている事に気づいた。


 「京八たちが運んでくれたのかな?」


 体の状態を確かめるために軽いストレッチをしていた途中、すぐそばの床に置き手紙を見つけて読んでた。


『友間さんへ
 
 
 私、ニコラだけどこれから用事があるから少し出掛けて来ますね♪。それと起きてまだ京八さんが居なかったのなら京八さんからの伝言を伝えるね。


 『少し帰りが遅くなる』


 なので、心配はいらないと思います、友間さんも体に気をつけて下さいね。』


 「・・・・・・遅くなる...か..、よしっ! 俺も気を引きしめてこうかな!」


 そう意気込んだは良いが、伊月との戦いで疲労が大きかったらしく歩いてもいないのに頭から転んでしまった友間であった。


 「痛ててて、鼻を思いっきり打っちゃったなぁ」


 ーー・・・・・ピーン ポーンッ!


 「あれ?、誰だろ?」


 時計で時刻を確認してみると夕方の時間帯だった、そして鼻を抑えつつ玄関へと向かった友間は覗き穴を覗いた瞬間にビックリしてしまった。


 「美琴さんだッ!!」


 ーーガチャッ!


 「あ、友間さん、居て良かったです。ところで伊月のいる場所とか知りませんか?、どんなに電話しても携帯が繋がらないので・・・・・。」


 「あー、えーと今は京八がたぶん尾行してると思います。でもこっちも京八に繋がらなくて....。」


 「そうですか....あっ、こんな時間帯にごめんなさいね友間さん」


 「いえ!いえ!、何かあったらすぐに伝えますので!」


 「それは嬉しいはね」


 そう微笑んだ顔を見せると狭いアパートの通路に少し苦戦しながら車椅子を方向転換させて去ってしまった彼女の背中はどこか悲しそうだった。


 (弟が....もしかすると犯罪に関わってるかも、なんて言えないしな・・・・。)


 少し後ろめたい気持ちになった友間だったが、冬の冷風が友間を思いに更けさせてはくれず堪らず部屋へと戻って行ったのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ここは町の風景とは一風変わった人寂しい森の中、そして奥へ行った所に廃れてしまった様子の一軒の屋敷が見えてきた。


 だが屋敷の風貌に似合わず誰かの怒鳴り声が聞こえてきたのであった。


 「クソォォォオオーーーーッ!! あの電気野郎ッ!、次見つけたらただじゃ済まさねぇぞ!!」


 廃れた屋敷の一室で怒鳴り散らしていたのは行方不明となっている伊月本人であった。そしてその部屋に別の誰かが入ってきたのであった。


 「そう騒ぐものじゃないぞ伊月、芸術とは自分との語り合い、その為には冷静さと忍耐力が大事だからな」


 「うるセェッ!!、お前はいつもみたいに人間の体でも接合してろッ!」


 伊月は影の奥にいる姿は見えない相手に向かって怒鳴った、この事から二人は顔見知りといった関係だろう。


 「いつもの君らしくないね。まぁ...それも仕方ない事か」


 そう言ってきた相手の視線は伊月の右腹にできた焼き焦げてただれている酷い火傷へだった。


 「こっちはしてやられたが、こっちもアイツの片脚の筋肉を抉ってやったんだ、運が良ければ出血多量で死んでるはずだ!」


 少し息が荒くなってきた伊月、すると謎の相手はこの様子に呆れたかのような溜め息を吐くと後ろを振り返り誰かを呼んだのであった。


 「何してやがる、またお前の芸術とやらの作品鑑賞には付き合わねぇからな」


 「これはまた酷い感想だな、まぁ今日は機嫌がいいから見逃しておこう。そして紹介しよう、私の妹の“ニコラ”だ」


 その名前を聞いて耳を疑ってしまった伊月、そして何を隠そう昼間に京八と一緒に現れたニコラ本人であったのだ。


 「お前......。」


 「また会ったね伊月さん♪、それと会えて嬉しいな〜・・・・・・。」


 “おに〜ちゃん♪”


Re: スキルワールド ( No.81 )
日時: 2018/11/19 22:49
名前: マシュ&マロ (ID: tO5N9Mr.)



 「あ〜〜〜っ!、これじゃあダメだ!」


 ここは友間がいるアパート。一人でいるのが落ち着かなくなったのか勢いよく床から立ち上がると玄関へ向かおうとした、すると


 ーーコン! コン!


 「あれ?、今度は誰だろう?」


 またまた現れた訪問者に対しておそおそると玄関に近づいていく友間、そしてはたまた驚きのあまり声を挙げてしまった。


 「し!、シ! シロッ!?」


 発狂に似たような声を出しながら開けられたドアの奥には余すところなく汚れたシロの姿があった。


 「やっと見つけましたよ、友間さん」


 「ま、待って!、どういう事っ!?」


 「私を置いていかれるなんて困りますよ、もし友間さんの身に何かがあったとしたら....私、普通じゃなくなりますよ?」


 「ま、まあ...とりあえず中に入ろう。体を綺麗にしなきゃだし・・・・・。」


 「はい、わかりました。」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「フー、何日ぶりかのお風呂は温かいですね〜」


 「それなら良かったよシロ、じゃあ俺の持ち物から取ってきた服だけど外に置いとくね」


 「ありがとうございます友間さん、こんな私に気遣いまでして頂き・・・・・。」


 「気遣いなんて....人として当たり前の事をしているだけだし、それにたまにはシロにもゆっくりしてもらいたいしね」


 「そうですか.....。ところで友間さん、今回の任務というのは伊月という人物を殺せば良いのでしょうか?」


 「ッ!!...違う! 違う!、違うからね!?、絶対に厄介事は禁止だからねっ!?」


 「ん〜、それは少し難しいですね.....。あっ!、なら半殺しなら...?..」


 「そ、それもダメだからねッ!??」


 「むー、なら私のいる意味がないのでは?」


 風呂場のドア越しにシロからの批判が風呂場を反響して聞こえきたのだが...友間自身、シロには誰も傷つけはさせないと心の隅で決めていたのであった。


 「シロには、今回は危険が迫った場合に力を貸して欲しいんだ。大丈夫?」


 「はい!、友間さんを守るためなら例え溶岩の中、さらには地獄の底まで追いかけて行きます!」


 「は、はは。それは頼もしいね」


 そう苦笑い気味に言い残すと別室に移動してこの間に少し休むことにした、また大事になる予感がするからだ。


 「今回ばかりは平和に終われますように」

Re: スキルワールド ( No.82 )
日時: 2018/11/28 19:49
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)


 ーートン、トン


 「あの、友間さん。お風呂、空きましたよ?」


 友間はシロにそう肩をたたかれて起きた。どうやら少し座って休むつもりだったのだが気づかぬ内に寝てしまい夕暮れから夜になっていたようだ。


 「あ、うん分かったよシロ、俺も入るよ。・・・・・・でも俺のはちょっとシロには狭かったみたいだね?」


 そうシロの色々なところを強調してしまっている自分の服への感想を友間が述べていると、シロの右足に目が止まった。


 そんなに意識してシロの脚を見てなかったし着ているのが半ズボンというのもあるのか、今さらながらシロの右足がなんと膝まで金属製の義足だったのだ。


 「んっ?、あぁこれの事ですか.....これは....私の弱さを思い出させてくれる消えない傷です・・・・・。」


 「傷...って・・・・・・、シロに一体何があったの・・・・?」


 「・・・・・・すみません....。今の私には友間さんに語れる程の資格がありません・・・・。」


 ーードンッ!、ドンッ!


 暗い顔にしたシロをよそに玄関のドアを強く叩いている音が聞こえてきた。そこで京八かニコラが帰ってきたのかと思い、玄関に行ってみる事にした。


 「友間さんッ!!、離れて下さいっ!」


 「えっ!?、シロ?」


 シロにこれでもかと思ってしまう程の力で後ろへと引っ張れた直後、その刹那に何かのエンジンが動き出したような音がし玄関のドアをチェーンソーが突き破ってきたのだ。


 「シロッ!!、危ないッ!?」


 「ふっ!」


 だがそんな心配も無用だったようで、シロは自身の発した掛け声と共にチェーンソーの刃を鷲掴みにし目の前にいる強襲者を睨みつけた。


 「う、うわー。シロってやっぱり強いなー」


 だが敵の奇怪な姿にはシロも友間も呆気に取られてしまった。


 その姿というのが・・・・・・、


 「「着ぐるみっ!?」」


 その敵の姿というのが白と紫の混ざった眼鏡をかけているピンク色の兎をイメージした着ぐるみ姿なのだ。


 「 × × × × × × × ?」


 それに加えて何を言ってるのかボソボソとしていて聞き取れない。だが着ぐるみの体の部分は比較的に装着者の体型に沿って作れてるようで、体型からして女性又は細身の男性が着ているのだろか


 「シロ!、大丈夫!?」


 よく見るとチェーンソーを掴んでいるシロの手が小刻みに震えておりシロに近い実力者なのかもしれない。


 「友間さん!、少しの間失礼します!」


 ーードンッ!!


 吹き飛ばされた敵の影とシロの後ろ姿をただじっと見守っていた友間だったが、新たなに現れた敵の人影に顔を引き締めた。


 「敵は二人か」


 「こんばんは、私はユウ。こっちはダンって言うの」


 「おいユウ!、勝手に個人情報をばらすもんじゃねぇよ」


 「えー、そうかな『僕』?」


 「お前って僕の事をよく“僕”って呼ぶよな」


 「ちょっと失礼、君たち二人は敵なの?」


 「えーとね、私と『僕』は・・・・・。」


 「少し黙っててくれユウ。それとお前、僕たちが敵っていうならそういう事にしてやっても良いぜ?」


 「...?、どういう意味?」


 目の前の二人は双子なのか瓜二つと呼べるぐらいに似てる、特に共通した綺麗な銀髪が特徴的だろう。


 「敵なら構わず行きます、性質<炎>ッ!」


 全身から炎が吹き出した友間、だが身構えたと同時にユウと呼ばれた少女に右手首を信じられない力で掴まれた。


 「ごめんねぇ、ダンがこうしろって言うんだ」


 そんなユウの謝罪の後、掴まれていた手首から思いっきり外へと投げられ勢いよく天井の一部を突き破って何処かへと落ちて行ったのであった。 

Re: スキルワールド ( No.83 )
日時: 2018/11/30 21:45
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「ああぁァアァァアアーーッ!?」


 ーードッシャアァーンッ!!


 地面は硬かった、ここは何処か人気のない公園だろうか。


 まずは被害の確認からだが、スキルのおかげで死ななかったが着陸の時の衝撃で首骨と背骨の複雑骨折に加えてユウという少女に握られた際に右手首の脱臼がみられた。


 「フー、と....。死ななかったとは言えども体力の消費が激しいから少しの間は休まない・・・・・。」


 ーードッゴォオーンッ!!


 友間の背後で砲弾でも降ってきかのように砂煙が舞い上がり思わず苦笑いをしながら首を後ろへと傾けた。


 「到着♪ 到着♪ さーて、あなたの相手は私よ」


 「それと僕もだよ。」


 あまりにも速い再開に苦笑してみせた友間はスキルがまだ発動している事を確かめると二人へと向き直りながら覚悟を決めた。


 「ハー.....フー....。最初の相手は誰ですか?、それとも二人同時ですか?」


 「あっ!、じゃあ私から! いいよね『僕』〜?」


 「分かったよユウ、でも何かあったら即座に割って入るからな?」


 死ぬ程度の覚悟は決めたつもりだ、あとは目の前の相手を殺すぐらいの勇気だけだ。


 「じゃあ私はこれを付けるね〜」


 「手袋ですか?、何か意味があるんですか?」


 ポケットから手袋を取り出したユウ、その事について一応聞いてみる事にしたが彼女にとって何か意味があるのは間違いないと直感的にだが感じた。


 「んー、強いて言うなら“リミッター”?」


 「リミッター?、じゃあ自ら自分自身に枷を付けるって事ですか?」


 「うん! そうだよ!、昔から私って力加減が苦手だから」


 少し恥ずかしそうに言った彼女だが、だとしたら自分を投げ飛ばした時の力は彼女なりの手加減だったのかもしないが、それが本当なら勝ち目はどれぐらいあるのだろうか?


 「んーしょっと、準備運動は終わりっと! あなたは何かするの?」


 「ううん、俺は毎回何もしない方なんだ。構わず来ていいよ?」


 「OK〜!、なら三割で......。」


 ーードンッ!!


 こっちへ突っ込んでくる彼女の事をとても少女とは言えなかった、上手く言い表せないが強いて言うなら“少女の姿をした怪物か何か”だ。


 「行っくよー!、『輝砕』ッ!!」


 ーーズドォォオオーンッ!!


 世界が一瞬暗くなった気がした、ミサイルとも呼べるユウの拳は吹き飛ばされている今でも腹に強く残っている。


 「ゲッホ! ゲホ!、ゲホ!」


 仰向けになった状態で腹を抱えながら蒸せ返っている友間、死んでいないだけ天に感謝なのだろうが腹から広がる痛みは生き地獄とも言える苦しみなのだ。


 「あれー?、大丈夫?」


 「げっほ! ゲホ!、大丈夫です」


 無茶をしてるのは明らかなのだが友間は無理に立ち上がると心配そうに見つめてくるユウに面を向けた。


 「このままじゃ勝てそうにないので奥の手を使いますね」


 「分かった!、じゃあ私も五割で行くよー!」


 そんなユウの返事を聞いた友間は腰を少し屈めて構えると右腕に意識を集中させた、力が少しずつ集まっていく実感と共に友間の右腕の炎も徐々に増していき友間の体の半分を覆うまでに燃え上がっていた。


 「ヤバイ、これは少し張り切り過ぎちゃったかもしれませんね」


 頭が少しぼやけてきた友間だが、目の前にいるユウに対してはこれぐらいの無茶をしなきゃ勝てる相手ではないと無意識に分かっているのだろう。


 「じゃあ行くよ、えーと・・・・。」


 「友間で良いです、ある人には黒奈って呼ばれてますけど」


 「友間!、うん分かった! 私も友間を見習って本気を出すね!」


 そのユウの発した言葉で周囲の空間が捻り曲がったような気がした。


 (これは死ぬ気でユウに叩き込まないと生き地獄なんて言葉じゃ済まなそうだな・・・・・。)


 そう心で呟いた友間はユウが動き出したのを見ると負けじと突っ込んでいき、そんな心に比例してか右腕の炎が友間を飲み込むように燃え盛りユウの体へと一直線に軌道を描いた。



 そしてその一瞬、周囲は二人を中心とした光と音で包まれたのであった。

Re: スキルワールド ( No.84 )
日時: 2018/12/02 11:34
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 風が激しく吹き荒れる中、何かが飛んできて公園の電柱に激突し電柱が軽く折れ曲がった。


 その正体は友間であった。力を使い果たしたように荒く呼吸をし体から炎が消え失せていった。


 「ハァ ハア ハア ハア ハア ハア、これでリミッター付きなんて勝てる気がしないよ」


 そう言ってフラフラと立ち上がると先程まで自分とユウがいた場所へと顔を向けた友間、そこはもう焼け野原と化して公園のゆったりとした雰囲気はなかった。


 「ユウはどうなったんだろ....?」


 周りを見てみた友間だがユウの姿はなかった、すると突如後ろから誰かに押し倒され顔を地面に叩きつけられたのだった。


 「おい! お前っ!、よくもユウを傷つけたなッ!!」


 「そう、だった.....あんたも...いたな....。」


 怒り狂ったようなダンはうつ伏せの状態の友間の首を後ろから締め付けた。すると何かが体力を吸い上げていくような奇妙な感覚を友間は感じた。


 「死ね! 死ねっ! 死ねッ!!」


 首の血管が塞き止められたせいなのか頭に血が上ったような感じがし目も霞んで目の前が徐々にぼやけてきた。


 「性...質..。」


 何か望みがあった訳じゃない。ただ無意識....いや、生きたいと貪欲に思ったんだ。


 「性...しつ..。」


 言葉がもう出て来ない。だが何処か体の奥底から何か這い上がってくる気がした。


 「せい...しつ・・・・・。性質<鉄>ッ!!」


 最後に絞り出せた言葉、それに反応したかのように身体中を力が駆け巡っていき友間は鉄へと変化した。


 「なっ!、まだ生きてやが・・・・・。」


 「・・・・・邪魔。」


 悠然と立ち上がった友間はダンを軽々と背から引き剥がしてみせると信じられない力で地面へと叩きつけた。


 そして心が何かに飲み込まれ支配されたかのように無心な表情でダンに馬乗りになると今度は友間がダンの首を締めた。


 「離...せ..、この化け物が...。」


 「・・・・・死ね...。」


 もう友間は友間ではなかった。誰かを殺す事への恐怖も苦しむ相手への慈悲の心もない冷徹さで染まったような人物になっいた。

Re: スキルワールド ( No.85 )
日時: 2018/12/02 23:10
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「・・・・・・死ね。」


 そうダンに言う友間は冷たかった。人を殺す事への躊躇がなくダンの首を締め上げていた。


 すると____。


 「やめろーッ!! 『輝砕』ッ!!」


 ーーズバァァアアァーンッ!!


 突然のユウの奇襲に反応が遅れてしまい吹き飛ばされる友間、ダンの方も驚きで少し間が空いてしまった。


 「ユウ!?、良かった無事で.....」


 「『僕』の方もね。・・・・・・って!、友間は気絶しちゃったみたい」


 さすがに鉄の体を持っていたとしてもユウの圧倒的な攻撃力の前では荷が重かったらしく気絶してしまったようだ。


 「・・・・・ってかさユウ、僕たちが此処へ来た理由忘れてないか?」


 「んっ?.....あっ!、忘れてた!?」


 「いやいや、普通何か忘れてたら人を殴らないって」


 「でも、まぁ....『僕』が私のためにあんなに怒ってくれるとは思わなかったなぁ〜」


 「ち、違ぇよ! ただ...ただ.....。」


 「ただ〜、何なのかな〜?」


 「僕で遊ぶなっ!、ただ腹の奥底から本気でイラついたからであって・・・・・。」


 「スミマセン友間さん、敵に予想以上の苦戦を強いられていまし・・・・・。」


 友間を気配を追ってなのか現れたシロ、だが目の前の景色を見るとその場いた全員に一瞬の間が生じたのであった。


 「・・・・・殺す...。」


 なんともシンプルで分かりやすい言葉だろうか。その分にシロから溢れ出ている自分たちへの殺意を二人は手に取るように実感できた。


 「まずいかも『僕』」


 「ああ、僕もそう思う」


 その夜、若い男女の叫び声が聞こえたとか聞こえなかったとか。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「んっ、ぅう〜ん.....」


 目を覚ました友間がまず見たのはアパートの天井、そして目の端にはシロの姿があった。


 「友間さん!、意識はちゃんとありますか!? 吐き気や腹痛はありませんか!?」


 「だ、大丈夫だよシロ。それに・・・・。」


 体の半身を起こしながら言葉を言いかけた友間だったがボロボロとなったユウ・ダン、それと謎の着ぐるみの人物が視界に入ってきて思わず脳が停止してしまった。


 「大丈夫ですか友間さんッ!?」


 「あ、えっ? えーと、大丈夫だよシロ」


 「いえ、もしかすると風邪を引いてるかもしれませんので私が・・・・・・。」


 「ゴホンっ!、ラブラブプレーは良いけど僕たちがいる事も忘れないでよね?」


 「ほう、友間さんを傷つけた輩がまだ言うか」


 「だから悪かったよ、腕試しのつもりだったんだが僕もマジになり過ぎてたよ」


 「ちょっと待って!?、腕試しとかって何の事? 敵じゃなかったの!?」


 「僕が敵だと断言した記憶はないよ、ただ敵って事にしてやると言っただけだ」


 「××××××、××××?」


 謎の着ぐるみが何かを言っているようだが声が着ぐるみのせいで聞き取りにくかった。


 「あっ、ここは私が......うん、うんうん...。」


 「...?、何て言ってるの?」


 「なんか『京八から増援の要請があったから来たんだが、知らなかったのか?』だって」


 「えっ、京八が! 京八は無事なんですか!?」


 「××××××××××、×××××××」


 「えーと『断言はできないが京八の事だ、きっとゴキブリ並のしぶとさで生きているはずだ』」


 「なら良いんだけど、まだニコラも戻ってきてないんです」


 「××××××××××、×××××」


 「『ニコラについては分からないが私は“キグルミ”という、これからよろしく頼む』だってさ」


 「どうも、キグルミさん。ところで何で着ぐるみの姿なんですか?」


 「××××××××××」


 「『世の中には知らなくて良い事もあるものだ』って言ってる」


 「そ、そうですか。自分は友間と言います、こちらからもよろしくお願いします」


 「・・・・・友間さん、こんな正体も知れない敵に対してすぐ信用するのはどうでしょうか?」


 少し不満があるように訴えてくるシロ、しかし信用する選択しか今はないし相手からの敵意も全く感じられなかった。


 「大丈夫だよシロ、いざって時にはシロっていう頼もしい味方がいるからね」


 「ひゃっ!....。て、照れてしまいました」


 そんなこんなで和解したようなムードの五人はまだこの先に疑問を残しながらも話を進める事にした。

Re: スキルワールド ( No.86 )
日時: 2018/12/05 23:10
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「友間さん、ここは一思いに伊月を殺してはどうでしょうか?」


 「だからそれは却下っ!?、そんな事したら美琴さんが悲しむから!」


 「なら暗殺は・・・・・・。」


 「殺しとか厄介事からは一旦離れて!、良い!?、OKッ!??」


 「はい、分かりました。.....ところで毒殺は・・・・。」


 「よしッ!、まずは話をまとめると伊月の同行はまだ不確定な部分もあるんですけど、言える事は間違いなく何らかの事件に関与していて裏に誰かがいるって事です」


 そう色々と割り切ってしまった様子の友間はその場にいる全員に説明をすると見渡しながら何か意見を求めた。


 「××××××××××××?」


 「えーと『ここは一旦相手の様子を伺いつつ先の事を考えていくのはどうだろうか?』って言ってる」


 「ありがとユウ、それとじゃあ依頼についてはキグルミさんの言った通り様子を伺うという事で」


 「そんじゃ僕とユウは何かあったら呼んでくれ、その間はのんびり過ごしとくからさ」


 「えー、そんなの面白くないと思うよ『僕』?」


 「こういうのに面白ろさを求めるもんじゃないぜ、求めるのは結果と効率だけで充分だ」


 そうダンは言うとユウを引き連れて部屋の奥へと行ってしまい残りはキグルミさんとシロを合わせた三人となってしまった。


 「友間さん、本当によろしいのですか? 今なら私が場所を炙り出して敵を殲滅して来ますが?」


 「これでいいの。それとシロはユウとダンと一緒に明日はお留守番だからね?」


 「何故ですか友間さんッ!?、もし友間さんに何かあったら私は頭がおかしくなりそうです!」


 詰め寄ってきたシロに思わず後ろへと退いてしまった友間、なんと言っても服のサイズが合わず胸が強調されて迫力を増していたのも理由の一つだ。


 「シ、シロにはもし京八が帰ってきた時のために家にいてほしいし、それと美琴さんの事も心配だから見守っててもらいたいんだ」


 「分かりました....。ですが何か友間さんに起きたら即座に向かいますからね!」


 「分かったよシロ、それとストラングから支給されてた携帯を渡しとくね?」


 青いカバーが装着されたスマホを受け取ったシロは何か得体の知れない未知の物体を見るようだった。


 「ケイタイという名前程度なら聞いた事があるのですが、この真っ平らな板の使い方は全く分かりません?」


 「えーと、まずホームボタンっていうのを押して・・・・・・」


 何となく予想はしていた様子の友間は、携帯を食べようとしていたシロに一から使い方を教える事にした。

Re: スキルワールド ( No.87 )
日時: 2018/12/08 15:27
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 いつ寝てしまったのか朝日が顔に照りつけてきて目が覚めた。シロや他の皆はまだ寝ているのか部屋の中がやけに静かだった。


 「んー、相当に疲れが溜まってるなぁ」


 肩や首を回して軽いストレッチを済ませた友間はゆっくりと立ち上がり背伸びをした。


 「さてと、今日はどうするかな」


 そう言った友間は朝の散歩でもしようかと玄関へと向かった。


 だが、ドアを開けて早々隣を見てみた友間は無言のまま90度の捻りを加えた華麗な飛び込みで部屋の中へと舞い戻って行った。


 なにしろ理由は______。


 (い、伊月がいたッ!?)


 そう、ちょうど帰ってきた所の伊月がいたのだ。伊月の方は気づいていないとは思うがドアを開けると予想外な再開してしまい友間は混乱していた。


 (や、やばい! 顔が知られてる上に一度戦ってるから会ったらマズイ!)


 ドアにもたれていると外の方からドアの閉まる音が聞こえてきた。まだ安心はできないが難は去ったと言っていいはずだ。


 「ハー・・・・・助かっ....うわっ!」


 ーーガチャ!


 突然もたれていたドアが開き後ろへと倒れてしまった友間、すると聞き覚えのある声が友間の耳に聞こえてきた。


 「あれ、友間さん? 何してるんですか?」


 「あ、ははは....。やあニコラ」


 「おはようございます友間さん。それじゃあ上から失礼しますよ?」


 そう言うと友間を飛び越えて部屋へと入って行ったニコラ、それに続いて友間も起き上がると着いてしまった服の埃を払った。


 「皆さん.....というか増えてませんか?」


 「その〜、ニコラがいない間に色々とあってね」


 「んぅ〜友間さん、おはようございます」


 「あっシロ、おはよう」


 眠そうに目を掻いているシロ、昨日のスマホ講座でかなり疲れている様子だった。


 「ところで、京八さんはまだ帰って来れていないんですね」


 「うん....。でもニコラの方も無事で良かったよ」


 「実はですね、ちょっと....ううん、すごく会えて嬉しい人と会えたですよ」


 「んっ?、誰と会えたの?」


 少し気になって聞いてみた、するとニコラはプレゼントでも貰ったかのように返事を返してきた。


 「実はですねっ!、“おに〜ちゃん”と会えたんです!」


 「えっ、お兄ちゃん?」


 こんな偶然に出会えるものかと疑問に思った友間だったが、嬉しそうに話しているニコラを見て疑問を頭の隅へと置いておく事にした。

Re: スキルワールド ( No.88 )
日時: 2018/12/20 07:06
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 友間は今、伊月を見失ってしまい困り果てていた。すると昨日、自分とユウが戦った公園を見かけた。


 「ちょっとやり過ぎだったな」


 公園の中心が焦げて炭になっており公園を訪れている人々が口々に何かを話していたのが見えた。


 「少しだけ、寄ってみるかな」


 少しの抵抗を感じつつも現場へと近づいてみる友間、すると後ろから写真のシャッターを切る音が聞こえてきた。そして突如として体が動かなくなり目の前で話してたはずの人達も時間が止まったかの様に硬直してしまった。


 「どうも、僕はフリスト・マエストラーネという名の芸術家です。」


 動けない友間を尻目に知らない男の声が聞こえ背後から伸びてきた腕が友間の肩に置かれた。続いて背後にいる相手が耳元に囁きかけてきた。


 「伊月を付けている様ですね〜。ですが先程から私も付いていたんですよね」


 (体!、動けェェェーーーッ!!)


 必死に動こうとしているが指の一本すら動かす事はできなかった。すると男がある事を言ってきたのだった。


 「スキルというのは便利だね。まあ、この力も作品の腐敗を防ぐ程度にしか需要がないがね」


 (スキルか...、また厄介事になりそうだな)


 「そう身構えず......と、言っても動けないから無駄なお世話かもしれないがな」


 「ぐ.....ぐぐぐ....、さ..き....から...うる、さい....。」


 「ほう、これはまた素晴らしい。あらがう筈のできぬ力に抵抗し打ち勝とうする少年、なんと素晴らしいのだろか!」


 「だ、から......ウルサァァァーーーイッ!!」


 なんとか声は出るようになった、それと体もどことなくだが少しだけ動くようになってきた。するとその様子を見ていたフリストは叫びともとれる声を挙げて歓喜した。


 「いいぞッ!、いいぞォ! もっと僕にイマジネーションをクレェ〜ッ!!」


 耳がキンキンと痛くなってきた友間。だが次の瞬間、背後から爆発にも似たような砂煙が舞い上がり友間の体は自由になった。


 「ハァ ハァ ハァ、何が起きたの?」


 「友間さん、お怪我はないですかッ!?」


 「シ、シロ!? どうして此処にいるのッ!?」


 「何かあったら駆けつけると友間さんと約束をしました、それに友間さんの事なら地球の裏側にいたって分かるんですからね」


 「それはちょっと怖いかな〜・・・・・・。でも、ありがとねシロ」


 少しシロに対して引き気味の友間、だがフリストの事を思いだし煙の舞っている場所に視線を向けた。


 「では友間さんは離れて下さい、私が殺りますので・・・・・・。」


 「ちょっと待ってシロ、ここは一旦離れよう......」


 今更だがスキルの解けた人々から何十もの悲鳴が挙がり、恐怖する者や今起きている事を撮影しようとしている者がいた。


 「分かりました、今ところは一旦退きましょう。」


 だが何処からともなくシャッターを切る音が聞こえてきてシロと友間の体は動かなくなってしまった。


 「折角できてきた作品のイメージがパーになってしまったじゃないか・・・・・おや!、そこの女性は良い素材になりそうではないか」


 「友間...さんに......、手出しは・・・・・・させないッ!!」


 強引とも呼べるシロの力でフリストのスキルらしき能力を破ると殺気じみた様子でフリストへと突っ込んでいくシロ、だがまた別の声が聞こえてきて事態は一変した。


 「お願い、『お座り』......。」


 その途端シロの体は何かに押し潰されたかの様に地面へとメリ込んだ。そして声の主は友間が聞き覚えのある声だった。


 「どうも、友間さんにシロさん・・・・・」


 (えっ! に、ニコラ!? どういう事!?)


 聞こえてきたニコラの声に友間は驚きを隠せなかった・・・・・・。

Re: スキルワールド ( No.89 )
日時: 2018/12/21 15:24
名前: 3104 (ID: fph0n3nQ)

(¨* )あのぉ…なんかファンタジーなんでここに投稿しましたー。


Re: スキルワールド ( No.90 )
日時: 2018/12/21 22:53
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「やあニコラ。 ニコラのおかげで助かったよ」


 「もぉー“おに〜ちゃん”!、いくら何でも一人で挑むなんて危険なんだからね」


 そう言って頬を膨らませながらフリストの方へと近づいていくニコラ。その様子に友間は驚きを隠せずにいた。


 (ニコラがどうして敵の方に!? しかも目の前のがお兄ちゃんなの!?)


 「いい!、次からは私も付いていくからおに〜ちゃん一人で無茶はしないでよね!」


 「ああ分かったよニコラ。約束するよ」


 だが友間はフリストの片方の手が背後でクロスするのを見た。多分だが約束が守られる事はないだろう、と友間は思った。


 (まだ体は動かないままだ。それにシロも動けない状況だから不利かもしれないな)


 「あっ、それと友間さ......いえ友間。お願い『解除』」


 ニコラのそんな声が聞こえてきた、すると次の瞬間には体が自由に動かせる様になったのだった。


 「友間、・・・・・これは忠告であり命令です。私達及び伊月にはもう関わらないで下さい」


 「どうして......、どうしてニコラが敵になるの!? 今まで仲良く皆で笑ってたはずじゃ・・・・・・」


 「私にも......私なりの道理があるんです・・・・・・。ただそれを通すだけです」


 「これが道理なの!、本当にこれがニコラのしたい事なのッ!?」


 「・・・・・・・ここでは話の邪魔が入ってしまうので場所を移しましょうか、お願い『転移』」


 一瞬の情景の揺らぎと共に目の前の風景は朽ち果てた屋敷へと変化した。友間は夢ではないのかと自身を疑ったが鼻を貫くような腐敗の臭いからすると高い割合で現実のようだ。


 ーーガチャッ!


 そこへ誰かが入ってきた_____。


 「おいフリスト!、急に人を呼び出しておいて何の用だって・・・・・・・。」


 「ど、どうもー・・・・・。」


 「ぶっ殺してやるッ!! 今すぐに腸をぶち抜いてソーセージに・・・・・。」


 「・・・・・お願い『黙って』」


 ーーバギッ!!


 伊月の体は一秒後には貫かれた壁の奥へと消えていた。そしてニコラは何事もなかった様子で淡々と話を続けたのであった。


 「確かに端から見れば私の思想は悪なのだと言えます、ですが・・・・・・」


 「この件に関しては手を退け、だろ?」


 「フゥ、理解してくれているのであれば早急にでも・・・・・・」


 だが友間は手でニコラを指して話を途中で止めさせた、すると友間本人も予想をしていなかった事をニコラに言い放った。


 「理解はしてるよ、充分すぎる程にね......だけど実感はまだ全然してないよ...。」


 「どういう事.....ですか?」


 「なんていうか......まだニコラが敵だなんて信じられないなぁ、なんて思っちゃって・・・・・。」


 その言葉を聞いてニコラ自身の顔が一瞬だけ強ばり次には友間への怒りの表情へと変わったのだった。


 「ふざけないで下さいッ!!、そんな馬鹿げた理由なら私の前から消えて下さいッ!!」


 「いや、でも・・・・・・。」


 「お願い『友間を消し・・・・・」


 ニコラは何かを言いかけたが最後までは言えなかった。その理由は気絶したニコラを抱き抱えているフリスト自身が物語っていた。


 「ニコラはまだ不安定なんだ。彼女自身は忘れているだろうが心の奥底には深く刻み込まれた傷があるんだよ......。」


 「ニコラをどうするんですか?、それにあなたは敵なのに俺にそんな事を言うんですか?」


 「それは・・・・・・いや、それは止めておこう。君やニコラのためにもね」


 「どうして俺が出てくるんですか?、ニコラは大丈夫なんですか?」


 そう友間に聞かれたフリストは少しの溜め息を吐くとこんな事を言ってきた。


 「今夜8時、そこで君の答えを聞かせてくれ・・・・・・。」


 「ちょっと・・・ッ!、少しでも答えてくれたって・・・・・・」


 「僕からの話はそれだけだ。それとニコラを取り返すのなら相当の覚悟を持って来い!」


 フリストの気迫に押されて一歩引き下がってしまった友間。ただ部屋をあとにするフリストの後ろ背を見ている事しかできなかった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「・・・・・・・友間さん....何処まで行っちゃたんでしょうか?」


 シロは自身の主人を探して沈みかけた夕方の日を浴びていた。忽然と消えてしまった主人の臭いを頼ろうにも移動した訳ではないので地面に臭いが残っているかと言われればない......そして自身への絶望と怒りがシロを押し潰そうと溢れ出してくる。

 「友間さん......友間さん......。」


 「あっ、えーと・・・・・・シロ...?」


 「ッ!!......ゆ、友間さ〜〜〜んっ!!」


 「うわっ!、ちょっとシロ!? 少し落ち着こうか!」


 「嫌です!、もう会えないかと!? もう絶対に離れませんからねっ!!」


 「・・・・・ごめんねシロ......必死で探してくれてたんだね...。」


 そう言って抱きついてきたシロの頭を優しく撫でたあげる友間。道端という状況でなければもう少しシロに抱きつかせてあげられたのだが、シロを自身から何とか引き剥がした友間は心の中では悩んでいた。


 「んっ、何かあったのですか友間さん?」


 「まあ......。それはともかく早く帰ろう、シロ」


 「・・・・・・そうですか。」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「でっ、僕たち抜きで伊月を追ってて一緒にいたニコラが拐われたと?」


 「悪かったよダン、君とユウを置いたままやったのは悪かったけど、“何かあったら”呼んでって言ってたから?」


 「だからって何かあってから報告してくる奴がいるかよっ!!」


 ダンは友間に怒号を浴びせる、友間自身は隣にいるシロの事で心配になりつつも皆への話を続けた。


 「今夜の8時、屋敷に来いってフリストは言ってた・・・・・・。」


 どうしてそんな風な嘘をついたのかは分からない、多分だがニコラがストラングに戻ってきた時にニコラの笑っていられる居場所を守っていたかったんだと思う......。


 「そう怒らなくても良いんじゃないの『僕』?、だって奪われたのなら奪い返せば良いじゃないの?」


 「あのなユウ、敵の勢力とかスキルがまだ不明なんだぞ?」


 「×××××××××××××××?」


 「ほら、キグルミさんだって『そんな下らない理由で仲間を見捨てれと?』って言ってるよ?」


 「はー、まったく。伊月って奴の捕獲からとんだ飛び火だぜ、あーもー分かったよ全面戦争でも第三次世界大戦でもやってやるよ!」


 「そう来なくちゃね『僕』♪、そうと決まればニコラを取り戻しに行くぞー! エイエイ、オー!」


 「まー待て、いちょう伊月の捕獲についても頭の中に入れとけよユウ、それから皆もな?」


 そんな感じで決まってしまったニコラ奪還作戦、そして約束の8時まであと47分......。

Re: スキルワールド ( No.91 )
日時: 2018/12/28 23:16
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「準備は良いか?、僕とユウが屋敷の玄関前で暴れたりして気を引き付けとくからお前らはその間に屋敷内へ侵入しとけよ?」


 「分かったよダン、残りの3人で窓から侵入してニコラを奪い返してくるよ」


 「よーし! それじゃあ『僕』!、張り切って行こうね!!」


 「ちょっと落ち着けユウ、物事にはタイミングってもの・・・・・・ちょっ!待て!ユウ!!、うわっ!!」


 「そ、それじゃあ二人とも頑張ってね......。」


 何かを言い残しながら遠ざかっていくダンを苦笑い気味に見送ってあげた友間。そろそろ作戦開始といった所だろうか?


 「じゃあ、何か物事があったら作戦開・・・・・・。」


 ーードッガァアァアアアアンッ!!!


 「・・・・・・んー、あの二人は何をしたのかなー?」


 あまりの音に振り返ってしまった友間、しかし作戦の事を思いだし残ったシロとキグルミと一緒に近くにあった窓から侵入した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「君の答えは充分に理解したよ、友間くん・・・・・・。」


 屋敷の玄関から響いてくる音を聞いてフリストはそう言った。軽い笑いが込み上げてきて思わず笑い挙げてしまった。


 「フハハハハハッ!! ヒロインを助けるヒーローか、これも作品に取り入れよう!......と、少し前までなら考えてたかもしれんが今の僕は本気だよ、友間くん」


 フリストは待っていた。もし目の前に友間が現れたならニコラの前に二度と来れないようにするつもりなのだった。


 「ふふふ、ニコラ。お兄ちゃん今日は名作を作れるような気がするよ。」


 そう言って不敵に笑うフリスト、そしてフリストの周辺からは何か妙な物音が聞こえきたのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「いいシロ?、絶対に誰かを殺すのは禁止だからね? それと半殺しも禁止」


 「むー、友間さんがそう言うのなら分かりました......。」


 「それからキグルミさんも死なない程度に手加減とかお願いしますからね?」


 「××××××××!」


 「えーと...、それじゃあOKって意味で受け取っときます。」


 少し心配した様子の友間は、ニコラを助けようと早まる気持ちを抑えつつ薄暗い廊下を慎重に進んでいった

Re: スキルワールド ( No.92 )
日時: 2019/01/01 00:14
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 廊下を歩いていた友間一行は上の階からの騒がしい物音に足を止めていた、音は少ししたら止まったのだがどうやら屋敷には大勢の人がいるらしかった。


 「友間さん、気をつけて下さい。それから私から離れない様に......。」


 「うん、分かったシロ・・・・・。」


 ーーバギ.....ッッ..!!


 シロの後ろに回った直後、天井が不気味な音と立てて雪崩のように迫ってきたのだ。この時に初めてシロが居てくれた事を心の底から感謝の気持ちが込み上げてきた。


 「邪魔だな.........。」


 シロは迫ってくる天井を睨みつけると片手で全重量を受け止めて友間の安否を確認した。そして友間の無事が分かると安堵の溜め息を吐いて虫でも払うかのように瓦礫を押し退けたのだった。


 「ありが...とう、シロ.....。」


 「無事で本当に良かったです、友間さん」


 「××××××××××××?」


 「えーと、はい大丈夫ですキグルミさん」


 勘にも似たような感じで返事をキグルミへと返した友間は瓦礫の中で何かが動いているのが分かった。それは徐々に近づいて来ており数までは分からないがこちらより多いのは確かだろう。


 「友間さん。」


 「うん、分かってる。性質・・・・・」


 「いえ、友間さんは先に行って下さい。ここは私が引き受けます」


 「どうしたのシロ?、いつものシロと違うよ?」


 「いえ、いつも通りのシロです友間さん。ただ少し暴れるので近くにいるのは危険かと」


 「分かった! じゃあ気をつけ・・・・・いや、シロには無駄なお世話かな」


 「気をつけて下さい友間さん。それとキグルミ!、友間さんの事を任せたぞ!」


 「×××××××××!、××××××!」


 「ああ、そうか。なら安心だ」


 「何て言ってたのキグルミさんは?」


 「何でもありません友間さん、さあ先へ行って下さい」


 「うん、分かっ・・・・・うわっ....!...。」


 最初の一歩を踏み出そうとする前にシロに体を掴まれ持ち上げられてしまった。疑問を思いながら半分パニックという状態でシロを見てみると可愛く微笑みながらこんな事を言うのだった。


 「ニコラの臭いは上の階からします、なのでご覚悟をお願い致しますね♪」


 「えっ?、ちょっと待っ....!」


 だが友間が何かを言い終える前にシロによって高らかに屋敷の上の階へと投げ出されてしまい軽い悲鳴と共に友間の姿は消えていったのだった。

Re: スキルワールド ( No.93 )
日時: 2019/01/01 12:22
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「せ、性質<炎>ッ!!」


 シロによって低空飛行のスリリングな旅をさせられていた友間は、向かう先に壁が現れてスキルを発動させた。しかし友間の意思に反して体が炎から鉄へと上書きされてしまった。


 「あれ?、何でだろ?」


 ーーガッシャァアァン!!


 疑問をよそに壁に衝突した友間だったが、さすが鉄と言うべきか壁は友間に痛みを与えるどころか壁自体が砕けてしまい友間はその中へと入っていく。


 「あー怖かった!、次こんな場面があったら優しく投げてもらう様にシロに頼まなきゃ.....」


 「ビックリした!、何でお前が飛んで来るんだよ?」


 「へっ?、誰?」


 と言って、振り向いてみるとそこに居たのは驚いた表情の伊月だった。だがそんな表情も束の間に険しい表情に変わると伊月は戦闘態勢へ移り瞬時に友間を取り抑えた。


 「ちょっと待って!、別に君に危害を加えに来たわけじゃない!・・・・・・あっ、でも元々の依頼内容って伊月の目を覚まさせるみたいな内容だった様な......。」


 「なら! やっぱりお前も俺にとっての敵だ!」


 ーーバリィン!


 すると丁度飛んできたところのキグルミが二人の横を過ぎ去っていき窓を突き破って視界から消えていったのだった。今起きた事に少しの間の沈黙が生じたが気を取り戻して話を続ける事にした。


 「え...と、友間」


 「あっ、ごめん伊月! どうしたの!?」


 「そのな、お前は敵で・・・・・・って!、俺とお前は友達か何かかよ!、お前は俺の敵だ!」


 「ああ、そうだね」


 すると友間は背中を反らして取り抑えていた伊月に後頭部からの頭突きを喰らわして態勢を崩させると床へと押し退け友間は次に備えて身構えた。


 「さすがに鉄だと少し痛ぇな。まあ鉄だろうが何だろうが強引にねじ伏せるだけだけどな」


 「こちちも無理にでも貴方を倒して美琴さんの所へ連れて行くだけです。」


 「そうか、なら死ぬんだな!」


 ーードゴンッ!


 パワータイプの伊月の拳は重いという言葉で表せる代物ではなかった。例えてみればジャッキーに殴られた感じで鉄に変化している体でも持ち堪えるだけで精一杯という心境だった。


 「ま...だ、だッ!」


 渾身の右ストレートが伊月の右頬にメリ込んだ、一瞬よろめいた様子だったが決定的な一打とは行かず伊月のアッパーが迫ってきた。


 「まだマダァッ!!」


 そう叫んだ友間は寸前で頭を傾けて攻撃を避けると伊月のアッパーを頬辺りで感じながら全力の膝蹴りを伊月の腹に叩き込んで吹き飛ばした。


 「ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ.....疲れた....。」


 最初に受けた伊月から攻撃が今になって回ってきたらしく、友間は力尽きたように床へと崩れ落ちる。しかし伊月の方はそうとはいかなかった。


 「絶対! 負けられねぇんだよ!、俺は姉さんのためにも負けられねぇんだよっ!」


 「ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ、何の事...?..」


 「お前には関係ねぇ、さあ続きをやるぜ」


 「伊月!、何してるの!!」


 「えっ、姉さん...、何で・・・・・・」


 二人の戦いに割って入るような形で現れた美琴、彼女自身も驚いている様だが伊月の方が更に驚いている様子だった。


 「これは......、これはどういう事なのっ!?」

Re: スキルワールド ( No.94 )
日時: 2019/01/13 00:11
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「伊月ッ!、・・・・・・・ハァ...どうして....。」


 一瞬、言葉に詰まった表情になり美琴は少しだけ長く溜め息を吐いた。そして溜め息が終わり呼吸をすると揺れる視線で伊月のことを見つめた。


 「俺は....姉さんのために.....。」


 「どうして!?、どうしてこんな事が私のためになるって言うの!?」


 「・・・・・・・・・・・。」


 バツが悪そうに美琴から顔を背ける伊月、その様子はまさに親に叱られている子どもの様だった。


 「俺は......俺はさ、姉さんを助けたかっただけなんだ。ただ笑って欲しいだけなんだよ」


 「助け....たかった?」


 「ああ、姉さんの脚を治してあげたかったんだ......だけどそれには金が必要だ、俺や姉さんが見ることすらできない金が必要なんだよ!」


 そう声を荒らげて叫んだ伊月、だが友間には美琴とこの件がどう繋がっているのかが分からなかった。


 「ちょっと失礼、どうしてこの件に美琴さんが出てくるんですか?」


 「......適当に若い女を拐ってきたらフリストが金とそいつらを交換してくれるんだ.......。」


 「それって・・・・・、それじゃあ女の人たちをフリストはどうしてるの?」


 「さぁな、だが心当たりはある」


 伊月は一旦の間を置くと渋々という感じで何かを話し始めた。


 「多分、その女達は殺されてる....。」


 それを聞いた友間は全身が波打った感じがし伊月へと飛びかかりそうになったが、美琴はそれを制止すると伊月の話に耳を傾けた。


 「殺されてた...なら、まだマシだな。そのあとはフリストに体を解剖されて挙げ句、家事をこなし続けるだけの使用人として死んでもなお動き続ける事になる・・・・・・。まあ。俺の推論だから分からねぇけどな」


 「伊月...あなた・・・・・・・。」


 「み、美琴さん...?」


 怒りの含んだ声が聞こえて心配そうに友間は声を掛けてみた。美琴の顔は怒りで赤くなり今にも湯気が噴き出しそうな様子だった。


 「・・・・・・・・、伊月ッ!!」


 その一言を発して伊月へと近づいていく美琴、車椅子でありながらも怒っているからなのか淡々と前へと進んでいくその姿には迫力というものがあった。


 「伊月!、私がいつ不幸だって言ったの!」


 「いや、あの....」


 「いつ自分の脚が不憫だって言ったの!」


 迫力に圧されて後ろへと後退していく伊月、それに構わず近づいていく美琴はさらに言葉を続けた。


 「いつ!、私のために人を犠牲にしなさいって言ったの!!」


 「ひっ、あの.....その....」


 「ハッキリと言いなさいッ!、お姉ちゃんの目を見てちゃんと言いなさい!!」


 「俺は!、俺は・・・・・・・。」


 鬼と同一視すらできる程のオーラを纏った美琴、すると誰かの声が割り込んできてその場にいた人は一斉に振り返っていた。


 「これは見るに堪えない茶番劇だったな。これならハトの一生を見ていた方がまだ目の保養になるというものだ」


 「ッ!!、......フリスト!」


 「やぁ友間くん。君の答えはしかと受け取ったよ」


 「おい! フリスト!、何しにここへ来やがったんだ!」


 「伊月、君には色々とがっかりだよ。どうしようもない無能者だな」


 「あ“っ?、今何って言った?」


 気を取り直したように伊月はフリストを睨みつけると数歩前へと踏み出した。


 「だから君には失望したんだよ、姉という存在ごときに恐れを見せる君には僕の前に立っている資格さえ無い」


 伊月は怒り混じりの表情を見せると前置きなくフリストへと突っ込んでいく。しかし伊月のそんな様子を嘲笑うかのようにフリストは笑みを見せると右手に何かを構えた。


 「はい、チーズ!」


 ーーパシャ!


 「・・・・・・・・・・。」


 「全く〜、最近の若者というのは落ち着きという点に欠ける。落ち着きなくして芸術は成し得ないというのに」


 フリストはそう言って時間の停止した伊月に近寄っていく、そして何をするかと思うと何処からともなくナイフを取り出して伊月へと突き立てた。


 「さようなら、伊月。」


 「させるかッ!!」


 「友間くん、君というのは本当に単純な男だな」


 と、言ってフリストが後ろへと振り返るとフリスト自身には当たりはしなかったが友間から放たれた蹴りがナイフを掠め取りフリストの手から蹴り飛ばした。


 「すみませんが伊月を保護する事が本来の目的なんです。それに伊月を殺されると美琴さんが悲しみます」


 「君という男は単純であり馬鹿だ、これは僕自身のお墨付きだよ」


 「単純で結構です、馬鹿でも全然結構ですよ。それに伊月もニコラも返してもらいます」


 「それは楽しみだ。それじゃあ僕は視聴者として屋敷の隅っこででも楽しませてもらうよ」


 そう言って部屋を出ようとするフリストだったが、その横を瓦礫が飛び去っていきフリストの足を止めさせた。


 「ちょっと待て、あんたとは今ここで決着を着ける!」


 「まあ、お好きにどうぞ友間くん」


 「よし・・・・・、“性質ノ解放【炎】”!!」


 そう叫んだ友間の声は屋敷の全体へと木霊して響き渡った。

Re: スキルワールド ( No.95 )
日時: 2019/01/14 00:41
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 ・・・・・・・・・・・・・・・。


 「えーと、・・・・・・・・あれ...?」


 堂々とスキルを宣言したは良いが、体が燃え上がるどころか体からは少しの煙すら出ていなかった。


 「・・・・・・・・。」


 「・・・・・・・・。」


 フリストと友間には短いながらも少しの沈黙が立ち込めた。すると沈黙に耐えられなくなったのか友間から口を開いた。


 「えーと......それじゃあ『鉄』の性質で戦いますね」


 「まあ、僕は構わないよ友間くん」


 「それはどうも、では」


 先程までの熱気は何処へやら、鉄のまま変わらずの体を見下ろし軽く苦笑いを浮かべてフリストと対峙した。


 「ふー・・・・・・っと、...よしっ!」


 そう間を置いて友間は前方へと駆け出した。フリストは右手に持っているカメラを構えようとしているが反応速度に関しては友間の方が一歩上手だったようだ。


 「はい、チーズ!」


 「ッ!!、消えたっ....!」


 「ここだよ、友間くん」


 フリストの拳は思わぬ場所から飛んできた。いつの間にか取られていたらしい懐からフリストが煙のように現れると予想外というべき拳速からのアッパーカットが顎に炸裂した。


 「うっ....何、これ」


 鉄だからまだ耐えられたが生身で喰らっていると頭蓋骨は確実に砕かれていただろう。だが、そんなイメージを振り払うように友間は首を振るとフリストに向かって飛び出した。


 「さすがに鉄を殴ると痛いものだね。だが君が最初に始めたのだから責任は後で取ってもらうよ」


 「そうですか!、それは楽しみですね!」


 友間の拳は空を切るように空振りしたがフリストの拳は止むことなく友間の体を殴りつけきたが、一発一発の威力は手加減の欠片すら無かった。


 「僕はねぇ、中々怒らない方なんだけど何だかニコラの事を考えてると腹の底から怒りが込み上げてきたしょうがないよ!」


 「それはこっちもだ!、お前を見てると嫌な思い出が蘇ってきそうになる!」


 「そういう思い出話は酒のつまみの時にでも取っておいてくれ!」


 「うわ!、ちょっ・・・・・・」


 フリストは信じられない程の力で友間を投げ飛ばし、友間はそれに驚くことしか出来ずに屋敷の壁に叩きつけられた。


 「僕のスキルはカメラで撮ったモノの時間を自在に操作できるんだ。自分の体にある神経の伝達時間を速めればこんな事は造作もないよ」


 「いたたた......やっぱりこの状態じゃ思う存分には戦えないかな」


 独り言を呟くように立ち上がった友間だったが、そこに誰かの声が頭に響いてきた。


 (「なら、俺が手伝ってやろうか?」)


 「へっ?、今のって・・・・・」


 有無を言わせず体が何かに貫かれたような感覚に陥り、そこで力尽きたように意識は遠のいてしまった。


 「おっと友間くん、大丈夫かい?」


 「・・・・・・・・。」


 直立したまま頭の垂れている友間のその様子を見てさすがに心配したのか声を掛けるフリスト、しかし友間からの返事はなくただ立っているだけだった。


 「・・・・・・・・・。」


 「おーい本当に大丈夫かい?、少し休んだりするかい友間くん?」


 「・・・・・・・・、倒す。」


 「えっ?、今なんて言っ・・・・・・。」


 ーーバキッ!!


 不意にフリストの顔を友間の拳が直撃し殴りつけた。少しよろめいたが何とか態勢を保って顔を上げてみるが今度は膝蹴りが飛んできて続けざまに次々と殴りつけてくる。


 「・・・・・・・・・・・・・。」


 ーーダン!、ガン! ガン!!


 表情なくフリストを殴るその様は冷徹とも冷酷とも呼べるような様子であった。だがここはフリストも負けてはいなかった。


 「悪いけど、ごめんね!」


 フリストの高速の蹴りが三発、頭・胸・腹を貫くように叩き込まれた。これには少しばかり後退したが決定打とまでは行かなかったようだ。


 「感情を捨てたのなら直ぐにでも拾い戻すことをオススメするよ。感情を失った時が芸術家にとって死に等しいものだからね。」


 感情を捨てた。確かに今の友間にはその言葉が“近い”かもしれない、ただ少し違ってもいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ここは友間の精神世界、辺り一面が真っ暗な世界で呆然とした様子で立っている友間の姿があった。


 「また急に戻って来ちゃったけど、エンは元気にしてるのかな〜?」


 どうして自身の精神世界なのに毎回の如く勝手に連れて来られるのか疑問に思いつつも友間は辺りを見回してみる。しかし今回はこの場にエンの姿はなかった。


 「んー・・・・・今回、俺を呼んだのはエンじゃないって事なのかな?」


 少し不信に思ったが思い返してみると自分の戻りたい時に元の世界に戻れた事はなく、毎回エンから時間が来たと告げられて目が覚めてばかりだった。


 「いやいや、自分の世界なのに主導権が全く無いなんて悲しいな」


 (「それには俺も同情するよ、情けない主人にこき使われるエンの辛さもな」)


 「ちょっと!、それは本人の前で失礼じゃないですか?」


 ムッとした表情で声のした方向へ振り向いた友間だったが、今更ながらエン以外の人物の声を聞いたのはこの世界では初めてだった。


 「でっ、あなたは誰ですか?」


 (「すぐに気づいてもらえると思ったんだがな〜。......まぁ当然と言っちゃあ当然か、こんな主人じゃな」)


 呆れた様なアクションを取ってみせる相手は全身の色が変だった。それとよく見てみると鉄のような冷たい肌をしている様に見えた。


 「もしかして......鉄の性質、かな?」


 (「たく、ようやくかよ。.....まぁしかし消えてもらう奴には今更不要だったな。」)


 「消え、・・・・えっ! ままま待ってよ!、あなたに消される筋合いは無いはずだよ!?」


 (「ハァ〜、お前は馬鹿なのか?」)


 本心なのか冗談なのか、友間的には前述のような気がするが理由も分からないまま相手の事を決めつけるのは失礼だと思いこんな事を聞いてみた。


 「あ、あのさ....エンを見なかった?」


 (「んっ?、あー・・・・・・殺した。」)


 そう声が聞こえた瞬間、友間の心には驚愕と怒りの二つだけがハッキリと形を成していた。

Re: スキルワールド ( No.96 )
日時: 2019/01/19 16:09
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「お前ェッ!!」


 頭に血が上るとは聞いた事があるのだが、それは本当だったようで目の前にいる相手に荒々しくも冷静な足取りで近寄って行った。


 (「ぷっ......はははははッ!!、その顔もまた予想通りな反応だぜ!」)


 「あ“っ?、何処をまず壊されたいですか?」


 目が完全に平常とは言えない友間は口調が少し荒くなりながら相手へと聞いた、だがまだ相手は笑っているばかりだった。


 「よし.....じゃあ両脚から...。」


 生身のまま前へと飛び出して行った友間、その様子はまさに獅子奮迅と呼べる風貌であり最早もう人間は辞めてそうだった。


 (「いいぜ、俺は“鉄”だ。生身のお前じゃ俺に傷一つ・・・・・・」)


 「あ”ッ!あ”ッ!あ”ッ!あ”ッ!あ”ッ!あ”ッ!あ”ッ!」


 ーーバギッ!!


 (「へっ?・・・・・・ぎゃあぁぁああぁあッ!!」)


 悲鳴を挙げたのは蹴りを放った友間ではなく鉄である筈の相手自身であった。耳をつんざくような悲鳴を挙げながら頭の中は混乱していた。


 (「嘘だろ!、ただの人間だよなコイツは!?」)


 よく見てみると友間の片足は折れていた、それも奇妙な形に折れ曲がっており立つ事はできなくなっていた。


 (「やっぱり体は人間か、だが俺の方も足を一本持ってかれちまってるな・・・・・。」)


 冷静に状況分析をしていた所だったが友間が片足だけで立ち上がろうとしいたのを見ると思わず溜め息を吐いていた。


 (「チッ!、あの様子だと何処まで落ちて行こうと俺を殺すつもりだろうな」)


 「殺す.....殺す....。」


 (「ったく、サッサッと主人の精神でも殺して体の主導権を奪っとけば良かったな。まさか化け物を相手にする羽目になるなんてな」)


 だが次の瞬間、頭に激しい痛みを感じて舌打ちをする。そろそろ外の世界の方は時間が迫ってきているようだった。


 (「よし!、これは一旦退くしかねぇな」)


 そう言って頭を掻いたかと思うと飛びかかってきた友間を尻目に捨て台詞を吐き残すとこの空間から忽然と姿を消したのであった。


 (「精々生きてろよ、また会う時まではな」)

Re: スキルワールド ( No.97 )
日時: 2019/03/30 12:36
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



ーーバタッ!


 「痛ーててて....鼻が.....」


 友間は鼻を押さえながら突如現れた床から立ち上がる、すると先程まで居た精神世界から皆のいる現実世界に戻って来ていた。


 「あー・・・・・、何してたんだっけ?」


 「大丈夫かい、友間くん?」


 「どうもご親切に、でも大丈夫ですから・・・・・・・。」


 下げていた顔を上げるとそこにはフリストがおり友間は全てを思い出して弾かれたように身構えた。


 「ちょっと落ち着いてくれないかい友間くん?、まだ動かない方が・・・・・・」


 「ニコラを返して下さ・・・・・!」


 不意に力が抜けたようにガクリと転倒しかけた友間、鼻に手を当てると少し前にぶつけたせいなのか血が指を沿って垂れていった。それと今気づいたのだが、いつの間にかスキルが解除されており生身の状態となっていた。


 (急に頭が重くなってきたな。そろそろ体の限界が近いのかな?)


 「本当に大丈夫なのかい友間くん?、体調が優れないなら部屋はボロボロだけど何処かで休んだ方が......。」


 「いえいえ大丈夫です。それとニコラを助ける前に死ぬ覚悟ぐらいは準備済みですから」


 「よーし、そこまで君が本気なら僕も相応しい対応を取らないと君に失礼かもしれないね」


 フリストは何か意味ありげに友間へと微笑みを向けると間を置かずにパチンと指を鳴らす。すると何処からともなく地響きとも言える音や振動が周囲を騒然とさせ友間は思わず美琴と伊月の安否を確かめていた。


 (伊月はまだ時間が停止したままだし、それに美琴さんは即座に遠くへは移動できない)


 「友間くん、君には僕の本気を受け止めて欲しい。最後には芸術的な散り方を要求させてもらうよ」


 「それは遠慮させて頂きます。それにシロっていう許嫁がいるので死ぬのは全てを終わらせた後にお願いしたいですね」


 軽く冗談を交えてみせた友間はそんな事を言ってスキルを発動させてみるが相変わらず鉄の性質にしか変化しなかった。すると友間の真横にあった壁を何かが突き破って強引に友間を凪ぎ払った。


 「ゲホ! ゲホ! ゲホ!、美琴さんや伊月は大丈夫かな?」


 「わ、私なら平気よ。それと伊月も大丈夫ですので構わずにいて下さい!」


 「分かりました!、なら全身全霊でぶつかって行きますので気を下さいね!」


 そう言って前方を見ると友間は少し吐き気を催してしまった。なんと目の前には巨大な右腕が伸びていたのだが細部まで見ると何百....いや何千という女性の右腕が全体を形造っていたのだ。


 「どうかな?、僕の傑作の中の一つを見ての御感想は?」


 「ハッキリと言って悪趣味ですね。それにこの臭いは・・・・・・。」


 「香しい匂いだねぇ、それにこの腕の一本一本の血の気の無さがまた堪らないチャームポイントだね」


 友間の心境的には目の前の相手への不快感が強かった。そしてフリストに傑作と呼ばれていた“異形のモノ”は恐怖の造形物という名が相応しそうだった。


 「うぷっ!.....、それじゃあ気を取り直して芸術にでも触れてみましょうかね」


 と、言って友間はジョークを飛ばしてみせるとフリストの制作してしまった不気味な化け物へと意を決して突っ込んで行ったのだった。

Re: スキルワールド ( No.98 )
日時: 2019/03/30 12:38
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 ーードゴォォオン!!


 「ダメか・・・・・・。」


 化け物を力試しに殴ってみたは良いのだが全く効いてる様子がないので友間は一旦後ろへと後退する。ゆらゆらと何もない空へと伸びる死体の腕の波は友間を掴もうとしてくるが、そう簡単に掴まる気は更々なかった。


 


 「んー・・・鉄でも使えるのかなぁ、“アレ”?」


 友間は少し迷いつつ腰を屈めると右腕に意識を集中させてみた。すると炎の時のように力が蓄積していく感覚が伝ってきて少し安堵すると共に目の前に見える化け物を真っ直ぐに見据えた。


 (これって、鉄の場合だと......どうなるんだろう?)


 躊躇いはあったが相手が人間でないなら出し惜しみをしていると足を掬われてしまう場合もある。ならここは当たって砕けろという古人の言葉に従うまでだ。


 「スゥー・・・・・・。ハァ〜〜〜.....」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・。



 ーードンッ!


 狙うは一撃必殺のみ....、もし達成できなかったら今度は両腕で叩き込むまで.......腕が残ってたらの場合だが.....。


 ーードゴンッ!!


 化け物に拳を当てる瞬間、周りがゆっくりになった気がし頭の回転が急加速した。そして拳がメリ込んだと同時に拳から何十もの支柱が突き出してきて化け物を体内から串刺しにした。


 「・・・・・・残酷な事しちゃったな」


 何かを悟ったような感じでそう言っていたのは良いのだが、ここで一つ問題が生じていた事に気づいた。


 「あ、あれ.....腕が抜けない・・・・・・。」


 「友間くん、それは計算内かい? それとも予想外なのかい?」


 「それじゃあ、後述という事で・・・・・。」


 どうしようもない状況の友間に更なる追い討ちを掛けるような出来事が起こった。


 「あ、あの床が揺れてませんか?」


 「それは友間くん、この芸術の真価が現れるからさ!」


 何を言ってるかは分からないが状況的には危険という他なかった。すると床が軋むような音を立てて崩れていくが友間は落ちる事なく上へと昇っていく、その理由は床を破壊した張本人の右腕に乗っているからだった。


 「へっ・・・・・・・。化け物は何処まで行っても化け物だとは言いますけど、それを実現させてどうするつもりですか?」


 「芸術とは、何かを極め続ける事で形を成していくものだ。それを理解してくれるかい、友間くん?」


 「それは無理そうなので、こっちは自分の考えを通し続けて貴方の全てでも砕いてみせますよ!」


 そう叫んだ友間は化け物の顔を見て吐きそうになりつつも気合いの一斉を挙げて化け物の腕を殴りつけてみた。しかし反応という反応はなく化け物がこちらを見下ろしてきた。


 「ブゥォォォオオオオオーーーッ!!」


 「うあっ!、見た目以上に恐ろしい声を挙げますね!」


 「さあ!、僕の芸術を全面に受けてくれ!!」


 フリストのそんな声が聞こえたかと思うと化け物の予想外な速度で振り落とさせた拳が目の前へ迫ってきたと同時に友間には計り知れない程の衝撃が襲ってきて友間の体を吹き飛ばした。


 ーーガッシャァァァアアアアン!!


 「ゲッホ! ゲホ! ゲホ!。死ぬ....かと、思った......。」


 「大丈夫ですか!、友間さん!?」


 「大丈夫ですよ美琴さん、俺って思ったより頑丈なので・・・・・・。」


 無茶を言ってるのは承知だ、だけど嘘の一つや二つぐらいを言える余裕はまだある。そう思いたったかは隅に置いて、友間は心の中で“ある人物”を呼んでいた。


 (エン.....まだ死んでいないなら力を貸してくれ!、一瞬だって良い.....ほんの少しだけ力を貸してくれ!)


 「それじゃあ友間くん、芸術の材料としては惜しい人材だったけど永久にサヨウナラ」


 そんな事をフリストに言われた瞬間、周囲の風景がやけにゆっくりとして見えた。そして友間の体を段々と巨大な影が覆い尽くしてくるが、その正体はフリストが造ってしまった化け物であった。


 (良い事ありますように......。)


 そう心の中で呟くと友間は隣にいた美琴さんの車椅子を押し退けると何かを諦めたように目を瞑り溜め息を吐いた、そして周囲の時間は元に戻った。


 ーードッゴォォォオオオンンンンッ!!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「あ、あれ? まだ生きてるのかな?」


 目を閉じていると冷たい風が頬を擦って過ぎ去っていくのを感じた。それと同時に誰かに抱えられているという感覚もあった。そこで目を閉じたまま相手へと質問を問いかけてみる事にした。


 「あのー・・・・失礼ですが、どちら様で?」


 「酷いな“黒奈”、ちゃんと両目を開けて見てみろよ」


 「へっ?.....、もしかして京八ッ!?」


 「よっ黒奈!、それと覚悟しな芸術かぶり野郎っ!」

Re: スキルワールド ( No.99 )
日時: 2019/03/30 12:50
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「覚悟しな!、芸術かぶり野郎っ!」

 「それは心外の一言に尽きるねぇ......。まあ相手が二人になろうが三人になろうが支障はないけどね」

 苦笑いをしてみせるフリスト。それと同時にスキルを発動して身構える京八と友間、そんな二人の様子を見たフリストは肩を落として二人へと近寄っていく。

 「おいおいフリストさんよー、俺と黒奈の友情コンボを嘗めてると痛い目を見るぜ」

 「別に嘗めてはいないさ、ただの予備動作だよ」

 そう言ったかと思うと急な加速で前へ飛び出して行ったフリスト、友間と京八はそれぞれ左右に散ると着地と共に軸足を捻ってフリストに向けて蹴りを放った。

 「おっと危ない!、確かに二人のコンビネーションという点では一種の武器になっているね」

 「おう!、俺と黒奈ならできて当然だぜっ!」

 「だけど、一人さえ潰せばコンビネーションも何もないよね?」


 フリストはそう言って自身の背後にいる化け物へと合図を送る、化け物はそれに応えたように友間へと的を絞って巨体による一撃を繰り出した。

 友間はそれを当たる瀬戸際で回避すると返答の代わり化け物に一発蹴りを浴びせた、化け物は特に大きなリアクションもなく友間の体を掴むと床に大振りで放り投げた。


 「大丈夫かよ友間っ!?」

 「だ、大丈夫......これからだよ、これから」

 「これ以上、立ってもらうと僕の屋敷が崩れちゃうから遠慮願いたいかな」

 「もう壊れるところまで壊れてるんだから良いんじゃねえか?、それに解体費用かからねぇぞ?」

 「京八くん、その場合はストラング宛てに請求書を送ってあげますよ」

 「は、はは......ホントに届いた場合は恐いかもな、それ」

 「ふふふ、本当に届くかもしれませんよ?」


 フリストと京八のそんな会話を横目にしていた友間は溜め息を交えながら化け物へと飛びかかって行く、一方の化け物は向かってくる友間を見下して両腕を振り落とす。


 それを間一髪で避けてみせると渾身の蹴りを化け物に喰らわせてから再度また態勢を立て直して肘打ちを打ち込んだ。


 「全然効いてなさそうだ、というか全く倒せる気がしないな」

 「ブゥォォォオオオオーーーッ!!」

 「耳が千切れそうだっ!」

 「おっ!、一人で良い所を持ってかせはしねぇぜ!」


 京八の電気が化け物へと放出され少しだけ後ろへと吹き飛ばした。焼けた臭いと共に焦げ残った肌が現れる、すると化け物は怒ったかの様に叫び声を挙げる。


 「おっと、第2ラウンドの始まりみたいだぜ黒奈」

 「それは少し遠慮したいかなぁ・・・・・・。」


 そう苦笑気味に言った友間は深呼吸を一回すると気合いを入れ直したように化け物を睨みつけた。

Re: スキルワールド ( No.100 )
日時: 2019/02/17 23:28
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 友間の従者であるシロは今、群がってくる異形のゾンビ達を紙でも千切るように両手で裂いては瓦礫の方へと叩きつける。



 「チッ! 数が以上に多いな、私を足止めするためか」



 掴んでは裂いて、群がってくるゾンビに投げ捨てるの繰り返し。シロは主人の安否を気にかけていたが、今の自分が行けばこのソンビ達を連れて行くことになり主人に迷惑が掛かるのだと悟っていた、だから無尽蔵に湧いてくるソンビ達を殺し尽くす必要があった。



 「待ってて下さいね、友間さん」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「はっくしょんッ!、今頃になって風邪をひくのは嫌だな」


 「おい黒奈っ!、危ねぇぞッ!?」


 京八に強く肩を掴まれ後ろの方へと投げ飛ばされ、一歩遅れて化け物の拳が降り下ろされた。



 先程までの場所にいたら間違いなく潰されていたと思い、不意に悪寒というものが走った。



 「ところで黒奈、どうして俺らあんなのと戦ってんだ?」


 「えっ、今更!? でも京八って途中まで行方不明だったしね」


 「そうなんだよ、伊月に脚をちょっと抉られちまって逃げられはしたんだが、止血するためにスキルで傷口を焼いたら痛みのあまり気絶しちまったんだよな」


 「だったら何でここが分かったの?、ここって町から離れてるし木々とかも茂ってるから」


 「あー何か、森の中に身を隠してたら見つけた。それで急にデカイ音がしたから見てみたらユウとダンを見かけたんだよ」



 そう京八が言った直後、化け物の乱入で話が中断されてしまった。回避していた二人は埃の舞うなかでそれぞれのスキルを使用して化け物に攻撃を食らわす。



 「それで屋敷の中に入ろうとしたんだが、今度はキグルミさんが窓から飛び出してきたりしてビックリしちまったぜ」


 「こっちの状況を言うとニコラが裏切ったと言えば良いのかな?、だけど色々あってニコラの救出をしてるとこ」


 「OK!、状況は何となく分かった。そんで目の前のフリストとか言う奴をぶっ倒せば良いんだな」



 京八はそう言うと腰を低くして眼前に見えるフリストへと標的を合わせた。そして一呼吸を置くと自身のスキルで体に電気を流して強化するとフリストに向けて飛び出した。



 「若いって恐いものだね、まぁ若さなりの単純さがあるけどね」



 フリストは京八の突進を寸前で体を捻って避けると体の回転を活かしたまま通り過ぎていく京八の背に手刀を浴びせた。


 「痛てッ!、おいおい俺の背骨ってまだ完治してねぇんだよ!」


 「おっと、これは失礼な事をしたね」



 4ヵ月前の出来事が脳裏にチラつきつつ身構えた京八、まだ背骨のヒビは完全には完治していない状態で戦うのは勝つという要素も含めれば不可能に近いだろう。



 「痛ててて、これは背骨の傷が開いちまったな」


 「京八!、大丈夫なのっ!?」


 「モチのロンだぜ黒奈、こっからが俺の本領発揮だ!」


 「怪我を庇いながら僕と戦うつもりかい?、なら退場をオススメするよ」


 「俺からの答えはノーサンキューだぜ!、それにお前を倒したら庇う必要なんてないだろ!」



 威勢よく踏み出した京八はまず最初にフェイントで蹴りを放つ、京八は避けられる前に放った脚を一旦退いて床を強く踏みしめると前へ飛び出して右ストレートを打ち出した。

 放たれた右腕はフリストの肩を掠めただけだったが拳の通り際にフリストの肩をガシリと掴んで自身へと引き寄せた。そして引き寄せられたフリスト顔には驚きの二文字だけが塗り潰していた。



 「歯ァ食いしばれよッ!!」


 「ちょ...待っ・・・・・・!」


 ーーメキッ!!


 フリストの頬に京八の放った左の黄金ストレートが炸裂した、そして京八の発していた電気がフリストに放電して京八とフリストとの間で強烈な火花が散った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「ふぅー、いっちょ上がりだな」



 気絶しているフリストを横目に尻餅をついている京八、主人の意識が途切れたせいか先程まで暴れ狂っていた化け物も糸の切れた操り人形のように屋敷の屋根に突っ伏していた。



 「そんで黒奈、これからどうするんだったけか?」


 「ニコラを助けに行くつもり、でも敵意剥き出しだったから自信はないかな」


 「それはそれで良いんだが、あっちにいる伊月とその姉の方はどうするんだよ?」


 「ここで待ってもらうか、後でユウとダンに合流して保護してもらうしかないかな。伊月の方は気絶しちゃってるし」


 「そうか、ならニコラを説得したらシロとキグルミさんを探して一件落着だな」



 疲れが今頃になって追いついて来たのか京八は苦笑いし自身の背中をさすった、友間の方もスキルが強制的に解除されて体が生身に戻ると床に倒れるような形で休憩をとった。



 「シロの方も大丈夫かな?、ちょっと心配」


 「シロなら無事よ一応、それよりも自分の心配した方が良いんじゃないの友間?」



 その場にいた京八と友間は声のした方へ迷う事なく体を向けて身構えた。視界の先に見えたのは動きのないシロを引き摺りながら現れたニコラの姿だった。



 「安心して下さい、少し眠ってもらってるだけですから」


 「ニコラ、どうして君が敵になるの?」


 「友間、あなたからの質問の意味が分かりませんね?」


 「君は少し前まで仲間だった、それなのに今は敵になってる・・・・・・。」


 「勘違いしないで下さいよ、私は誰の味方でもありません。むしろ全てに敵対する存在と言っても良いでしょうね」


 「じゃあ、どうして君は・・・・・・」


 「質問が多いですよ、私はただ取引をしに来たんです」


 「もし拒否すると言ったら?」


 「あなたの存在ごと私のスキルで消し去ります、これは最後の忠告です。私と取引しなさい」


 「・・・・・・分かった、取引の内容は何なの?」


 「フリストとシロとの交換、そして私の存在はストラング内部では“殉職”という事にして下さい」

Re: スキルワールド ( No.101 )
日時: 2019/03/30 13:08
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「私を殉職という事にして下さい、それが私からの条件です」


 「ニコラ、君のスキルなら事実を捻り曲げるなんて簡単なんじゃないの?」


 「もちろん、そんな事は簡単なのですが私も私なりにスキルに頼ってばかりは嫌なだけです」



 そう言って近寄ってくるニコラ、小柄な体でシロを抱えているニコラに対して少し面食らい気味な友間だったが気を取り戻すと眠っているシロを受け取る。



 「それじゃあ殉職の件はお任せします、くれぐれも私を悲しませないで下さいね」



 ニコラが小声で何かを呟き直後にフリストの姿が消えた、ニコラは冷えきった眼で友間と京八を見据えると不意に視線を反らした。

 どうしてあんな冷たい眼になってしまったのか、友間は少し悲しくなり一人の人物の事を思い出した。



 「カマキリ.....」


 「えっ、今なんて?」


 「あっ! いや!、なんか母親を殺した人の事を思い出しちやってさ」


 「あなたの母親を殺したのはカマキリという名前なんですね.....」


 「う、うん。それがどうしたの?」


 「・・・・・・ある組織があなたの事を狙ってます。....気をつけて下さい」


 「あ、ありがとニコラ.....」


 「それと勘違いしないで下さいよ、ただ次に会う時まで誰かに殺されていて欲しくないだけなので。あなたを殺すのは私ですから」


 「・・・・・・どうして俺に、そんなに怒っているの?」


 「さあ、どうしてでしょうか。何故かあなたを見ていると怒りが込み上げてくるんですよ、私の消えた記憶に関係しているのかもしれませんね」



 ニコラの言葉に引っ掛かりを覚えて問いかけようとしたが、既にニコラの姿は消えており友間は何処かやるせない気持ちでいっぱいになった。



 「まっ黒奈、済んだ事だし引き上げようぜ」


 「・・・・・・・うん、そうだね....京八」


 「ところで黒奈、背骨が痛くて歩けないから肩貸してくれないか?」


 「分かったよ京八、それと今度こそは絶対安静だからね?」


 「分かってるよ。っていうか安静にしてないとジャッキーに追加の骨折をプレゼントされるからな」



 苦笑いを見せつつ友間に身を任せる京八、そんな京八に対して友間も苦笑を投げ掛けていると屋敷全体に揺れ響くような轟音が鳴り響いてきた。

 脳裏にハナテを浮かべている二人だったが、屋敷自体が突如として消えて悲鳴にも似た声を挙げて二人仲良く落ちていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「痛ててて、お〜い黒奈。大丈夫か?」


 「う、う〜ん。平気....たぶん」


 「だ、大丈夫ですか、お二人とも...?」


 「ど、どうも美琴さん、なんとか.....」



 友間はそう言ってゆっくり立ち上がる、どうやら屋敷の欠片が残っていた事が幸いして比較的にあまり高い位置からは落ちなかったようだ。



 「ほら京八、肩を貸すから立って。それと美琴もよく無事でしたね」


 「伊月が助けてくれたの、でも伊月が怪我を負ってしまって.....。」


 「こんな程度の怪我、俺にとっちゃ目に止める程もないぜ」


 「なに強がってるのよ!?、ほらお姉ちゃんに見せてごらんなさいっ!」


 「痛たたたッ!! 姉さん痛いからっ!?、離してよちょっと待って!」


 「もう、強がってるからよ伊月。辛いならお姉ちゃんに甘えたって良いのよ」


 「・・・・・・姉....さん...」


 「こりゃ見物だな黒奈っ!」


 「こーら!、姉弟の話なんだから遠くで待ってよう」


 「あ〜っ!、せっかく面白くなりそう雰囲気だったのによ〜」



 友間に引き摺られてその場から遠ざかっていく京八、それを他所に伊月と美琴は気不味そうに顔を合わせた。



 「その....悪かった姉さん、あの....」


 「大丈夫、あなたが間違えたって私と伊月が姉弟である事に変わりはないもの♪」


 「その....本当に・・・・・・」



 気づかぬ内に目から涙が溢れ出てきて泣いていた。何を間違っていたのか伊月の心の中で疑問が浮かんだ、そして更に泣いてしまった。



 「大丈夫よ、お姉ちゃんはいつだって・・・・・・」



 もらい涙なのか美琴自身も泣いてしまっていた。これで全てが丸く収まったとは到底言えないが二人の平穏だけは戻ってきたのではないだろうか。



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 「そんで伊月の奴がよ、俺の脚を掴んでから・・・・・・おっ!、ユウとダンじゃねぇか!? 調子はどうだ?」


 木陰で休んでいた友間と京八、そこへユウとダンが疲れた様子でこちちに笑みを投げかけてきた。



 「上々だよ、それと大変だったよね『僕』」


 「ああ、ゾンビの襲来に屋敷の倒壊。末には屋敷自体が消えちまったからな」


 「ごめんダン、ニコラは助けられなかった」


 「・・・・・・・・まぁ失敗してからの成功だからな、そんな時もあるよなユウ?」


 「そうそう、人生って長いんだしね♪」



 その言葉で少し友間の気持ちは落ち着いた。ところで誰かを忘れてはいないだろうか友間?、許嫁とやらを放ったらかしにしてはいないだろうか?


 「あれ?・・・・・・・・あっ!、シロ!?」



 ふとシロの事を思い出した友間、軽く混乱しつつも瓦礫の積もっている方へ顔を向けると体に無理を言ってそちらの方へ飛び出して行った。

 だが友間が瓦礫の中に飛び込もうとした直後、爆発にも似た衝撃波が起こり瓦礫の波が友間の体を飲み込んだ。すると瓦礫の中から白い腕が伸びてきて友間の腕を万力の力で引っ張った。



 「大丈夫ですか、友間さん?」


 「ゲホッ! ゲホッ!、何とか無事だよシロ」


 友間はそう言って苦笑いを見せると瓦礫の中を掻き分けて埋まっていた下半身を救い出した。



     【・第二幕(前半)〜完〜・】