ダーク・ファンタジー小説

Re: スキルワールド ( No.66 )
日時: 2018/09/12 22:44
名前: マシュ&マロ (ID: BB67RT0Y)



 会議は終始熱を帯びていた。反論による反論、飛び交うざわめき声。それに対してボスは自身が手を置いている机を壊れない程度に叩いて周囲の飛び交っているた声を静かにさせると落ち着いた様子でこう言った。


 「これを“会議”だということを忘れるな。ただの大声だけの討論にするのなら他所でやってくれ、いいな?」


 ーーゾワッ!!


 この場にいた全員が何も喋ろうとはしなかった。全員でならボスに勝てるだろうが、先手を切って犠牲になることはこの場の誰も負いたくないリスクである。


 「・・・・・・・それでは、ちょうど一週間前になるがここストラング第2基地のセキュリティーを軽々と突破したうえ、さらにはストラングへの宣戦布告を申してきたノアの件だが・・・・・・、この一週間で何か分かった者はこの場にいるか....。」






 誰も手を上げたり立ち上がる者はこの場には居なかった。すると何処からか携帯の着心音が鳴り出したかと思うとボスの耳に一度聞いた事のある男の声が電子音混じりに入ってきた。


 『やあ諸君、ここは今から始まるショーには実に最適な場だ』


 そんな声が聞こえてきた後、ボスからして右側の幹部の座っている席から何かが飛び出してきた。


 ーースタっ....!


 「ふむ、ここは実に警備が手薄過ぎではないかね?」


 「電子機器の中まで移動できるとはな、ノア」


 「それは誉め言葉として受け・・・・・。」


 ーーバキッ!!


 ノアの素顔が見えない顔にボスの拳が一撃入って体勢が崩れ、その後は目にも止まらぬ速さでボスに床へと拘束されながらノアは倒れ込んだ。


 「俺がストラング内にいる限り、俺自身がここの警備システムだ」


 「ふュー。痺れる言葉の途中で悪いけど、後ろ取られちゃってるよ?」


 その直後ボスの背後から突如として現れたドルスの蹴りが入る....が、ボスは何の反応も見せずに口を動かした。


 「ああ、知ってたよ.....。だが喰らったところでダメージは負わないがな」


 そう言っていると段々としてボスの全身がダイヤモンドに変化していき、周りからは指の骨がボキボキと鳴る音が聞こえてきた。


 「確かに、基地自体の防衛力など裏世界の住人達からしてみれば紙切れ程度だろうが......だが、そのそんな基地の中には相手にしてはならない怪物どもがいる事を覚えておいてくれ」


 周りの雰囲気が混乱から押し潰されそうな程の殺気に変わり、まるで視線の先にいるノアとドルスを食い殺したくてウズウズしているような得体の知れない野獣と言って等しいだろう。


 「ストラングを舐めるなよッ!」


 ーーバチンッ!!


 ノアは得体の知れない何かを感じて反射的に体が動くと自身を抑えているボスを弾き飛ばした。


 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、確かにそうらしいな」


 「おいノアっ!!、大丈夫か?」


 「心配ない、大丈夫だ」


 ノアはそう言っているが自身の左腕から激しい痛みを感じており折れているか骨にヒビが入ってしまったのだろう。


 ノアは心を一旦落ち着かせると自身の荒くなってしまった息を整え、周りにいる幹部やボスを見回して言った。


 「今日はお前らなどと戦いに来たのでない。 そう、一種のショーというところどろうね」


 「ショー...?....、お前の遊びに付き合うつもりはない」


 ボスはそう言ってノアへと近付こうとした瞬間、ボスの真横から次元の大穴が突然に開くと中から大量の何かが飛び出してきてボスをその波が飲み込んだ。


 「どうだいサプライズだ。コイツらも君たちと遊べて喜んでいるよ」


 大量の何かの正体は黒いローブに赤々した鎌を構える死神のような風貌の骸骨たちだった。


 「コイツらは言うなれば電子世界の支配者、つまりデスオメガの分身であり子どものような存在だ」


 「おいノア!、ホントにコイツらは使えんのかよ?」


 「安心しなよドルス、コイツらの力は単体でも精鋭レベルだからね」


 だがそう言った直後、死神の集合体の中心から何かが小さく聞こえてきたかと思うと次の瞬間にボスの片腕が飛び出してきた。


 「なら安心したよ、この程度では俺たちを倒そうなんて不可能だからな」


 次々と群がってくる死神たちを掴んでは潰し、また掴んでは潰していき徐々にボスのピカピカなダイヤの肉体が見えてきた。


 「まあ、まだ余興だ。そしてこれがメインだッ!!」


 ノアの背に次元の狭間が何十も出現すると次から次へと周りに死神が飛び散って行った。



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 「そうそうシロ、その調子だよ」


 「う〜ん、“リョウリ”というものは難しいものですね」


 「いや、これ『卵焼き』だから難しくはないと思うけど?」


 「私は昔から捕まえた生き物を丸焼きにしたりしかしなかったので細かい作業は苦手なんです」


 「えっ!?、シロって今何歳なの?」


 「んー・・・・・・、世界に文明ができ始めた頃ぐらいですかね?」


 「えーと、その時は何処に住んでたの?」


 「むー・・・・、色んな場所を旅していたので見当が....。」


 「ならさ、日本に来たのはいつ頃なの?」


 「んー・・・・、日本に漢字が伝わってきた時ぐらいでしょうか?。その当時は言葉も分からず川で魚を捕っていましたね」


 「泳いだり、素手とかで魚を捕ってたの?」


 「はい、そのあと日本に来る途中で捕まえていた亀の甲羅を改造して中に保存していました」


 「・・・・・・・そ、それって背負ったまま泳いだりしてた?」


 「はい、わざわざ毎回取りに行くのは効率が悪いと思ってましたし力加減も当時はまだ未熟で魚を殺してしまう恐れがあったので」


 「ま、まさか皿とか頭に乗せてたりしてないよね??」


 「えーと、皆さんが“ぷーる”という四角い箱の中で泳ぐ時などに被るような帽子のように私も似ているものを被っていましたよ?」


 (あっ....河童の正体が明らかに...。)


 「どうしましたか、友間さん?」


 「あっ!、いや....まさか姿は見られてないよね??」


 「えーと、たまに人を見かけるので世間に溶け込むには信頼が必要と思いまして挨拶をしたりしていました」


 「でっ、結果はどうだったの?」


 「全裸で泳いでいたのが原因で肌に苔や水草が付いてしまっていたようで、そのこともあり怖がれてしまいました」


 (あっ.....河童伝説に終止符が...。)


 どこか遠い目をしていた友間だったが焦げた臭いが鼻を刺してきたことで我に返ってみるとシロの焼いていた卵が目が当てられない程に悲惨な状態になっていた。


 「あっ!、折角の卵を焦がしてしまい失礼しました友間さんっ!」


 「俺の方も一方的にシロに質問しちゃってごめんね、まだ卵もある今度は俺が作るよ」


 「いえ、己の主人に雑事を任せるなど失礼ですので....」


 「いいから、俺も少しは料理はでき・・・・・・。」


 ーープルル〜、プルル〜


 「んっ?、あれ...お姉ちゃんからだ? もしもしお姉ちゃん?」


 『あっ!友間〜、お姉ちゃんだけど敵が逃げ込んじゃってるから気をつけてね〜』


 「え!、えっ! ちょっと今何て言ったの!?」


 『そんじゃ友間、頑張ってね〜』


 ーーガチャッ!!、ツー・・・ ツー・・・


 「・・・・・敵が、逃げ込んでる....?」


 「あれ友間さん、お散歩ですか?」


 「うん、ちょっと基地内を歩いてくるよ」


 「・・・・・・あの.....、気をつけて下さい」


 「....分かった、約束する...。」


 友間はまだ卵を焼くことに苦戦を強いられているシロと別れの約束をすると静かに....でも力強く部屋を出て行ったのであった。


 「・・・・・むー、やはり止めるべきだっただろうか.....。あっ! しまった、また1つ無駄にしてしまった....」