ダーク・ファンタジー小説

Re: スキルワールド ( No.94 )
日時: 2019/01/13 00:11
名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)



 「伊月ッ!、・・・・・・・ハァ...どうして....。」


 一瞬、言葉に詰まった表情になり美琴は少しだけ長く溜め息を吐いた。そして溜め息が終わり呼吸をすると揺れる視線で伊月のことを見つめた。


 「俺は....姉さんのために.....。」


 「どうして!?、どうしてこんな事が私のためになるって言うの!?」


 「・・・・・・・・・・・。」


 バツが悪そうに美琴から顔を背ける伊月、その様子はまさに親に叱られている子どもの様だった。


 「俺は......俺はさ、姉さんを助けたかっただけなんだ。ただ笑って欲しいだけなんだよ」


 「助け....たかった?」


 「ああ、姉さんの脚を治してあげたかったんだ......だけどそれには金が必要だ、俺や姉さんが見ることすらできない金が必要なんだよ!」


 そう声を荒らげて叫んだ伊月、だが友間には美琴とこの件がどう繋がっているのかが分からなかった。


 「ちょっと失礼、どうしてこの件に美琴さんが出てくるんですか?」


 「......適当に若い女を拐ってきたらフリストが金とそいつらを交換してくれるんだ.......。」


 「それって・・・・・、それじゃあ女の人たちをフリストはどうしてるの?」


 「さぁな、だが心当たりはある」


 伊月は一旦の間を置くと渋々という感じで何かを話し始めた。


 「多分、その女達は殺されてる....。」


 それを聞いた友間は全身が波打った感じがし伊月へと飛びかかりそうになったが、美琴はそれを制止すると伊月の話に耳を傾けた。


 「殺されてた...なら、まだマシだな。そのあとはフリストに体を解剖されて挙げ句、家事をこなし続けるだけの使用人として死んでもなお動き続ける事になる・・・・・・。まあ。俺の推論だから分からねぇけどな」


 「伊月...あなた・・・・・・・。」


 「み、美琴さん...?」


 怒りの含んだ声が聞こえて心配そうに友間は声を掛けてみた。美琴の顔は怒りで赤くなり今にも湯気が噴き出しそうな様子だった。


 「・・・・・・・・、伊月ッ!!」


 その一言を発して伊月へと近づいていく美琴、車椅子でありながらも怒っているからなのか淡々と前へと進んでいくその姿には迫力というものがあった。


 「伊月!、私がいつ不幸だって言ったの!」


 「いや、あの....」


 「いつ自分の脚が不憫だって言ったの!」


 迫力に圧されて後ろへと後退していく伊月、それに構わず近づいていく美琴はさらに言葉を続けた。


 「いつ!、私のために人を犠牲にしなさいって言ったの!!」


 「ひっ、あの.....その....」


 「ハッキリと言いなさいッ!、お姉ちゃんの目を見てちゃんと言いなさい!!」


 「俺は!、俺は・・・・・・・。」


 鬼と同一視すらできる程のオーラを纏った美琴、すると誰かの声が割り込んできてその場にいた人は一斉に振り返っていた。


 「これは見るに堪えない茶番劇だったな。これならハトの一生を見ていた方がまだ目の保養になるというものだ」


 「ッ!!、......フリスト!」


 「やぁ友間くん。君の答えはしかと受け取ったよ」


 「おい! フリスト!、何しにここへ来やがったんだ!」


 「伊月、君には色々とがっかりだよ。どうしようもない無能者だな」


 「あ“っ?、今何って言った?」


 気を取り直したように伊月はフリストを睨みつけると数歩前へと踏み出した。


 「だから君には失望したんだよ、姉という存在ごときに恐れを見せる君には僕の前に立っている資格さえ無い」


 伊月は怒り混じりの表情を見せると前置きなくフリストへと突っ込んでいく。しかし伊月のそんな様子を嘲笑うかのようにフリストは笑みを見せると右手に何かを構えた。


 「はい、チーズ!」


 ーーパシャ!


 「・・・・・・・・・・。」


 「全く〜、最近の若者というのは落ち着きという点に欠ける。落ち着きなくして芸術は成し得ないというのに」


 フリストはそう言って時間の停止した伊月に近寄っていく、そして何をするかと思うと何処からともなくナイフを取り出して伊月へと突き立てた。


 「さようなら、伊月。」


 「させるかッ!!」


 「友間くん、君というのは本当に単純な男だな」


 と、言ってフリストが後ろへと振り返るとフリスト自身には当たりはしなかったが友間から放たれた蹴りがナイフを掠め取りフリストの手から蹴り飛ばした。


 「すみませんが伊月を保護する事が本来の目的なんです。それに伊月を殺されると美琴さんが悲しみます」


 「君という男は単純であり馬鹿だ、これは僕自身のお墨付きだよ」


 「単純で結構です、馬鹿でも全然結構ですよ。それに伊月もニコラも返してもらいます」


 「それは楽しみだ。それじゃあ僕は視聴者として屋敷の隅っこででも楽しませてもらうよ」


 そう言って部屋を出ようとするフリストだったが、その横を瓦礫が飛び去っていきフリストの足を止めさせた。


 「ちょっと待て、あんたとは今ここで決着を着ける!」


 「まあ、お好きにどうぞ友間くん」


 「よし・・・・・、“性質ノ解放【炎】”!!」


 そう叫んだ友間の声は屋敷の全体へと木霊して響き渡った。