ダーク・ファンタジー小説
- Re: スキルワールド ( No.95 )
- 日時: 2019/01/14 00:41
- 名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)
・・・・・・・・・・・・・・・。
「えーと、・・・・・・・・あれ...?」
堂々とスキルを宣言したは良いが、体が燃え上がるどころか体からは少しの煙すら出ていなかった。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
フリストと友間には短いながらも少しの沈黙が立ち込めた。すると沈黙に耐えられなくなったのか友間から口を開いた。
「えーと......それじゃあ『鉄』の性質で戦いますね」
「まあ、僕は構わないよ友間くん」
「それはどうも、では」
先程までの熱気は何処へやら、鉄のまま変わらずの体を見下ろし軽く苦笑いを浮かべてフリストと対峙した。
「ふー・・・・・・っと、...よしっ!」
そう間を置いて友間は前方へと駆け出した。フリストは右手に持っているカメラを構えようとしているが反応速度に関しては友間の方が一歩上手だったようだ。
「はい、チーズ!」
「ッ!!、消えたっ....!」
「ここだよ、友間くん」
フリストの拳は思わぬ場所から飛んできた。いつの間にか取られていたらしい懐からフリストが煙のように現れると予想外というべき拳速からのアッパーカットが顎に炸裂した。
「うっ....何、これ」
鉄だからまだ耐えられたが生身で喰らっていると頭蓋骨は確実に砕かれていただろう。だが、そんなイメージを振り払うように友間は首を振るとフリストに向かって飛び出した。
「さすがに鉄を殴ると痛いものだね。だが君が最初に始めたのだから責任は後で取ってもらうよ」
「そうですか!、それは楽しみですね!」
友間の拳は空を切るように空振りしたがフリストの拳は止むことなく友間の体を殴りつけきたが、一発一発の威力は手加減の欠片すら無かった。
「僕はねぇ、中々怒らない方なんだけど何だかニコラの事を考えてると腹の底から怒りが込み上げてきたしょうがないよ!」
「それはこっちもだ!、お前を見てると嫌な思い出が蘇ってきそうになる!」
「そういう思い出話は酒のつまみの時にでも取っておいてくれ!」
「うわ!、ちょっ・・・・・・」
フリストは信じられない程の力で友間を投げ飛ばし、友間はそれに驚くことしか出来ずに屋敷の壁に叩きつけられた。
「僕のスキルはカメラで撮ったモノの時間を自在に操作できるんだ。自分の体にある神経の伝達時間を速めればこんな事は造作もないよ」
「いたたた......やっぱりこの状態じゃ思う存分には戦えないかな」
独り言を呟くように立ち上がった友間だったが、そこに誰かの声が頭に響いてきた。
(「なら、俺が手伝ってやろうか?」)
「へっ?、今のって・・・・・」
有無を言わせず体が何かに貫かれたような感覚に陥り、そこで力尽きたように意識は遠のいてしまった。
「おっと友間くん、大丈夫かい?」
「・・・・・・・・。」
直立したまま頭の垂れている友間のその様子を見てさすがに心配したのか声を掛けるフリスト、しかし友間からの返事はなくただ立っているだけだった。
「・・・・・・・・・。」
「おーい本当に大丈夫かい?、少し休んだりするかい友間くん?」
「・・・・・・・・、倒す。」
「えっ?、今なんて言っ・・・・・・。」
ーーバキッ!!
不意にフリストの顔を友間の拳が直撃し殴りつけた。少しよろめいたが何とか態勢を保って顔を上げてみるが今度は膝蹴りが飛んできて続けざまに次々と殴りつけてくる。
「・・・・・・・・・・・・・。」
ーーダン!、ガン! ガン!!
表情なくフリストを殴るその様は冷徹とも冷酷とも呼べるような様子であった。だがここはフリストも負けてはいなかった。
「悪いけど、ごめんね!」
フリストの高速の蹴りが三発、頭・胸・腹を貫くように叩き込まれた。これには少しばかり後退したが決定打とまでは行かなかったようだ。
「感情を捨てたのなら直ぐにでも拾い戻すことをオススメするよ。感情を失った時が芸術家にとって死に等しいものだからね。」
感情を捨てた。確かに今の友間にはその言葉が“近い”かもしれない、ただ少し違ってもいた。
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ここは友間の精神世界、辺り一面が真っ暗な世界で呆然とした様子で立っている友間の姿があった。
「また急に戻って来ちゃったけど、エンは元気にしてるのかな〜?」
どうして自身の精神世界なのに毎回の如く勝手に連れて来られるのか疑問に思いつつも友間は辺りを見回してみる。しかし今回はこの場にエンの姿はなかった。
「んー・・・・・今回、俺を呼んだのはエンじゃないって事なのかな?」
少し不信に思ったが思い返してみると自分の戻りたい時に元の世界に戻れた事はなく、毎回エンから時間が来たと告げられて目が覚めてばかりだった。
「いやいや、自分の世界なのに主導権が全く無いなんて悲しいな」
(「それには俺も同情するよ、情けない主人にこき使われるエンの辛さもな」)
「ちょっと!、それは本人の前で失礼じゃないですか?」
ムッとした表情で声のした方向へ振り向いた友間だったが、今更ながらエン以外の人物の声を聞いたのはこの世界では初めてだった。
「でっ、あなたは誰ですか?」
(「すぐに気づいてもらえると思ったんだがな〜。......まぁ当然と言っちゃあ当然か、こんな主人じゃな」)
呆れた様なアクションを取ってみせる相手は全身の色が変だった。それとよく見てみると鉄のような冷たい肌をしている様に見えた。
「もしかして......鉄の性質、かな?」
(「たく、ようやくかよ。.....まぁしかし消えてもらう奴には今更不要だったな。」)
「消え、・・・・えっ! ままま待ってよ!、あなたに消される筋合いは無いはずだよ!?」
(「ハァ〜、お前は馬鹿なのか?」)
本心なのか冗談なのか、友間的には前述のような気がするが理由も分からないまま相手の事を決めつけるのは失礼だと思いこんな事を聞いてみた。
「あ、あのさ....エンを見なかった?」
(「んっ?、あー・・・・・・殺した。」)
そう声が聞こえた瞬間、友間の心には驚愕と怒りの二つだけがハッキリと形を成していた。