ダーク・ファンタジー小説
- Re: スキルワールド ( No.97 )
- 日時: 2019/03/30 12:36
- 名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)
ーーバタッ!
「痛ーててて....鼻が.....」
友間は鼻を押さえながら突如現れた床から立ち上がる、すると先程まで居た精神世界から皆のいる現実世界に戻って来ていた。
「あー・・・・・、何してたんだっけ?」
「大丈夫かい、友間くん?」
「どうもご親切に、でも大丈夫ですから・・・・・・・。」
下げていた顔を上げるとそこにはフリストがおり友間は全てを思い出して弾かれたように身構えた。
「ちょっと落ち着いてくれないかい友間くん?、まだ動かない方が・・・・・・」
「ニコラを返して下さ・・・・・!」
不意に力が抜けたようにガクリと転倒しかけた友間、鼻に手を当てると少し前にぶつけたせいなのか血が指を沿って垂れていった。それと今気づいたのだが、いつの間にかスキルが解除されており生身の状態となっていた。
(急に頭が重くなってきたな。そろそろ体の限界が近いのかな?)
「本当に大丈夫なのかい友間くん?、体調が優れないなら部屋はボロボロだけど何処かで休んだ方が......。」
「いえいえ大丈夫です。それとニコラを助ける前に死ぬ覚悟ぐらいは準備済みですから」
「よーし、そこまで君が本気なら僕も相応しい対応を取らないと君に失礼かもしれないね」
フリストは何か意味ありげに友間へと微笑みを向けると間を置かずにパチンと指を鳴らす。すると何処からともなく地響きとも言える音や振動が周囲を騒然とさせ友間は思わず美琴と伊月の安否を確かめていた。
(伊月はまだ時間が停止したままだし、それに美琴さんは即座に遠くへは移動できない)
「友間くん、君には僕の本気を受け止めて欲しい。最後には芸術的な散り方を要求させてもらうよ」
「それは遠慮させて頂きます。それにシロっていう許嫁がいるので死ぬのは全てを終わらせた後にお願いしたいですね」
軽く冗談を交えてみせた友間はそんな事を言ってスキルを発動させてみるが相変わらず鉄の性質にしか変化しなかった。すると友間の真横にあった壁を何かが突き破って強引に友間を凪ぎ払った。
「ゲホ! ゲホ! ゲホ!、美琴さんや伊月は大丈夫かな?」
「わ、私なら平気よ。それと伊月も大丈夫ですので構わずにいて下さい!」
「分かりました!、なら全身全霊でぶつかって行きますので気を下さいね!」
そう言って前方を見ると友間は少し吐き気を催してしまった。なんと目の前には巨大な右腕が伸びていたのだが細部まで見ると何百....いや何千という女性の右腕が全体を形造っていたのだ。
「どうかな?、僕の傑作の中の一つを見ての御感想は?」
「ハッキリと言って悪趣味ですね。それにこの臭いは・・・・・・。」
「香しい匂いだねぇ、それにこの腕の一本一本の血の気の無さがまた堪らないチャームポイントだね」
友間の心境的には目の前の相手への不快感が強かった。そしてフリストに傑作と呼ばれていた“異形のモノ”は恐怖の造形物という名が相応しそうだった。
「うぷっ!.....、それじゃあ気を取り直して芸術にでも触れてみましょうかね」
と、言って友間はジョークを飛ばしてみせるとフリストの制作してしまった不気味な化け物へと意を決して突っ込んで行ったのだった。
- Re: スキルワールド ( No.98 )
- 日時: 2019/03/30 12:38
- 名前: マシュ&マロ (ID: R9GAA8IU)
ーードゴォォオン!!
「ダメか・・・・・・。」
化け物を力試しに殴ってみたは良いのだが全く効いてる様子がないので友間は一旦後ろへと後退する。ゆらゆらと何もない空へと伸びる死体の腕の波は友間を掴もうとしてくるが、そう簡単に掴まる気は更々なかった。
「んー・・・鉄でも使えるのかなぁ、“アレ”?」
友間は少し迷いつつ腰を屈めると右腕に意識を集中させてみた。すると炎の時のように力が蓄積していく感覚が伝ってきて少し安堵すると共に目の前に見える化け物を真っ直ぐに見据えた。
(これって、鉄の場合だと......どうなるんだろう?)
躊躇いはあったが相手が人間でないなら出し惜しみをしていると足を掬われてしまう場合もある。ならここは当たって砕けろという古人の言葉に従うまでだ。
「スゥー・・・・・・。ハァ〜〜〜.....」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
ーードンッ!
狙うは一撃必殺のみ....、もし達成できなかったら今度は両腕で叩き込むまで.......腕が残ってたらの場合だが.....。
ーードゴンッ!!
化け物に拳を当てる瞬間、周りがゆっくりになった気がし頭の回転が急加速した。そして拳がメリ込んだと同時に拳から何十もの支柱が突き出してきて化け物を体内から串刺しにした。
「・・・・・・残酷な事しちゃったな」
何かを悟ったような感じでそう言っていたのは良いのだが、ここで一つ問題が生じていた事に気づいた。
「あ、あれ.....腕が抜けない・・・・・・。」
「友間くん、それは計算内かい? それとも予想外なのかい?」
「それじゃあ、後述という事で・・・・・。」
どうしようもない状況の友間に更なる追い討ちを掛けるような出来事が起こった。
「あ、あの床が揺れてませんか?」
「それは友間くん、この芸術の真価が現れるからさ!」
何を言ってるかは分からないが状況的には危険という他なかった。すると床が軋むような音を立てて崩れていくが友間は落ちる事なく上へと昇っていく、その理由は床を破壊した張本人の右腕に乗っているからだった。
「へっ・・・・・・・。化け物は何処まで行っても化け物だとは言いますけど、それを実現させてどうするつもりですか?」
「芸術とは、何かを極め続ける事で形を成していくものだ。それを理解してくれるかい、友間くん?」
「それは無理そうなので、こっちは自分の考えを通し続けて貴方の全てでも砕いてみせますよ!」
そう叫んだ友間は化け物の顔を見て吐きそうになりつつも気合いの一斉を挙げて化け物の腕を殴りつけてみた。しかし反応という反応はなく化け物がこちらを見下ろしてきた。
「ブゥォォォオオオオオーーーッ!!」
「うあっ!、見た目以上に恐ろしい声を挙げますね!」
「さあ!、僕の芸術を全面に受けてくれ!!」
フリストのそんな声が聞こえたかと思うと化け物の予想外な速度で振り落とさせた拳が目の前へ迫ってきたと同時に友間には計り知れない程の衝撃が襲ってきて友間の体を吹き飛ばした。
ーーガッシャァァァアアアアン!!
「ゲッホ! ゲホ! ゲホ!。死ぬ....かと、思った......。」
「大丈夫ですか!、友間さん!?」
「大丈夫ですよ美琴さん、俺って思ったより頑丈なので・・・・・・。」
無茶を言ってるのは承知だ、だけど嘘の一つや二つぐらいを言える余裕はまだある。そう思いたったかは隅に置いて、友間は心の中で“ある人物”を呼んでいた。
(エン.....まだ死んでいないなら力を貸してくれ!、一瞬だって良い.....ほんの少しだけ力を貸してくれ!)
「それじゃあ友間くん、芸術の材料としては惜しい人材だったけど永久にサヨウナラ」
そんな事をフリストに言われた瞬間、周囲の風景がやけにゆっくりとして見えた。そして友間の体を段々と巨大な影が覆い尽くしてくるが、その正体はフリストが造ってしまった化け物であった。
(良い事ありますように......。)
そう心の中で呟くと友間は隣にいた美琴さんの車椅子を押し退けると何かを諦めたように目を瞑り溜め息を吐いた、そして周囲の時間は元に戻った。
ーードッゴォォォオオオンンンンッ!!!
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「あ、あれ? まだ生きてるのかな?」
目を閉じていると冷たい風が頬を擦って過ぎ去っていくのを感じた。それと同時に誰かに抱えられているという感覚もあった。そこで目を閉じたまま相手へと質問を問いかけてみる事にした。
「あのー・・・・失礼ですが、どちら様で?」
「酷いな“黒奈”、ちゃんと両目を開けて見てみろよ」
「へっ?.....、もしかして京八ッ!?」
「よっ黒奈!、それと覚悟しな芸術かぶり野郎っ!」