ダーク・ファンタジー小説
- Re: 神様は調合を間違えた。 ( No.3 )
- 日時: 2018/04/29 12:06
- 名前: 狐憑き ◆R1q13vozjY (ID: dOS0Dbtf)
目的地に着くまでの間、犬竹はすっかり落胆していた。犬竹が一緒に居る女性にいくら話題を振っても上手く丸め込まれるか、無視されるかのどっちかの反応しか女性はしない。誘導してくれるのは嬉しいんだけどなぁ、とでも言いたげな笑みで女性に着いていきながら小さく溜め息を吐く。特に弾みもしない会話と、静かな廊下に響く足音は寂しいものだ。
ビルのような造りになっているのだろう。女性が立ち止まるまでの間、犬竹はいくつかエレベーターやエスカレーター等の楽な移動手段、オフィスらしき空間や食堂を見掛けた。それらのものを見掛けては通り過ぎる度、犬竹はますます此処が何処なのか気になった。小規模な集団だったり、個人的な用であればこんなに広い空間は要しない為である。だからこそ、犬竹は驚いた。
「此処だよ」
女性が指す先には、寮やマンションの様に幾つかの扉が並んでいた。犬竹の後ろにも扉。犬竹の前には五つの扉が、背には一つの扉が立っている状態である。犬竹と女性が居る場所が廊下だとすれば、両方の壁に向かい合わせになるようにして二つずつ扉が並び、廊下の最奥に一つある感じである。
犬竹はそれぞれの扉を一通り見た後、女性の目線を追い掛ける。女性の先には最奥の扉、『会議室』とおどろおどろしく書かれた場所だった。犬竹は女性とその扉を交互に見て、扉をゆっくりと指差しながら困惑したように問いかける。
「ぇ......こ、此処なのか?」
「ん、そうだけど。どうしたんさ?」
吃驚している様な困惑しているような微妙な顔の犬竹とは対照的に女性はあっけらかんとして平然としていた。
遠目からでは分からなかったが、近付くにつれその扉は酷く古びている事が分かる。先ず、扉は木製である。何枚も重ねられた薄い木の板が所々痛々しく剥がれており、色褪せた薄緑のような色を覗かせている。女性が丸いドアノブを回すと、キィィィと厭な声で扉は叫んだ。
相変わらず女性が先導して、部屋に入る。扉の向こうが騒がしくなったように誰かの声が飛び交うが、女性は気にせず顔を犬竹に向けて「入んなさい」と声を掛けた。それを合図に、犬竹は恐る恐る部屋に入る。犬竹の不安が全面に押し出された様に、犬竹は情けなく大きな身体をギュッと縮こまらせ顔は俯くように下を向いている。
部屋の内装は至って殺風景であった。長い机が二つと、長い椅子が机に沿って置いてあるだけである。机と机の間には成人が二人分横に並べる位の幅はあり、間に一人座れるような机があった。それ以外は大したものもない。冷蔵庫と時計が有るぐらいである。
「だれー? このおじさん」
「お、おじさ......いや、おじさんか......」
不意に、幼さがある可愛らしい幼女の声が犬竹を攻撃する。幼女の言葉は、悪意が無いにしろ犬竹を刺激するには十分なほどの破壊力を秘めていた。キーワードは『おじさん』。犬竹はつい反応してしまい、いつもの様に「おじさんじゃない」と反論しようと勢いよく顔を上げる。が、その勢いは、直ぐに失われた。犬竹が視界に映したのは、声相応の見た目をした幼い少女だった。犬竹は幼女を見て、あいつらから見たらおじさんか......。と年の差を痛感しながら思い留まる。
犬竹は少女の言葉もあり、少し余裕が出来たのかようやく周りを一瞥した。女性の隣には又別の少女が、少女の隣には先程の幼女が。幼女の隣には幼年が、幼年の隣には又別の、女性が居た。幼年は一番奥の、間の小さな机に沿って座っている。
その面子の内の少女が口を開いた。
「座りぃや、立ちっぱはしんどいやろ」
そう少女はネイティブな関西弁で言い、幼年の隣に座っている女性の隣の空いている椅子を指した。