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ダーク・ファンタジー小説
- crossroads ( No.13 )
- 日時: 2018/03/21 21:23
- 名前: カコ (ID: hzDRnUrf)
【第4話】
私たちはあの日以来顔を合わせることがなくなってしまった。
彼はあの後バイトをやめた。
学校でも会うことはほとんどない。
廊下ですれ違う時も、気づいてないふりをする。
私たちはどうすればいいのか分からなかった。
でもこれでいいとも思ってなかった。
「最近律花ずっと上の空なんだよね〜。なんかあったのかな」
「失恋とか?」
「あ、あの男の子じゃない?忘れ物届けに来てくれてた」
「そういえば最近会ってるとこ見ないね」
あの日、私の中の杉原拓也はどこかへ消えてしまった。
消さなければ、と思っているのかもしれない。
正直もうよくわからない。
手帳に挟んだお姉ちゃんとの写真をなんとなく眺めてみる。
何が正しいんだろう。
どの選択が正解なんだろう。
ねえ、お姉ちゃん。
お姉ちゃんはどう思ってる…?
- crossroads ( No.14 )
- 日時: 2018/03/21 22:44
- 名前: カコ (ID: hzDRnUrf)
家に帰って引き出しからお姉ちゃんのノートを取り出した。
「言わなきゃ…」
誰のため?
これを見せて何が変わる?
わからない。
そんなのは誰にもわからない。
だけど言わなきゃいけないと、心のどこかで声を上げる自分がいる。
私もずっと、隠してた一一。
携帯を取り出し、連絡先の画面の杉原拓也の文字に指を当てる。
呼び出し音が耳の中で鳴り響く。
「…もしもし」
「もしもし…た、拓也…くん?」
久しぶりに名前を呼んだ。
「うん…」
たったその一言でも彼の緊張が感じとれた。
「…話したいことがある」
- crossroads ( No.15 )
- 日時: 2018/03/21 22:53
- 名前: カコ (ID: hzDRnUrf)
聖成中学校の近くの公園。
錆びれた遊具が誰にも遊ばれず、悲しそうに佇んでいる。
ベンチだけが綺麗に塗装されていて、わたしはそこに座った。
あのノートを持って。
「お待たせ…」
久しぶりに面と向かって会うことに少し緊張した。
「私も…話さないといけないことがある」
ベンチから立ち上がり、手に持っていたノートを渡す。
「読んでほしい。そこに…下山拓也くんのことが書いてあるの…」
「え…」
彼は何も言わずにページをめくる。
「これ…どうして…」
『4月26日
同じクラスの下山たくやくんがいじめられている。
理由はわからないけど、1週間ぐらい続いている。
クラスの目立つ男子がやりたいほうだい。
やめてあげてほしい。』
『4月29日
下山くんに対してのいじめがおさまらない。
ひどくなってる気がする。
だけどだれも助けようとはしない。私も。
止めたいけどこわい。
自分がされるかもしれない。
ゴールデンウィークが終わったらいじめも終わっていてほしい。』
『5月10日
何も変わらない。
私も変わることができない。』
彼はノートに書かれた文章から目を逸らさない。
『7月13日
いじめっ子たちが下山くんのくつ箱でなにかしているのを見つけた。
くつ箱にゴミが入れられていた。
私はこっそりゴミ箱にそのゴミを捨てた。
直接助けることができればいいのに。』
ページをめくる手を止めない彼を、私はじっと見つめるしかできない。
何を思っているんだろう。
- crossroads ( No.16 )
- 日時: 2018/03/21 22:55
- 名前: カコ (ID: hzDRnUrf)
『9月27日
強くなりたい。』
「9月27日…」
全部読み終えた彼が呟く。
この日に書かれていたのはこの一言だけだった。
そして、次の日、お姉ちゃんは死んだ。
「俺は…俺は…」
彼の目から零れる涙が、頬をつたい、公園の砂に吸い込まれた。
「ごめん…あの時逃げ出して…ほんとに…ごめん…」
今の彼の精一杯であろう声は震えていて、今にも消え入りそうだった。
目の前にいるのはきっと下山拓也くん。
「このノートは…お姉ちゃんが死んでから私が見つけた。ここには誰も知らなかったお姉ちゃんの叫びが残されてた。この時私は、これを警察に渡すべきだった」
「……」
「私が…これを渡してれば…"下山くん"を助けられたかもしれないのに…」
最低だ、私。
心のどこかで、杉原拓也ってもしかして…って思ってた。
でも私たちの関係が壊れるのが怖くて、ずっと真実から目を背けてきた。
「あの日、君のお姉ちゃんは泣いたんだ。ごめんねって…俺はずっと怖かった。一人だと思ってた。孤独だったんだ…」
「うん…」
「だけど…違ったんだね…俺は…っ。俺は一人じゃなかった…っ」
嗚咽混じりの悲痛な叫びが彼の寂しかった気持ちを表していた。
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