ダーク・ファンタジー小説

カラミティハーツ心の魔物 Ep17 正義は変わる、人それぞれ ( No.17 )
日時: 2018/08/20 10:37
名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: Yv1mgiz3)

〈Ep17 正義は変わる、人それぞれ〉

 グラエキア・アリアンロッドことグラエキアは、言った。
「エルヴァイン・ウィンチェバルは元に戻ったわ。リュクシオン=モンスターを見て記憶が戻った。でも、今は大怪我をして、動けない。だから私が来たのよ」
 彼女は再び訊いた。
「だから、質問なの。リュクシオン=モンスターは、どんな戦い方をしていた?」
「……兄さんに何する気?」
 リクシアの警戒は、消えない。そんな彼女にグラエキアはあくまでも淡々とした口調で答えた。
「当たり前じゃない」
 人形みたいに淡々とした彼女は、言うのだ。

「殺すのよ」

 リクシアは我が耳を疑った。
「……今、なんて?」
 そんなリクシアにもお構いなしに、いつもの調子で答えるグラエキア。
「言った、殺すと。あれは災厄。存在してはならぬモノ」
「でも、兄さんなんだよっ!」
 その言葉に怒りを示し、リクシアは乱暴に立ち上がった。
「魔物になっても、怪物になっても。あれは……兄さんなの。殺すなんて、そんなっ!」
「生憎と私情を優先している暇はないわ。あなたはアレが、一体どれくらいの人を殺したのかご存じ?」
「し、知らないわよ、そんな……」
「百」
 突きつけられるは冷たい現実。
「私の情報網なら、余裕で百は越えるとの数値が出ている。あなたは百というのが、どんなに大きな数字かわかってる? 百人いれば、村ができるわ。小さな町だってできる。あなたの兄さんはね、エルフェゴール」
「どうしてその名を——」
 戸惑うリクシアに、
 グラエキアは現実を突きつけた。
「町を一つ潰したも、同罪よ」
「————ッ!」
 百。百人。百の命。重い、すさまじく重い。重すぎる、それ、を。
「奪ったのはあなただ。討伐しようともしないで。叶わぬ夢を、無駄に追い続けた」
「…………やめて」
「だから、私は再び問うわ。あなたは人殺しになるのかと。罪もない女子供を。私情のために犠牲にするのかと。大召喚師の妹が、聞いて呆れる。所詮、あなたの正義はあなたにとっての正義でしかなく、他人を一切省みない」
「やめてったら——」
「……やめろ、アリアンロッド」
 フェロンが静かに割り込んだ。
「ああ、僕らが掲げるのは身勝手な正義さ。だがな、それのどこが悪い。人は皆、聖人君子であるわけじゃない。……身勝手な正義の、何が悪い」
「……あら、開き直るのね」
 思わぬ反撃に、グラエキアは小さく声をもらした。
「確かに身勝手な正義だって、悪くはないけれど」
 その紫の瞳が、強い笑みを浮かべた。
「私たちは、王族だから」
 部屋の扉に、手をかけて。
「そんな私たちの正義は、家臣の失態をすすぐこと」
 邪魔したわね、と言って彼女はいなくなった。
 敵なのか味方なのか。よくわからないけれど。人には人の正義がある。それが対立することだって、あるのだとリクシアはわかった。
「……確かに、グラエキアの言葉には一理あるが」
 アーヴェイが目を閉じ、つぶやいた。
「だがな、おそらく奴は知らない。身近な者が魔物になった悲しさを。だからあんな冷たいこと、言えるんだ」
 大切な存在が魔物となったとき、それを救いたいと考えるのは当たり前のこと。
「いそごう、フロイラインへ」
 フィオルは言った。
「グラエキアに、リュクシオン=モンスターが、討伐される前に」