ダーク・ファンタジー小説
- かくれんぼ ( No.5 )
- 日時: 2018/12/26 14:32
- 名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)
誰も、私を見てくれない。
誰も、私を見つけてくれない。
例えば私がいなくなったとして、心配してくれる人、探してくれる人、私を見つけてくれる人は、きっとどこにもいやしない。
それは、私独りのかくれんぼ。
ねぇ、ねぇ、鬼さん。
『もう、いいよ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アリス、みーつけた!」
高らかな声で、誰かがそんなことを言う。
ふと目を覚ますと、隙間からこちらを覗き込む、澄んだ空のような青がそこにあった。
「・・・スカイ兄しゃま?」
「そうだよー、スカイ兄様がお迎えに来たよー。さぁ、ベッドの下になんて隠れていないで、出ておいで。ごはんの時間だよ。かくれんぼは、もう終わり」
「はい・・・」
私は言われた通り、もそもそとベッドの下から這い出ると、髪や服に着いたかすかな埃を取り払う。
スカイ兄様も自分の髪の毛に着いたごみを払い、私を軽々と抱き上げる。
「アリスはかくれんぼが好きなんだねぇ。目を離すとすぐに隠れちゃって・・・最初はすごくびっくりしたんだよ?ルースなんて、失神しちゃったんだから」
「・・・ごめんなさい」
「あー・・・責めてるわけではないから、謝らなくていいよ。それに、アリスはまだ三歳になる前で、遊びたい盛りの年頃だってことは、皆よくわかってるから。そんなに落ち込んだ顔をしないの」
そう言ってスカイ兄様は、私の頭を優しく撫でてくれる。
・・・違う。違うの、スカイ兄様。
確かに、何も言わずに隠れて皆を驚かせてしまったことは、申し訳ないと思ってる。でも、いま謝ったのは、そこじゃないの。私が謝ったのは・・・スカイ兄様の言った、「かくれんぼが好き」というところなんだ。
私は、かくれんぼが好きなんじゃない。ただ、自己満足のためだけに、皆を巻き込んでるだけなの。
最初は、ただ前世のころに染み付いた癖が出ただけだった。
前世では、視界に入っただけで嫌な顔をされたから・・・嫌われたくなくて、怒られたくなくて、反射的に体が動いただけだった。
そうしたら、皆が急に慌てだして、血相を変えてお屋敷の中を行き来しだして。なんだろうって思ったら・・・みんな、私のことを探していたらしくて。私がケイル兄様に抱えられてリビングに戻った時は、涙で顔をぐしゃぐしゃにした父様と顔色の悪いルース兄様に抱きしめられ、レオン兄様に注意をされた。
その時初めて、私はこの家で必要とされているんだと実感することができた。
皆の愛情を疑っていたわけではない。ただ、父様も兄様たちもみんなすごい人なのに、私なんかが本当にいてもいいのかわからなかった。何もできない、何も持っていない私が、同じ『ハリストン』を名乗っていいのか。それが、ひどく不安だったのだ。
でも、皆が私を探してくれて、心配してくれて、私は『アリス・ハリストン』を認めてもらえた気がしたのだ。
それ以来、私は『かくれんぼ』と称してよく物陰に隠れるようになった。
皆がまだ私を必要としてくれているのか、ちゃんと探してくれるのかを見るために。
ただそれだけのために、私はこうして『かくれんぼ』をする。
それが、どれだけ迷惑をかけているのかを知っていながら・・・
──ごめんなさい、兄様。こんな私の身勝手に付き合わせてしまって・・・でも、こうしないと私は・・・私は・・・
決して口にすることのできない謝罪と言い訳を心に浮かべる。すると不意に立ち止まったスカイ兄様が、私の額に優しく口付けをした。
「・・・ねぇ、アリス。もしも、もしもアリスが、どこか遠くへいなくなってしまったらの話なんだけど・・・」
「・・・え?」
突然の話に理解が追い付かず、思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
スカイ兄様はただにっこりと微笑むと、その続きを話し始めた。
「こんなにかわいくて大切な妹がいなくなっちゃったら、心配するのはもちろんのこと、アリスが見つかるまで徹底的に、草の根を分けて全力で探すよ。たとえそこが炎の中でも、水の中でも・・・魔界だったとしても。必ず見つけ出して、君を抱きしめてあげる。だから・・・もう、泣かなくていいんだよ」
優しく優しく紡がれた言葉。それは私の胸に滲みわたり、暖かなものとなって心を包む。
その言葉は、私がずっと欲していたものの一つであり、どれだけ望んでも手に入ることのなかったものの一つでもあった。
私は、この世界で必要とされている。ちゃんと私を見てくれて、いなくなっても見つけてくれる人がいる。
なんて・・・なんて素敵なことなんだろう。
私は、浮かべなれない笑顔を浮かべ、拙い口調で礼を言う。
「スカイ兄しゃま、ありがとうございます」
「・・・?ふふっ。どういたしまして?」
ねぇ、ねぇ、鬼さん。
『みーつけた!』
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かなりの時間をかけたくせに、中身の薄い内容となってしまいました。申し訳ございません。
今回は三歳になる少し前のアリスちゃんのお話となっております。あんまりそれっぽさはないですが・・・
ちなみに最初の『もう、いいよ』は、かくれんぼの掛け声とあきらめの声をかけたつもりです。もう隠れたから、探しに来てという意味と、どうせ誰も探してくれないのならもういいやという意味があります。
そして最後の『みーつけた!』は、兄様たちの声だとお考え下さい。
次の話はスカイ兄様視点となります。なるべく早く更新いたしますので、お待ちください。
ここで行う次回予告に予定と入ってる場合は本当に予定なので、変更する可能性があります。ご了承ください。
それでは、また次回お会いいたしましょう。