ダーク・ファンタジー小説

僕の『妹』 ( No.6 )
日時: 2018/12/26 14:34
名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)

 先日、僕達五兄弟に妹ができた。名前はアリス。
 アリスは母によく似た銀の髪が薄らと生えていて、涙で潤む瞳はルビーのように紅く美しく、新雪の如き肌は柔らかく頬だけが淡く染っている。その姿は天使そのものだと言っても過言ではないほど可愛く美しかった。
 僕には弟が二人もいるけれど、妹は初めて。だから僕は、両親が思わず止めに入る程にアリスを可愛がった。
 そんなアリスに疑問を持ったのは、いつからだろうか?
 いつも人形のような笑顔を浮かべるアリス。何があっても決して泣かず、誰も困らせることのなかったアリス。まるでこちらの言葉を理解しているかのように反応するアリス。
 最初に疑問を口にしたは、ルースだった。
 ルースは、アリスが一度も泣かないことを不思議に思っていた。親戚や友人の家で見る赤ちゃんは、どの子も皆元気な声で泣いていたから。
 けれど僕らは、「シェザードも同じだった。ほんとに一度も泣かなかったんだ」といって、ルースを説得した。きっとアリスも、シェザードのように泣かない子なのだろうと。だから心配しなくても大丈夫だよと言って、ルースを安心させた。
 僕らは本気で、アリスもシェザードと同じような子なんだと、だから大丈夫なんだと、そう思っていたんだ。
 でも、違った。アリスが泣かないのは、深刻で、暗く重い過去が原因だった。
 それが分かったのは、ケイル兄さんがアリスの様子がおかしいと言ってからのことだった。
 日に日に痩せていく体。それに伴って失くなる食欲。起きることがほとんどなくなったアリスを見て、僕達はやっと、それがいかに深刻なことかを理解した。
 そこからは、シェザードに嫌な役を押し付けることになってしまった。アリスの過去を見るという、決して褒められた行為ではないことを。
 シェザードに過去を見てもらっている間僕に出来る事と言えば、病状の悪化を和らげるための回復魔法をかけることだけで、それ以外はただただその小さな生命の無事を祈るしかなかった。
 シェザードに過去を見てもらうようになづてから三日後のこと。この国一番の医者であり、王家直属の医者であるシュレウさんが、他国から帰ってきた。
 王家直属の医者であるにもかかわらず、医者を必要とする人がいると聞けば直ぐにそちらへ行ってしまうこの人は、今まで何人物失われてゆく命を救ってきた。今回は、彼にしか救えない命だと父が判断し、遠くの国からわざわざ帰ってきてもらったらしい。

「それでは、よろしくお願い致します」

 父が深々と頭を下げ、シュレウさんにそう言った。
 シュレウさんはただ静かに頷き、アリスのいる寝室へと向かう。そのすぐ後に、レオン兄さんとシェザードが一緒にリビングへと戻ってきた。
 その後は、思い出しただけで気分が悪くなるような時間だった。
 アリスの心に秘められた闇。それは、あまりにも残酷で凄惨な過去だった。
 泣けば蹴られて、笑えば殴られ。彼女に許されたことといえば、息をすることくらい。
 そんな過去をもって・・・どうして今、泣くことができようか。
 泣かない子だと思って放置していた頃の自分を、かわいいかわいいと愛でていただけの自分を、殴り飛ばしたくなった。
 何を言っているんだ。あの子はこんなにも苦しんでいるじゃないか。なぜ、気づけなかった。なぜ、気付こうとしなかった!
 僕はみんなが寝静まった後も、ずっとアリスの傍にいた。痩せた頬を撫で、握り返すことのなかった手を包み込む。
 穏やかな寝息を立てる妹に、僕はそっとキスをした。
 翌日、アリスの体調不良は膨大な魔力の消費によるものだと教えられた。それはかつて僕も経験したことのあるもので、その苦しみを知っている身として、アリスには本当に申し訳ないことをしたと思った。
 魔力が底をつきそうになると、安全装置だかなんだか知らないけれど、全身に痛みが走るのだ。その痛みはだんだんと強くなってゆき、人によってはその命をたってしまうものもいるらしい。それほどその痛みは強く苦しいものなのだ。
 ──あぁ、アリス。本当にごめんよ。僕がもっと君をよく見ていたら、苦しめずに済んだだろうに・・・ごめんよ、ごめんよ。
 ──これからは君をめいいっぱい愛するから・・・家族みんなで、君を愛するからね。もう安心していいんだよ。もう、泣いてもいいんだよ。
 そんな僕の気持ちを代弁するかのように、シェザードはアリスに「愛されてもいいんだよ」と言った。
 その言葉に僕は、強く頷く。父さんも母さんも、兄さんもルースも、使用人たちまでもが同じようにウンウンと頷く。
 それを見てやっと、やっとアリスは、涙を流した。

 さて、アリスが泣いたあの日から二年と少しの時が経った。
 自由に歩き回れるようになったアリスは、少しでもみんなの役にたとうと一生懸命頑張ってくれている。
 その姿はたいへん微笑ましいものではあるけれど、断られた時の悲痛な表情から、それは純粋な心からではなく「役に立たなくてはいけない」というような思いから来るんだと実感する。
 愛されていることを疑っている訳では無いのだろうけれど・・・やはり根付いた過去は簡単には拭えないらしい。
 子供らしくはしゃぐことも、わがままを言うこともないアリス。そんなアリスが、唯一子供らしいことをする時がある。
 それは、『かくれんぼ』だ。
 アリスは時折、ふらっとどこかへ消えてしまい、僕達は消えたアリスをさがす。最初こそ驚いたものの、子供らしく遊びたがっているんだと思って、僕らはアリスの相手をした。
 アリスは見つかった時心から安心した顔をして、その後不器用に微笑む。まるでイタズラがバレた子供のように、幼く笑うのだ。
 でも・・・でもね、アリス。僕は知っているんだ。もしかしたら、もうみんな知っているかもしれないけれど・・・
 本当は君が、かくれんぼをしている訳では無いことを。
 子供らしく遊んでいるように見えるけどね。君が僕らを待ち疲れて眠っている時、僕は見てしまったんだ。
 君が、とても苦しそうな顔をして涙を流しているところを。もういいよ、もういいよって、何度も何度も呟きながら、涙を流しているところを。
 ねぇ、アリス・・・君は、誰に「もういいよ」って言ってるの?なんで、そんなに苦しそうな顔をして泣いているの?
 僕らはここだよ、アリス。ほら、兄様が迎えに来たよ。だから・・・

「アリス、みーつけた!」





 アリス。もう、泣かないでおくれよ・・・



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下書きなしで書きました。
おいおい文章を読み返して、訂正をしていこうと思います。
今回はアリスが生まれてから第三話までのスカイ兄様の心情を書きました。
中身が今まで以上にないです。自分でも何を伝えたかったのかはわかりません。
ただ、過去に捕われているアリスを心配し、過去を思い出して泣かないで欲しいと願っていることだけでも伝わればいいなと思っております。
次のお話はアリスsideとなる予定です。
これからプロットを立てるのでだいぶ遅くなると思いますが、気長にお待ちください。
それでは、また次回おあいしましょう。
ここまで読んでくださいまして、誠にありがとうございました。