ダーク・ファンタジー小説

『ネズミのパーティ』 ( No.7 )
日時: 2018/12/26 14:35
名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)

 キラキラ輝く小さなお城で、華やかなパーティが開かれた。
 今夜の主役はお姫様、可愛く綺麗なお姫様。
 お城の立派なテーブルには溢れんばかりの料理が並ぶ。
 そして純白のクリームに包まれたショートケーキを頬張りながら、お姫様は王様とお妃様と笑い合うのだ。
 可愛い可愛いお姫様。ドレスの似合うお姫様。
 彼女が主役の特別なパーティに、ネズミなんかの出番はない。
 汚れた小さなネズミはそっと、そのパーティから立ち去った。
 お姫様への祝いの言葉を、涙とともに零しながら。
・・・・・・・・・

「「アリス、誕生日おめでとう!」」

 春というにはまだ少し寒さの残る四月の二日。小気味好いクラッカーの音とともに、兄様達がそう言った。
 ひらひらと頭上を舞う紙切れをボーッと見つめながら、私はキョトンと首を傾げ

「今日は何かおめでたい日なの?」

 と言った。
 すると、兄様達──特にスカイ兄様とルース兄様──は信じられないとでも言うような表情をして、私をじーっと見つめる。
 ——私はそんなにおかしなことを言ったのかな?私の誕生日は『祝われないが普通』だと思うのだけれど・・・
 そんな私の疑問を知ってか知らずか、レオン兄様は困ったように笑い、優しく私に話しかけてくれた。

「あのね、アリス・・・今日は、アリスが生まれた日なんだ。それは、分かるかな?」

「はい、わかります」

「そっか。じゃあ、今日が誕生日だということも、分かるね?」

「はい」

「いいかい、アリス。誕生日っていうのは、普通家族や友人たちとともにお祝いをする、とってもおめでたい日なんだ。分かるかい?」

 はいも、いいえも言えなかった。
 今日が私の誕生日だということも、それをお祝いするのが『普通』だということも、全部知っている。
 でも・・・でもなぜ、 『自分が祝われるのか』がわからなかった。
 だって・・・だって私は、今までたった一度として、生まれてきたことを祝われたことがないのだから。前世でも、そして今世でも。だから、そんなの・・・

「分からないよ・・・」

 それは、無意識にこぼれた言葉だった。聞き逃してもおかしくないような、小さくこぼれた言葉の欠片。その言葉を拾い上げたのは、シェザード兄様だった。

「・・・わからないなら、知ればいいよ。これから、一生をかけて」

「・・・ぇ?」

 知らぬ間に下を向いていた顔を上げ、兄様の顔を見る。

「アリスが慣れるまで、お祝い事とかは控えようと思ってのことだったけど・・・あまり良くなかったみたいだね。アリスを傷つけてしまったようだ。ごめんね、アリス」

 そう言ってシェザード兄様は、ギュウッと強く私を抱きしめる。
 ケイル兄様も、少し乱暴に私の頭をなで、二ッと笑い

「二歳になるまでろくに話すこともできなかったおめーにさっきみたいなことをしたら、さらに怯えさせちまうだろうが。昔に何があったかは聞かねぇが、今は今。そん時の誕生日とは違うんだよ。お前は誕生日を祝われて当然の人間だ。生まれてきてくれたことに感謝こそするが、うっとうしいだのなんだのなんて思わねーよ。だから、安心して祝われとけ」

 と言った。
 祝われて当然?生まれてきてくれたことに感謝?本当に?
 今まで投げかけられた言葉とはあまりにもかけ離れていて、素直に信じることができない。だって今までは、「お前はうちの恥さらしだ」とか、「お前なんか生まなきゃよかった」なんて言葉ばかり言われてきたのだから。そんな温かい言葉は、今まで一度も言われたことがなかったから・・・
 だからたぶん、すごく浮ついていたんだと思う。今まで言われたことのなかった言葉をもらえて、うれしくて、テンションが上がってたんだと思う。

「じゃぁ・・・ケーキ、食べれるの?」

 私は、そんなことを口走っていた。いつもは絶対言わないのに。こんなこと、絶対にしないのに。
 サァァッと、血の気が引く音が聞こえた。あぁ、やってしまったと、一気に後悔の念が押し寄せる。
 だってあれは、『あの子』のものだから。私が望んじゃいけないものだから。かつての父に「ケーキが食べたい」と言ったらどうなった?顔が腫れ上がり顔がおかしくなるまで殴られ、蹴られたじゃないか。わがままを言うなって。なのに、なんで私はそれを言ったんだ。なんでなんでなんでなんでなんで!
 私は恐怖でパニックになりながらきっと来るであろう拳に耐えようと歯を食いしばり、ギュゥッと目を瞑る。
 しかし、私に投げかけられたのは罵詈雑言でも暴力でもなく、スカイ兄様の明るくハツラツとした声だった。

「当り前じゃないか!むしろケーキなくして、誕生日を祝えるもんか!料理長が腕を振るってとびっきりおいしいケーキを作ってくれてるよ!」

「・・・ほんとに?」

「もちろん!それに、アリスのために買ってきたプレゼントもあるよ!とびっきりおめかしして、皆で誕生日を祝おうよ!」

 にこにこと笑いながら、スカイ兄様はそう言った。

「さぁ、父様も母様も待ってますよ。行きましょう、アリス」

 ルース兄様はそう言って、私の手を取る。するとシェザード兄様が、少しニヤニヤして
「ルース。こういう時は、『お手をどうぞ、お姫様』と言うんだよ」

 と言った。ルース兄様はそ手を聞いてひどく驚いた顔をする。
「えぇ?!そうなの?!」

「・・・さぁ?」

「え?!ちょっとシェザード、どっちなのさ!」

「ふふふ・・・」

「シェザード!!」

 シェザード兄様はくすくすと笑いながら「先に行ってるから」と言って逃げるように行ってしまう。
 ルース兄様はハァ・・・とため息をつくとこちらをじっと見つめ、

「それじゃあ行こうか。お姫様?」

 と、照れくさそうに笑いながらそう言った。
 私はつないだ手を強く握ると、「はい!」と元気よく返事をした。



 小さなネズミは泣いていた。
 誰も私を望んでくれないと。私は『お姫様』にはなれないと。
 泣いて泣いて泣き続けて、ネズミはいつしか眠ってしまった。
 そしてネズミは目を覚ます。深い深い眠りから。
 さぁ、今宵の主役はネズミのお姫さま。
 涙でほほを濡らしながら、クルリクルリと夜を舞う。
 温かな家族に見守られながら、花のような笑顔を浮かべる。
 ネズミが主役のパーティは、家臣さえも巻き込んで、盛大に行われたそうな。



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またもわけがわからない話となってしまいました・・・本当に申し訳ございません。
今回最初と最後に出てきたネズミのお話は、アリスのことを指しています。ここは結構こだわったつもりです・・・
さて今回はアリスの誕生日をテーマに書きましたが、どうだったでしょうか?
アリスは前世で一度も祝われたことがなく、今世ではもしかして?と思っていたけれど何もなく。あぁ私は生まれてきてはだめだったのかと考えに至ってしまいました。が、それは兄たちなりの気遣いで、やっと普通に話せるようになったからという理由で三年目にしてやっと・・・という感じです。
今回も話がわけわからないし圧倒的に文章が足りないと思っているので、改稿していこうかなぁと考えております。
次はいよいよファンタジーなことをする予定です。がんばって書きますので、お待ちください。
そして宣伝ですが、pixivにて転生少女は愛を願うのキャライラストなどを投稿しております。ので、よろしければそちらもよろしくお願いします。
長くなりましたが、今後ともこの作品をよろしくお願いします。