ダーク・ファンタジー小説

召喚魔法 ( No.8 )
日時: 2018/12/26 14:37
名前: ダークネス (ID: 7sIm71nw)

「アリスに魔法を教えようと思います」

 ある日の昼下がり。みんなでお茶会をしていると、スカイ兄様がそう言った。
 魔法・・・というと、ルース兄様とシェザード兄様がよく見せてくれるあれだろうか?でも、ルース兄様が見せてくれるものとシェザード兄様が見せてくれるものでは、何か少し違う気がする・・・何が違うのかは、はっきり分からないけれど。
 でも、魔法かぁ。あのキラキラしたやつが私も使えると思うと、少しわくわくする。さすがに炎とかはだめだろうけど・・・前にルース兄様が見せてくれた時、レオン兄様が笑顔で注意してたから・・・注意してるとき目元が笑っていなかった気がしたけど、気のせいだと信じたい。
 まぁ、そんなことは置いておいて。何事にも知識が必要だということで早速スカイ兄様とルース兄様による『魔法学講座』が開かれた。
 ちなみになぜ魔法を教えるかと言うと、私の自衛のためだそうです。世の中何が起こるか分からないし、できることは多い方がいいものね。
 さぁ、さっそく勉強開始です。
・・・・・・・・・・・・・

「えぇと・・・それじゃあまず、魔法について説明していくね」

 どこからか持ってきた黒板に『魔法について』と白チョークで書き込みながら、ルース兄様はそう言った。
 私は先日の誕生日の時にもらったがスケッチブックをノート代わりにして色鉛筆でメモをしていく。

「ええと・・・魔法っていうのは、生き物の体や空気中に含まれる『魔力』と呼ばれるものを使って引き起こす現象のことを言うんだ。魔力は人によって扱える量が違ってね。スカイ兄様みたいにとても多くの魔力を持っている人もいれば、ケイル兄様みたいに全く魔力を持っていない人もいる。これらは遺伝などは関係なくて、どちらも化け物級の魔力を持ってるのに全く魔力を持たない・扱えない子が生まれてくることがよくあるんだ。・・・ここまでで分からない言葉とか、説明してほしいところとかはある?」

 ルース兄様は不安そうな顔をしながら、そう尋ねた。特にわからないところはなかったし、これでも一応高校一年生だったので難しい言葉もある程度わかります。
 ので、私は大丈夫ですよと言って説明の続きを諭した。

「なら、説明を続けるね。えっと・・・この魔法っていうのは大き四つに分けることができるんだけど・・・まず、シェザードやレオン兄様、スカイ兄様が使っているのが、自分の中にある魔力を使って発動させる『魔術』。神様から力を借りて使うのが『神術』。これは神官様や巫女様など神職に就いている方、神様を深く信仰している人が使えるよ。それから、人ならざるもの・・・精霊と言う存在に力を借りて使うのが、『精霊術』と言うんだ。僕が使っている魔法が、この精霊術だよ」

 そう言ってルース兄様は手のひらに氷の花を咲かせる。なるほど、だからルース兄様の魔法だけ少し違う気がしてたのか。じゃあ、ルース兄様の周りを付与付与と飛んでいる光の玉は、精霊なのかな?もっとこう、ひらひらしたのをイメージしてたかな・・・あれはあれで綺麗だけど。

「それろ、最後の一つなんだけど・・・これは『妖術』と言ってね。人間には扱うことができない特殊なやつなんだ。だから、人によってこれを魔法としなかったりもする。だからまぁ、妖術に関してはあまり詳しくなくてもいいよ。僕も妖術については全然だから。・・・さて、それじゃあ早速、今日扱う魔法について教えようか」

 そう言ってルース兄様は袖から筒状に丸めた紙を取り出す。
 そしてそれを床に広げ、四隅に不思議な色をした石を置いた。紙には見慣れぬ文字と六芒星、そしてそれをぐるりと囲む円。これは、たしか・・・

「まほーじん?」

「正解!今日使うのは、召喚魔法と言うものだよ。簡単に言うと、こことは別の世界から物質を引き寄せる魔法かな」

「しょーかんまほー・・・」

「今回はアリスの魔力量と魔力の質に合ったものが召喚されるタイプの魔方陣を使うよ。ここに手を乗せれば、勝手に魔力が吸われていくからね、その感覚を覚えてね。感覚を覚えるのがメインだから。もしドラゴンが出てきたら、魔方陣から手を放して、すぐに離れるように。僕たちが追い返すから」

「はい!」

「よし、いい子だね。それじゃあさっそく始めようか」

 ルース兄様のその言葉を合図に、私は魔方陣に手を乗せる。
 すると腕から何かが流れ出る感覚に襲われ、少しすると紙に書かれた魔方陣が淡く輝きだす。
 光はだんだんと強さを増してゆき、血をほうふつとさせるような赤黒い光で辺りが照らされる。
 そして一瞬、太陽よりも強い光が体を包み込んだ。あまりのまぶしさで瞑った眼を恐る恐る開けるとそこには・・・

「私を呼んだのはお前か、娘」

 真紅の瞳でこちらを見つめる、白髪の男性がいた。
 あたりを見渡すと、後ろにいたはずの兄様たちの姿はなく、すべてがセピア色の世界になっている。
 あぁ、私はこの男に殺されるのか・・・死と言う言葉が、頭をよぎる。
 死にたくないなぁ。痛い思いは、もうしたくない。それに死んだら、もう誰も私を愛してくれないじゃないか。嫌だなぁ・・・死ぬならせめてもう一度、誰かに愛してるよって、言ってほしかったなぁ・・・なんて、死ぬ間際には浮かばなかった思いが、いくつもいくつもこみ上げる。
 死への恐怖や未練が混ざり、溶けて、涙となって零れ落ちる。
 もう誰も、私の涙をぬぐってくれないんだ・・・そんなことを考える。すると

「泣くな、娘」

 そう言って白手袋をはめた手で、男性は私の涙をぬぐった。
 私は何が起こったのかがうまく理解することができず、ただぽかんとしてしまう。

「私は、お前を殺すつもりは毛頭ない」

 すごく複雑そうな顔をしながら、男性はそう言った。
 殺すつもりがない・・・?ほんとに?あれ、でも私殺さないでとかそんなこと一言も言ってない・・・あれ?
 男性の言葉に、私はさらに混乱してしまう。
 そんな私にこたえるように、男性は一度ため息を吐話始めた。

「ここは私が作った影の世界。いわば私はここでは簡易的な神だ。だからここにいるやつの思考は読み取ることができる。そしたらお前、なかなかに興味深くて失礼なことを考えているではないか。もう少し様子を見ていようかと思ったのだが・・・さすがに女児を泣かせる趣味はないのでな。お前が望んでいそうなことをした」

 やれやれというように肩をすくめる男性。
 そして男性の言葉を、疲れた脳は何の疑問も持たずに受け入れる。

「それで、娘よ。私を呼びだしたということは契約をしたいのだろう?」

「・・・え?」

「・・・まさかお前、なんの考えもなしに呼んだのか?」

「・・・たぶん?兄しゃまは魔力の流れを覚えるためって・・・あとはぼーはんよーにって言われました」

「・・・そうか。私は防犯のためだけに呼ばれたのか・・・いやまぁ、こちらの召喚陣は規則性がないし、仕方ないとは思うが・・・そうかぁ・・・」

 私の言葉を聞いてから、男性は一人でぶつぶつと何かを言い始める。
 しばらくその様子を見守っていると、男性は髪を乱暴にかき回し、こちらをにらむように見てきた。
 そして

「防犯用でもなんでもなってやる。その代り、貴様の過去を見させてもらう!多少の暇つぶし程度にはなるだろうからな!」

 という、なんだかよくわからないことを言われた。どうやら契約なるものをすることになったようです。

「けーやくって、何をすればいいんですか?」

「なに、簡単なことだ。私に名前を付けろ。それで契約は成立する」

 名前を付けるだけ・・・か。確かに簡単だ。
 名前かぁ・・・んー・・・

「ブルート・・・なんて、どうでしょう?」

「別に何でもいい。意味も聞かん。では、契約成立。元の世界へ帰そう」

 そう言って男性改めブルートは私を片手で抱き上げると、何やら聞きなれない言葉をつぶやく。すると世界に色が付き始め、無音だった世界に音が戻った。
 ちらと後ろを見てみると、ぽかんと口を開けた兄様たちの姿が。・・・レオン兄様まで口を開けてる。珍しい。

「ね、ねぇ・・・アリス?その・・・その男性と、契約・・・したの?」

 スカイ兄様が、恐る恐るそう聞いてきた。
 何を怖がっているのかわからなかったけれど、契約なるものは確かにしたのでうんと頷く。すると兄様達の顔がひきつり、サーッと青ざめる。

「?どうしたの?兄しゃま。具合悪い?」

「・・・アリス」

「んぅ?」

「多分、なんだけど・・・その男性は、ヴァンパイアだよ。最も弱いとされる者でも、軽くこの国をほろぼせるくらいの力を持つ・・・」

「・・・ぇ?」

「しかもその男性は完全なる白髪だ。ヴァンパイアは魔力量やその質によって髪の色素が薄くなるとされている。つまり・・・その男性は、下手すればこの大陸ごとほろぼせる力を、持っているかもしれない」

「・・・」

 大陸を滅ぼす程の力。それを聞いた私は、ギギギ・・・と油の切れた人形のようにブルートの顔を見上げる。

「え、と・・・ブルート、さん?あなたは、その・・・」

「ん?あぁ、私は確かにヴァンパイアだな。頭に暇を持て余した、とつくが。ここ千年間誰にも呼ばれなくて退屈していたんだ。だから次呼ばれたところでは理由がなんであっても契約すると思っていたのだが・・・まさか防犯用とは思わなかったなぁ。まぁ、お前はなかなかに面白い過去を持っているようだからな。暇つぶし程度にその記憶を見せてもらおうと思ったんだ」

 実にあっけらかんと、自分がヴァンパイアだということも、なぜ契約したのかも話すブルート。
 しかしなるほど・・・だから彼は私と契約してくれたのか。普通なら断るであろうところを・・・なんか微妙な気持ちだけど、納得はいった。

「まぁそんなわけだから、これから頼むぞ?娘。それから、娘の兄らもな。私のことは、ブルートと呼ぶように」

 ニィッと笑いながらそう話すブルート。
 そんな彼に私達は、ただハイということしか出来なかった・・・



 自己防衛のためだとか、魔力の流れを覚えるためだとか、そんな理由で行った召喚魔法。
 どうやら私は、とんでもない人物を呼び出してしまったようです。


─────────────────────
今回はファンタジーなやつにしました。
なんか毎回思うけど、ほんとに話がおかしい気がする・・・語彙力と文章力が切実に欲しいです。
今回でてきたブルートは、今後たくさん活躍して頂く予定です。ちなみにブルートとは、ドイツ語で「血」を意味します。ドイツ語って、無駄にかっこよくないですか・・・?私以外にも、同じことを思う人はいらっしゃるはず。
次回は父親sideの話を書きます