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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 光と影 ( No.1 )
- 日時: 2019/06/24 00:39
- 名前: 葉月 蘭 (ID: akQ8i1G2)
【prologue】
体が重い。
何も考えられない。
苦しい。
頭の中に響くのは自分の愛する人々の恐れおののく声。
『——お逃げください!』
『助けて……誰かぁーっ!』
——もうこんなこと……いっそ…………忘れてしまいたい…………
☆
瞼を開けると、目の前には白い天井。横からは涼しい風が頬を撫でてきていた。
「……目を覚ました?!」
不意に隣からしわがれた大声が聞こえ、そちらに目をやる。視線の先には白髪交じりの髪をし、しわだらけの顔に黒縁眼鏡をかけた女性が居た。
「……誰?」
思わず声が漏れる。
彼女はそうつぶやいてから、自分の声に驚くように喉に手をやった。自分のものの筈なのに、どうしても聞いた覚えがない。初めて聞く曲のように、少女は興味深げに「声」を聴いた。
そんな様子を見ていた老女は、「まさか」と叫びながら部屋を出ようとする。
と、ドアが開き、そこから二人の人間が飛び出してくる。
「目覚めたじゃと?!」
二番目に飛び出してきた白髪の男性が叫ぶ。
老女の最初の叫びが彼にも聞こえていたようだ。
「おばあちゃん、病状は……!」
最初に現れた10代に見える少年が老女にそう尋ねた。
「あ、ああ…それが」
なにやらコソコソと話していた3人だったが、急に少女に体を向ける。
「あなた、自分の名前覚えてる?」
老女が聞いた。
「…名前?」
名前。自分の名前。
それは記憶に嫌というほど染み付いているはずなのに、今の少女にはそれがすっかり無くなってしまった様に何も思い出せない。自分の思い出にぽっかりと穴が開いてしまったように。
「…名前…私は……誰?」
彼女には、覚えの無い声でその言葉を紡ぐことしか出来なかった。
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