ダーク・ファンタジー小説

Re: 自由を求めて ( No.1 )
日時: 2019/09/21 18:29
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


親戚の家で俺は疫病神だと言われた。食事を一緒にすることは疎か、茶碗の半分しかない米と具のないスープ、寝るときは隙間風の入る屋根裏部屋だった。不満があっても文句を言わないのは両親を失ったのは自業自得で俺は罪を償うつもりでいたから。

毎日、朝になると村へ行って両手を合わせて両親に謝罪と現状を報告した。夜になって叔母さんの家に戻ると働いて金を稼いで来いと怒鳴られた。俺がこの家に来ることで資金的に厳しくなっているようで、本当に自分は疫病神だと思えた。

そんなある日、黒い布を頭から被った老人と出会う。

今日も村で両手を合わせて報告をして、草木が生えてこない黒い炭の地面を蹴るように歩いていると、俺の道を阻むようにこちらを向いて立っていた。

低く腰を曲げて頭から被るフードで顔が見えないが黒い布から見える顎や首、両手はシワだらけ。

夕日が沈んで辺りが薄暗くなってきた時間帯、声をかけようと近づくと老人は口を開いた。

「おぬし、なにか困っているようじゃな」

その言葉が俺に向けられているのか周りを見渡してみるが、俺と目の前のお爺さんしかここには居ない。
お爺さんは口角を上げてガタガタの隙間だらけの歯を見せる。奥にある金歯が光って不気味だった。

「おぬしの願いをなんでも叶えよう」
「…なんでも…?」

願い事なんて無いと思ってた俺の口からは、なんでも叶えてくれるという言葉に素直だった。

Re: 自由を求めて ( No.2 )
日時: 2019/09/21 18:43
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


「その代わり、わしの頼みもきいてほしい」

なんだか一気に胡散臭さを増した台詞に少し迷う。その頼み事を聞いてからにしよう。

「頼みっていうのは、なんですか?」
「この話、受けるか?」
「…頼み事を聞いてから判断したいです」
「他人に軽く出来る頼みではないのじゃよ、おぬしの願いを何でも叶える代わりなのじゃ」

なかなか交渉術があるようだ。うーんと迷う俺にお爺さんは語る。

「何かを得る代わりに何かは失う、それを旨に今ここで決めてくれんかの?」

俺は親戚の家を出たかった。あの家に住まわせて貰ってるありがたみはあっても生きた心地がしない。生きてる事が罪だと言われているようでいつも辛い。心に余裕が無い時に、こんな追い打ちをかけるような希望の光があるなら縋りたくなるものだ。

数秒、沈黙が流れたあと、俺は彼の話に乗ることにした。

Re: 自由を求めて ( No.3 )
日時: 2019/09/21 19:02
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


「…わかりました」
「交渉成立じゃな」
「その話の前に、そろそろ家に帰らないと怒られ…」
「なに、おぬしの本当の母親ではなかろう」
「…えっ?」

誰に怒られるとも言っていないし、叔母さんが本当の母親ではないと、まるで当然のことのように言う彼が、俺の情報を知っていることに少し恐怖を感じた。
お爺さんは小さなカバンから折り畳まれた紙を取り出して俺に差し出す。

「この紙に書かれた彼らを自由にしてほしい。これがわしの頼みじゃ」

黙って渡された紙を開く。五つ数字が書かれていて数字の隣には文字が書かれているが、一つ目しか読めない。

「…え、これ、読めないんですけど…」
「彼らはそれを読むことが出来る。おぬしがわしの願いを叶えてくれた時、またおぬしの元へわしが向かうからの」
「なんですかそれ、本当に叶えてくれるんですか?」
「おぬしの頑張り次第じゃよ。何もせずに得られるものもなかろう?」

うーんとまた黙る俺にお爺さんはもう一枚紙を手渡してきた。

「え?これは、なんですか?」
「手始めに彼から見つけると良い、さあ、ゆけ!」
「えっ!?ええ?……あ、あれ?」

それを見る前にお爺さんは俺の背後に回って背中を軽く押した。
急に背中を押されて訳が分からず振り返ると、お爺さんの姿は無かった。