ダーク・ファンタジー小説
- Re: 自由を求めて ( No.14 )
- 日時: 2019/09/24 11:10
- 名前: サクマ (ID: pGxW5X.O)
ドンドンドンッ
『すみませーん!どなたかいらっしゃいませんかー?』
俺とミカエルは視線を合わせる。無表情のままのミカエルは俺に「扉を叩いてる人の相手をしろ」と顎だけクイッと動かして指図する。
仕方なく立ち上がって玄関に近づくとミカエルも立って扉から見えない位置に壁に張り付く。
人に相手を任せておいて、結局は気になるんじゃないか・・・と呆れるが俺も少し緊張しながら、扉を引く。
「はい」と言って扉をゆっくり開けると、軍服姿の体格の良い男性が帽子をキッチリ被って見下ろしていた。
思わず息を詰める。
『この家主は貴方で?』
「…はい。そうですが、なにか」
『…いえ、最近この辺りでバケモノの目撃情報がありましてね?』
男は少し開いた扉から小屋の中を見てから流暢に話をする。警戒心は抜かず、ミカエルのことも黙った方が良いと思えた。ミカエルは扉から見えない位置に隠れるようにして壁に張り付いたから目の前の男性には見えていないのだろう。
今ミカエルが何をしているか、視線を逸らせば男は容赦なく俺を突き飛ばして中に入ってくると思うぐらい、男からも疑いの眼差しは感じている。
お互い、何かを隠しながら相手の情報を聞き出そうとしている空気のぎこちなさ。
「バケモノ?」
『ええ。信じられないことかもしれませんが、前に村が一つ全焼した話を聞きませんでしたか?』
「…ああ」
きっと俺の住んでた地域のことだろう。父さんと母さんを思い出して少し落ち込む。
だが男の話は終わらない。
『そのあと、なぜかこの山の麓では真夏に雪が降りましてね?おかしいでしょう?』
「…はあ」
『実はこの季節に雪が降っているのはこの山の付近だけなんですよ!』
いい加減、寒くなってきたので扉を閉めたいが、それを理由に中に入れてくれと言われそうで我慢する。代わりに、話を急かす。
「それで、バケモノとなんの関係が?」
『それが関係あるんですよ!…そのバケモノってのがね?ここだけの話なんですが…気候を操るらしいんですよ』
男は少し屈んで耳打ちするように小声で言った。馬鹿馬鹿しいな、大の大人が…なんて思っていると男は一枚の写真を見せてきた。
『バケモノって言っても、こういう風に化けてるんですよ?』
その写真には吹雪の中、黒のマントで身を隠した子供が裸足で雪を蹴りながら歩いてる所が遠くから撮られていた。奥には、この小屋も少し映り込んでいた。
- Re: 自由を求めて ( No.15 )
- 日時: 2019/09/24 18:51
- 名前: サクマ (ID: pGxW5X.O)
男が見せてきた写真に写っていたのは紛れもなくミカエルであろう。
自分は普通の人間ではないと語るミカエル、雪山を裸足で歩いても平気、火の中に手を入れても熱く感じない、ミカエルは普通の人間たちには命を狙われている、目の前の男は子供に化けた何かを負っている。身を隠す異能者を追う政府・・・?
「彼らを自由にしてやってくれ」お爺さんからの頼まれ事を思い出して無意識に、ズボンの後ろポケットに入れた紙に触れる。
なんとなく分かった気がした。
『…ところで、この子供、匿ってたりしませんよね?』
「…は?…ははっ、馬鹿馬鹿しい!加工でもしたんですか?こんな小さい子を雪山の上で裸足で歩かせるなんて、正気の沙汰じゃありませんよ?!」
『落ち着いてください、これは子供ではないんです。バケモノなんです、我々にも危険が及ぶかもしれない』
「…そんなのは、見ても分からないじゃないですk」
ガチャンッ、カシンッ
俺が話している最中に扉が大きな音を立てて閉まる。ミカエルが話を中断させるように扉を閉めたのだ、ご丁寧に鍵までかけて。
そんなことをすれば俺以外に人が居る事がバレてしまうじゃないかと思っていると、扉に背を向けて俺の目の前に向かい合うように立ったミカエルは俯き気味で俺を睨みつけてくる。
急に話を遮られて軍服の男が扉を強く叩いてるのもお構い無しだ。
「…ミカエル?」
睨まれる理由が分からず、どうしたのかと小声で問うと、火の近くまで腕を引かれて、小屋の中央に辿り着くとミカエルは俺の胸に紙を突きつけてその高い声で怒鳴った。
「ちょっと!これ、どういうこと!説明しなよ!」
「…え、これ…?」
ミカエルは俺を睨みつけてきたが、その瞳は僅かに潤んでいた。ミカエルの初めて見る表情に戸惑いを隠せず、胸に突きつけられた紙を受け取って見てみる。
それは、俺が後ろポケットに入れていた、お爺さんから預かった自由にしてほしい者、五人の特質が書かれた紙だった。
どうしてこれをミカエルが・・・?後ろポケットに入れていたはずなのに・・・
慌てて後ろポケットに触るとポケットの中は空。何も知らない演技中の俺のスキをついてミカエルが取って見たのだろう。
中身を見ても普通の人は何が書いてあるか分からないはず・・・分かっても一人目の特質のみ。意味不明な文字が連なる紙を見て、初めて感情を揺らせたミカエル。
・・・もしかして
「…読めるの?」
ガッシャーン
俺がミカエルに問いかけて答えが返ってくるより先に小屋の玄関のドアが激しい音を立てて跳ね飛ばされて、思わずミカエルが怪我をしないように庇う。
- Re: 自由を求めて ( No.16 )
- 日時: 2019/09/25 10:37
- 名前: サクマ (ID: pGxW5X.O)
目の前に広がる埃を手で払って玄関先を見つめると、軍服姿の男がライフル銃を前に構えて先程までの人の優しい笑みではない、口角の釣り上がった不気味な笑みを浮かべて踏み入る。
『居るじゃないですか、バケモノ』
「この子はバケモノじゃありません!」
「ちょっと、ボクなんて庇わなくてもいいから」
ミカエルを背中に隠して男に聞こえるように大きな声で言うと、ミカエルが服の袖を引っ張って小さな声で抗議する。
「簡単に見捨てることなんて出来ない…聞きたいこともいっぱいあるし、やらなきゃいけないことだって」
『なにヒソヒソ喋ってんだ!?ああ!?』
「とにかく!この子をどうするんですか!」
男は銃口を俺たちに向けて構えた。
俺はお爺さんとの約束もあるし、なにより仲良くなれたミカエルを変な理由で失いたくない。そんな思いで、ミカエルの前に立って両手を広げてミカエルには銃弾が当たらないようにする。
俺が上手く交渉して、ミカエルを救うんだ。自由にするんだ!
『バケモノは排除しろとのご命令なんでね?』
「バケモノじゃありません!普通の女の子です!人間なんです!その銃をおろしてください!」
俺の必死な思いが伝わったのか男は『しょうがないなー』と言って銃口を降ろしたと思ったらすぐに構え直して俺たちに向かって発砲した。
まるでスローモーションのように銃口俺たちに向いて銃の周りに煙が出たのを見た時、俺は目をつぶった。
ああ・・・死んだな、俺、また騙された。
- Re: 自由を求めて ( No.17 )
- 日時: 2019/09/26 00:41
- 名前: サクマ (ID: NIrdy4GP)
・・・冷たい・・・
辺りが静寂に包まれていて、背中や後頭部が冷たい。重い瞼を開けると薄暗い中、土壁のようなものが見えた。そこで意識がハッとする。
「!生きてるっ」
「うっ…ぐっ…」
勢いよく上体を起こすと、俺の上に乗っていたのか黒いマントに包まれたミカエルが声を上げた。俺が動いたことで縮こまって丸くなるミカエルは苦しそうに唸った。
どうしたのかと声をかけながらミカエルの様子を伺うが辺りは薄暗くてよく見えない。
「…ミカエル?どうした、大丈夫か?」
俺達がいるのは少し狭くて天井の低い洞窟のような場所だった。
さっきまで雪山の小屋に居たはずなのに、いつの間にこんな所に・・・と思ったが、それよりまずはミカエルの無事を確認しなければ!
肩を軽く揺すって聞いてみたが返事がない。俺の伸ばした膝の上で丸まっているミカエルはやっと返事をした。
「っ…はあ、たいしたことないよ…」
苦しそうにゆっくり呼吸しながら言うミカエル。
黒いマントを少し退かすとミカエルは脇腹の一箇所を両手で強く抑えている。何をしているか分からなくて、ミカエルの手に重ねるように触れてみるとツルッと滑った。
なぜ滑ったのか、何も考えずに自分の手をマジマジと見つめる。赤黒くヌチョッと少し粘り気のある何か・・・
「?なんだこれ……っうああああ!ち、血があああ!」
「っうるさいよ…静かにして」
ハッキリとしてくる鉄の臭いと先程までの軍服の男とのやりとりの記憶。手に付いたそれが血液だと分かった途端に恐怖で絶叫してしまう。
俺とは反対にミカエルは制すように言う。
でも正気でいられない!俺が撃たれたと思っていたら撃たれたのはミカエルの方で・・・ということはミカエルは俺を庇って銃弾が当たったのだろう。でも目が覚めたら場所が変わってるし、どこなんだよここは!!?
「どうしよう、どうすれば?!ミカエル!大丈夫か!死ぬなよ?頼むから!」
「…っ、ふふ…大袈裟だよ」
「でも血が!なにか塞ぐもの!あ、これでいいか!」
苦し紛れに笑うミカエルの声。それでも薄暗くて見えずらいから安心は出来ない、なによりも・・・ミカエルの、誰かの、死を、目の前で見たくなかった。
止血するために、俺は長袖の上着を脱いで肩の部分から引き裂いて止血するための布の代用にミカエルの脇腹に巻き付ける。細かったミカエルの腹にはすんなり巻けて縛り終えると少し安心出来た。こんな時だけ半袖の上から長袖の服を重ね着していたことに過去の自分と叔母さんに感謝した。
応急処置をして脇腹から手を離したミカエルの呼吸も心無しか安定しているようで詰めていた息を吐く。
「…ちょっと苦しいよ」
「わがまま言わないで!止血するためだから!」
「…かすり傷なんだけど」
キツく縛り過ぎたのかミカエルから文句を言われるが、緩めた所で血が吹き出てきてショック死なんてされたらたまったもんじゃない、と強めに言い張れば、ボソッまた何か言った。
洞窟のような所だからミカエルの小声も響いて聞こえる。きっと今頬をふくらませて拗ねているんだろう。
それでも布を緩めることは出来ないので無視をした。
- Re: 自由を求めて ( No.18 )
- 日時: 2019/09/25 18:31
- 名前: サクマ (ID: pGxW5X.O)
「ほかに怪我したところは無いか?」
「キミは大丈夫なの?」
薄暗くて見えにくいのでミカエルの様子を伺いながら聞いてみると、質問を質問で返される。念のため少し身じろいで自分の身体を触りながら確認したが痛むところは無い。
「…俺は、どこも痛くないし…」
「そう、それならいいよ」
「は!?良くないよ!ミカエル、他に痛いところは無いのか!?」
俺の返答に素っ気ない態度なんていつもの事なのにその時ばかりはカチンときて怒鳴るように言ってしまう。なにか隠されているようで嫌だった。
「うるさいなあ…無いよ一発しか発砲されてないし」
「本当かよ?」
「本当だよ、面倒くさいなキミは」
間延びした口調そのままに返っきた言葉を改めて聞き返す。鬱陶しそうにしたミカエルは案外面倒くさがりだ。だからそれをいいことに「嘘ついてたら、もっとしつこくするからな」と脅しをかけておく。するとやはり呆れたような面倒くさそうな返事が「はいはい」と返ってくるだけだった。
- Re: 自由を求めて ( No.19 )
- 日時: 2019/09/25 19:44
- 名前: サクマ (ID: pGxW5X.O)
「ねえ、あの紙のことについて聞きたいんだけど」
お互いに落ち着くための沈黙はミカエルが終わらせた。
“あの紙”とは俺がお爺さんから預かった紙、所謂“自由にしてほしい五人の特質の書かれた紙”のことだろう。そのうちの一人がミカエルなのかもしれない、そう確信した俺でもやっぱりちょっと不安でなかなか口を開けないでいるとミカエルは静かに続けた。
「誰から預かったのかは大体分かってる」
「…え?」
「だからボクが聞きたいのは、どうしてその依頼を受けようと思ったのか」
「…どうして…」
「そう」
「それは……」
お爺さんの依頼を受けた理由は自分の願いを叶えてもらうため、それだけなのに何でこんな大事になってるんだろう?何でこんな事に巻き込まれてるんだろう、ふとそんなことが頭を掠める。
上手い言葉が見つからなくて黙っいるとミカエルは痺れを切らした。
「…まだキミには難しい質問だったみたいだね。でも、これでキミも共犯ってことになったわけだね」
全くオメデタイ話ではないのにミカエルの口調は楽しげで、ゆっくりと俺の上から退いてその場に立つ。
俺は話題を変えるためにずっと気になっていたことを聞く。
「ところで、ここは…どこ?」
「…さあ、洞窟じゃない?」
「いや、それは分かるよ。さっきまで俺たち雪山に居なかった?どうしてこんな所に…」
そう言った俺の腕をミカエルは軽く引っ張りながら相変わらずマイペースに言った。
「うーん、とりあえず…外で話そうよ」
- Re: 自由を求めて ( No.20 )
- 日時: 2019/09/25 20:09
- 名前: サクマ (ID: pGxW5X.O)
洞窟の中は雪山に比べると寒くはなくて、ひんやりと湿気を含んで涼しげだった。このまま外に出て吹雪にあてられたら凍ってしまうんじゃないかと不安な足取りで歩きづらそうなミカエルの腕を肩にかけて支えながら一本道をひたすら進む。
遠くにうっすら見えた光が外の光だと希望を持ちながらそれに向かう。ふと、ミカエルが小さく言った。
「あの紙の一番に書かれた特質を持ってるのはボクなんだ…」
「…ん?」
「…なんて言ったらキミは冗談だと思うかい?」
はは、なんて哀しそうに乾いた声でミカエルは笑うけど、心が笑ってない気がして俺も胸が痛む。
単なる俺の気持ちについて聞いているのだ、紙のことについてでもなければお爺さんのことについてでもない。それなら・・・話しても良いだろう、正直に。
「…冗談だとは思わない」
「なぜだい?」
「…なんて言ったらいいか分かんないけど、ミカエルはやっぱり少し違う所があるっていうか」
「それは、普通の人間とは違うところがあるってこと?」
「普通なら出来ないことをやってのけてるって言うか…?」
普通の人間ではない、ということに対してミカエルは少し落ち込んでいるように思えた。そういう所が無自覚に自分が特別な存在だと強調させているのだ。
「…キミは、ボクの話を信じてくれるかい?」
「うん、信じるよ」
不安げに聞かれた質問に、俺はお爺さんの言う“彼らを自由に”出来るかは分からないけど、普通の人間では有り得ないような特質的なチカラを兼ねた人が居るってことは信じようと思った。