ダーク・ファンタジー小説

Re: 自由を求めて ( No.30 )
日時: 2019/10/19 00:45
名前: サクマ (ID: .Dr7fIW0)


恐る恐る触れようとして激しい痛みを伴うくらいなら、一気にやって一気に終わらせよう!そう思った俺は勢いよく棺の蓋部分に両手を引っ掛ける。

「…っうおおお、らああ!!」

攻撃が来るなんて分からないけど、勢いのまま力任せに蓋を押し上げる。鉛のように重たい蓋は数センチ隙間が出来るほど開くと、勝手に中身が全て見えるようにパカッと閉じる力より開く力が強くなり、俺は蓋に重心を置いてた為に体を持っていかれ、バランスを崩して、そのまま開いた棺の蓋に両手をつけたながら中に倒れる。

「っ、うおおっ!」
「開いた」

俺が開けたのに、開いちゃった、みたいな言い方のミカエル。すぐに体制を立て直して服の
ホコリを払う。驚いたことにどこにも痛みは感じなかった。

ミカエルも隣に立って一緒に棺の中身を見る。

中には財宝や人の死体なんて入ってなくって・・・いや、半分は正解。

人間がなかで目をつぶった状態で居た。死んでんのか生きてるのか・・・いや、きっと死んでいるはずだ。棺桶は頑丈な造りで土の中に埋まっていて、息なんて出来るはずがない、魚だって死んでしまうだろう。加えてこの棺が入っていた土は地層が綺麗になっている所、何十年何百年前の棺桶なのかも分からない。その長い期間、酸素なしで人間は数時間持つわけがないのだ。

だが不可解なのは「なぜ死体が白骨化していないのか」という点だった。

まじまじと観察するように見ていると死体の目がパチッと音のなる勢いで見開かれた。

「ぎゃああああ!!」

俺は思わず叫んでミカエルの後ろに隠れた。

Re: 自由を求めて ( No.31 )
日時: 2019/10/25 01:56
名前: サクマ (ID: P747iv5N)


棺桶から、むくりと起き上がった上体。キッと睨みつけるように眉間に皺を寄せた男は首を俺たちに向けた。
思わず「ひっ」と情けない声で叫んでしまう。

暫く俺たちを見ていた男は低い声で紡ぐ。

「ゴルッソ、ちゃんじゃばぬぐぇあんご、じっばぬぁまんじん?ドンロキリヴァナロイスレーヴェルナンジ、ごんござみじぇらバビデゴモーザ」

それは俺には分からない言語。男が喋り終わったタイミングでミカエルの顔を覗き見る。
通訳してもらおうと、見た顔は無表情で首を慣らすように捻ると早口で言った。

「ちょっと何言ってるか分からない」
「えっえええええええ!?ど、どうすんだよ、ミカエル!お前にかかってんだぞ!?」

ミカエルと話が通じないようじゃ目の前の男に何されるか分かったもんじゃない、と必死でミカエルの両肩を掴んで揺らす。

「ち、ちょっと!そういう分からないじゃないから!」
「え?じゃあ、どういう意味だよ?」

頭をガクガク揺らしたミカエルが声を上げたから、揺らすのをやめて問いかける。
肩に置かれた俺の両腕を払いのけると、未だに棺桶の中に座ったまま出てくる様子のない男に近づくミカエル。

「お、おい、ミカエル?危ないんじゃないかっ?」

不安になって後ろから声をかけつつ様子を伺っていると男の目の前で立ち止まったミカエルは俺にも聞こえるように言った。

「ボクと面識があるみたいだけど、ボクはキミのこと知らないし。もし良かったら、彼も分かる言葉で話してくれるかな?ボクらの言葉、理解出来るんだろう?」
「…えっ」
「……」

男は何かを悟ったような瞳でミカエルを見上げて無表情になった。

Re: 自由を求めて ( No.32 )
日時: 2019/10/26 20:28
名前: サクマ (ID: KVMT5Kt8)


ふぅーっとひと息ついた男は棺桶に手をついて立ち上がり、ミカエルの前に出てくる。
思っていた以上の長身と筋肉質な体つきが服の上からでも分かって、思わず腰を低くして腕を顔の前に構える。
ミカエルは目の前に来た男の顔を見上げて、首が痛かったのかちょっとだけ後ろに下がった。

「……今はミカエルって呼ばれてるんですね」

凛としたよく通る声で男はポツリと言ってミカエルを見下ろしている。俺にも分かる言語で言ってくれた彼は先程まで眉を寄せて俺を睨みつけていたのに、ミカエルを見て力無く下がった眉毛。口角はほんの僅かに上がっているけれど、どこか寂しそうというか悲しそうというか辛そうな・・・そんな表情だった。
そんな男の覇気のなさに俺も肩の力が抜ける。

白のカッターシャツに黒のジャケットとパンツでビシッときまったスーツ姿の男。
返事一つしないミカエルだが沈黙が答えだと思ったのだろう彼はミカエルから俺へ視線を移す。
丸い黒曜石に見つめられて、薄く笑っていた口元は通常の状態に戻された彼の真顔は俺を警戒しているようだ。

「っ…」

思わず息を詰める。
彼は俺を見つめたままミカエルに話しかける。

「あの人は、信用していいんですか」

「彼はボクの友人だよ」

振り返ったミカエルが俺を見て言った言葉に胸が暖かくなって、急にくるデレに嬉しくて泣きそうになる。淡々と言うミカエルはいつも通りだったけど「へえ」と声だけで相槌をうった彼は俺に歩み寄ってくる。

俺の数歩前で立ち止まった男。ゴロゴロゴロと変な響き音がして何かと思った時には地面が揺れ始める。

「えっ、なに、地震!?えっ、ーーーーっ!?」

揺れる地面に慌てて下を見ると、音は地響きのようだが、小さな土や砂や石がコロコロ揺れていたのがゆっくりと空中に浮き上がっていく。
それらを追うように視線を上げると、目の前の男が口角を上げて好戦的な瞳をして笑っていた。
彼の瞳を見て、俺の頭に“死”を連想させ恐怖を感じた。

ビキビキビキッ

音を立てて男を中心に地面が割るのを知らせるように線が入る。

「うわわッ!ちょっ、待って!俺、悪いヤツじゃな」

必死になって命乞いに声を上げているとミカエルが男の服の袖を強く引っ張り叫んだ。

「っ、ニトロ!!」

「ーーーーえっ……?」

ミカエルの声を聞き入れた男が目を見開いて首だけ振り返ってミカエルを見る。

彼の言動と伴う様に、プツリと時が止まったように浮いていた石や地響き、地割れも止まった。
先程よりは小さな声でミカエルが「彼はニトロにボクらを集めるように依頼したんだよ」と言うと彼は肩の力を抜いた。それと同時に浮いていた砂や土が重力にそって落ちてくる。

パラパラパラ・・・

大きかった石や土も降ってくる時には形が崩れて砂に近い大きさになっていた。
俺は膝の力まで抜けて尻餅をつく。
ミカエルが留めてくれなければ死んでいた。

歩み寄ってきた男が右手を差し伸べて気まずそうに引きつった笑みを浮かべて初めて挨拶を交わした。

「トウマです、怖がらせてしまってすみません」

「サクマ、よろしく」

差し出された手を右手で握手するように取れば、引っぱって起こしてくれた。本当は優しいのかもしれないトウマと言う青年、今はもう先ほどのような恐怖は感じない。

でも、あんな思いは二度とゴメンだ!!

そう心で叫んだ。

Re: 自由を求めて ( No.33 )
日時: 2019/10/26 21:26
名前: サクマ (ID: KVMT5Kt8)


「僕はあなた達の味方です」
「うん、ありがとう、そう言ってくれるとホント助かるよ。さっきは殺されかけたけどな」

立ち上がって服のホコリを叩いて落としつつ、トウマの言葉に呆れたようにツッコミを入れる。
けど、なんとなくさっきのでミカエルとトウマが同種だと言うことは分かった。だって、あんなの・・・普通の人間じゃ出来ない。

「ってか、ニトロって誰だよ?」
「僕達を育ててくれた人ですよ?」
「ハカセの本名だよ、ボクらしか知らない情報さ」

先程トウマを留める為に言ったミカエルのセリフに知らない人物名が使われていた気がして問いかけると、トウマは俺を見てキョトンとした顔で、ミカエルは呆れたように続いた。

ん?・・・ということはニトロと呼ばれる人物は、ミカエル達五人を育てた親のようなもので、本名は“ニトロ”だが共通名は“ハカセ”で、ハカセは俺の願い事を叶える代わりに彼ら五人を幸せにするように依頼してきたお爺さんということになる。
つまり、ニトロは・・・あのお爺さんか!なるほど!

拳を手のひらでポンッと音を立てるように叩くとミカエルから「はぁ…」とあからさまな呆れたため息が聞こえた。

「と、いうことは…トウマはコレに当てはまるんだよね?」

ズボンの尻ポケットからあのお爺さんから渡された五人の特質が書かれた紙を広げてトウマに見せるようにしながら“どんな物でも破壊する無敵の肉体の持ち主であり重力やそこにある空間を操る、異名殺人サイボーグ”と多分書かれているところを指さしてみる。
どうやらあたったようで紙を覗いたトウマが当たり前のことのように「はい、そうですね」と呟いて俺の手からスルリと紙を取って持ち直しマジマジと眺める。

俺には読めない字の書かれた紙、彼らの育ての親であるニトロが彼らにしか分からない文字で書いたもの。

「…生きていたんですね」

どこか懐かしむように、トウマの目が細まり驚く程に彼は優しく微笑んだ。
ニトロは、ミカエルから聞いた限りでは彼らに新しい主・・・というか、新しい居場所を作って、自分の姿を眩ませた感じの人としか思っていなかったが、今のトウマの発言からして、死んでてもおかしくないと思われてる人なんだろうかと思う。

案外すぐに二人目が見つかるものなんだなと思うと五人集めるのも早いかもしれない・・・けど問題は、彼らを幸せにすること。彼らの幸せってなんだよ?とりあえずミカエルは怪我の治癒を・・・ってそういえば、トウマはミカエルを昔から知ってるみたいだった・・・ということは

「トウマってさ、もしかしてミカエルの過去…知ってたりする?」

彼らを幸せにするということは、彼らの望みを叶える事じゃないかと考えた俺は、ミカエルの望みは確か過去を知る事だったはずだと思い、トウマに質問する。
俺の問いかけにミカエルもトウマを見て、トウマは一度ミカエルを見たあと視線を斜め下へ落とした。

「そうですね、大体なら分かりますけど…」

言いづらそうに後頭部をかいて言うトウマに「大体でもいいから知ってること教えて!」と食い気味に言うとトウマはまた引きつった笑みを見せた。